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あるべき姿、あるべき場所へ
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如何して剣の持ち主ではないクトゥルプスにまで、ツクヨの見ていた文字が見えるようになったのかは分からない。そしてそれがどんな効果をもたらすかも分からない。
文字が見えるようになったということは、彼女にも景色を想像し幻覚の世界で戦うことが出来るようになってしまったのだろうか。しかし、文字は彼女に敵意を示し好きにはさせないと言っていた。
文字はまるで、ツクヨを守る意思を持った何かのように振る舞う。姿形や声色などは分からないが、それでもそこに人の温もりのようなものをツクヨは感じていた。
休むことなく畳み掛ける彼の斬撃が、クトゥルプスの本体を擦る。すると、ツクヨが気づかない程の些細なことだが、彼女にとっては命に関わる重大な出来事が起きていることを、クトゥルプスは悟る。
それまで彼の斬撃が触手を切断しようが本体を傷つけようが、身体を真っ二つに両断されようが死ぬことはなく、傷口もすぐに修復され再生する特異な能力をもっているクトゥルプス。
しかし、今受けたツクヨの斬撃による傷口が塞がらなかった。これは当の本人である彼女にしか、現段階では分からないことだったが、不測の事態に備えるクトゥルプスは、更に守りを固め始め、より攻撃を貰わぬような行動パターンへ変り出したのだ。
彼女の傷口の再生に気づかぬとも、その動きに気づかぬツクヨではない。守りの姿勢になったクトゥルプスを、一気に責め立てる。疲弊し怖気づいた者に、勢いをモノにした者の攻勢を抑え切ることは出来ず、触手はまだ再生しようと本体に付けられた傷はその数を増やし、見るからに弱っていく。
「くッ・・・!力が・・・このままでは抑え切れない。こんなところで・・・私は・・・!」
邪魔な触手の手数が減り、小型のモンスターによる攻撃も取るに足らぬもの。ツクヨは反撃を受けつつも前進し、遂に彼女の片腕を切り落とす。剣の柄を両手で握り剣先をクトゥルプスに向けて、顔の横に構える。
「取ったッ!」
ツクヨの鋭い突きが、彼女の心臓部へ突き刺さる。短い刀身は身体を突き抜け、背中から僅かに剣先を覗かせる。その瞳からは光が徐々に失われていき、口からは吐血した血液が煙のように水中へと溶けていく。
振りかざしていた触手は力なく海の中を漂い、本体はゆっくりとツクヨの身体にもたれ掛かる。その身体からは、人のような温もりは感じられない。それが彼女がモンスターであることを再確認させる。
もたれた身体から伝わる彼女の生気は、ツクヨの見ている景色からも確認できる。故にこれ以上の反撃の兆しがないことが見て取れた。
デストロイヤー のクラスに覚醒していた時の記憶がないツクヨには、クトゥルプスが身体を両断されても再生する超回復力があることを知らない。だが、もうそんなことを知る必要も無くなる。
「・・・何故、如何して治らないの・・・」
“この剣には毒気や悪しき力を払う力がある。あるべき姿、あるべき場所へ帰りなさい“
クトゥルプスの触手から生み出されるモンスター。その毒をツクヨの身体から払っていたのは、布都御魂剣による神器の能力が一つ。ツクヨが突然不思議な力に目覚めたのも、海上に立って戦うことが出来たのも、目を閉じ思い描いた景色の中で動けるようになったのも。
全てはこの剣の能力によるもの。この世界の、WoFの住人では真面に扱えず、ただの何の力もない変わった物にしか見えないこの特殊な道具。それが彼らの手に渡ったのは偶然か、それとも・・・。
剣の言う、“あるべき姿“・“あるべき場所“とは、人間の便利さの為に乱された環境により生まれたモンスターの姿のこと。大きな貨物船などに用いられる、船底に積む重しであるバラスト水が原因で海の生態系が撹乱され、メデューズやクトゥルプスのような異常な能力を身につけたモンスターが生まれてしまった。
そんな異形の者達が、本来あるべき姿で、元の生息していた海域へその魂を送る。剣の文字が伝えたかったこととは、そう言うことなのだろう。そして死した魂を生まれたところへ還すことが出来るのも、この剣の力なのだろう。
ツクヨは、死にゆく彼女の身体から剣を引き抜く。海賊船で散々船員達の命を弄んだクトゥルプスに、彼は哀れみの気持ちなど持たない。そのまま彼女の身体を引き剥がし、瞼の裏で見ていた景色は次第に薄れていくと、ここが海中であることを思い出し息を止めて海面目指して浮上していく。
「私達は・・・間違って生まれてきたの・・・?生まれては・・・いけなかったの・・・?」
もう自身の力では動かせなくなってしまった身体という器は、底の見えぬ深海へとゆっくり沈んでいき、まるで人間の悩みのような言葉を残して海の藻屑へと変わっていく。
文字が見えるようになったということは、彼女にも景色を想像し幻覚の世界で戦うことが出来るようになってしまったのだろうか。しかし、文字は彼女に敵意を示し好きにはさせないと言っていた。
文字はまるで、ツクヨを守る意思を持った何かのように振る舞う。姿形や声色などは分からないが、それでもそこに人の温もりのようなものをツクヨは感じていた。
休むことなく畳み掛ける彼の斬撃が、クトゥルプスの本体を擦る。すると、ツクヨが気づかない程の些細なことだが、彼女にとっては命に関わる重大な出来事が起きていることを、クトゥルプスは悟る。
それまで彼の斬撃が触手を切断しようが本体を傷つけようが、身体を真っ二つに両断されようが死ぬことはなく、傷口もすぐに修復され再生する特異な能力をもっているクトゥルプス。
しかし、今受けたツクヨの斬撃による傷口が塞がらなかった。これは当の本人である彼女にしか、現段階では分からないことだったが、不測の事態に備えるクトゥルプスは、更に守りを固め始め、より攻撃を貰わぬような行動パターンへ変り出したのだ。
彼女の傷口の再生に気づかぬとも、その動きに気づかぬツクヨではない。守りの姿勢になったクトゥルプスを、一気に責め立てる。疲弊し怖気づいた者に、勢いをモノにした者の攻勢を抑え切ることは出来ず、触手はまだ再生しようと本体に付けられた傷はその数を増やし、見るからに弱っていく。
「くッ・・・!力が・・・このままでは抑え切れない。こんなところで・・・私は・・・!」
邪魔な触手の手数が減り、小型のモンスターによる攻撃も取るに足らぬもの。ツクヨは反撃を受けつつも前進し、遂に彼女の片腕を切り落とす。剣の柄を両手で握り剣先をクトゥルプスに向けて、顔の横に構える。
「取ったッ!」
ツクヨの鋭い突きが、彼女の心臓部へ突き刺さる。短い刀身は身体を突き抜け、背中から僅かに剣先を覗かせる。その瞳からは光が徐々に失われていき、口からは吐血した血液が煙のように水中へと溶けていく。
振りかざしていた触手は力なく海の中を漂い、本体はゆっくりとツクヨの身体にもたれ掛かる。その身体からは、人のような温もりは感じられない。それが彼女がモンスターであることを再確認させる。
もたれた身体から伝わる彼女の生気は、ツクヨの見ている景色からも確認できる。故にこれ以上の反撃の兆しがないことが見て取れた。
デストロイヤー のクラスに覚醒していた時の記憶がないツクヨには、クトゥルプスが身体を両断されても再生する超回復力があることを知らない。だが、もうそんなことを知る必要も無くなる。
「・・・何故、如何して治らないの・・・」
“この剣には毒気や悪しき力を払う力がある。あるべき姿、あるべき場所へ帰りなさい“
クトゥルプスの触手から生み出されるモンスター。その毒をツクヨの身体から払っていたのは、布都御魂剣による神器の能力が一つ。ツクヨが突然不思議な力に目覚めたのも、海上に立って戦うことが出来たのも、目を閉じ思い描いた景色の中で動けるようになったのも。
全てはこの剣の能力によるもの。この世界の、WoFの住人では真面に扱えず、ただの何の力もない変わった物にしか見えないこの特殊な道具。それが彼らの手に渡ったのは偶然か、それとも・・・。
剣の言う、“あるべき姿“・“あるべき場所“とは、人間の便利さの為に乱された環境により生まれたモンスターの姿のこと。大きな貨物船などに用いられる、船底に積む重しであるバラスト水が原因で海の生態系が撹乱され、メデューズやクトゥルプスのような異常な能力を身につけたモンスターが生まれてしまった。
そんな異形の者達が、本来あるべき姿で、元の生息していた海域へその魂を送る。剣の文字が伝えたかったこととは、そう言うことなのだろう。そして死した魂を生まれたところへ還すことが出来るのも、この剣の力なのだろう。
ツクヨは、死にゆく彼女の身体から剣を引き抜く。海賊船で散々船員達の命を弄んだクトゥルプスに、彼は哀れみの気持ちなど持たない。そのまま彼女の身体を引き剥がし、瞼の裏で見ていた景色は次第に薄れていくと、ここが海中であることを思い出し息を止めて海面目指して浮上していく。
「私達は・・・間違って生まれてきたの・・・?生まれては・・・いけなかったの・・・?」
もう自身の力では動かせなくなってしまった身体という器は、底の見えぬ深海へとゆっくり沈んでいき、まるで人間の悩みのような言葉を残して海の藻屑へと変わっていく。
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