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我らが等しき命
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別働隊が押されているという報告を受けた一方で、こちら側では敵船による予想だにしなかった襲撃を受けているようだった。直ぐに周囲の確認をするよう船員に言い渡し、ミアとシュユーは室内の窓から外の様子を伺う。
手前に見えるのは自軍の船。室内の二人の角度からでは、襲撃を受けている様子や敵船を確認することは出来なかった。
しかし、チン・シー海賊団の幻影を取り囲むように、ロロネー海賊団の船が無数に向かい逆に迎撃されている場面を目撃した彼ら。到底それ以上の船団を用意出来るだけの兵力を、ロロネーが保持しているなどとは思えない。
それだけ大規模の船団にまで育っているのなら、レース開始前に情報が出回っていることだろう。例え船員が全て亡霊であったとしても、海賊船までは隠し切れる者ではない。
チン・シーは再び慌てる様子を見せぬまま、考えを巡らせる。一体如何やってこれだけの海賊船を用意し、誰にも気取られることなく隠していたのか。この霧が何か関係しているのではないだろうかと。
幻影に惑わされ包囲されたロロネー海賊団の船団は、火の雨に襲われながら如何なったのかを思い返す。ただでさえ濃い霧の中で、更にその濃度を増しロロネーの船団は姿を消した。
この霧には視界を阻害し、音を呑み込む効果があることが既に分かっている。そこでチン・シーが考えたのは、霧自体に更なる隠された能力があるのではないか。例えば、物質を包み込み別の場所へ転移させるような能力があるのかもしれない。
それなら神出鬼没の海賊船に加え、火の雨から逃れ姿を消したことも説明がつく。しかし、これだけの魔法やスキルを個人で発動させるのは、余程ずば抜けた魔力を有していなければ不可能。ロロネー自身か或いは一味の中に、チン・シー海賊団のように広範囲に渡る術を発動させられるクラスの者がいるということだろう。
船内で彼らが様子を窺っている間に、周囲の警戒へ向かった船員から外の様子を知らせる報告が入る。
「敵船を複数確認!現在、本船の周囲に位置する船が迎撃を行なっている模様。しっ・・・しかし、後続が次々に現れているようです!このままでは・・・」
押しつぶされるのも時間の問題。ただでさえ戦力を二分してしまっている中、限られた物資と疲弊する兵力で、少なくとも中央にいた敵船の半数はいると思われる船団を相手にしきれるだろうか。
「この霧・・・妙だとは思わないか?」
現状を打開する策に考えを巡らせている中、口を開いたのはミアだった。そして彼女もチン・シーと同じく、彼らを取り囲む霧に注目していた。やはりあれだけの数の船が、一切気づかれることもなく現れたり消えたりするのはおかしい。そこでミアは、ある提案をする。
「奴らを取り囲む濃い霧は、そこらにある霧と何かが違う。それを調べる必要がある。その為にアンタ達の・・・」
彼女がそう言いかけたところで、チン・シーがミアの提案を察したのか割って入り、その調べる手段を否定する。
「駄目だ、汝の提案には乗れぬ・・・」
「察しのいいアンタだから気づいたんだろ?なら何故だ!?このままでは全滅するぞッ!?」
ミアの言うことは最もだった。このまま手を拱いていては、いずれ数に呑まれ押し込まれる。敵のことを知らぬままでは、いくら策を弄そうとこちらの手の内を明かすだけで、それが敵の能力を上回れるとも限らない。
この濃霧は必ずロロネー海賊団の都合が良いように作用している筈。先ずは霧の謎を明かさなくては、対策の打ちようもない。
「我らに端から“犠牲“を考慮した策を実行する気など、毛頭ない。妾は妾を信じてついて来た者達を、邪険に扱うことは決してない!死の運命から逃れられぬと言うのなら、その時は身分・階級に関係なく共に逝く覚悟と責任が妾にはあるからだ!」
