World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
369 / 1,646

消失を見通す眼

しおりを挟む
 布都御魂剣をその手に、シンへ剣を振り下ろそうとしたロロネーに一撃を入れる。そして何より驚いたのは、ツクヨの攻撃がロロネーに通ったということだ。

 これまで散々剣を振るい続けてきたシン達だったが、その一切を通さず疲労する様子もなかったロロネー。その身体からは彼らと同じ、人間の血が流れている。何よりロロネー自身も、信じられない出来事に驚いているようだった。

 「攻撃が・・・通った・・・?」

 床に尻餅をつき呆気に取られるシンとは打って変わり、危険を察したロロネーがすぐさまツクヨとの距離を空ける。ツクヨも続けて追い討ちを仕掛けるが、一撃目の不意打ちとは違い、攻撃を当てるには至らなかった。

 心なしかロロネーの回避行動が大袈裟に見える。決してギリギリのところで避けようとはせず、しっかりと確実に避けられるところまで移動している。彼もツクヨの予想だにしない攻撃を警戒しているのだ。

 何故、物理攻撃を通さない身体に刃を通すことが出来たのか。これまで実体のない亡霊や霧で作られたゴーストシップには、魔力の込められた攻撃、或いはエンチャントを施した武器による属性ダメージのみが通っていた。

 しかし、ツクヨの剣にエンチャントがされている様子はない。そしてロロネーの傷口にも、属性攻撃によるダメージの形跡はなく、明らかに実物の切り傷がついていた。

 「妙なことを・・・。何故刃が通る・・・?」

 不可思議な出来事にロロネーと同様、何故物理的な攻撃が通るのか考えると、シンはツクヨのある様子に注目した。それは彼が海上で見せた、目を閉じて剣を握る姿だ。

 「あの時の・・・!確か、何かが見えていると言っていたな。それと関係があるのだろうか・・・」

 霧で姿を眩まそうとするも、ロロネーの移動経路をツクヨは瞼の裏の世界で見ている。本体を見るというよりも、この男のドス黒いオーラを捉えているので、目視で見失っても僅かに残るオーラと、次の移動先である出現ポイントに集まるオーラを先に探知できる。

 故にツクヨの攻撃は、ロロネーの霧の能力に惑わされることがなく、後手に回ることもない。ロロネーにとって不可解なことが立て続けに起こり、余裕だった表情に暗い影を落とす。

 「シンッ!ここは私達に任せて、君は彼女の援護を・・・!」

 ツクヨはチン・シーへ続く経路に立ちはだかり、ロロネーの進行を許さない。船員の二人も、ロロネーを休ませまいと鍛え上げた剣技を振るい、霧化を促進させる。

 ツクヨ達の煩わしい攻撃に、思わず大雑把な攻撃になるロロネーに対し、攻勢よりも回避に重点を置く三人は、軽やかな動きで男を翻弄する。

 「クッ・・・!この程度の奴らにッ・・・。落ち着け、落ち着け・・・。今までにだって、攻撃を透過出来ない奴に出会したことがあるッ!コイツは更に俺の姿が見えているだけだ。探知されているのなら、それなりのやり方ってもんがあるだろ・・・」

 ブツクサと独り言を口にし出し、自身を落ち着かせようとするロロネー。まるで自己暗示のように冷静さを取り戻していくと、静かに呼吸を整え、避けるのではなく向かっていく姿勢に変わる。

 それまでと明らかに違った雰囲気を醸し出すロロネーに、思わずツクヨ達の足が止まる。迂闊に踏み込めば命を落とすような緊張感が、その肌にピリピリと伝わってくる。

 「いいのか・・・?来ねぇんならこっちからいくぜぇ?」

 そう言うとロロネーは、ゼロからの急加速で目を瞑るツクヨへ突進のように迫り、剣を振り下ろす。オーラで見えていたツクヨは辛うじてその一撃を受け止めるも、余りにも重たい攻撃に床の木材が割れ、足が沈んだ。

 ツクヨを助けるように二人の船員が剣技による連携をとり、次々にロロネーの身体に刃を突き立てていく。

 その一撃一撃でロロネーの身体は徐々に霧へと変わっていき、ある程度斬り刻んだところで彼は全身を霧に変え姿を消した。

 「またかッ・・・!今度は一体何処へ・・・」

 船員の二人が辺りを見渡し、ロロネーの出現に警戒する中、唯一彼の動きを探知していたツクヨが二人にロロネーの居場所を指差し声を上げる。

 「後ろだッ!足元にいる。何か仕掛けてくるぞ!」

 その声に反応した二人は一度ツクヨの方を見ると、彼の指差す方向へ向き直りロロネーの現れるのを待った。するとその箇所に僅かに濃い霧が立ち込め、何かの形に変わろうとしていた。

 二人はその霧が姿を象る前に剣を振るい、先手を打つ。だがそこに現れたのは、ロロネーの下半身だけで、低い体勢から二人の足を払おうと、紙に円を描くコンパスのように床を滑らせ一回転する。

 咄嗟に身体を捻り、強引に宙へ足を浮かせる二人だったが、そこへロロネーの上半身が現れ宙に舞う二人の頭部を鷲掴みにしようと狙っている。そうはさせまいと、ツクヨが布都御魂剣を振るう。

 しかし、ロロネーはツクヨの透過しない攻撃を器用なスキル技術で避けて見せた。それも、彼らには避けたと言うより、宛も透過したように見えていた。

 男はなんと、攻撃が当たる寸前、その攻撃が当たるであろう箇所だけを霧状に変え、擦り抜けさせていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トラップって強いよねぇ?

TURE 8
ファンタジー
 主人公の加藤浩二は最新ゲームであるVR MMO『Imagine world』の世界に『カジ』として飛び込む。そこで彼はスキル『罠生成』『罠設置』のスキルを使い、冒険者となって未開拓の大陸を冒険していく。だが、何やら遊んでいくうちにゲーム内には不穏な空気が流れ始める。そんな中でカジは生きているかのようなNPC達に自分とを照らし合わせていった……。  NPCの関わりは彼に何を与え、そしてこのゲームの隠された真実を知るときは来るのだろうか?

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

処理中です...