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神代 コウ

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焼き尽くす執念の炎

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 シンとシルヴィが、ロッシュの身体を調べていた場所へ戻る。そこには血肉を撒き散らし爆散した彼の遺体が転がっており、爆発で生じた炎が周辺の物資や床で燃え広がっている。

 「うッ・・・!なんて野郎だ・・・自分の身体を爆発させやがるなんて・・・。そうまでして一矢報いたいのかコイツは・・・」

 シルヴィは、死んだ後の手段として自爆を仕込んでいたと考えているようだが、果たしてロッシュのような男が、自分の死後の世界のことなど考えるだろうか。

 ロッシュなら必ず自分の生きる道を模索する筈。自爆するにしても、相手を巻き添えにする最終手段として用いるのが定石。この爆発には、彼または別の誰かの思惑があるに違いない。

 「爆発の発生源はどこだ?ロッシュの身体に仕掛けられていたのか、それとも身体の内部に仕掛けられていたのか・・・」

 シルヴィは、シンが何故そんなことを気にするのか疑問に思ったが、周囲に散らばる肉片の大きさや量、焼け焦げた痕を周囲の状況から、ロッシュの身体は内部から破裂したものと考察する。爆死というものがどんなものなのかなど、知る由もないし知りたくもないが、この世界の住人であるシルヴィがそういうのだから、少なからずシンよりも詳しいのは事実。

 「だがよぉ、外部か内部かってぇのがそんなに重要なもんかねぇ?」

 「外部で爆発したとなれば、ここにいた誰かの仕業であるとも考えられたんだが・・・。アンタがそう言うのであれば間違いんだろうな・・・。だったら、やはりロッシュ自身の仕掛けと見ていいのだろうか・・・?」

 彼女の言う通り、内部の爆発であると考えるのが自然だろう。それに外部の者による犯行なら、次いで何かしらの動きがあってもおかしくない。しかし、別段シンやシルヴィに変わったことは起こっておらず、グレイス達の乗る船にも異変は起きていない。

 潜り込んでいるにしても、バレるのは時間の問題だ。回復したエリクやルシアンが居れば尚更だ。時間が経てば経つほど出づらくなってくるだろう。やはり第三者の介入は、シンの考え過ぎだったのか。

 「お前の考え過ぎだろう。もういい、そろそろアイツらも脱出した頃だろう」

 そう言うとシルヴィは、シンを先導するように先にその場を後にする。シンも彼女の後を追うように、散らばるロッシュの肉片を見渡しながらバックでゆっくり戻り出す。

 すると、シンの目に普段とは違う動きをする炎の形が見えた。だが、シルヴィにも言われた通り、ロッシュの策中にハマって以来シンは小さなことにも疑心暗鬼になってしまう。深く考えずにはいられない。

 この炎も何かあるのか調べてみようとしたところ、シンの見つけた不自然に動く炎は、何とあろう事かシン目掛けて突き進んで来たのだ。

 「なッ!?シルヴィッ!炎が動いて向かって来る!」

 「はぁあッ!?何を言って・・・」

後ろを振り向いたシルヴィの目にも、シンの言う通り彼の背中目掛けて、燻る炎が二人を逃がさんと猛り、押し寄せて来る。それはまるで、対象を見定め意志を持った魔法のように。

 「はやく来いッ!火の回りが速い、追い付かれるぞッ!」

 シルヴィが腕を大きく回しながら、シンに速く来いと促す。だが、シンを追う炎は辺りのあらゆる物を飲み込み、その勢いを増しながら荒れ狂う大波のように迫り来る。このままでは追い付かれ、二人ともこの船から逃げられずロッシュと共に海の藻屑となってしまう。

 「シルヴィッ!床をッ・・・!船底に届くくらい、思いっきり打ち抜いてくれッ!!」

 この状況で、シンが突然何を言い出すのか咄嗟に理解する事は難しかった。だが、ロッシュの身体を調べた時、シンが影を操作していた時のことを思い出す。

 自分の危機やグレイスを助けたシンの事だ、何か考えがあってのことだろうと、深く考えずシルヴィはシンの言う通り、完全に調子が戻っていないものの出来る限りの力で、自身の真下の床へ、全力の拳を叩きつけた。

 彼女を中心として、広範囲に渡って床が爆発したかのように抜けて崩れ落ちる。寸前のところまで、襲い掛かる炎に追いつかれていたシンは目前に空いた大穴へ飛び込む。

 どこまで落ちたのか分からない、だがとても床の一つや二つでは済まない落下を経た気がする。既に船底に着地していたシルヴィの元へ滑空し、転がり落ちる。

 シンを追っていた炎は、大穴を一度通り過ぎると戻って何処までも二人を追い詰めようと、大穴へ大蛇のようにうねりながら迫って来ていた。

 「おいおいおい・・・。ありゃぁただの炎じゃねぇぞッ!どうして俺らを追って来る・・・。どうすんだ!?シン!こんな袋小路じゃ逃げ場はねぇぞッ!」

 辺りを覆い尽くされている船内では、海へ飛び込むことも出来ない。この後のことが想像出来ないシルヴィは慌てるが、彼女とは打って変わり、安心したように落ち着きを取り戻したシン。

 「いや・・・これでいい。これだけ暗ければ、俺が本調子じゃなくとも確実に脱出できる・・・」

 シンは床に手を置き、目を閉じる。何のことだか分からないシルヴィは、そんな彼の様子を見ながら大粒の汗を流す。すると、二人は足元の床が抜けたように下へ落下していった。

 だが、床が抜けたような音などしていない。何処へ落ちるのか足元を見るシルヴィだが、そこは真っ暗な何処へ通じるとも分からぬ影の中。豪傑な彼女には珍しい声を上げ、シルヴィとシンは彼の広げた影へと身を落として行った。

 二人が影に呑まれ姿を消した直後に、彼らを追って来た炎が到着するも影は炎の追跡を拒む。行き場を失った炎は、そのまま船底に凄まじい勢いで広がり、焼き尽くしていき、遂にはエンジンのあるところまで辿り着き、強烈な光を放つ。
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