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連携と驚愕
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床に敷かれた赤い絨毯に染み込んでいた血痕が、少女の妖術による幻覚で炎に変わり、室内に疎らな炎のフィールドを形成する。それは味方であるチン・シー軍の者達には無害で、視覚的な演出でしかないが、敵対者であるロロネーには実物の炎同様の熱とダメージが伝わっている。
チン・シーがこの部屋に呼んでいたと言うのは、彼女の海賊団の中でも屈指の妖術師である少女、フーファンだったのだ。床を歪ませ、下の階層へと精鋭達を避難させたフーファンは、ロロネーの血の付いた短剣を懐から取り出した紙で拭き取り、衣服へしまった。
「待ちわびたぞフーファン。お前が来る前に、状況が変わった・・・」
「如何やらそのようですね・・・」
当初の予定では、精鋭数人とフーファンを連れ、リンクでシュユーの位置を特定しハオランの元へ向かう筈だった。だがその前に、あろう事か敵軍の総大将ロロネー本人が、ここまで潜り込んでいた。最も警戒すべき人物が、壁となって彼女らの前に立ち塞がる。
この場で雌雄を決するのは得策ではない。先にハオランにかけられた術を解き、先に正気に戻してからロロネーと戦う方が、より勝利の確率が上がる。この場を切り抜けハオランの元へ向かうには、フーファンの妖術が必要だろう。
「私が奴の隙をついて、外へ送り出しますですよ」
「あぁ、頼りにしているぞ。さぁ、妾の近くへ・・・」
手を差し伸べるチン・シーの元へ飛び退くようにして降り立つフーファン。そして少女に触れると彼女はリンクの能力で、その力を共有する。二人の接触を黙って見ていたロロネーが、火の粉を散らす炎を払いながら、迎撃態勢に入る二人の方へ向かって来る。
「こんなシケた術が俺に通用するかよ・・・。お前らはここで敗北して、チン・シー海賊団は終いだ!」
ゆっくりと歩き出したその足取りを徐々に加速させ、前のめりになりながら走り出すロロネー。短剣を逆手に構え主人の前に立つフーファンが彼の前に立ちはだかり、刃を交える。
文字通り、大人と子供ほどの体格差のある二人では、決して縮まることのない根本的な身体能力の差があり、ロロネーの力任せに振り下ろされた剣を受け止めるフーファンだったが、そこにまともな鍔迫り合いなど成立しない。
火花が散るほど激しく打ち付け合う互いの刃は、耳を震わせるほどの金属音を室内に轟かせた。しかし、まるで上からのしかかるように押し込まれるフーファンの身体は、みるみる小さく潰されていく。
すると、フーファンの背後にいたチン・シーが素早い動きでロロネーの側面へ回り込み、身体を回転させ遠心力を乗せた鞭のようにしなやかな蹴りを彼の顔面目掛けて振り抜く。剣を握る方とは反対の腕で防いだロロネーだったが、その腕には蹴りで付けられたものとは思えないミミズ腫れが現れていた。
その間に、ロロネーの剣で身体を小さく折り曲げられていたフーファンが、つっかえ棒を引き抜くように素早い身のこなしでロロネーの足元へと転がり込むと、短剣をしまい彼の足元で両手を床に押し付ける。
押さえ込んでいたものが突然いなくなり、ロロネーの剣先は床へ振り落とされる。チン・シーが彼の元から飛び退くと、ロロネーの足元で淡い紫色の光が発生したと思いきや、そこから腕のようなモノが飛び出し彼の足を絡めとる。
そのまま彼の足を掴む腕ごと、一瞬で凍てつかせ腰の辺りまでを氷の彫刻に変えるフーファン。動けなくなったロロネーに、まだ部屋に残っていた精鋭の二人が互いにすれ違うようにして、ロロネーの腹部へ横薙ぎの一閃を振り抜いた。
チン・シー海賊団による息の合った連携。ロロネーの上半身と下半身は腹部で両断され、上半分が僅かに宙へと浮き上がる。
だが、ここまで人体を破損させたにも関わらず、当然起こりべき現象が、その場にいる誰の目にも映し出されなかったのだ。人の身体を巡る生命の液体、血液が一滴たりとも飛び散っていなかった。
精鋭の二人が異変に気づくまでの僅かな一瞬、何かに頭を鷲掴みにされ二人の頭部は勢いよく打ち付けられる。痛みに悶絶する間も無く二人の意識は絶たれ、まるで人ならざるものの力で室内の両壁へと投げ飛ばされた。
