315 / 1,646
攻守の相性
しおりを挟む
少女の意外な反応に、目をぐっと開き少しだけ驚きの表情を浮かべると、それに呼応する様に少年も笑う。この幼さにして、もう既に地獄は経験済みと笑う少女に、人の世の醜さを再確認し、小さな身体を持ち上げる触手に力を込める。
すると突然、フーファンを縛っていた触手が次々に切断され、少女を水の怪物の魔の手から解放させた。部屋の周囲に張り巡らせていた水の触手に、周りの様子を見張らせていたメデューズは、予期せぬ不意打ちに何事かと後退りし、次の攻撃に備え警戒を強める。
「貴方はッ・・・。何故僕の感知にかからなかった・・・?」
少年の視線の先には、少女を抱えた一人の男の姿があった。男の腕に抱かれ、フーファンの表情は眠りにつく赤子のように穏やかになり、その身を委ねる。
「私達だけで・・・抑え込めると、思ったんですけど・・・。へへ・・・失敗しちゃったです・・・」
痛いのも、苦しいのも我慢し、その男に心配をかけまいと必死に強がるフーファン。そんな健気な彼女の姿を見て、男はぐっと少女の身体を引き寄せ、援軍に間に合った事、そして生きている事に安堵した。
「バカッ・・・!無茶しやがって・・・、心配かけさせるんじゃねぇッ!」
普段の丁寧な口調とは大きく違い、荒々しい喋り方をする男。感動の再会に動きが止まる二人目掛けて、メデューズはこれを好機と、新たに作り出した触手で叩き潰そうと振り上げる。
相手の動きに気づいた男は、すぐ様隠し持っていた投擲用の道具をメデューズの触手目掛けて投げる。狙いは触手の根本、だが迫る触手は複数本に対し、男が投げた投擲武器は一つだけ。
仮に命中したとしても、動きを止められるのは一本の触手だけで、とても攻撃から逃れられるとは思えない。無論、男もそんなことは分かっている。無策で飛び込んで来るほど、向こう見ずの強引な戦い方をする男ではなかった。
彼の投げた投擲武器は、日本という国の忍びが用いたという手裏剣のような形状をしており、それが空中で分裂し四散。散らばった手裏剣の一部達は、それぞれが個々の投擲武器として独立し、二人に迫る複数の触手に向けて飛んで行く。
手裏剣が触手に命中する。だが、物理的な攻撃はメデューズには通じず、手裏剣は触手の中へと取り込まれ、その勢いを失なってしまう。少年は笑みを浮かべ、男を挑発するように嘲笑する。
「折角助けに来たというのに・・・。これでは術者の彼らの方が、よっぽど善戦出来たでしょうね」
男のことを何も知らない少年の言葉に、彼は投擲による攻撃の成功を確信する。手裏剣は取り込まれた触手の中で青白い光を放ち、手裏剣を中心に触手は一気に凍り始め、一斉に動きを止める。
「・・・フーファン、後は私に任せて下さい。力任せの敵より、余程戦いやすい相手だ」
呼吸を整え、大きく息を吸い込み深呼吸をすると、男は普段通りの冷静な口調に戻り、ゆっくり少女の身体を床に下ろす。
「申し訳ないです、シュユーさん・・・。少し休んだら、すぐに援護に回るです・・・」
「その前に終わってしまうかもしれませんよ?」
フーファンを安心させるように、余裕を見せる男。シュユーは少女の救援に間に合ったのだ。主人によるシュユーの心中を気遣った命により、彼は心置きなくフーファンを助けに向かうことが出来た。
船内の構造を熟知してる彼は、チン・シー海賊団の要でもある妖術を発動させる為の部屋への近道を知っており、直接部屋に向かうより半分以上も速く到達できる隠し通路を通って来ていた。
そして、仲間の救援をよりスムーズに行えるよう、フーファンは外部から部屋に近づく者の気配を極端に小さくする術を使っていたのだ。これによりメデューズは、シュユーの接近を感知することが出来ず、救出を許す結果となった。
膝を立て立ち上がったシュユーは前に出て、少女を自分の身体の影に隠すように相手の前に立ちはだかる。氷の魔法をエンチャントさせた手裏剣が、触手の中に取り込まれたことにより、内側から凍らせ動きを止める。
シュユーが立ち上がりメデューズの前に立ちはだかると、それを合図に四散した手裏剣が爆発を起こし、凍った触手を破壊する。
「なるほど・・・。貴方も魔法を主軸として戦うのが得意だったのですね。それもこの様子だと・・・複数の属性を操れるようですね」
爆散した氷の塊を液体に戻したメデューズは、再び数本の触手を作り出し、今度は直線的にシュユー目掛けて撃ち放つ。それをシュユーは、氷属性をエンチャントさせた剣で次々に切り落としていく。
「得意分野ではないですが、多少剣術にも覚えがあります。術に特化した彼らとは、また一味違うのですよ」
フーファン達のように、妖術や魔法に特化したクラスは、素早い物理攻撃を得意とする接近戦タイプの押しに弱い面を持っているが、シュユーは鍛治師のクラスにも就いている為、多少の接近戦もこなせる。
その上で、メデューズに対し有効な魔力の篭った属性攻撃も得意としている為、攻防のどちらも非常に相性の良い相手だった。
すると突然、フーファンを縛っていた触手が次々に切断され、少女を水の怪物の魔の手から解放させた。部屋の周囲に張り巡らせていた水の触手に、周りの様子を見張らせていたメデューズは、予期せぬ不意打ちに何事かと後退りし、次の攻撃に備え警戒を強める。
「貴方はッ・・・。何故僕の感知にかからなかった・・・?」
少年の視線の先には、少女を抱えた一人の男の姿があった。男の腕に抱かれ、フーファンの表情は眠りにつく赤子のように穏やかになり、その身を委ねる。
「私達だけで・・・抑え込めると、思ったんですけど・・・。へへ・・・失敗しちゃったです・・・」
痛いのも、苦しいのも我慢し、その男に心配をかけまいと必死に強がるフーファン。そんな健気な彼女の姿を見て、男はぐっと少女の身体を引き寄せ、援軍に間に合った事、そして生きている事に安堵した。
「バカッ・・・!無茶しやがって・・・、心配かけさせるんじゃねぇッ!」
普段の丁寧な口調とは大きく違い、荒々しい喋り方をする男。感動の再会に動きが止まる二人目掛けて、メデューズはこれを好機と、新たに作り出した触手で叩き潰そうと振り上げる。
相手の動きに気づいた男は、すぐ様隠し持っていた投擲用の道具をメデューズの触手目掛けて投げる。狙いは触手の根本、だが迫る触手は複数本に対し、男が投げた投擲武器は一つだけ。
仮に命中したとしても、動きを止められるのは一本の触手だけで、とても攻撃から逃れられるとは思えない。無論、男もそんなことは分かっている。無策で飛び込んで来るほど、向こう見ずの強引な戦い方をする男ではなかった。
彼の投げた投擲武器は、日本という国の忍びが用いたという手裏剣のような形状をしており、それが空中で分裂し四散。散らばった手裏剣の一部達は、それぞれが個々の投擲武器として独立し、二人に迫る複数の触手に向けて飛んで行く。
手裏剣が触手に命中する。だが、物理的な攻撃はメデューズには通じず、手裏剣は触手の中へと取り込まれ、その勢いを失なってしまう。少年は笑みを浮かべ、男を挑発するように嘲笑する。
「折角助けに来たというのに・・・。これでは術者の彼らの方が、よっぽど善戦出来たでしょうね」
男のことを何も知らない少年の言葉に、彼は投擲による攻撃の成功を確信する。手裏剣は取り込まれた触手の中で青白い光を放ち、手裏剣を中心に触手は一気に凍り始め、一斉に動きを止める。
「・・・フーファン、後は私に任せて下さい。力任せの敵より、余程戦いやすい相手だ」
呼吸を整え、大きく息を吸い込み深呼吸をすると、男は普段通りの冷静な口調に戻り、ゆっくり少女の身体を床に下ろす。
「申し訳ないです、シュユーさん・・・。少し休んだら、すぐに援護に回るです・・・」
「その前に終わってしまうかもしれませんよ?」
フーファンを安心させるように、余裕を見せる男。シュユーは少女の救援に間に合ったのだ。主人によるシュユーの心中を気遣った命により、彼は心置きなくフーファンを助けに向かうことが出来た。
船内の構造を熟知してる彼は、チン・シー海賊団の要でもある妖術を発動させる為の部屋への近道を知っており、直接部屋に向かうより半分以上も速く到達できる隠し通路を通って来ていた。
そして、仲間の救援をよりスムーズに行えるよう、フーファンは外部から部屋に近づく者の気配を極端に小さくする術を使っていたのだ。これによりメデューズは、シュユーの接近を感知することが出来ず、救出を許す結果となった。
膝を立て立ち上がったシュユーは前に出て、少女を自分の身体の影に隠すように相手の前に立ちはだかる。氷の魔法をエンチャントさせた手裏剣が、触手の中に取り込まれたことにより、内側から凍らせ動きを止める。
シュユーが立ち上がりメデューズの前に立ちはだかると、それを合図に四散した手裏剣が爆発を起こし、凍った触手を破壊する。
「なるほど・・・。貴方も魔法を主軸として戦うのが得意だったのですね。それもこの様子だと・・・複数の属性を操れるようですね」
爆散した氷の塊を液体に戻したメデューズは、再び数本の触手を作り出し、今度は直線的にシュユー目掛けて撃ち放つ。それをシュユーは、氷属性をエンチャントさせた剣で次々に切り落としていく。
「得意分野ではないですが、多少剣術にも覚えがあります。術に特化した彼らとは、また一味違うのですよ」
フーファン達のように、妖術や魔法に特化したクラスは、素早い物理攻撃を得意とする接近戦タイプの押しに弱い面を持っているが、シュユーは鍛治師のクラスにも就いている為、多少の接近戦もこなせる。
その上で、メデューズに対し有効な魔力の篭った属性攻撃も得意としている為、攻防のどちらも非常に相性の良い相手だった。
0
お気に入りに追加
297
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる