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陽炎に踊らされて
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少女の思わぬ奮闘に、当初の予定を狂わされたロロネーは、表情こそ依然変わりなく余裕の顔を覗かせたが、その口元は少しだけ引きつっていた。男の手元に現れた小さな雲のようなものから、剣の柄頭が静かに顔を出す。
二人の元へ向かいながらその柄頭を握り、ゆっくりと引っ張り出すように剣身から剣先までを引き抜く。フーファンを支えながらチン・シーは立ち上がり、ロロネーの接近に迎え撃つようにして身を構える。
そんな彼女の少し後ろからその姿を目に映す。肩に滲んだ赤い染みが、少女の行動から負傷したものだという、心に自責の念を植え付けると共に、今度こそ主人の力になるのだと決心させる。
ここでロロネーと決着をつけるのは時期尚早だと、フーファンも分かっていた。チン・シーに勝利を捧げるには、やはりあの人物の存在が必要不可欠。その者が、今どんな状況にあるのかは分からないが、主人がその者の元にまで辿り着けば解決するという、根拠はないが自信のある思いがフーファンだけではなく、船員達の胸中にあった。
その為には、この状況を潜り抜けなければならない。チン・シーはフーファンのことを必要だと言った。ならば少女の妖術が活躍する場面が、必ず何処かにある筈。主人に直接尋ねるのではなく、自らそのタイミングを見つけなくてはならない。それが彼女の期待に応えることに繋がるのだから。
走り出したロロネーにチン・シーは弓矢を手に取り、素早い手捌きで一矢二矢とその矢先に火を灯した矢を放つ。ロロネーはそれを鋭い剣閃で切り落とし、距離を詰める。
接近を許してしまったチン・シーは、手にした弓矢を手で撫でるように触れる。すると手元から発火し、炎に包まれた弓矢は形を変え剣に生まれ変わる。振り下ろされる男の剣を避け、代わりに鉛の刃をおみまいする。
例の如く、チン・シーの振るった剣はロロネーの身体を擦り抜けたが、ここで彼女は今までとは違った手段で、男への攻撃を試みる。剣が男の身体に触れ、物体に当たるような感覚がないまま腹部の中心辺りにまでいったところで、彼女はその手を止めたのだ。
そして反対の手を男にかざすと、噴き出す炎の魔法で、擦り抜けている途中の男の身体を焼き払った。僅かに眉を潜ませるロロネー。見た目ではハッキリと確認する事は出来ないが、確実に魔力を纏った攻撃を嫌がっている。
「貴様のその身体・・・人間のものではないな?」
ロロネーの異形の能力。それは決して魔術矢妖術の類ではなく、ましてや幻覚でもない。そして、そのような体質効果を得るクラスなど、“人間の就けるクラス“には存在しない。
今までに見た海賊の亡霊やゴーストシップと同様、ロロネーの身体は何らかの効果や能力、或いは現象で霊体化しているのではないかと読んだチン・シー。これまでの戦いで亡霊系のモンスター達には魔法が有効なことから、この男の弱点も魔力を使った攻撃と見て間違いない。
「さぁ、どうだろうなぁ」
纏わり付く炎を羽織で身を包み、振り払うロロネー。反撃を企てようとするが、目の前にチン・シーの姿はない。敵の視界から外れ回り込むのなら、死角を突くのが定石。背後を振り返ろうとする途中、男の視界に女の姿が映る。
身長からして、明らかに妖術の少女でないことだけはハッキリと分かった。その上でこの船長室に女など、彼女以外あり得ない。ロロネーはその姿目掛けて、振り返る勢いを乗せた剣を振るう。
再び室内に響き渡る金属音。ロロネーが直ぐに警戒した為、時間がなかったのか背後に到達していなかったその人影は、男の推測通りチン・シーだった。剣を盾にし、振り払われた斬撃を受け止めている。
常に前線で戦う戦士達とは違い、技術はあれどそのか細い腕では凌ぐのが精一杯の様子のチン・シー。その苦しそうな表情を見て、ニヤリと口角を上げて笑うロロネー。
しかし次の瞬間、男の身体は突如炎に包まれる。チン・シーを相手取るのに夢中になっていたばかり、フーファンの姿が消えていることに気づくのが遅れたロロネー。鍔迫り合いをするチン・シーを押し退け、距離を空けると炎を振り払いながら周囲を確認する。
すると、ロロネーの背後でしゃがみ床に手をついている何者かの姿があった。その姿勢から、男の計画を邪魔した妖術師の少女に違いない。良いところで再び邪魔されたことが、流石に男の癇に障ったのか、珍しく声を荒立てるロロネー。
「このッ・・・!クソガキがぁッ!!」
「クソガキ・・・?そんなに若く見えたか?」
下から聞こえてくる妙に大人っぽい声に、思わずハッとする男。しゃがんでいた人影が男の顔を見上げると、そこにいたのは先程押し退けた筈のチン・シーその人だったのだ。
何がどうなっているのか混乱するロロネーに、空かさず火矢の強襲が放たれる。身体を貫通していき、その炎だけを男に残していった火矢。飛んで来た方へ振り返ると、炎の陽炎で揺らめくチン・シーの姿が二つ、弓矢を構えて立ち並んでいた。
「小賢しいことを・・・。俺の真似事かぁ?」
