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勢いあれど勝気無し
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暫しの沈黙があった刹那、武器を構えていたチン・シー専属の部隊が一人二人とメデューズへ向けて走り出し、シュユーのエンチャントした雷を纏う剣で襲い掛かる。そして、少年への攻撃を邪魔するように立ちはだかる触手が、光に群がる虫を払うように彼らを襲う。
しかし、触手の攻撃が彼らに届くことはなくその動きを止める。チン・シー海賊団の精鋭は、動かなくなった触手を乗り越えメデューズの元へ真っ直ぐ向かっていく。触手は氷漬けになり、その場に止まっていた。
チン・シーより頼まれたミアの役割、それはメデューズの攻撃を妨害すること。遠距離武器である銃を扱うミアが適任であり、客人である彼女を危険に晒す事もない。前線に立つのはあくまで自分の軍だとして、彼女に援護を頼んだ。
それにはもう一つ理由があり、氷属性のエンチャント武器の枯渇が要因になっていたからだった。ミアは錬金術により、属性弾の精製が可能であり、その為の物資がこの船にはある。
ミアの戦力をハッキリと把握する前から、自軍の前衛の命運を託す重要な役割とも思えるチン・シーの采配に、彼女の期待も伴いミアの意気込みや士気は高くなる。こういった分かりやすい形で、戦闘員の力を引き出すのも、大海賊と謳われるチン・シーの魅力なのだろう。
メデューズは凍らされた触手を水に戻し、床に溢すと身近に迫ったチン・シー海賊団の精鋭を捕らえる為、近場の足元からそれまでの触手よりも細く洗礼された、まるで鞭のように鋭くしなやかな触手を無数に作り出し、迎撃する。
その細さは銃弾で撃ち抜くには余りに細く、ミアの援護射撃を許さぬ動きで精鋭の足を止める。あと一押しというところで、メデューズの懐に入れずにいる彼らの活路を開く為、ミアは直接少年を狙った銃弾を間髪入れずに撃ち込んでいく。
銃声と弾丸に気を取られ、僅かな隙が生まれた瞬間を精鋭の一人が見逃さず、空かさず渦中へ飛び込み、鋭利に研ぎ澄まされた触手に貫かれながらも、雷を纏った剣でメデューズの身体に斬りかかる。
思わぬ善戦に眉を潜めたメデューズが斬撃を避けるため後方へ僅かに仰反る
。刃だけでなく、エンチャントされた雷の効果範囲を見極めた無駄の無い動きで避けるメデューズ。
しかし、少年が仰け反った先には別の精鋭の者が回り込んでおり、メデューズの身体を射程距離に捉える。意を決した精鋭が、訪れたチャンスをものにするため、触手から身を守ることよりも攻撃することを選択し、決死の一撃を振るう。
不規則に暴れ回る鞭のような触手に、腕や足を斬り刻まれ、その身体を貫かれながらも前進し振るった渾身の一撃は、メデューズの核心を捉えるには至らず、僅かに身体を擦る程度に止まった。
剣身に纏った雷がメデューズの身体を走ることが期待されたが、それも叶わず彼は触手に捕らえられる。だが、そんな彼に続かんと迫る別の精鋭とミアの凍結弾によって触手は両断され、救出される。
触手の動きに慣れてきた精鋭達の猛攻に、メデューズは一度距離を空け触手を振るい、水飛沫を飛ばす。それまでと違った攻撃手段にミアは警戒したが、敵の後退を好機と捉えた精鋭達は、水飛沫などお構いなしといった様子で追撃に出る。
目を光らせ注意深く探ったミアは、その水飛沫を飛ばした触手の色が僅かに燻みだしているのに気がつく。その色を見た彼女は、メデューズの持つ別の脅威を思い出した。
