World of Fantasia

神代 コウ

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ブリュム・ルヴナン

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 濃度の濃い霧に自軍の船を隠したロロネーは、船に乗り合わせている船員達へ総攻撃を仕掛けるよう指示を出す。すると彼の軍勢は立ち待ち姿を変え、足先から腰の辺まで質量でもあるかのようなミストに変貌し、亡霊となったのだ。

 船を使わずして海を渡れるその身体で、彼らは雄叫びを上げながら一斉に霧を突き抜け、両翼のチン・シー海賊団の元へと散らばって行った。誰もいなくなったロロネー海賊団の船は、濃い霧の中で滞在し、炎と共にその姿をゆっくりと霧の中へと溶かした。

 船員達を火の雨が降る海域から脱出させ、攻勢に転じさせる指示を出していた頃、ロロネーは自身の海賊船で、何かが霧の中で光り、小さく霧を突き抜けながらこちらに向かって来る物に気がつく。

 だが、光に気づいた時には既に銃弾は、人間の反射神経では到底避けようも無いところにまで迫っていた。ロロネーの眉が、微かな光を捉え潜ませていたのを、それが自身の命を狙って放たれた物だと気づき、目を見開く動作よりも速く銃弾は彼まで残り数メートルの位置にまで来る。

 ロロネーの脳が危険信号を身体に伝達しようとしていた時、彼と銃弾の間に何か別の物が瞬時に入り込む。すると銃弾は、その入り込んだ何かによって軌道を変えられ、何もない霧の向こう側へと消えて行ってしまった。

 既にことが済んだ後、漸くロロネーは自身に迫る危険に目を閉じて身体を逸らす。しかし、何も起こらないことに疑問を抱き、薄っすらと閉じた目を開く。そこには視界の側面から伸びる鉄製の板状のものが入り込んでおり、ロロネーを銃弾から守っていた。

 その板を目で追うと、そこには剣をロロネーの前に差し出しているハオランの姿があった。何を隠そう、彼こそがミアの銃弾からロロネーの命を守った張本人だったのだ。

 銃弾の発砲音に気づき、いち早くその狙いがロロネーであると悟り、銃弾が辿り着く前にロロネーの腰から剣を抜き、銃弾の軌道上に差し込んでいた。発砲してからそこまで出来る反射神経と、硬い装甲に風穴を空けるほどの威力を誇るライフル弾に剣を弾き飛ばされない身体能力。

 命拾いしたロロネーは、大きく溜め込んだ息を吐き出し、安堵する。

 「狙撃か・・・チン・シーの奴、この霧の中で何故俺達の位置を正確に狙って来た?」

 そういうとロロネーは少し悩んだ後、ハオランの方を見て何かを察する。彼女の能力が、他者と繋がり能力を共有する力であることは、ロロネーも事前に調べて知っていたこと。そしてその能力を、我が物とする為、彼女に戦いを挑んだ。

 しかし、如何に用心深く相手のことを調べるロロネーであっても、チン・シーの特異な能力の詳細までは掴めていなかった。故にハオランを側に置いていることで、自分の位置を相手に掴まれているなど、予想だにしていなかった。

 「・・・こいつかぁ・・・?」

 だがそこは察しの良いロロネー。今までこの濃霧の中を遠距離から狙われ、狙撃されたことなどなかった。ハオランが居ることで初めて起きた不測の事態。今までと今回の違い、そして相手の能力である共有から、チン・シーとハオランの間に共有による何かの副作用が起きているのではないかと考えたのだ。

 「まぁいい、直ぐに会わせてやるさ・・・。その時は、“敵として“だがな・・・」

 不適な笑みを浮かべるロロネーは、その場にいることで再び狙撃されることを警戒し、直ぐに船を別の場所へと移動させ、霧の中へと消えて行った。

 「・・・・・?」

 その頃、ハオランの直ぐ側にいた筈のロロネーを狙撃したミアとチン・シー海賊団は、銃声の余韻にその結果を誰に求めたものかと、暫しの沈黙が船長室を覆う。

 「・・・外した・・・のでしょうか・・・?」

 「分からない・・・。だが、当たれば何かしらの反応がある筈なんだが・・・」

 結果が気になり沈黙を破ったのは、チン・シー海賊団の中でも参謀も務めることのあるシュユー。銃の類を殆ど扱わない彼が、ミアにこの沈黙の意と結果を求めるが、ミアにとっても異例の環境下での狙撃。

 音を呑み込む濃霧に、姿はおろか気配すら感じない標的という極めて厳しい状況であり、彼女自身も銃弾の行方は分からない。だが、このまま手を拱いていても拉致が空かないと、部屋の椅子に鎮座するチン・シーが指示を出す。

 「この霧とハオランの気配が消えていないことが答えだ。元よりこんなに簡単に奴が殺せていれば、苦労はしない。それよりも今は場所を変える。直ぐに船を出せッ!」

 いつまでも狙撃した場所に止まっていては、こちらの位置がバレ反撃を受けてしまう。それを警戒し直ぐに船を出させると、次なる策に繋がるであろう行動の指示を出す。

 しかし、それを妨げるように火の雨が降る霧の向こうから、雄叫びを上げ何かがやってくる。それに一早く気づいたのはミアだった。唖然として窓から自分の狙撃した方を眺めていると、視界の端で蜃気楼のように空気が歪むのが見えたのだ。

 それは見覚えのある実体の無い敵。最初にロロネー海賊団の衝撃を与えた海賊の亡霊の数々が、海を飛び越え霧に姿を溶かしながら襲いかかって来た。今までとは比較にならない夥しい数の亡霊が、次から次へと武器を片手に甲板の船員達へ斬りかかる。

 「てッ・・・敵襲ッ!例の亡霊が目標の海域より無数に飛来して来ますッ!」

 外にいた船員からの報告に、船長室の空気も緊張を取り戻したかのようにピリッとする。やはりロロネーの海賊船には、人間らしい人間など乗っていなかった。それ故、普通の海戦とは勝手が違うであろうことは、チン・シーも予想していた。

 「やはり奴の船には・・・。なるほど、だから船を捨てて来たのか。シュユーよ!エンチャント武器の準備はどうなっている!」

 「そちらも抜かりございません。全ての船に補充済みです」

 亡霊に物理的な攻撃は通用しない。それは一度目の戦闘で学んでいることだ。そして凍らせれば、エンチャントされていない武器であってもダメージを与えることが可能だということを、ミアが証明して見せた。もう以前のようにパニックに陥ることなく、迎え撃つことが出来る。

 「全軍に通達せよ!この数だ、敵軍も相応の戦力を引っ張り出して来たことだろう。戦い方は心得ておろうなッ!ここが正念場ぞ、武器を手に取り返り討ちにせよッ!」

 彼女の号令で船員達の士気が高まり、シュユーの用意したエンチャント武器を手に取り亡霊を迎え撃つ。しかし、これほどの戦力を掲げておいても尚、ロロネーの姿が見当たらない。彼はこのまま、チン・シー海賊団の兵力が減るのを待つつもりなのだろうか。
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