World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
346 / 1,646

不滅の海賊船

しおりを挟む
 シン達がハオランに追いついていた頃、一方ミアは再び現れたロロネーの船団に襲撃される前線へ向かう。突然現れたり気えたりする不自然な海賊船。その正体を調べる為に自ら名乗り出た彼女は、ツバキのもう一台のボードで波を割いて急行する。

 前線の中でもあまり被害の出ていない船を探し、船員の者に合図を送る。餞別として受け取った物資の中には、チン・シー海賊団の仲間であることを知らせる信号弾も含まれていた。

 敵軍の目につかぬよう、威力を調整して銃で信号弾を目的の船の上空に打ち出す。煙の量はミアによって抑えられていたが、赤い煙が海面より打ち上がり、乗り合わせている船員の目に止まる。

 煙の発生源には、彼らの知らぬ人物であるミアの姿があった。だが彼女の打ち出した信号弾は、シュユーによって作られた特殊なもので、彼らには彼女がチン・シー或いは、シュユー達幹部勢に認められた者であることを知り、直ぐに船へと招き入れる。

 「アンタらの主人に頼んで、様子を見に来た者だ。中央で挟撃した筈のロロネーの海賊船が現れたと言う報告が入った」

 「あぁ、俺らにも何が何やら・・・。中央にあれだけの船団があったんだ、あれが敵の全勢力だと思ってたのによぉ・・・。一体どうなってやがるんだ」

 船員の言っていることは、何もおかしな事ではない。それだけの数の海賊船が、チン・シー海賊団の幻影を取り囲み、総攻撃を仕掛けていた。普通なら全勢力を集めていたと思うものだ。

 だが、ミアには一つ引っ掛かることがあったのだ。それは、ロロネー海賊団の船の動きにある。獲物を取り囲み、逃げ場のない状況に追い込んだとはいえ、海賊船をそのまま敵船へ突っ込ませるようなことをするだろうか。

 生きた船員の乗っていないロロネーの海賊船であるならば、或いはそういった戦法を取るかもしれないが、その都度船を破損し失っていては新たな船の調達に、金や時間がかかるというものだろう。

 それもロロネーならではの戦法と、割り切っていいものなのだろうか。惜しげもなく財産や物資を投げ打つ時というものは、どういった時か。

 例えるなら、ゲームなどでたまに見かけるスキル、“銭投げ“が該当するのではないだろうか。金銭に余裕のない時には、使うのを躊躇われるスキルだが、金銭に余裕の出てくる終盤や、ラストダンジョンとなれば惜しみなく使える気になるもの。

 これは、シンのクラスであるアサシンの投擲でも、同じことが言えるだろう。投げれば失われるアイテムを、何の気兼ねもなく投げられる時の心境とは、心や準備に“余裕“がある時ではないだろうか。

 「高台で援護する。狙撃に適した場所へ案内してくれないか?」

 それを確かめる為にも、先ずは前線へ赴いた目的でもあるロロネー海賊団の動向を伺う必要がある。招き入れてくれた船員と共に、ミアはそのままこの船で一番見晴らしの良いポイントへ案内してもらう。

 ボードを抱え、案内人の後を追い階段を上がっていくミア。本船で周囲の警戒に当たっていた時と同様、甲板に出ると案内をしてくれた船員はマストの方を指差す。登り方を知っているミアは、ここまででいいと案内を断り自分の持ち場に戻ってくれと言い渡す。

 狙撃ポイントに着いたミアは、ライフル銃の組み立てを始め、スコープでロロネーの船団を覗き込む。海賊船の構造上は、中央に集まっていた海賊船とほとんど変わらない。損壊箇所や砲台の数や設計に、見た目上の異変は感じられない。

 チン・シー軍の船団に飛んでいく亡霊を、次々にライフルで狙撃していくミア。通常弾とは異なり、属性を込めた弾薬を使っている為、一撃でその魂を冥府へと送り返す。

 するとそこで、ミアは異様な雰囲気を醸し出すロロネーの船団に隠された、ある現象を目撃する。狙撃を行う最中、味方の軍が放った砲撃が敵の海賊船にぶつかろうとする瞬間を捉えた。

 海上戦において散々目にしてきた光景に、特に意識することはなかったがミアはその一瞬を見逃さなかった。砲弾は敵船に直撃し爆発する。そう思われたが、着弾後の爆煙が晴れてみると、海賊船には“その砲撃“による損壊はなく、元からあった損壊跡が形を変えただけだったのだ。

 「何だッ・・・アレは!?」

 つまり、その海賊船は砲撃によるダメージを一切受けていなかったのだ。慌てて他の海賊船の様子を観察するミアだったが結果は同じく、派手な爆発の演出や煙は出ていようと、船に砲弾が命中していることはなかった。

 だが、そのことに船員達が気付くのも時間の問題だったようだ。何発撃ち込んでも沈むことのない、ボロボロの海賊船。次弾の装填に忙しなく動いていた船員も、漸くその異常な様子に、疑問を持ち始めた。

 「こんなに命中しているのに、何故敵の船は沈まない!?」
 「砲弾は命中している筈だ・・・船も損壊している。だが・・・」
 「船の状態も、こっちとは比べものにならないのに・・・!」

 ざわめき出すチン・シー海賊団。その様子を、ハオランの到着を待ちながら眺めるロロネーは、霧の向こう側で滑稽だと言わんばかりに笑みを溢していた。

 「ハハハッ!撃て撃てぇぇ、間抜け共ぉ!!そうやって物資を消耗するがいい。テメェらの攻撃が当たることはねぇがなぁ!」

 こちらの攻撃が当たっているように見えていただけで、今まで一切ダメージを与えられていない異様な光景に、ミアは混乱しながらもそれが嘘か真か確かめようと、海賊船の狙撃を試みる。

 しかし結果は同じ。属性を込めた弾丸は海賊船に命中したところで、凍結弾なら命中箇所を多少凍らせる程度で、銃痕のような穴が新しく現れるだけだった。

 「これがロロネー海賊団の不滅の海賊船、“ゴーストシップ“だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...