それは、触れたものを溶解させる猛毒。ミアは一度その毒をもらい、その恐ろしさと痛みを身体で覚えていた。咄嗟にメデューズへ向かう精鋭達を呼び止めようとする。
「よせッ!やめろ!」
彼らの目にはただの水飛沫にしか見えておらず、目眩し程度にしか思っていなかった。咄嗟に出た言葉では、それが毒であるなど到底説明している時間はなかった。
一か八か、ミアは凍結弾に細工を施した特殊弾を、メデューズではなく彼らの足元目掛けて撃ち放った。銃弾は床に命中すると、四方八方へ飛散し鋭い氷柱を床から生やした。
思わぬ自軍からの攻撃に、足を止める精鋭達。その中の何人かはミアの攻撃を避けきれずに負傷してしまっていたが、幸か不幸か傷口は凍結され、出血は免れていた。
「貴様ッ・・・何をするッ!?」
彼らはメデューズを警戒しながらも、背後から攻撃してきたミアへ剣先を向ける。そして彼女がメデューズの脅威を口にするよりも早く、怪我を負った精鋭が、ミアの作り出した氷柱にかかった水飛沫を見て、その答えを導き出していた。
「待てッ!・・・毒だ、氷に毒が付着して溶けている・・・」
メデューズは面倒なことをされたと、その澄ました表情を僅かに歪める。味方への攻撃の非礼は、自身の武功で返そうとミアはメデューズへ向かって駆け出していく。遠距離武器の彼女は、後方で援護射撃をしていれば危険を犯さずに済む。
だがそれでは彼らを納得させることはできない。自らも死と隣り合わせの中で戦っているのだと見せつけなければ、信用を得られない。危険に身を晒す、同じ立場になって初めて通じるものがあるのだから。
以前に一度戦ったことがあり、後方から彼らの戦いを見ていたミアは、触手の動きに目が肥えており、毒や攻撃をもらうことなく近距離まで近づけた。身を守ろうと、メデューズが触手で壁を作る。
しかし、彼女は何故かそれ以上深追いをすることなく、あっさり前進をやめたのだ。予想外の行動に驚くメデューズを尻目に、ミアは触手の壁などお構いなしに銃口を向ける。
「さて・・・お前はどっちかな?」
そう言って放ったミアの銃弾は、バチバチと雷を纏っており、触手の壁を貫通しメデューズの身体に突き刺さる。少年の身体は雷に撃たれたように感電し、それまでの憎たらしい態度が嘘のように苦しみ出した。
「やったぞッ!遂に攻撃が通った!」
ミアの決死の行動により、それを見ていた精鋭達の士気は上がった。だがそれとは反対に、ミアの額からは冷や汗が流れ落ち、身を強張らせる。
「・・・違う・・・。コイツは本体じゃないッ!本陣に攻め込んで来たのは分身体だった!本人自らやって来るという予想は外れたッ!」
苦痛の表情の中、頭を押さえながらも触手を乱暴に振るい、近くで身動きが取れずにいたミアを勢いよく弾き飛ばす。すると、彼女の身体から白い粉のようなものが撒き散らされる。
「ッ・・・!?これは・・・塩?・・・ククク、そうですか。貴方の狙いはコレだったんですね?遠距離から戦える筈の貴方が、何故近づいて来るのか疑問でしたが・・・。残念、同じ手は食いませんよ・・・」
ミアの狙い。それはここにやって来たメデューズが、本体であるか分身体であるか見極めること。精鋭や彼女の放つ雷属性の攻撃が通れば分身体、もし効かなければ彼女があの時と同様、食塩を少年の身体に溶け込ませ弱点を作り出すのが目的だった。
本人自ら総大将の首を取りに来る。そう自身有り気にミアへ言っていたチン・シーの読みは外れ、ここで目の前の分身体に足止めを食らってしまえば、各所で暴れるメデューズに船を破壊されてしまう。
分身体へのダメージは確かにある。だが恐らく今の一撃で、少年は更に警戒を強めることだろう。これまで以上に守りの堅くなったメデューズに、あとどれだけの雷撃を与えれば倒せるのか先が見えない。
勢いはこちらにある。だが勝機の無いこの戦いをどう切り抜けるのか。ミアはとても、たたかいに専念できる状態ではなくなってしまった。
しかし、触手の攻撃が彼らに届くことはなくその動きを止める。チン・シー海賊団の精鋭は、動かなくなった触手を乗り越えメデューズの元へ真っ直ぐ向かっていく。触手は氷漬けになり、その場に止まっていた。
チン・シーより頼まれたミアの役割、それはメデューズの攻撃を妨害すること。遠距離武器である銃を扱うミアが適任であり、客人である彼女を危険に晒す事もない。前線に立つのはあくまで自分の軍だとして、彼女に援護を頼んだ。
それにはもう一つ理由があり、氷属性のエンチャント武器の枯渇が要因になっていたからだった。ミアは錬金術により、属性弾の精製が可能であり、その為の物資がこの船にはある。
ミアの戦力をハッキリと把握する前から、自軍の前衛の命運を託す重要な役割とも思えるチン・シーの采配に、彼女の期待も伴いミアの意気込みや士気は高くなる。こういった分かりやすい形で、戦闘員の力を引き出すのも、大海賊と謳われるチン・シーの魅力なのだろう。
メデューズは凍らされた触手を水に戻し、床に溢すと身近に迫ったチン・シー海賊団の精鋭を捕らえる為、近場の足元からそれまでの触手よりも細く洗礼された、まるで鞭のように鋭くしなやかな触手を無数に作り出し、迎撃する。
その細さは銃弾で撃ち抜くには余りに細く、ミアの援護射撃を許さぬ動きで精鋭の足を止める。あと一押しというところで、メデューズの懐に入れずにいる彼らの活路を開く為、ミアは直接少年を狙った銃弾を間髪入れずに撃ち込んでいく。
銃声と弾丸に気を取られ、僅かな隙が生まれた瞬間を精鋭の一人が見逃さず、空かさず渦中へ飛び込み、鋭利に研ぎ澄まされた触手に貫かれながらも、雷を纏った剣でメデューズの身体に斬りかかる。
思わぬ善戦に眉を潜めたメデューズが斬撃を避けるため後方へ僅かに仰反る
。刃だけでなく、エンチャントされた雷の効果範囲を見極めた無駄の無い動きで避けるメデューズ。
しかし、少年が仰け反った先には別の精鋭の者が回り込んでおり、メデューズの身体を射程距離に捉える。意を決した精鋭が、訪れたチャンスをものにするため、触手から身を守ることよりも攻撃することを選択し、決死の一撃を振るう。
不規則に暴れ回る鞭のような触手に、腕や足を斬り刻まれ、その身体を貫かれながらも前進し振るった渾身の一撃は、メデューズの核心を捉えるには至らず、僅かに身体を擦る程度に止まった。
剣身に纏った雷がメデューズの身体を走ることが期待されたが、それも叶わず彼は触手に捕らえられる。だが、そんな彼に続かんと迫る別の精鋭とミアの凍結弾によって触手は両断され、救出される。
触手の動きに慣れてきた精鋭達の猛攻に、メデューズは一度距離を空け触手を振るい、水飛沫を飛ばす。それまでと違った攻撃手段にミアは警戒したが、敵の後退を好機と捉えた精鋭達は、水飛沫などお構いなしといった様子で追撃に出る。
目を光らせ注意深く探ったミアは、その水飛沫を飛ばした触手の色が僅かに燻みだしているのに気がつく。その色を見た彼女は、メデューズの持つ別の脅威を思い出した。
それは、触れたものを溶解させる猛毒。ミアは一度その毒をもらい、その恐ろしさと痛みを身体で覚えていた。咄嗟にメデューズへ向かう精鋭達を呼び止めようとする。
「よせッ!やめろ!」
彼らの目にはただの水飛沫にしか見えておらず、目眩し程度にしか思っていなかった。咄嗟に出た言葉では、それが毒であるなど到底説明している時間はなかった。
一か八か、ミアは凍結弾に細工を施した特殊弾を、メデューズではなく彼らの足元目掛けて撃ち放った。銃弾は床に命中すると、四方八方へ飛散し鋭い氷柱を床から生やした。
思わぬ自軍からの攻撃に、足を止める精鋭達。その中の何人かはミアの攻撃を避けきれずに負傷してしまっていたが、幸か不幸か傷口は凍結され、出血は免れていた。
「貴様ッ・・・何をするッ!?」
彼らはメデューズを警戒しながらも、背後から攻撃してきたミアへ剣先を向ける。そして彼女がメデューズの脅威を口にするよりも早く、怪我を負った精鋭が、ミアの作り出した氷柱にかかった水飛沫を見て、その答えを導き出していた。
「待てッ!・・・毒だ、氷に毒が付着して溶けている・・・」
メデューズは面倒なことをされたと、その澄ました表情を僅かに歪める。味方への攻撃の非礼は、自身の武功で返そうとミアはメデューズへ向かって駆け出していく。遠距離武器の彼女は、後方で援護射撃をしていれば危険を犯さずに済む。
だがそれでは彼らを納得させることはできない。自らも死と隣り合わせの中で戦っているのだと見せつけなければ、信用を得られない。危険に身を晒す、同じ立場になって初めて通じるものがあるのだから。
以前に一度戦ったことがあり、後方から彼らの戦いを見ていたミアは、触手の動きに目が肥えており、毒や攻撃をもらうことなく近距離まで近づけた。身を守ろうと、メデューズが触手で壁を作る。
しかし、彼女は何故かそれ以上深追いをすることなく、あっさり前進をやめたのだ。予想外の行動に驚くメデューズを尻目に、ミアは触手の壁などお構いなしに銃口を向ける。
「さて・・・お前はどっちかな?」
そう言って放ったミアの銃弾は、バチバチと雷を纏っており、触手の壁を貫通しメデューズの身体に突き刺さる。少年の身体は雷に撃たれたように感電し、それまでの憎たらしい態度が嘘のように苦しみ出した。
「やったぞッ!遂に攻撃が通った!」
ミアの決死の行動により、それを見ていた精鋭達の士気は上がった。だがそれとは反対に、ミアの額からは冷や汗が流れ落ち、身を強張らせる。
「・・・違う・・・。コイツは本体じゃないッ!本陣に攻め込んで来たのは分身体だった!本人自らやって来るという予想は外れたッ!」
苦痛の表情の中、頭を押さえながらも触手を乱暴に振るい、近くで身動きが取れずにいたミアを勢いよく弾き飛ばす。すると、彼女の身体から白い粉のようなものが撒き散らされる。
「ッ・・・!?これは・・・塩?・・・ククク、そうですか。貴方の狙いはコレだったんですね?遠距離から戦える筈の貴方が、何故近づいて来るのか疑問でしたが・・・。残念、同じ手は食いませんよ・・・」
ミアの狙い。それはここにやって来たメデューズが、本体であるか分身体であるか見極めること。精鋭や彼女の放つ雷属性の攻撃が通れば分身体、もし効かなければ彼女があの時と同様、食塩を少年の身体に溶け込ませ弱点を作り出すのが目的だった。
本人自ら総大将の首を取りに来る。そう自身有り気にミアへ言っていたチン・シーの読みは外れ、ここで目の前の分身体に足止めを食らってしまえば、各所で暴れるメデューズに船を破壊されてしまう。
分身体へのダメージは確かにある。だが恐らく今の一撃で、少年は更に警戒を強めることだろう。これまで以上に守りの堅くなったメデューズに、あとどれだけの雷撃を与えれば倒せるのか先が見えない。
勢いはこちらにある。だが勝機の無いこの戦いをどう切り抜けるのか。ミアはとても、たたかいに専念できる状態ではなくなってしまった。
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