World of Fantasia

神代 コウ

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特性への理解

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 視線は少年に向けたまま、ゆっくり上体を起こし次の行動を考えながらお互いの出方を伺うように睨み合う。暫しの間を置き、最初に動き出したのはミアの方だった。

 足元に置いた荷物を瞬時に掴み、物陰に引き摺り込むようにして引っ張る。だが、それをみすみす見逃す程敵も甘くはなかった。

 少年が手を素早く捲るようにして上げると、ミアのいる位置よりも少し低い場所で溜まっていた水が形を変え、鋭い刃状の先端をした触手が無数に現れ、彼女に引っ張られ物陰へ移動する袋目掛けて襲い掛かる。

 荷物は重く、ミアの引っ張る力よりも迫る少年の触手の方が何倍も早く、もう少しで射線を切れるというところで、触手の刃で袋が切り裂かれてしまう。切れ込みの入った袋から砂のようにサラサラとした、白い粉状の物が溢れ出る。

 「粉・・・?一体そんな物を何に使おうというのか・・・。それが貴方の切り札とでも?」

 ミアの持って来た袋から溢れる白い粉。だが、粉というには宙に舞うこともなく、少年の操る水の触手の上に落ち、溶け込んでいった。自身の一部に異物が入り込むことに、何か仕掛けがあるのかと疑う少年。

 触手を動かしたり、自分自身の身体を確認するが何も変わったところはない。故に少年は特に警戒することもなく、ミアの隠れたであろう物陰へ無数の触手を叩き込む。

 しかし、動力室は先程の食堂よりも更に入り組んだ構造になっており、ミアは隙を見ては銃弾を放ちながら、機械の間を素早く移動していく。遮蔽物に視線を切られてしまい、中々ミアの姿を完全に捉えきれない少年。

 「ちょこまかと・・・。もう、この船に固執する必要もないですね」

 少年は触手でミアを追うのをやめ、今度は動力室の水の溜まっているところ全てに触手を出現させ、縦横無尽に周囲の機械ごと破壊して回る。これによりただでさえ狭く入り組んだ通路が、機械の瓦礫で塞がり漏電した電力が水を伝い始めてしまい、彼女の行動範囲が著しく制限されてしまう。

 「船ごと沈めに掛かってきたかッ・・・!」

 最早ミアのいる位置など探る必要がないと暴れ回る触手を、物陰で身を低くして凌ぐミア。その間に彼女は、ある特殊弾をリボルバーに込め、作戦を実行に移す時だと焦る気持ちを整える。

 意を決し、物陰から姿を出し少年に向かって銃口を構える。彼女の姿に気付いたのか少年がこちらへ視線を移す。依然変わりなく動力室で暴れ回る触手の他に、少年はミアの方へ片腕を伸ばし、本体から一直線に新たな触手を放つ。

 向かって来る触手よりも早く、ミアの放った特殊弾が少年の身体に命中し、その身体を四散させた。ミアは風属性の力を込めた特殊弾を少年に撃ち込み、命中すると同時に風を発生させる効果を引き起こしたのだ。

 「風が・・・。しかしそれが何になると?」

 少年の飛び散った身体は周辺に散らばったが、壁や床から這いずり回るようにして元の身体へ直ぐに戻って行った。すると、何処かで一際大きな爆発音がした。動力室自体が酷く荒らされている為、機械のショートする音や爆発する音は既にしていたが、それとは少し違う、鉄板に穴が開くような音。

 その音に気を取られ、ミアの姿を見失った少年だったが、どうやら彼女は先程の爆発音で空いた穴から外へ向かう途中だったようだ。少年に背を向けて走り出す彼女を逃すまいと、波のように船内に入った水を操り飲み込もうとする。

 「また逃走ですか?外は海・・・人間の貴方が海へ飛び込んだところで、海を渡れる僕からは逃れられませんよ」

 少年の言葉を背中に受けながら、彼女は口角を上げて振り返る。次々に機材や瓦礫を飲み込み、水飛沫を上げながら大きな波が通路全体を覆うようにして迫る。

 「何故分身体には通用し、見るからに水属性であるお前に電気が通用しなかったのか・・・。それはお前だけ性質が違っていたからだ」

 一度ランタンによって火属性と雷属性の効果の検証を行なっていたミア。しかし、あの時の少年の身体は雷を纏うだけで、肝心のダメージが入っていなかった。つまり、周囲に撒き散らされている水と、少年の身体を形成する水では、その性質が異なっているということ。

 それをミアは少年から逃れる中で考察し、ある仮説を導き出した。だがもし外れていれば彼から逃れることは出来ず、この場で捕まってしまう。しかし何をしても通用しないこの状況で、彼女はあるかも分からぬ仮説に頼るしかなかった。

 電撃を通さぬ少年の本体は、“純水”で構成されているのではないか。

 水は電気を通しやすいと思われがちだが、不純物の混じっていない純水は電気を通すことがない。それに引き換え、海のように塩分を含んだ水は電気を通す。人間の生活の中で短かな、海水や水道水などが電気を通すのはそのためだ。

 彼女はこの船にある倉庫から、ある物が詰まった袋を探していた。それはこの船に食堂があり、料理が行われているのならば必ずある物を探した。そして動力室にまで運んで来た袋の中に入っていたもの、それは“塩”だった。

 少年にわざと袋を攻撃させ、その身体に塩を取り込ませた他、残りの塩を周辺に撒き散らし、彼の身体を風属性の弾で散らせることで、多くの塩を取り込ませた。

 純水だった少年の身体は塩を取り込み浸透させたことで、今度こそ電気を通すようになる。そしてこれだけ多くの機械があり、より強力な電力を扱うこの場所であれば、少年を感電させるだけの効果が得られる筈。

 ミアの作戦は見事的中し、少年は動力室を覆う水の中で稲光に襲われていた。

 「あ“あ”あ“あ”あ“ぁぁぁッ!!何故!?僕に雷は通用しない筈なのにッ!!」

 彼女はロープを取り出すと、通路の天井に走るパイプに投げて巻きつけると、ジャンプして振り子の勢いを利用し、穴から外へと飛び込んで行く。

 「自身の能力に溺れ、何故効かないのかも調べなかったのがお前の敗因だ。自分の弱点だけではなく、得意な分野についても何故有利なのか調べておくことだな」

 船に空いた穴はミアによって空けられ、その位置は彼女の乗って来たボードが置かれていた場所に通じていた。穴から飛び出し、海に着水したミアは、ボードのところまで泳いで向かうと、エンジンをかけ一気にその場から遠ざかって行った。

 彼女の背後で、激しい爆発と共にみるみる沈没して行く海賊船。一刻も早くチン・シーに合流し、濃霧の中で起きていることを伝えなければ大惨事になる。錬金術の魔力を、ボードのエンジンにブーストさせ加速すると、再びミアは霧に覆われた世界へと突っ込んでいった。
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