378 / 1,646
目覚めの裏の一幕
しおりを挟む
開戦を告げた二つの大海賊による戦禍も終盤へと差し掛かる。濃霧立ち込める海上では、未だ戦いの雄叫びと鉄の弾ける音、大砲の轟音や船と共に息絶えた者達を蒼天へ送る業火の香りが、戦場を覆い尽くす。
戦いの勝敗を期する戦場では、二つの勢力による一人の男の目覚めが成される中、一方で亡者の軍勢を率いる首領と男達の戦いに決着の時が迫っていた。
戦友をこの絶望的な状況から一転させる起死回生の作戦へと送り出し、邪魔が入らぬよう人ならざる者達を食い止めていたツクヨと二人の船員。ロロネーの不意打ちを食い、暫く気を失っていた船員達は意識を取り戻し目を開けて驚いた。
それまで苦戦を強いられていたツクヨが、あのロロネーと互角に渡り合っていたのだ。そして何よりも彼のその異様な戦闘方法に、目を奪われた。一撃一撃が重く鋭い攻撃の応酬の最中、彼は何と二つの瞼を閉じて戦っていたのだ。
武術や剣術問わず、戦術の中には相手の気を読み次の行動や攻撃を予測するといったものがある。だがツクヨのそれは、まるで瞼の向こう側で別の景色でも見ているかのような動きだった。
それだけではない。彼そのものの戦い方も十分に気を引いたが、それ以上にロロネーの予測できない霧化の動きに、ツクヨは肉眼では確認出来ない何かを足場にし、器用に宙で体勢を変えながら戦っていた。
ある時は、隙を突いて来たロロネーの攻撃を避けるために見えない足場を利用して身を翻し、またある時は力の入らぬ姿勢で攻撃に転じようとする時に、見えない何かに体重を乗せ一気に蹴り上げて攻勢に転ずる。
通常の相手であれば、彼の奇妙な動きに翻弄され痛手を負っていてもおかしくない。だが相手はあのロロネー。海賊の亡霊達と同じように、自在に足を霧に変え宙を飛び回り、ツクヨの読めぬ動きに対応している。
人ばかり相手にして来たのでは、到底なし得ない動きの応酬。ツクヨは布都御魂剣が見せる別の景色の中で、ロロネーの身体に起きる僅かな気配の変化を見逃すことなく捉え、攻撃を事前に避けることで、攻防の読み合いにおける後手に回るデメリットを克服していた。
一方のロロネーは、始めこそ物理的攻撃を通さぬ筈の身体に、何故か透過の効かないツクヨの斬撃に驚かせれ苦戦するも、命中する寸前に霧化し透過しているように偽造して見せた。
本人達にしか分からぬ高度な攻防と、神経を研ぎ澄ませるような繊細なスキル技術だったが、二人の間には根本的に大きな差がある。
それは、能力や技術に関係なく単純に本人達のステータス。所謂身体能力の差だった。身のこなしやスピードに大きな差はないが、戦っている内に徐々に浮き彫りとなって来たのが、力の差だ。
簡潔に分かりやすく言えば攻撃力だ。ツクヨの攻撃がスピードであるならば、ロロネーの攻撃は一撃の重たい鉄槌のような攻撃。ロロネーはツクヨの攻撃を避けることも受けることも出来るが、ツクヨはそうではない。
受け流すといった防御は一切取ることは出来ず、全ての攻撃を避けなければならない。そんな彼をサポートするように、船員の二人が剣術による攻撃でロロネーの霧化を誘い、攻撃の手数を減らしていた。
だがそれも長くは続かず、船員の二人はロロネーによって地に伏せられ、ツクヨも窮地へと追い詰められる。土壇場で彼は、この世界でやらねばならない目的と、死ねない理由を胸に、自身の中に眠る悍しい力の一部を引き出すことに成功する。
ツクヨがロロネーと互角に戦えていたのは、彼のもう一つのクラス。普段は使うことも確認することも出来ないイレギュラーな力。デストロイヤーの攻撃力の一部を得て、ロロネーの重い攻撃を受けきることが可能となった。
船員の二人による手数を失ったが、代わりにツクヨはスピードとパワーの両立を果たし、一人で亡者の王を相手にできる力を得た。突然のツクヨのパワーアップに驚きと苦戦を強いられるロロネー。
それまでの彼とは違い、全ての神経を回避に集中させていた筈の攻撃が、守りだけでなく攻めへの意識に変わり、それまでロロネーのして来た霧化では回避が間に合わなくなり始める。
ツクヨの攻撃は何故かロロネーの身体を擦り抜けない。当たれば確実にこの男を斬りつける。急に命の重みを実感する、緊張感のある戦いへと変貌し、透過や霧化に身を任せた無茶苦茶な攻撃が、相手の動きも見る慎重な戦闘スタイルへと移行させる。
しかし、目の前の相手の奮戦に反撃を受けるロロネーは、焦りや苦悶の表情から自然と口角を上げた不気味な笑みを浮かべる。この男にとっては何年かぶり。血肉沸き、心躍る命の取り合いにロロネーは興じていたのだ。
必死に一撃一撃を振るうツクヨと、緊張感を楽しむロロネーによる二人の心の差が、奇しくも二人の勝負の行く末を加速させ、終幕へと導く。
通常の状態では扱う事も出来ないデストロイヤーの力は、ツクヨに圧倒的な攻撃力を与えたが、何分始めてのことでその力を自在に操ることが出来ず、彼の体力と魔力を大幅に蝕む諸刃の剣になっていたのだ。
戦いの勝敗を期する戦場では、二つの勢力による一人の男の目覚めが成される中、一方で亡者の軍勢を率いる首領と男達の戦いに決着の時が迫っていた。
戦友をこの絶望的な状況から一転させる起死回生の作戦へと送り出し、邪魔が入らぬよう人ならざる者達を食い止めていたツクヨと二人の船員。ロロネーの不意打ちを食い、暫く気を失っていた船員達は意識を取り戻し目を開けて驚いた。
それまで苦戦を強いられていたツクヨが、あのロロネーと互角に渡り合っていたのだ。そして何よりも彼のその異様な戦闘方法に、目を奪われた。一撃一撃が重く鋭い攻撃の応酬の最中、彼は何と二つの瞼を閉じて戦っていたのだ。
武術や剣術問わず、戦術の中には相手の気を読み次の行動や攻撃を予測するといったものがある。だがツクヨのそれは、まるで瞼の向こう側で別の景色でも見ているかのような動きだった。
それだけではない。彼そのものの戦い方も十分に気を引いたが、それ以上にロロネーの予測できない霧化の動きに、ツクヨは肉眼では確認出来ない何かを足場にし、器用に宙で体勢を変えながら戦っていた。
ある時は、隙を突いて来たロロネーの攻撃を避けるために見えない足場を利用して身を翻し、またある時は力の入らぬ姿勢で攻撃に転じようとする時に、見えない何かに体重を乗せ一気に蹴り上げて攻勢に転ずる。
通常の相手であれば、彼の奇妙な動きに翻弄され痛手を負っていてもおかしくない。だが相手はあのロロネー。海賊の亡霊達と同じように、自在に足を霧に変え宙を飛び回り、ツクヨの読めぬ動きに対応している。
人ばかり相手にして来たのでは、到底なし得ない動きの応酬。ツクヨは布都御魂剣が見せる別の景色の中で、ロロネーの身体に起きる僅かな気配の変化を見逃すことなく捉え、攻撃を事前に避けることで、攻防の読み合いにおける後手に回るデメリットを克服していた。
一方のロロネーは、始めこそ物理的攻撃を通さぬ筈の身体に、何故か透過の効かないツクヨの斬撃に驚かせれ苦戦するも、命中する寸前に霧化し透過しているように偽造して見せた。
本人達にしか分からぬ高度な攻防と、神経を研ぎ澄ませるような繊細なスキル技術だったが、二人の間には根本的に大きな差がある。
それは、能力や技術に関係なく単純に本人達のステータス。所謂身体能力の差だった。身のこなしやスピードに大きな差はないが、戦っている内に徐々に浮き彫りとなって来たのが、力の差だ。
簡潔に分かりやすく言えば攻撃力だ。ツクヨの攻撃がスピードであるならば、ロロネーの攻撃は一撃の重たい鉄槌のような攻撃。ロロネーはツクヨの攻撃を避けることも受けることも出来るが、ツクヨはそうではない。
受け流すといった防御は一切取ることは出来ず、全ての攻撃を避けなければならない。そんな彼をサポートするように、船員の二人が剣術による攻撃でロロネーの霧化を誘い、攻撃の手数を減らしていた。
だがそれも長くは続かず、船員の二人はロロネーによって地に伏せられ、ツクヨも窮地へと追い詰められる。土壇場で彼は、この世界でやらねばならない目的と、死ねない理由を胸に、自身の中に眠る悍しい力の一部を引き出すことに成功する。
ツクヨがロロネーと互角に戦えていたのは、彼のもう一つのクラス。普段は使うことも確認することも出来ないイレギュラーな力。デストロイヤーの攻撃力の一部を得て、ロロネーの重い攻撃を受けきることが可能となった。
船員の二人による手数を失ったが、代わりにツクヨはスピードとパワーの両立を果たし、一人で亡者の王を相手にできる力を得た。突然のツクヨのパワーアップに驚きと苦戦を強いられるロロネー。
それまでの彼とは違い、全ての神経を回避に集中させていた筈の攻撃が、守りだけでなく攻めへの意識に変わり、それまでロロネーのして来た霧化では回避が間に合わなくなり始める。
ツクヨの攻撃は何故かロロネーの身体を擦り抜けない。当たれば確実にこの男を斬りつける。急に命の重みを実感する、緊張感のある戦いへと変貌し、透過や霧化に身を任せた無茶苦茶な攻撃が、相手の動きも見る慎重な戦闘スタイルへと移行させる。
しかし、目の前の相手の奮戦に反撃を受けるロロネーは、焦りや苦悶の表情から自然と口角を上げた不気味な笑みを浮かべる。この男にとっては何年かぶり。血肉沸き、心躍る命の取り合いにロロネーは興じていたのだ。
必死に一撃一撃を振るうツクヨと、緊張感を楽しむロロネーによる二人の心の差が、奇しくも二人の勝負の行く末を加速させ、終幕へと導く。
通常の状態では扱う事も出来ないデストロイヤーの力は、ツクヨに圧倒的な攻撃力を与えたが、何分始めてのことでその力を自在に操ることが出来ず、彼の体力と魔力を大幅に蝕む諸刃の剣になっていたのだ。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる