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怪異の討ち入り
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船内を多くの者達が行き来する中、二人の足取りはそれまで以上に早くなる。焦る気持ちが抑え切れず一点しか見えていない様に、シュユーは人をかき分けるというよりも、退かすと言った表現の方がしっくりくるだろう。
だが、大切な人がどんな状況にあるか分からないと、それを確かめる為なら人は普段の人間性さえもかなぐり捨て、目的に向かって一直線になってしまうのだろう。何かの物語、ドラマや小説に伝承など、人が常軌を逸した行動に出る時というものは、人の感情によるものであるのがほとんど。
その点、シュユーは主従関係を忘れることなく、優先すべきことを失わずにいられているのだ。それだけ彼の主人に対する忠誠心が強いということだ。
そんな彼の姿を目にしていると、ミアも心の内で思うところがあった。自分でも、誰かの為に盲目になることがあるのだろうか。自分にも、危機が迫れば駆けつけてくれる誰かがいるのだろうか。そういう人間に、成れるだろうか・・・。
彼の行いこそ褒められたものではないが、その心のあり方はミアにとって美しく輝いて見えた。自分にも、彼にとってのフーファンのような存在がいれば、輝けるのだろうか。それは憧れではなく、羨み。彼女には無いものでこの先、得られるとも思えないものに、ミアは高嶺の花を見つめるような感覚でいた。
通路の装飾が豪華になり、これまでの扉とは明らかに違う少し大きめの扉を開けると、そこには船内の装飾に引けを取らない、美しくあしらわれた真紅のドレスに身を包んだ、神々しく描かれた女神の絵画のように見惚れてしまいそうになる白い肌をした、ルビーのように赤い瞳に艶やかな長い黒髪の女性が、艶かしく足を組んで鎮座していた。
「我が主人、敵襲にございます!」
扉を開けるシュユーが開口一番、騒動の原因は敵による襲撃であることを報告する。既に予想はついていたと、彼が報告をした女性が答える。そして詳細を話すよう彼に要求すると、シュユーは船員から聞いた敵の特徴について報告する。
彼と会話をしている女性こそ、ロロネー海賊団を迎え撃つ大船団の主人にして、フォリーキャナルレースの優勝候補である大海賊、チン・シーその人である。別の船で亡霊の対策案を講じたミアは、通信機を使ってやり取りをしていた船員から、その声だけは耳にしていたが、実物の彼女と対面するのは初めてだった。
シュユーの報告が進み、彼と共にやって来た女性がミアである事を明かす。それと同時にチン・シーと視線が合ったミアは、小さく会釈した。ロロネー海賊団による亡霊の攻撃に対し、迎撃の術を見出したミアへ彼女は賛辞の言葉を送り、現状打開のため、協定を結ぶことを提案した。
ミアにとっても、彼女らと手を組めるということはこれ以上無いほど心強い。チン・シーの申し入れを快く受け入れ、シュユーの報告にあった謎の怪物、メデューズと直接刃を交えたミアに、その特徴・能力、そしてどのようにして逃れて来たのかを問うチン・シー。
元々シュユーと共に乗り合わせていた船から移動を開始し、その道中の船でメデューズが彼女らの海賊船を襲撃している場面に遭遇。もぬけの殻となった船で不意打ちをくらい、戦闘に突入。
姿形を自在に変える液体の怪物。その姿は何を思ってか少年の姿を象っており、物理的攻撃によるダメージを一切受けないその身体は、溶解させる毒の成分を含むことも出来るようだった。
そして何よりも重要なこと。メデューズは何体にも数を増やし、どれが本体なのか外見では見分けが付かないということだ。本体と分身体、どちらも性能や出来ることに個体差はない。
違いがあるとすれば、それは感電させた時の反応の違いだろう。水の身体であるが故に雷属性は通るだろうと高を括っていたが、本体にはダメージがなかった。見分ける為に、一々雷属性を放たなければならないのだ。
ミアからメデューズの事を聞き出したチン・シーは、焦りや慌てるといったこともなく、落ち着いた態度でシュユーや船員達に指示を出す。
「なるほど・・・。先ずは本体を見つけ出さねばならぬという訳か。シュユーよ、フーファンの元へ行き、急ぎ術式の再構築をさせろ。船員が欠如いていた場合、直ぐに妾へ報告を。必要な人数を送り出す。その後、シュユーはフーファン及び、術師部隊の護衛につけ!」
フーファンの部隊は、主に妖術による妨害工作やサポートを担っている部隊で、チン・シー海賊団各々の海賊船に妖術師からなる部隊が編成されており、術間での様々なやり取りを可能にしている。
彼らの中枢ともいえる妖術は、総大将であるチン・シーの能力、“リンク”を複数人と広範囲に繋げる、最も大事な役割も担っている。
チン・シー海賊団の本隊に乗り合わせているフーファン部隊に異常が出てしまえば、チン・シーのリンク能力を活かすことが出来なくなってしまう。その為、信頼のおけるシュユーに、部隊の再編成、術式の再構築を命じた。
これは彼の予想していた通りの指示だった。チン・シーも、シュユーとフーファンの関係性については熟知している。故に彼女を任せるならシュユーしかいないと決断したのだろう。自身の護衛を割いてまで、彼の心中を察して指示を出したことから、部下を大事に思っていることが伝わる。
シュユーは彼女の命に従い、感謝の言葉を添えて足早にフーファンの元へと駆けて行った。するとチン・シーは、今度はミアにある頼み事をする。それは恐らく、敵が既に本陣へと乗り込んできたこと、そしてその敵は無数に数を増やせることから、総当たりでこの船を探し回り、総大将であるチン・シーの首を取りに来ると考えてのことだった。
初めて対面したばかりのミアに、そんな重要なことを頼むのは、彼女がメデューズとの戦闘経験があるアドバンテージを利用しない手はないということと、先の功績でチン・シー海賊団への貢献を果たしたことが大きい。
「さて、其方には重要な役割をしてもらう。なに、安心せい。妾の軍がサポートする故、作戦に不備はない。他の者達は準備に取り掛かれッ!」
彼女の指示で数人の船員達が足早に準備に取り掛かると、ミアはその場に残ったチン・シーの護衛部隊と共に、メデューズの襲撃を迎え撃つ。
だが、大切な人がどんな状況にあるか分からないと、それを確かめる為なら人は普段の人間性さえもかなぐり捨て、目的に向かって一直線になってしまうのだろう。何かの物語、ドラマや小説に伝承など、人が常軌を逸した行動に出る時というものは、人の感情によるものであるのがほとんど。
その点、シュユーは主従関係を忘れることなく、優先すべきことを失わずにいられているのだ。それだけ彼の主人に対する忠誠心が強いということだ。
そんな彼の姿を目にしていると、ミアも心の内で思うところがあった。自分でも、誰かの為に盲目になることがあるのだろうか。自分にも、危機が迫れば駆けつけてくれる誰かがいるのだろうか。そういう人間に、成れるだろうか・・・。
彼の行いこそ褒められたものではないが、その心のあり方はミアにとって美しく輝いて見えた。自分にも、彼にとってのフーファンのような存在がいれば、輝けるのだろうか。それは憧れではなく、羨み。彼女には無いものでこの先、得られるとも思えないものに、ミアは高嶺の花を見つめるような感覚でいた。
通路の装飾が豪華になり、これまでの扉とは明らかに違う少し大きめの扉を開けると、そこには船内の装飾に引けを取らない、美しくあしらわれた真紅のドレスに身を包んだ、神々しく描かれた女神の絵画のように見惚れてしまいそうになる白い肌をした、ルビーのように赤い瞳に艶やかな長い黒髪の女性が、艶かしく足を組んで鎮座していた。
「我が主人、敵襲にございます!」
扉を開けるシュユーが開口一番、騒動の原因は敵による襲撃であることを報告する。既に予想はついていたと、彼が報告をした女性が答える。そして詳細を話すよう彼に要求すると、シュユーは船員から聞いた敵の特徴について報告する。