想像もし得ない状況を目の当たりにし、ロロネーの凍った足元で唖然としてその一部始終を見ていたフーファン。何かの気配を悟り、眠っていた頭を小突かれるように我に帰った彼女の目の前には、如何やってか既に氷から解放されたロロネーの足がフーファンを蹴り飛ばそうと迫っていた。
「シンクロ・リンクッ!」
攻撃をもらいそうになっているフーファンを見て、チン・シーは空かさずリンクの能力を発動し、後方へ飛び退いた。すると、フーファンの意思とは関係なく少女の身体もチン・シーと同様に後ろへ飛び退き、間一髪のところでロロネーの蹴りを躱すことが出来た。
チン・シーのリンク能力の一つ、“シンクロ“は対象に自身と同じ動きや行動を行わせることが出来る力を有しており、それにより回避行動の間に合わぬフーファンの身体を強引に退かせた。
「たッ・・・助かりましたです・・・」
少女の額に大粒の雫が流れる。精鋭の二人を最も容易く持ち上げて吹き飛ばすほどの力だ。そんなもので子供の頭部が蹴られれば、ボールのように千切れ飛んでいたか、或いは首の骨を折られていたかもしれない。
瞬く間に精鋭の二人が戦闘不能にされてしまった。彼らが油断していた訳でも、ましてや弱かった訳でもない。二人の斬撃は、確実に生物の命を刈り取るには十分な威力があった。そして確かにロロネーの身体が両断されるのを、彼女らは目撃している。
それが今、何事もなかったかのように平然と、この部屋に入って来た時と同じ姿でロロネーは立っていた。
「・・・貴様・・・その身体・・・」
チン・シーはこの時薄々感づいていた。果たして今のロロネーのようなことの出来るクラスがあるだろうか。そしてロロネーには、それを隠そうとする気もないようで平然とその怪奇を見せびらかしている。
「おいおい・・・。こんなんじゃぁ何人いても俺は止めえられねぇぜぇ?この程度なのかよ、優勝候補の海賊団ってのは」
フランソワ・ロロネーについて全く知らないことはない。彼は以前から何度もレースに出場していて、互いにどんなクラスでどんな能力を使うのかなどは記憶の片隅に残っている。
無論、以前までとは違ったクラスや作戦でレースに挑む者も多い。だが今のロロネーには、以前までのお面影など微塵も感じられなかったのだ。
チン・シーがこの部屋に呼んでいたと言うのは、彼女の海賊団の中でも屈指の妖術師である少女、フーファンだったのだ。床を歪ませ、下の階層へと精鋭達を避難させたフーファンは、ロロネーの血の付いた短剣を懐から取り出した紙で拭き取り、衣服へしまった。
「待ちわびたぞフーファン。お前が来る前に、状況が変わった・・・」
「如何やらそのようですね・・・」
当初の予定では、精鋭数人とフーファンを連れ、リンクでシュユーの位置を特定しハオランの元へ向かう筈だった。だがその前に、あろう事か敵軍の総大将ロロネー本人が、ここまで潜り込んでいた。最も警戒すべき人物が、壁となって彼女らの前に立ち塞がる。
この場で雌雄を決するのは得策ではない。先にハオランにかけられた術を解き、先に正気に戻してからロロネーと戦う方が、より勝利の確率が上がる。この場を切り抜けハオランの元へ向かうには、フーファンの妖術が必要だろう。
「私が奴の隙をついて、外へ送り出しますですよ」
「あぁ、頼りにしているぞ。さぁ、妾の近くへ・・・」
手を差し伸べるチン・シーの元へ飛び退くようにして降り立つフーファン。そして少女に触れると彼女はリンクの能力で、その力を共有する。二人の接触を黙って見ていたロロネーが、火の粉を散らす炎を払いながら、迎撃態勢に入る二人の方へ向かって来る。
「こんなシケた術が俺に通用するかよ・・・。お前らはここで敗北して、チン・シー海賊団は終いだ!」
ゆっくりと歩き出したその足取りを徐々に加速させ、前のめりになりながら走り出すロロネー。短剣を逆手に構え主人の前に立つフーファンが彼の前に立ちはだかり、刃を交える。
文字通り、大人と子供ほどの体格差のある二人では、決して縮まることのない根本的な身体能力の差があり、ロロネーの力任せに振り下ろされた剣を受け止めるフーファンだったが、そこにまともな鍔迫り合いなど成立しない。
