World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
304 / 1,646

ブレイヤール・コシュマール

しおりを挟む
 気配を悟ったハオランは、後方へ大きく飛び退く。爆発を引き起こしたであろう当の本人は、それを攻撃とも思っていないのか、ハオランヘのダメージや爆発には一切目もくれず、自身の腕を動くのか試すように何度も掌を開閉していた。

 「・・・事前に確認はしている・・・。回数制限や疲労じゃぁねぇよなぁ・・・」

 こちらを見ていないのなら好都合。ハオランは一気に走り出し、ロロネーの背後に回ると素早い回し蹴りを放つ。身に纏う服の装飾に反射した光景に気付いたロロネーは、瞬時に身をかがめ反撃の掃腿をする。つまり、しゃがんで相手の足を払うように蹴る技だ。

 それを飛んで回避したハオランは、そのまま空中で身体を前転のように回転させ、落ちる勢いと回転を乗せたかかと落としをする。低い体勢のままのロロネーは、起き上がり様にその一撃をもらうが、頭を横へずらし紙一重で避ける。

 僅かに擦ったのか、ロロネーの頬からは薄っすらと煙が出ていた。だがこれにより、床に着地するまでの間、ハオランは宙で無防備状態となってしまった。そしてそれを見逃すロロネーではない。

 「あららぁ・・・、そんなに隙見せちゃってぇッ!」

 回転し、顔が下に落ちてくるところを見極め勢いをつけた拳で襲い掛かるロロネー。だがハオランも、それを覚悟していないはずもなく、身体を捻り体勢を変えると、裏拳でロロネーの拳を迎え撃つ。

 激しい拳と拳のぶつかり合いに、周囲に衝撃波が広がる。間も無くして床に足を着いたハオランが組み手のようにロロネーの腕を自らの懐へ引き摺り込み、盛大な投げ技で男の身体を持ち上げ、床に向けて叩きつけようとする。

 ロロネーは、その細腕からは想像も出来ないほど強い力で掴まれた腕を、実体のない蒸気に変える。掴んでいた腕を急に失い、体勢を崩すハオランの首を再び実体に戻したロロネーの腕が締め上げる。

 「くッ・・・!」

 「悪いなぁ、伊達男。サービスはここまでだ。如何やら俺にも不確定なものが出てきちまったようでな・・・。さっさと事を成させて貰うぜぇッ・・・!」

 ハオランの細い首を締め上げながら、ロロネーは何かに急かされるように、自らの能力を出し惜しみなく使い、勝負を期しにやって来た。背後から押さえられ、思うように身動きが取れないハオランは、必死に自らの首とロロネーの腕の間に指を入れ振り解こうとする。

 しかし体格差もあり、振り解くことはおろか、緩まる気配もない。すると、ハオランは振り解くことから意識を変え、反撃に出ようと腰を曲げ足を大きく上へと持ち上げた。

 そこから一気に後方へと足を振り下ろし、それと反対に上半身は前方に倒れるように重心をかける。振り子のように振られたハオランの身体にバランスを崩され、前に倒れ込みそうになるロロネー。

 その勢いは凄まじく、ロロネーの身体を一回転させ床へ叩きつけた。その衝撃で怯んだ隙に、男の腕から逃れたハオランは、仰向けに倒れたロロネーの頭を両手で掴み逆立ちすると、その頭目掛けて膝を振り下ろす。

 ロロネーは何故か、思っていたよりも激しく抵抗することはなかった。そのまま男の頭に膝蹴りを入れると、その一撃と同時にロロネーの身体は全身蒸気の煙となって姿を消した。

 「ハハハッ!さぁ、もういいだろう。一気に終わらせてやるッ!」

 「何を今更ッ・・・!?」

 突然、彼らを乗せた船が大きく揺れ出した。何事かとハオランが周囲を見渡すと、ロロネー海賊団の船と思われる別の船が、この船目掛けて船首から突っ込んで来ていたのだ。

 船体を大きく揺らされ、膝をつくハオラン。再び揺れの原因となる突っ込んで来た船の方に目をやると、いつの間にかロロネーがそちらの船のマストに上がり、彼を見下ろしていた。

 「おらおらぁッ!いつまでもそんな所にいると、沈んじまうぜぇ!?」

 男は彼に、周囲の状況を見てみろと手を大きく広げ、左右に振って見せる。この男の言葉にはもう耳を貸さないとしていたが、この状況で惑わすような事を言う筈もあるまいと、ロロネーの言う通り周囲の海域を見渡すハオラン。

 そこには何と、何隻もの船がハオランの乗る船目掛けて突き進んで来ていたのだ。四方八方をボロボロのロロネー海賊団の船に囲まれ、距離こそバラバラであるものの、速力を落とす事なく、寧ろ上げて向かって来ている。

 「この船ごと潰す気かッ!?」

 「潰すぅ?違うなぁ!海上じゃぁお前が戦いづらそうだからよぉ。足場を増やしてやろってんだよ。・・・まぁ、増えるのは足場だけじゃぁねぇんだけどな」

 ロロネーが口を閉じると突然、ハオランを乗せた船に突っ込んだ海賊船から、無数の雄叫びがすると、霧がかった景色から姿を現したのは、海賊の格好をしたスケルトンや亡霊が群れをなして咆哮する光景だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...