彼と会話をしている女性こそ、ロロネー海賊団を迎え撃つ大船団の主人にして、フォリーキャナルレースの優勝候補である大海賊、チン・シーその人である。別の船で亡霊の対策案を講じたミアは、通信機を使ってやり取りをしていた船員から、その声だけは耳にしていたが、実物の彼女と対面するのは初めてだった。
シュユーの報告が進み、彼と共にやって来た女性がミアである事を明かす。それと同時にチン・シーと視線が合ったミアは、小さく会釈した。ロロネー海賊団による亡霊の攻撃に対し、迎撃の術を見出したミアへ彼女は賛辞の言葉を送り、現状打開のため、協定を結ぶことを提案した。
ミアにとっても、彼女らと手を組めるということはこれ以上無いほど心強い。チン・シーの申し入れを快く受け入れ、シュユーの報告にあった謎の怪物、メデューズと直接刃を交えたミアに、その特徴・能力、そしてどのようにして逃れて来たのかを問うチン・シー。
元々シュユーと共に乗り合わせていた船から移動を開始し、その道中の船でメデューズが彼女らの海賊船を襲撃している場面に遭遇。もぬけの殻となった船で不意打ちをくらい、戦闘に突入。
姿形を自在に変える液体の怪物。その姿は何を思ってか少年の姿を象っており、物理的攻撃によるダメージを一切受けないその身体は、溶解させる毒の成分を含むことも出来るようだった。
そして何よりも重要なこと。メデューズは何体にも数を増やし、どれが本体なのか外見では見分けが付かないということだ。本体と分身体、どちらも性能や出来ることに個体差はない。
違いがあるとすれば、それは感電させた時の反応の違いだろう。水の身体であるが故に雷属性は通るだろうと高を括っていたが、本体にはダメージがなかった。見分ける為に、一々雷属性を放たなければならないのだ。
ミアからメデューズの事を聞き出したチン・シーは、焦りや慌てるといったこともなく、落ち着いた態度でシュユーや船員達に指示を出す。
「なるほど・・・。先ずは本体を見つけ出さねばならぬという訳か。シュユーよ、フーファンの元へ行き、急ぎ術式の再構築をさせろ。船員が欠如いていた場合、直ぐに妾へ報告を。必要な人数を送り出す。その後、シュユーはフーファン及び、術師部隊の護衛につけ!」
フーファンの部隊は、主に妖術による妨害工作やサポートを担っている部隊で、チン・シー海賊団各々の海賊船に妖術師からなる部隊が編成されており、術間での様々なやり取りを可能にしている。
彼らの中枢ともいえる妖術は、総大将であるチン・シーの能力、“リンク”を複数人と広範囲に繋げる、最も大事な役割も担っている。
チン・シー海賊団の本隊に乗り合わせているフーファン部隊に異常が出てしまえば、チン・シーのリンク能力を活かすことが出来なくなってしまう。その為、信頼のおけるシュユーに、部隊の再編成、術式の再構築を命じた。
これは彼の予想していた通りの指示だった。チン・シーも、シュユーとフーファンの関係性については熟知している。故に彼女を任せるならシュユーしかいないと決断したのだろう。自身の護衛を割いてまで、彼の心中を察して指示を出したことから、部下を大事に思っていることが伝わる。
シュユーは彼女の命に従い、感謝の言葉を添えて足早にフーファンの元へと駆けて行った。するとチン・シーは、今度はミアにある頼み事をする。それは恐らく、敵が既に本陣へと乗り込んできたこと、そしてその敵は無数に数を増やせることから、総当たりでこの船を探し回り、総大将であるチン・シーの首を取りに来ると考えてのことだった。
初めて対面したばかりのミアに、そんな重要なことを頼むのは、彼女がメデューズとの戦闘経験があるアドバンテージを利用しない手はないということと、先の功績でチン・シー海賊団への貢献を果たしたことが大きい。
「さて、其方には重要な役割をしてもらう。なに、安心せい。妾の軍がサポートする故、作戦に不備はない。他の者達は準備に取り掛かれッ!」
彼女の指示で数人の船員達が足早に準備に取り掛かると、ミアはその場に残ったチン・シーの護衛部隊と共に、メデューズの襲撃を迎え撃つ。
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