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初めて扱うスキルの副作用で自身にも影響が出始めたシンは、チン・シーが差し向けてくれた船員を押し退け、ハオランと同じように頭を抱えて苦しみ出した。ただ彼と違うのは、シンには自我がある様に見受けられることだ。
自身の身体に、自分ではない何者かが入り込んだ様に、彼はその者に好き勝手をさせまいと必死に足掻いている。突然の反応に治療を行えなくなった船員達は、何とか彼を大人しくさせようと抑え込む。
「シュユー、少し待っておれ」
その様子を見たチン・シーが、船員達に抑え込まれるシンの元へやって来る。船員の一人が事情を話そうとしたが、その一部始終は既にこの目で見ていたと言うチン・シー。
すると彼女は、シンの身体に触れ目を閉じる。船員達には彼女が何をしようとしているのか直ぐに理解すると、その為のアシストに回る。彼女の掌からシンの身体へ何かが送り込まれるのが見えた。
その後シンは、一度大きく呻き声を上げて苦しむと、痞えていた何かがなくなったかの様に大人しくなり、全身から力が抜ける。崩れ落ちた衝撃で身体を傷付けぬ様に船員達が支えると、漸く当初の目的であるシンの治療と回復を再開した。
そんな彼らの周りをぐるりと飛び回る白い煙にもにたオーラは、ハオランの時と同様、人の顔の様に変わり、唸りを上げて霧の向こうへと消えていった。
チン・シーはリンクの能力を使ってシンの中へ繋がると、内側から入り込んだ魂を体外へと追い出して見せた。これこそハオランを正気に戻す手段。本命のハオランで行う前に、シンで上手くいくかどうか試したのだ。
これにより、ハオランヘリンクすれば、彼を目覚めさせることも可能であることを確信する。しかし、ハオランの場合はこれの数十倍はあろうかという程の数の魂が入り込んでいる。
それを何とかしない限り、リンクを行う彼女自身も危険に晒されることになる。故にある程度ハオランの中から追い出しておかねば、リンクを繋げることすら叶わない。否、或いはチン・シーはその危険を犯してでもハオランを目覚めさせようとするかもしれない。
それは船長室に置いて来たフーファン達のことがあるからだ。シュユーにこの事はまだ話していない。彼も何故こんなに速くチン・シーがハオランの元へやって来たのか疑問に思ってはいたが、戦況の変化にすっかりそんな事は頭から抜けていた。
シュユーはシンの様子が落ち着き、元通りになるのを目にすると、再びツクヨと共にハオランの攻撃を抑える船員達のサポートへ戻る。依然ハオランは度々頭を抱える様な行動を取るものの、なかなか中に入り込んだ魂は外へと出ていく気配がない。
そこへ、シンの元から戻って来たチン・シーがシュユーのいるところへやって来る。
「シンとやらはもう大丈夫だ。それに良い練習が出来た。なるほど・・・一つの身体に別の魂が入り込むというのは、あの様な感覚なのか・・・」
「ハオランの中にいる魂の数は依然分からぬまま・・・。これではシン殿が回復したところでリンクを行うのは、危険を要しましょう」
この場に集まった者達の呼びかけ、そしてシュユーとシンによる精神攻撃で地道にその数を減らしていくしか方法はないのだろうか。先の見えぬトンネルに足を踏み入れるなど、得策ではない。
それにそんな不確定な策を、彼女が実行に移す筈がない。そう思っていたシュユーは、その後に続くチン・シーの言葉に再び違和感を覚える。
「・・・シンとやらが回復し次第、リンクの準備に取り掛かる・・・」
彼女らしからぬ判断。ロロネーの未知の能力を考慮すれば、これ以上良からぬことが起きる前にハオランを解放したいと思うのは当然だろうか。それにしてはやけに事を急いている様に、シュユーは感じた。
「なッ・・・!危険ですッ!それでは貴方様の身に何が起こるか・・・」
「分かっておる!・・・だが・・・妾だけ危険を冒さぬ訳にはいかぬであろう・・・」
何か言葉を飲み込む様にして話すチン・シー。確かにこの海賊団は船長自ら行動で示し、統率や士気を獲得して来たところもある。これ以上彼女を静止するのは無礼に当たるのではと、それ以上のことは口にしなかったシュユー。
ならばと、シンが復帰するまでの間にできる限りのことをしようと、ハオランヘの状態異常攻撃に尽力する。
大人しくなったシンの回復は順調に進んだ。目立った外傷はなく、ダメージは魂を取り込んでしまったことによる内面、精神的なものだけだったので、魔力の補充も加え、作業は瞬く間に完了していく。後は、彼の意識が戻るだけ。
シュユーのチン・シーを危機からなるべく遠ざける為のハオランヘの攻撃とは裏腹に、シンの回復は思っていた以上に早く済みそうだった。そして、時を待たずして彼は意識を取り戻す。
まだ頭が痛いのか、片手を頭部に添えながら起き上がるシン。顔の血色にも異常は見られない。だが如何やら、魂に入り込まれてからの記憶は混濁としていた様で、自分が何をしていたのか覚えていなかった。
「俺は・・・一体・・・。ハオランは・・・」
シンに次なる策を伝える為、チン・シーの側まで運ばれていた彼に、ハオランの精神状態について思い出せることを聞き出すチン・シー。シンがハオランヘやったことは、チン・シーのリンクにとても近いことだった。
無論、スキル自体の能力や効果は異なるものの、他者の中に入り込むという点では非常によく似ている。
シンの“操影“は、相手の内部に自身のニューロンを送り込むことにより、本人のニューロンに成り替わり誤った情報伝達をさせていた。そこへ魂という漠然としたものが、本体に異常をきたしているシンのニューロンへ纏わりつき、シンの身体へ付いて来てしまったのだ。
その時、ハオランの中で感じた無数の魂を確認することが出来た。だがシンに魂が見えていた訳ではなく、あくまで目を閉じた時に他人から風を当てられる様な、曖昧な感知でしかない。それでも多くの魂が居たと分かるほど、ハオランの中の魂は多かった。
チン・シーのリンクは、シンの“操影“とは違い、相手の精神に入り込むことでその魂を実際に見ることになる。謂わばシンの“操影“が身体を操る能力とするならば、チン・シーのリンクは精神を操る能力。
精神攻撃に対する耐性はあるものの、チン・シーがハオランにリンクして襲われる魂の攻撃は、シンの受けた精神攻撃とは比にならない程、直接的で強いダメージとなる。
「そうか・・・ハッキリとは分からなんだか・・・」
「申し訳ない。何分使うのが初めてのスキルで、まだ勝手が掴めていなかったんだ・・・」
僅かに顔を俯かせ、落ち込んだ様にも見えたチン・シーに、自分のスキルで気を失ってしまったことが恥ずかしく、言い訳の様に言葉を連ねるシン。やはりいきなり実践で上手くいく程甘くはなかったと、少し後悔する。
それでも彼女は、気にするなと言わんばかりに首を横に振り、穏やかな表情を覗かせた。荒くれ者の多い海賊界隈で、大船団を率いる女船長と聞いていて、グレイスの様な男勝りの豪快な人柄を想像していたシンだったが、実際の彼女はとても美しく女性らしい雰囲気を持っており、とても海賊だなんて信じられなかった。
自身の身体に、自分ではない何者かが入り込んだ様に、彼はその者に好き勝手をさせまいと必死に足掻いている。突然の反応に治療を行えなくなった船員達は、何とか彼を大人しくさせようと抑え込む。
「シュユー、少し待っておれ」
その様子を見たチン・シーが、船員達に抑え込まれるシンの元へやって来る。船員の一人が事情を話そうとしたが、その一部始終は既にこの目で見ていたと言うチン・シー。
すると彼女は、シンの身体に触れ目を閉じる。船員達には彼女が何をしようとしているのか直ぐに理解すると、その為のアシストに回る。彼女の掌からシンの身体へ何かが送り込まれるのが見えた。
その後シンは、一度大きく呻き声を上げて苦しむと、痞えていた何かがなくなったかの様に大人しくなり、全身から力が抜ける。崩れ落ちた衝撃で身体を傷付けぬ様に船員達が支えると、漸く当初の目的であるシンの治療と回復を再開した。
そんな彼らの周りをぐるりと飛び回る白い煙にもにたオーラは、ハオランの時と同様、人の顔の様に変わり、唸りを上げて霧の向こうへと消えていった。
チン・シーはリンクの能力を使ってシンの中へ繋がると、内側から入り込んだ魂を体外へと追い出して見せた。これこそハオランを正気に戻す手段。本命のハオランで行う前に、シンで上手くいくかどうか試したのだ。
これにより、ハオランヘリンクすれば、彼を目覚めさせることも可能であることを確信する。しかし、ハオランの場合はこれの数十倍はあろうかという程の数の魂が入り込んでいる。
それを何とかしない限り、リンクを行う彼女自身も危険に晒されることになる。故にある程度ハオランの中から追い出しておかねば、リンクを繋げることすら叶わない。否、或いはチン・シーはその危険を犯してでもハオランを目覚めさせようとするかもしれない。
それは船長室に置いて来たフーファン達のことがあるからだ。シュユーにこの事はまだ話していない。彼も何故こんなに速くチン・シーがハオランの元へやって来たのか疑問に思ってはいたが、戦況の変化にすっかりそんな事は頭から抜けていた。
シュユーはシンの様子が落ち着き、元通りになるのを目にすると、再びツクヨと共にハオランの攻撃を抑える船員達のサポートへ戻る。依然ハオランは度々頭を抱える様な行動を取るものの、なかなか中に入り込んだ魂は外へと出ていく気配がない。
そこへ、シンの元から戻って来たチン・シーがシュユーのいるところへやって来る。
「シンとやらはもう大丈夫だ。それに良い練習が出来た。なるほど・・・一つの身体に別の魂が入り込むというのは、あの様な感覚なのか・・・」
「ハオランの中にいる魂の数は依然分からぬまま・・・。これではシン殿が回復したところでリンクを行うのは、危険を要しましょう」
この場に集まった者達の呼びかけ、そしてシュユーとシンによる精神攻撃で地道にその数を減らしていくしか方法はないのだろうか。先の見えぬトンネルに足を踏み入れるなど、得策ではない。
それにそんな不確定な策を、彼女が実行に移す筈がない。そう思っていたシュユーは、その後に続くチン・シーの言葉に再び違和感を覚える。
「・・・シンとやらが回復し次第、リンクの準備に取り掛かる・・・」
彼女らしからぬ判断。ロロネーの未知の能力を考慮すれば、これ以上良からぬことが起きる前にハオランを解放したいと思うのは当然だろうか。それにしてはやけに事を急いている様に、シュユーは感じた。
「なッ・・・!危険ですッ!それでは貴方様の身に何が起こるか・・・」
「分かっておる!・・・だが・・・妾だけ危険を冒さぬ訳にはいかぬであろう・・・」
何か言葉を飲み込む様にして話すチン・シー。確かにこの海賊団は船長自ら行動で示し、統率や士気を獲得して来たところもある。これ以上彼女を静止するのは無礼に当たるのではと、それ以上のことは口にしなかったシュユー。
ならばと、シンが復帰するまでの間にできる限りのことをしようと、ハオランヘの状態異常攻撃に尽力する。
大人しくなったシンの回復は順調に進んだ。目立った外傷はなく、ダメージは魂を取り込んでしまったことによる内面、精神的なものだけだったので、魔力の補充も加え、作業は瞬く間に完了していく。後は、彼の意識が戻るだけ。
シュユーのチン・シーを危機からなるべく遠ざける為のハオランヘの攻撃とは裏腹に、シンの回復は思っていた以上に早く済みそうだった。そして、時を待たずして彼は意識を取り戻す。
まだ頭が痛いのか、片手を頭部に添えながら起き上がるシン。顔の血色にも異常は見られない。だが如何やら、魂に入り込まれてからの記憶は混濁としていた様で、自分が何をしていたのか覚えていなかった。
「俺は・・・一体・・・。ハオランは・・・」
シンに次なる策を伝える為、チン・シーの側まで運ばれていた彼に、ハオランの精神状態について思い出せることを聞き出すチン・シー。シンがハオランヘやったことは、チン・シーのリンクにとても近いことだった。
無論、スキル自体の能力や効果は異なるものの、他者の中に入り込むという点では非常によく似ている。
シンの“操影“は、相手の内部に自身のニューロンを送り込むことにより、本人のニューロンに成り替わり誤った情報伝達をさせていた。そこへ魂という漠然としたものが、本体に異常をきたしているシンのニューロンへ纏わりつき、シンの身体へ付いて来てしまったのだ。
その時、ハオランの中で感じた無数の魂を確認することが出来た。だがシンに魂が見えていた訳ではなく、あくまで目を閉じた時に他人から風を当てられる様な、曖昧な感知でしかない。それでも多くの魂が居たと分かるほど、ハオランの中の魂は多かった。
チン・シーのリンクは、シンの“操影“とは違い、相手の精神に入り込むことでその魂を実際に見ることになる。謂わばシンの“操影“が身体を操る能力とするならば、チン・シーのリンクは精神を操る能力。
精神攻撃に対する耐性はあるものの、チン・シーがハオランにリンクして襲われる魂の攻撃は、シンの受けた精神攻撃とは比にならない程、直接的で強いダメージとなる。
「そうか・・・ハッキリとは分からなんだか・・・」
「申し訳ない。何分使うのが初めてのスキルで、まだ勝手が掴めていなかったんだ・・・」
僅かに顔を俯かせ、落ち込んだ様にも見えたチン・シーに、自分のスキルで気を失ってしまったことが恥ずかしく、言い訳の様に言葉を連ねるシン。やはりいきなり実践で上手くいく程甘くはなかったと、少し後悔する。
それでも彼女は、気にするなと言わんばかりに首を横に振り、穏やかな表情を覗かせた。荒くれ者の多い海賊界隈で、大船団を率いる女船長と聞いていて、グレイスの様な男勝りの豪快な人柄を想像していたシンだったが、実際の彼女はとても美しく女性らしい雰囲気を持っており、とても海賊だなんて信じられなかった。
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