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零距離リンク
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風を切るような足技に、空気を震わせるような拳。少しでも擦ればただでは済まない攻防を繰り広げる。実際のところ、チン・シーはよくハオランの動きについて行けている。
本来の実力ではないとはいえ、シンとツクヨを退けた程の力はあるのだ。それを武術の類のクラスでない彼女が相手にしていること自体がおかしいのだ。だが、そんな彼女の奮闘も、次第に勢いをなくし危険な場面が何度か訪れる。
本当は手を貸してやりたいところだが、彼女が敗北し危機に晒されることこそが本当の狙い。逸る気持ちを押し殺し、然る時を待った。すると、足が縺れたチン・シーにハオランの拳が向けられる。
咄嗟に腕を交差して防ごうとするも、彼の拳はその程度で防げるようなものではない。チン・シーはそこで、これまで使ってこなかったスキルを使う。それは他者と繋がる彼女特有の能力ではなく、一般的だが鮮麗されたファンタジーの世界では親のある魔法だった。
ハオランを傷つけることなく事を済ませるには、攻撃魔法を使うことはできない。ならば使う魔法は一つ。ハオランの重たい一撃を受けきれるだけの防御魔法。詠唱を唱えることなく、その場で効果を発揮した彼女の魔法は、麗しくか細いその腕を光で包み込み、強固なものとした。
だが彼女のスキルレベルを持ってしても防ぎ切ることは出来ず、後方へと吹き飛ばされるチン・シー。激しく打ち付けられたことで、意識が飛びそうになる彼女を追いかけハオランがやって来る。
トドメの追い討ちをかけようと歩み寄る彼だったが、チン・シーの苦しそうに咳き込む姿を見て動きが止まる。再びハオランは頭に走る痛みに悶える。シンが待ち望んでいた、その時がやって来たのだ。
思いもよらぬところまで吹き飛ばされたチン・シーに、出足が遅れたがすぐに二人のいるところまで駆け寄り瓦礫を飛び越えると、シンは渾身の技をハオランへ放つ。影が床を這いずる蛇のように素早く彼へ向かって行き、彼と周囲にあるありとあらゆる影が一つに集まる。
ハオランを蜘蛛の巣のように雁字搦めにし、動きを止める。ここぞとばかりに力を使ったシンの渾身のスキルは、武術で圧倒された彼を見事に捉えて見せた。これもチン・シーが戦って、彼の肉体を疲労させたおかげだろう。
床に手をつき咳き込んでいる彼女の元に、一本のボトルが転がってくる。それは回復薬の入ったものだった。こんなところにあるはずのない物が、チン・シーの指に触れ顔を上げるとそこには、影でハオランの動きを止めるシンの姿があった。
「さぁ早くッ!長くは保ちそうにないッ・・・!」
シンの言葉に手元のボトルの蓋を開け、中身を疑うことなく口に含み飲み込むチン・シー。身分の分からぬシンの施しを受けたのは、彼を信じ彼に自身を信じさせる為。だが何よりも今は、やっと訪れたチャンスを逃す訳にはいかない。
囮りを買って出ると言った以上、チン・シーが負傷するであろうことは容易に想像出来た。故にシンは、すぐに彼女が動けるよう回復薬を準備してくれていたのだ。彼にかけた言葉、そしてその反応を見てシンが悪い人間ではない事を見抜き、このような行動に出ることまで読んでいたのかもしれない。
回復したチン・シーが、影に囚われるハオランの元に駆け寄ると、必死に縛りを振り解こうと震える身体と、その間にも中に入り込んだ魂に乗っ取られまいと抵抗する様子が窺える。
そんな彼の頭を両手で包み込むように優しく掴むと、彼女は額をそっとハオランの頭にくっ付け、ゆっくりと意識を集中させながら目を閉じる。ゼロ距離でのリンクは効果も接続速度も、普段のそれとは比べ物にならないほど強力。
ただし、相手に密着しなければならず、抵抗させない為に拘束状態や気絶・睡眠といった状態異常などにかけなければ、ほとんどの場合成功することはない。故にシンの能力とは非常に相性の良いスキルとなった。
「世話をかけさせおって・・・。早く戻って来いッ・・・」
二人の接触部位が光を放ち、ハオランを拘束していた影から、彼の身体から力が弱まるのを感じ取ったシン。リンクが上手くいったのだろうと悟るが、万が一に備えスキルを継続し発動し続ける。
大見栄を切って張り切った分、スキルの範囲と力を強力に放ち、魔力の消費が著しく重たくなってしまっている。だが、シンの判断は間違ってなどいない。絶対に失敗の許されない中で、どれ程の力で拘束すれば良いのかも分からないのであれば、全力を出さざるを得ない。
その判断が功を奏し、難なくチン・シーがリンクを繋げることが出来たのだから。後は彼女の策が実を結ぶまで耐久するだけのこと。ここが勝敗を分ける瀬戸際。
チン・シー海賊団を救うだけでなく、ロロネーと戦っているツクヨや、戦場の何処かにいるであろうミア。そしてシン自身を生かすことにも繋がる。この濃霧から抜け出せない以上、ロロネーの敵対者は全て殺されるだろう。
故に生きてここを脱するには、彼女らと強力しロロネーを倒す他に道はない。
本来の実力ではないとはいえ、シンとツクヨを退けた程の力はあるのだ。それを武術の類のクラスでない彼女が相手にしていること自体がおかしいのだ。だが、そんな彼女の奮闘も、次第に勢いをなくし危険な場面が何度か訪れる。
本当は手を貸してやりたいところだが、彼女が敗北し危機に晒されることこそが本当の狙い。逸る気持ちを押し殺し、然る時を待った。すると、足が縺れたチン・シーにハオランの拳が向けられる。
咄嗟に腕を交差して防ごうとするも、彼の拳はその程度で防げるようなものではない。チン・シーはそこで、これまで使ってこなかったスキルを使う。それは他者と繋がる彼女特有の能力ではなく、一般的だが鮮麗されたファンタジーの世界では親のある魔法だった。
ハオランを傷つけることなく事を済ませるには、攻撃魔法を使うことはできない。ならば使う魔法は一つ。ハオランの重たい一撃を受けきれるだけの防御魔法。詠唱を唱えることなく、その場で効果を発揮した彼女の魔法は、麗しくか細いその腕を光で包み込み、強固なものとした。
だが彼女のスキルレベルを持ってしても防ぎ切ることは出来ず、後方へと吹き飛ばされるチン・シー。激しく打ち付けられたことで、意識が飛びそうになる彼女を追いかけハオランがやって来る。
トドメの追い討ちをかけようと歩み寄る彼だったが、チン・シーの苦しそうに咳き込む姿を見て動きが止まる。再びハオランは頭に走る痛みに悶える。シンが待ち望んでいた、その時がやって来たのだ。
思いもよらぬところまで吹き飛ばされたチン・シーに、出足が遅れたがすぐに二人のいるところまで駆け寄り瓦礫を飛び越えると、シンは渾身の技をハオランへ放つ。影が床を這いずる蛇のように素早く彼へ向かって行き、彼と周囲にあるありとあらゆる影が一つに集まる。
ハオランを蜘蛛の巣のように雁字搦めにし、動きを止める。ここぞとばかりに力を使ったシンの渾身のスキルは、武術で圧倒された彼を見事に捉えて見せた。これもチン・シーが戦って、彼の肉体を疲労させたおかげだろう。
床に手をつき咳き込んでいる彼女の元に、一本のボトルが転がってくる。それは回復薬の入ったものだった。こんなところにあるはずのない物が、チン・シーの指に触れ顔を上げるとそこには、影でハオランの動きを止めるシンの姿があった。
「さぁ早くッ!長くは保ちそうにないッ・・・!」
シンの言葉に手元のボトルの蓋を開け、中身を疑うことなく口に含み飲み込むチン・シー。身分の分からぬシンの施しを受けたのは、彼を信じ彼に自身を信じさせる為。だが何よりも今は、やっと訪れたチャンスを逃す訳にはいかない。
囮りを買って出ると言った以上、チン・シーが負傷するであろうことは容易に想像出来た。故にシンは、すぐに彼女が動けるよう回復薬を準備してくれていたのだ。彼にかけた言葉、そしてその反応を見てシンが悪い人間ではない事を見抜き、このような行動に出ることまで読んでいたのかもしれない。
回復したチン・シーが、影に囚われるハオランの元に駆け寄ると、必死に縛りを振り解こうと震える身体と、その間にも中に入り込んだ魂に乗っ取られまいと抵抗する様子が窺える。
そんな彼の頭を両手で包み込むように優しく掴むと、彼女は額をそっとハオランの頭にくっ付け、ゆっくりと意識を集中させながら目を閉じる。ゼロ距離でのリンクは効果も接続速度も、普段のそれとは比べ物にならないほど強力。
ただし、相手に密着しなければならず、抵抗させない為に拘束状態や気絶・睡眠といった状態異常などにかけなければ、ほとんどの場合成功することはない。故にシンの能力とは非常に相性の良いスキルとなった。
「世話をかけさせおって・・・。早く戻って来いッ・・・」
二人の接触部位が光を放ち、ハオランを拘束していた影から、彼の身体から力が弱まるのを感じ取ったシン。リンクが上手くいったのだろうと悟るが、万が一に備えスキルを継続し発動し続ける。
大見栄を切って張り切った分、スキルの範囲と力を強力に放ち、魔力の消費が著しく重たくなってしまっている。だが、シンの判断は間違ってなどいない。絶対に失敗の許されない中で、どれ程の力で拘束すれば良いのかも分からないのであれば、全力を出さざるを得ない。
その判断が功を奏し、難なくチン・シーがリンクを繋げることが出来たのだから。後は彼女の策が実を結ぶまで耐久するだけのこと。ここが勝敗を分ける瀬戸際。
チン・シー海賊団を救うだけでなく、ロロネーと戦っているツクヨや、戦場の何処かにいるであろうミア。そしてシン自身を生かすことにも繋がる。この濃霧から抜け出せない以上、ロロネーの敵対者は全て殺されるだろう。
故に生きてここを脱するには、彼女らと強力しロロネーを倒す他に道はない。
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