既にフーファンによりしてやられたロロネー。激情するかと思われたが、返って男は冷静だった。しかしその視線は鋭く光り、燃ゆる男の身体以上に、静かな怒りを滾らせているようだった。
二人の元へ向かいながらその柄頭を握り、ゆっくりと引っ張り出すように剣身から剣先までを引き抜く。フーファンを支えながらチン・シーは立ち上がり、ロロネーの接近に迎え撃つようにして身を構える。
そんな彼女の少し後ろからその姿を目に映す。肩に滲んだ赤い染みが、少女の行動から負傷したものだという、心に自責の念を植え付けると共に、今度こそ主人の力になるのだと決心させる。
ここでロロネーと決着をつけるのは時期尚早だと、フーファンも分かっていた。チン・シーに勝利を捧げるには、やはりあの人物の存在が必要不可欠。その者が、今どんな状況にあるのかは分からないが、主人がその者の元にまで辿り着けば解決するという、根拠はないが自信のある思いがフーファンだけではなく、船員達の胸中にあった。
その為には、この状況を潜り抜けなければならない。チン・シーはフーファンのことを必要だと言った。ならば少女の妖術が活躍する場面が、必ず何処かにある筈。主人に直接尋ねるのではなく、自らそのタイミングを見つけなくてはならない。それが彼女の期待に応えることに繋がるのだから。
走り出したロロネーにチン・シーは弓矢を手に取り、素早い手捌きで一矢二矢とその矢先に火を灯した矢を放つ。ロロネーはそれを鋭い剣閃で切り落とし、距離を詰める。
接近を許してしまったチン・シーは、手にした弓矢を手で撫でるように触れる。すると手元から発火し、炎に包まれた弓矢は形を変え剣に生まれ変わる。振り下ろされる男の剣を避け、代わりに鉛の刃をおみまいする。
例の如く、チン・シーの振るった剣はロロネーの身体を擦り抜けたが、ここで彼女は今までとは違った手段で、男への攻撃を試みる。剣が男の身体に触れ、物体に当たるような感覚がないまま腹部の中心辺りにまでいったところで、彼女はその手を止めたのだ。
そして反対の手を男にかざすと、噴き出す炎の魔法で、擦り抜けている途中の男の身体を焼き払った。僅かに眉を潜ませるロロネー。見た目ではハッキリと確認する事は出来ないが、確実に魔力を纏った攻撃を嫌がっている。
「貴様のその身体・・・人間のものではないな?」
ロロネーの異形の能力。それは決して魔術矢妖術の類ではなく、ましてや幻覚でもない。そして、そのような体質効果を得るクラスなど、“人間の就けるクラス“には存在しない。
今までに見た海賊の亡霊やゴーストシップと同様、ロロネーの身体は何らかの効果や能力、或いは現象で霊体化しているのではないかと読んだチン・シー。これまでの戦いで亡霊系のモンスター達には魔法が有効なことから、この男の弱点も魔力を使った攻撃と見て間違いない。
「さぁ、どうだろうなぁ」
纏わり付く炎を羽織で身を包み、振り払うロロネー。反撃を企てようとするが、目の前にチン・シーの姿はない。敵の視界から外れ回り込むのなら、死角を突くのが定石。背後を振り返ろうとする途中、男の視界に女の姿が映る。
身長からして、明らかに妖術の少女でないことだけはハッキリと分かった。その上でこの船長室に女など、彼女以外あり得ない。ロロネーはその姿目掛けて、振り返る勢いを乗せた剣を振るう。
再び室内に響き渡る金属音。ロロネーが直ぐに警戒した為、時間がなかったのか背後に到達していなかったその人影は、男の推測通りチン・シーだった。剣を盾にし、振り払われた斬撃を受け止めている。
常に前線で戦う戦士達とは違い、技術はあれどそのか細い腕では凌ぐのが精一杯の様子のチン・シー。その苦しそうな表情を見て、ニヤリと口角を上げて笑うロロネー。
しかし次の瞬間、男の身体は突如炎に包まれる。チン・シーを相手取るのに夢中になっていたばかり、フーファンの姿が消えていることに気づくのが遅れたロロネー。鍔迫り合いをするチン・シーを押し退け、距離を空けると炎を振り払いながら周囲を確認する。
すると、ロロネーの背後でしゃがみ床に手をついている何者かの姿があった。その姿勢から、男の計画を邪魔した妖術師の少女に違いない。良いところで再び邪魔されたことが、流石に男の癇に障ったのか、珍しく声を荒立てるロロネー。
「このッ・・・!クソガキがぁッ!!」
「クソガキ・・・?そんなに若く見えたか?」
下から聞こえてくる妙に大人っぽい声に、思わずハッとする男。しゃがんでいた人影が男の顔を見上げると、そこにいたのは先程押し退けた筈のチン・シーその人だったのだ。
何がどうなっているのか混乱するロロネーに、空かさず火矢の強襲が放たれる。身体を貫通していき、その炎だけを男に残していった火矢。飛んで来た方へ振り返ると、炎の陽炎で揺らめくチン・シーの姿が二つ、弓矢を構えて立ち並んでいた。
「小賢しいことを・・・。俺の真似事かぁ?」
既にフーファンによりしてやられたロロネー。激情するかと思われたが、返って男は冷静だった。しかしその視線は鋭く光り、燃ゆる男の身体以上に、静かな怒りを滾らせているようだった。
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