World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
387 / 1,646

第二ラウンド

しおりを挟む
 再び互いの出方を伺う二人の男。それは宛ら第二ラウンドの開始のゴングを待つかのように、臨戦態勢に入る。初めの攻防で受けたダメージは、双方互角といったところだろうか。

 二人とも互いの知らぬカードを切り、その手の内を晒した。ロロネーの熱を帯びた水蒸気は、回避と共に相手に火傷を負わせる攻守に優れた技。そして何より、ある程度なら空中を浮遊出来る能力があるロロネーには、船の上という地形に左右されることのない戦いが可能だ。

 一方ハオランの足には、シュユーのエンチャントによって生み出された、風を放出し空中で自在に方向転換や攻撃の威力を増すブーストが可能な武具が装備されている。拳や蹴りから発生する衝撃波は、ロロネーの厄介な水蒸気を範囲外から狙う手段として、陽動やスキルの誘発を狙うことの出来る便利な攻撃手段だ。

 互いに全力の一撃を喰らわせれば、行動を大きく遅延させ制限できるだけの威力があることが、第一ラウンドで証明された。どちらが先に一撃を入れるかで、戦況が大きく左右されることが予想される。

 ロロネーがハオランに近づき、互いの一撃必殺の距離になる。足を止め睨み合う二人。息を飲むような時間が、重く周囲の空気を圧迫していくのを感じる。まるで自分が対峙しているかのように、額から大粒の汗が流れるツクヨ。

 ハオランに危険を知らせる為に声を出したことで、ロロネーに意識があることは知られてしまっている。この男がどんな行動に出てくるかは分からないが、二人の戦力が互角だとするならば、ツクヨの目や言葉は何かしらハオランのプラスに働くかもしれない。

 最初の時とは違い、互いの息遣いが僅かに乱れている。静かに流れるその刹那の時の中で、動き出す機会を窺っている。

 周囲の海域で戦っている船の大砲が、数発放たれる音が聞こえた。そして一発の流れ弾が、彼らを乗せた船のすぐ側に落ち、水飛沫をまるで雨のように降らせながら、轟音を響かせる。

 大砲が海面に着弾したのを、第二ラウンド開始のゴングとした二人の男が同時に動き出す。水蒸気爆発を利用し、上半身を射出してハオランへ向かって飛んで行くロロネー。風を放出し空を切るように駆け抜けるハオラン。

 大砲の着弾で巻き上げた海水が、二人の衝突に合わせて降り注ぐ。手にした剣を身体の裏に至るまで捻り、ハオランに向けて全力で振り抜くロロネーの一閃と、風の放出で回転の勢いを乗せたハオランの回し蹴りが激しくぶつかり合う。

 周囲の空気を震わせるほどの衝撃波が、辺りに響き渡る。船に降り注ぐ海水の雨が、二人の衝突を避けるように弾け飛び、そこだけ雨粒が降っていないような空間を作り出す。

 二人の起こした衝撃波が無くなると同時に、その空間にも雨が降り注いだ。雨粒が彼らに触れると同時にロロネーが連撃へと踏み出る。剣を持つ手とは反対の腕をハオランヘ向けて突き出す。

 「射出シャルジュッ!!」

 ロロネーの腕は、肘から水蒸気を発生させながらハオランヘ向けて、まるでロボットアニメなどで見るロケットパンチのように飛んでいく。顔に向かってくるロロネーの腕を、首を傾け紙一重で躱すハオラン。その瞬間、ロロネーの腕に起こる僅かな変化に気づいた。

 ロロネーの腕は水蒸気を吹き出し、一気に爆発を起こしたのだ。腕が爆発する寸前、その予兆に気付いていたハオランは、蹴った足の裏をロロネーに向けて風を放出する。そしてその場を後退して離れたハオランは、水蒸気の濃霧に消えたロロネーに向けて、連続した蹴りの衝撃波を繰り出す。

 衝撃波は濃霧を突き抜けてその姿を消す。暫くすると衝撃波が何かを砕く音が聞こえたが、恐らくこれはロロネーに命中した音ではない。距離と時間に間が開き過ぎている。

 振るっていた足を止め、濃霧の中へ再び足を向けると全力で風を放出し、水蒸気爆発によって発生した局地的濃霧を吹き飛ばす。晴れた先に男の姿はない。するとハオランの背後にロロネーの下半身だけが姿を現し、重たい蹴りをお見舞いする。

 急反転し裏拳で蹴りを受け止め掴むとと、反対の手で脛を砕こうと拳を放つ。ロロネーの足は霧へと姿を変え、ハオランの拳を避ける。だが続け様に放たれたハオランの蹴りが、地に着くもう片方の足を鋭い刃の一閃の如く蹴る。

 ロロネーの足は膝の辺りで綺麗に両断された。だがその断面から水蒸気が吹き出し、再び爆発を起こす。蹴った足から風を放出し、そのまま回転するように後退して躱すハオラン。だがどうにも、それまでの水蒸気爆発とは様子が違って見えたのだ。

 ハオランが両断した足の断面から吹き出した水蒸気は、僅かに赤く染まりながら爆発を引き起こしたのだ。そしてその爆発で発生した濃霧からは、血を連想させる鉄分の匂いが漂っていた。

 姿を消していたロロネーの上半身は、着地したハオランの足元から姿を現し、その両足を足首のところで鷲掴みにする。その感触に視線を落として男の存在を視認したハオランは、そのまま床に風を放出し宙へと飛び上がる。

 そしてロロネーの手を振り解こうと、足を開脚する。腕が届かなくなり思わず片手を離すロロネーを、掴まれている方の足で風を放出し、男の身体を下に向けて投げるように振り回す。堪らず手を離したロロネーは甲板へ向けて落下していく。

 後を追うように風を放出し、身体をくるくると回転させながら凄まじい遠心力を加えたかかと落としを放つハオラン。すると、頭を覆うように二本の腕を構え防御の姿勢をとるロロネー。かかと落としは、ロロネーの腕ごと男の上半身を縦に両断した。

 だがやはりと言ったところか。ロロネーの身体は水蒸気を噴出させながら、爆発を巻き起こす。それを読んでいたハオランは、かかと落としがロロネーの身体を両断した直後に、韋駄天による緊急回避を行い、爆発に巻き込まれることなく船に着地した。

 しかしそこには、いつの間にかすぐ側の状況すら確認出来ないほどの濃霧が発生しており、足元以外ほとんど見えなくなっていた。周囲を見渡しているハオランへ、音も無く打ち放たれたロロネーの拳が襲いかかる。辛うじて気配を察したハオランだったが、避ける為に身体を動かしたのでは既に間に合わない状況に陥っていた。

 そこで彼は、ロロネーの拳に肩を差し向け鉄山靠と呼ばれる八極拳の技で対抗した。激しく打ち付け合う互いの攻撃は、再び大気を震わせる程の衝撃を生み出す。だが、発動までにやや時間を有してしまったハオランの方が、よりダメージを抱えてしまったようだった。

 蹌踉めく身体を立て直すハオランと、拳から肘にかけて突き抜けるような衝撃を受けたロロネー。腕を押さえながら、ふらふらと後退する。互いの攻防は派手さを抑えながらも、より急所を捉える洗練された動きになっていき、着実にその身体にダメージを蓄積させていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...