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神代 コウ

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夢は憎悪に焼かれ

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 思わぬところで耳にした懐かしき名前。どんな記憶で塗り潰そうと、どんな事をしていようと消えることのない、烙印のようにロロネーの心へ刻まれた忌まわしきナピス国。

 ロロネー達を奴隷のように飼い殺しにしていた頃から、何も変わっていない。寧ろ、あの頃よりも働かされている者達の数で言えば、圧倒的に多い。施設自体が違うということもあるが、彼らの知らないところで同じ目に合っている者達がこんなにもいるのかと、呆気にとられて。

 同時にロロネーの中に込み上げて来るものがある。忘れはしない、屈辱と悲痛の日々。そして何故、自分達がこんな扱いを受けているのかという、同じ人の形をしていてもまるで命の価値が違うと言わんばかりの、命の重みの違いを見せつけられた惨めな幼少時代。

 かつての仲間達への思いも相まって、ロロネーの中に再び芽生える憎悪と怒りの感情。奴隷として働かされていた彼らを救った達成感など、微塵も残らぬほど上書きされた。

 「・・・アンタ、この国に詳しいのか?」

 「まぁ・・・、全く知らんというわけじゃない。労働中に奴らの話も耳にした事もあるしなぁ・・・」

 ロロネーの表情を見て、感謝を述べていた時の温かみのある表情を消し、彼の心境を悟ったかのように小声になり、その顔に何かナピス国について知っているかのような影を落とす奴隷の男。

 解放された奴隷達を港町の船に隠し、海の向こうの遠い国へと渡らせていく。一辺に忍び込んだのではバレてしまう為、少数で少しづつ出国させた。中には同じ大陸の国に住む者達が哀れみ、彼らを故郷の地へ送り届けんと力を貸してくれる者達もいた。

 そして助け出した奴隷達は全員、忌まわしき地を離れ新たな人生の旅路を迎えた。それを見送ったロロネーの横には、一人の男が立っていた。

 彼にナピス国の情報を流し、怒りの業火に油を注いだその男は、“ヘンリー・モーガン“と名乗り、ロロネーのナピス国壊滅計画に協力した。

 モーガンの手腕は、ロロネーの計画を大いに前へと進めた。ロロネーはその名と力で仲間を集めると、モーガンの情報からナピス国の重要拠点であるアドラガンの街を襲った。

 月明かりを利用し、街の拠点を次々に制圧してはそこで働かされていた奴隷達に武器を与え戦力に加えると、彼らと共にアドラガンを奇襲し略奪した。そして生き残りを拘束し閉じ込めると、使者を送らせ身代金を国王に要求した。

 しかし、ロロネー達の目的は金などではなかった。街で掻き集めた武具と物資で戦力を増強すると、助け出した奴隷達の数も相まって彼らの軍勢は大きな組織へと膨れ上がる。

 当然、ナピス国王はそのような要求など飲み込む筈もなく、代わりに数隻の軍艦をアドラガンへ送り込んで来た。海に面した街を囲むように現れた軍艦を一望するロロネーとモーガン。

 「どうやら要求を飲む気はないようだな」

 「初めからそのつもりだっただろ。・・・こっからだぜ?モーガン。分かってるな?」

 片方の口角を僅かに上げ、余裕の表情を見せるモーガン。ロロネーの言葉に黙って頷き返事を返すと、部下や戦力に加わった奴隷達へ一斉に指示を出す。

 「野郎共ぉッ!!仕事だぜぇ!手筈通りにやれよ?目にものを見せてやろうぜぇッ!!」

 大気を震わすほどの雄叫びが、アドラガンの街に響き渡る。彼らは二手に分かれ、片方は沿岸沿いに設備された大砲で応戦する者達。そしてもう片方のグループは、船に乗りナピス軍の軍艦を目指す。

 当然、接近する船があれば砲撃で撃沈されてしまうのが関の山。だがロロネーはただ人数合わせの部下を集めていた訳ではなかった。彼らのクラスや能力を見て、防衛と突撃に向いた戦力を集めており、軍艦の砲撃を凌げるだけのスキルを持った者達が、次々に飛んでくる砲弾から船を守り続けた。

 魔法や念力、狙撃による誘爆から衝撃波を放つスキルで、船が軍艦に近づくまで耐え抜く。一方、アドラガンに残った防衛部隊による砲撃は、砲撃手による巧みな技術や迫撃砲、そして魔法や遠距離攻撃などで海を行く友軍を援護しながら、時には軍艦への攻撃も仕掛けていった。

 砲弾の雨を凌ぎ、軍艦に船をつけると部下や奴隷達は一気に乗り込んでいき、白兵戦へ持ち込み軍艦内をパニックに陥れる。だがこの時、一部の者達と突撃部隊に加わっていたロロネーは、その軍艦には乗り込まず、積んでいた小舟で別の軍艦へ迂回し向かっていく。

 白兵戦で大いに戦場の注目を集める部下達。そしてアドラガンの防衛部隊は、白兵戦が始まったのを境に、準備していた単発砲台を僅かに時間差を加えて一斉に撃ち放つ。奇怪な砲撃音に困惑するナピス軍。

 防衛部隊に残ったモーガンは、単発砲台の列を幾つも作り、順番に撃ち放っていく。これは彼がロロネー達をより潜入しやすくする為に、攻撃をしながら相手の注意を引くという作戦だった。

 彼らが敵軍の注意を集め、囮りをしている間に軍艦へ乗り込むロロネー達少数部隊。それぞれ軍艦内部に散らばり、内部で砲撃を行う者達を始末して周る者、操縦室へ潜り込み軍艦の操縦を乗っ取る者と分かれた。

 見事乗っ取ったロロネー達は軍艦を方向転換させ、誰も乗り込んでいない軍艦へ向けて砲撃を放ち撃沈させていく。圧倒的に不利だった戦況は一気に逆転し、ナピス軍は大敗しただけでなく、数隻の軍艦まで奪われるという大失態を晒した。

 戦いに勝利したロロネー達は、一隻の船にナピス軍の乗員を乗せると、伝言と共に国王への献上品と称し、大量の“あるモノ“を船に積み込み、その乗員を帰路に着かせた。

 ナピス国王は一人戻った乗員と、辿り着いた船の中を兵士に捜索させると、中にはこの世のものとは思えない光景が広がっていた。そこには残忍で悍しく切り刻まれ、最早原型すら留めていないほどバラバラに捌かれたナピス兵の死体が、船内いっぱいに詰め込まれていたのだ。

 絶望の顔で地獄を運んで来た乗員は、気を失う寸前に国王へロロネーの伝言を伝えた。それは、船に積み込まれたナピスの兵達と同じ未来を、いずれお前達にも与えるという恐怖の警告だった。

 「ナピスに与する者には、如何なる容赦もしない」

 それはロロネーの、かつて自分や仲間達を地獄へ叩き落としたナピス国に対する、宣戦布告だった。
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