彼女が珍しく声を大きくして、ミアにチン・シー海賊団の在り方を説く。彼女の能力であるリンクは、他者との信頼関係や絆を重要とするところが大きい。その為にチン・シーは部下を大事にし、どんなに末端の兵であろうと無駄に命を落とさせるようなことはさせない。
「・・・汝は、仲間の命を犠牲にした勝利で満足するのか?」
チン・シーの言葉が胸に刺さる。ミアの脳裏に過ぎったのはシンやツクヨの姿だった。漸く最初の街から解き放たれ、世界を巡る信頼出来る仲間と呼べるべき存在に出会えたというのに、彼らを失って得られた勝利にお前は何も思わないのか。そう問われ、ぐうの音も出なくなる。
ミアのその様子を見た彼女は、言葉を理解してくれたかと険しい表情から目を閉じて一息つくと、穏やかな顔と声色でミアに告げる。
「犠牲を前提とした策は無しだ。だが汝の言う通り、奴らの霧の正体を掴まなくてはならぬのもまた事実・・・」
流石の彼女も、如何したものかと頭を悩ませている。すっかり彼女に諭されたミアは、自らの失言に責任を持ち、別の提案を彼女に告げる。
「私を・・・最前線に配置してくれないか?アンタ達に嫌な思いをさせた・・・。ならば部外者である私が調べて来る。それどうだ?」
「・・・“犠牲“は汝とて同じことよ」
彼女は、客人であるミアのことも気にかけてくれていた。例え部外者であろうと、仲間の危機を救ってくれた恩人を無碍には出来ない。ミアの命も我らと同じ。そう言ってくれているようで、彼女への忠誠心にも似たような思いが湧いてきた。
「死ぬ気なんてないさ。ただ、遠距離攻撃の得意な奴の方が適任だと思っただけ。どう?」
「・・・いいだろう。ならば汝に通信機を渡しておこう。援護が欲しければ直ぐに申せ。物資なり増援なり援護射撃なり、直ぐに手配してやろう」
彼女は船員の一人に指示を出し、ミアへ通信機を渡させる。そして今も尚、突然現れたロロネー海賊団の船を迎撃する最前線へ向かう手筈を整えさせる。ミアはシュユーから今直ぐに用意出来る錬金素材を受け取り、霧の正体を暴きに最前線へ向かう。
手前に見えるのは自軍の船。室内の二人の角度からでは、襲撃を受けている様子や敵船を確認することは出来なかった。
しかし、チン・シー海賊団の幻影を取り囲むように、ロロネー海賊団の船が無数に向かい逆に迎撃されている場面を目撃した彼ら。到底それ以上の船団を用意出来るだけの兵力を、ロロネーが保持しているなどとは思えない。
それだけ大規模の船団にまで育っているのなら、レース開始前に情報が出回っていることだろう。例え船員が全て亡霊であったとしても、海賊船までは隠し切れる者ではない。
チン・シーは再び慌てる様子を見せぬまま、考えを巡らせる。一体如何やってこれだけの海賊船を用意し、誰にも気取られることなく隠していたのか。この霧が何か関係しているのではないだろうかと。
幻影に惑わされ包囲されたロロネー海賊団の船団は、火の雨に襲われながら如何なったのかを思い返す。ただでさえ濃い霧の中で、更にその濃度を増しロロネーの船団は姿を消した。
この霧には視界を阻害し、音を呑み込む効果があることが既に分かっている。そこでチン・シーが考えたのは、霧自体に更なる隠された能力があるのではないか。例えば、物質を包み込み別の場所へ転移させるような能力があるのかもしれない。
それなら神出鬼没の海賊船に加え、火の雨から逃れ姿を消したことも説明がつく。しかし、これだけの魔法やスキルを個人で発動させるのは、余程ずば抜けた魔力を有していなければ不可能。ロロネー自身か或いは一味の中に、チン・シー海賊団のように広範囲に渡る術を発動させられるクラスの者がいるということだろう。
船内で彼らが様子を窺っている間に、周囲の警戒へ向かった船員から外の様子を知らせる報告が入る。
「敵船を複数確認!現在、本船の周囲に位置する船が迎撃を行なっている模様。しっ・・・しかし、後続が次々に現れているようです!このままでは・・・」
押しつぶされるのも時間の問題。ただでさえ戦力を二分してしまっている中、限られた物資と疲弊する兵力で、少なくとも中央にいた敵船の半数はいると思われる船団を相手にしきれるだろうか。
「この霧・・・妙だとは思わないか?」
現状を打開する策に考えを巡らせている中、口を開いたのはミアだった。そして彼女もチン・シーと同じく、彼らを取り囲む霧に注目していた。やはりあれだけの数の船が、一切気づかれることもなく現れたり消えたりするのはおかしい。そこでミアは、ある提案をする。
「奴らを取り囲む濃い霧は、そこらにある霧と何かが違う。それを調べる必要がある。その為にアンタ達の・・・」
彼女がそう言いかけたところで、チン・シーがミアの提案を察したのか割って入り、その調べる手段を否定する。
「駄目だ、汝の提案には乗れぬ・・・」
「察しのいいアンタだから気づいたんだろ?なら何故だ!?このままでは全滅するぞッ!?」
ミアの言うことは最もだった。このまま手を拱いていては、いずれ数に呑まれ押し込まれる。敵のことを知らぬままでは、いくら策を弄そうとこちらの手の内を明かすだけで、それが敵の能力を上回れるとも限らない。
この濃霧は必ずロロネー海賊団の都合が良いように作用している筈。先ずは霧の謎を明かさなくては、対策の打ちようもない。
「我らに端から“犠牲“を考慮した策を実行する気など、毛頭ない。妾は妾を信じてついて来た者達を、邪険に扱うことは決してない!死の運命から逃れられぬと言うのなら、その時は身分・階級に関係なく共に逝く覚悟と責任が妾にはあるからだ!」
彼女が珍しく声を大きくして、ミアにチン・シー海賊団の在り方を説く。彼女の能力であるリンクは、他者との信頼関係や絆を重要とするところが大きい。その為にチン・シーは部下を大事にし、どんなに末端の兵であろうと無駄に命を落とさせるようなことはさせない。
「・・・汝は、仲間の命を犠牲にした勝利で満足するのか?」
チン・シーの言葉が胸に刺さる。ミアの脳裏に過ぎったのはシンやツクヨの姿だった。漸く最初の街から解き放たれ、世界を巡る信頼出来る仲間と呼べるべき存在に出会えたというのに、彼らを失って得られた勝利にお前は何も思わないのか。そう問われ、ぐうの音も出なくなる。
ミアのその様子を見た彼女は、言葉を理解してくれたかと険しい表情から目を閉じて一息つくと、穏やかな顔と声色でミアに告げる。
「犠牲を前提とした策は無しだ。だが汝の言う通り、奴らの霧の正体を掴まなくてはならぬのもまた事実・・・」
流石の彼女も、如何したものかと頭を悩ませている。すっかり彼女に諭されたミアは、自らの失言に責任を持ち、別の提案を彼女に告げる。
「私を・・・最前線に配置してくれないか?アンタ達に嫌な思いをさせた・・・。ならば部外者である私が調べて来る。それどうだ?」
「・・・“犠牲“は汝とて同じことよ」
彼女は、客人であるミアのことも気にかけてくれていた。例え部外者であろうと、仲間の危機を救ってくれた恩人を無碍には出来ない。ミアの命も我らと同じ。そう言ってくれているようで、彼女への忠誠心にも似たような思いが湧いてきた。
「死ぬ気なんてないさ。ただ、遠距離攻撃の得意な奴の方が適任だと思っただけ。どう?」
「・・・いいだろう。ならば汝に通信機を渡しておこう。援護が欲しければ直ぐに申せ。物資なり増援なり援護射撃なり、直ぐに手配してやろう」
彼女は船員の一人に指示を出し、ミアへ通信機を渡させる。そして今も尚、突然現れたロロネー海賊団の船を迎撃する最前線へ向かう手筈を整えさせる。ミアはシュユーから今直ぐに用意出来る錬金素材を受け取り、霧の正体を暴きに最前線へ向かう。
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