火花が散るほど激しく打ち付け合う互いの刃は、耳を震わせるほどの金属音を室内に轟かせた。しかし、まるで上からのしかかるように押し込まれるフーファンの身体は、みるみる小さく潰されていく。
すると、フーファンの背後にいたチン・シーが素早い動きでロロネーの側面へ回り込み、身体を回転させ遠心力を乗せた鞭のようにしなやかな蹴りを彼の顔面目掛けて振り抜く。剣を握る方とは反対の腕で防いだロロネーだったが、その腕には蹴りで付けられたものとは思えないミミズ腫れが現れていた。
その間に、ロロネーの剣で身体を小さく折り曲げられていたフーファンが、つっかえ棒を引き抜くように素早い身のこなしでロロネーの足元へと転がり込むと、短剣をしまい彼の足元で両手を床に押し付ける。
押さえ込んでいたものが突然いなくなり、ロロネーの剣先は床へ振り落とされる。チン・シーが彼の元から飛び退くと、ロロネーの足元で淡い紫色の光が発生したと思いきや、そこから腕のようなモノが飛び出し彼の足を絡めとる。
そのまま彼の足を掴む腕ごと、一瞬で凍てつかせ腰の辺りまでを氷の彫刻に変えるフーファン。動けなくなったロロネーに、まだ部屋に残っていた精鋭の二人が互いにすれ違うようにして、ロロネーの腹部へ横薙ぎの一閃を振り抜いた。
チン・シー海賊団による息の合った連携。ロロネーの上半身と下半身は腹部で両断され、上半分が僅かに宙へと浮き上がる。
だが、ここまで人体を破損させたにも関わらず、当然起こりべき現象が、その場にいる誰の目にも映し出されなかったのだ。人の身体を巡る生命の液体、血液が一滴たりとも飛び散っていなかった。
精鋭の二人が異変に気づくまでの僅かな一瞬、何かに頭を鷲掴みにされ二人の頭部は勢いよく打ち付けられる。痛みに悶絶する間も無く二人の意識は絶たれ、まるで人ならざるものの力で室内の両壁へと投げ飛ばされた。
想像もし得ない状況を目の当たりにし、ロロネーの凍った足元で唖然としてその一部始終を見ていたフーファン。何かの気配を悟り、眠っていた頭を小突かれるように我に帰った彼女の目の前には、如何やってか既に氷から解放されたロロネーの足がフーファンを蹴り飛ばそうと迫っていた。
「シンクロ・リンクッ!」
攻撃をもらいそうになっているフーファンを見て、チン・シーは空かさずリンクの能力を発動し、後方へ飛び退いた。すると、フーファンの意思とは関係なく少女の身体もチン・シーと同様に後ろへ飛び退き、間一髪のところでロロネーの蹴りを躱すことが出来た。
チン・シーのリンク能力の一つ、“シンクロ“は対象に自身と同じ動きや行動を行わせることが出来る力を有しており、それにより回避行動の間に合わぬフーファンの身体を強引に退かせた。
「たッ・・・助かりましたです・・・」
少女の額に大粒の雫が流れる。精鋭の二人を最も容易く持ち上げて吹き飛ばすほどの力だ。そんなもので子供の頭部が蹴られれば、ボールのように千切れ飛んでいたか、或いは首の骨を折られていたかもしれない。
瞬く間に精鋭の二人が戦闘不能にされてしまった。彼らが油断していた訳でも、ましてや弱かった訳でもない。二人の斬撃は、確実に生物の命を刈り取るには十分な威力があった。そして確かにロロネーの身体が両断されるのを、彼女らは目撃している。
それが今、何事もなかったかのように平然と、この部屋に入って来た時と同じ姿でロロネーは立っていた。
「・・・貴様・・・その身体・・・」
チン・シーはこの時薄々感づいていた。果たして今のロロネーのようなことの出来るクラスがあるだろうか。そしてロロネーには、それを隠そうとする気もないようで平然とその怪奇を見せびらかしている。
「おいおい・・・。こんなんじゃぁ何人いても俺は止めえられねぇぜぇ?この程度なのかよ、優勝候補の海賊団ってのは」
フランソワ・ロロネーについて全く知らないことはない。彼は以前から何度もレースに出場していて、互いにどんなクラスでどんな能力を使うのかなどは記憶の片隅に残っている。
無論、以前までとは違ったクラスや作戦でレースに挑む者も多い。だが今のロロネーには、以前までのお面影など微塵も感じられなかったのだ。
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