World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
260 / 1,646

焼き尽くす執念の炎

しおりを挟む
 シンとシルヴィが、ロッシュの身体を調べていた場所へ戻る。そこには血肉を撒き散らし爆散した彼の遺体が転がっており、爆発で生じた炎が周辺の物資や床で燃え広がっている。

 「うッ・・・!なんて野郎だ・・・自分の身体を爆発させやがるなんて・・・。そうまでして一矢報いたいのかコイツは・・・」

 シルヴィは、死んだ後の手段として自爆を仕込んでいたと考えているようだが、果たしてロッシュのような男が、自分の死後の世界のことなど考えるだろうか。

 ロッシュなら必ず自分の生きる道を模索する筈。自爆するにしても、相手を巻き添えにする最終手段として用いるのが定石。この爆発には、彼または別の誰かの思惑があるに違いない。

 「爆発の発生源はどこだ?ロッシュの身体に仕掛けられていたのか、それとも身体の内部に仕掛けられていたのか・・・」

 シルヴィは、シンが何故そんなことを気にするのか疑問に思ったが、周囲に散らばる肉片の大きさや量、焼け焦げた痕を周囲の状況から、ロッシュの身体は内部から破裂したものと考察する。爆死というものがどんなものなのかなど、知る由もないし知りたくもないが、この世界の住人であるシルヴィがそういうのだから、少なからずシンよりも詳しいのは事実。

 「だがよぉ、外部か内部かってぇのがそんなに重要なもんかねぇ?」

 「外部で爆発したとなれば、ここにいた誰かの仕業であるとも考えられたんだが・・・。アンタがそう言うのであれば間違いんだろうな・・・。だったら、やはりロッシュ自身の仕掛けと見ていいのだろうか・・・?」

 彼女の言う通り、内部の爆発であると考えるのが自然だろう。それに外部の者による犯行なら、次いで何かしらの動きがあってもおかしくない。しかし、別段シンやシルヴィに変わったことは起こっておらず、グレイス達の乗る船にも異変は起きていない。

 潜り込んでいるにしても、バレるのは時間の問題だ。回復したエリクやルシアンが居れば尚更だ。時間が経てば経つほど出づらくなってくるだろう。やはり第三者の介入は、シンの考え過ぎだったのか。

 「お前の考え過ぎだろう。もういい、そろそろアイツらも脱出した頃だろう」

 そう言うとシルヴィは、シンを先導するように先にその場を後にする。シンも彼女の後を追うように、散らばるロッシュの肉片を見渡しながらバックでゆっくり戻り出す。

 すると、シンの目に普段とは違う動きをする炎の形が見えた。だが、シルヴィにも言われた通り、ロッシュの策中にハマって以来シンは小さなことにも疑心暗鬼になってしまう。深く考えずにはいられない。

 この炎も何かあるのか調べてみようとしたところ、シンの見つけた不自然に動く炎は、何とあろう事かシン目掛けて突き進んで来たのだ。

 「なッ!?シルヴィッ!炎が動いて向かって来る!」

 「はぁあッ!?何を言って・・・」

後ろを振り向いたシルヴィの目にも、シンの言う通り彼の背中目掛けて、燻る炎が二人を逃がさんと猛り、押し寄せて来る。それはまるで、対象を見定め意志を持った魔法のように。

 「はやく来いッ!火の回りが速い、追い付かれるぞッ!」

 シルヴィが腕を大きく回しながら、シンに速く来いと促す。だが、シンを追う炎は辺りのあらゆる物を飲み込み、その勢いを増しながら荒れ狂う大波のように迫り来る。このままでは追い付かれ、二人ともこの船から逃げられずロッシュと共に海の藻屑となってしまう。

 「シルヴィッ!床をッ・・・!船底に届くくらい、思いっきり打ち抜いてくれッ!!」

 この状況で、シンが突然何を言い出すのか咄嗟に理解する事は難しかった。だが、ロッシュの身体を調べた時、シンが影を操作していた時のことを思い出す。

 自分の危機やグレイスを助けたシンの事だ、何か考えがあってのことだろうと、深く考えずシルヴィはシンの言う通り、完全に調子が戻っていないものの出来る限りの力で、自身の真下の床へ、全力の拳を叩きつけた。

 彼女を中心として、広範囲に渡って床が爆発したかのように抜けて崩れ落ちる。寸前のところまで、襲い掛かる炎に追いつかれていたシンは目前に空いた大穴へ飛び込む。

 どこまで落ちたのか分からない、だがとても床の一つや二つでは済まない落下を経た気がする。既に船底に着地していたシルヴィの元へ滑空し、転がり落ちる。

 シンを追っていた炎は、大穴を一度通り過ぎると戻って何処までも二人を追い詰めようと、大穴へ大蛇のようにうねりながら迫って来ていた。

 「おいおいおい・・・。ありゃぁただの炎じゃねぇぞッ!どうして俺らを追って来る・・・。どうすんだ!?シン!こんな袋小路じゃ逃げ場はねぇぞッ!」

 辺りを覆い尽くされている船内では、海へ飛び込むことも出来ない。この後のことが想像出来ないシルヴィは慌てるが、彼女とは打って変わり、安心したように落ち着きを取り戻したシン。

 「いや・・・これでいい。これだけ暗ければ、俺が本調子じゃなくとも確実に脱出できる・・・」

 シンは床に手を置き、目を閉じる。何のことだか分からないシルヴィは、そんな彼の様子を見ながら大粒の汗を流す。すると、二人は足元の床が抜けたように下へ落下していった。

 だが、床が抜けたような音などしていない。何処へ落ちるのか足元を見るシルヴィだが、そこは真っ暗な何処へ通じるとも分からぬ影の中。豪傑な彼女には珍しい声を上げ、シルヴィとシンは彼の広げた影へと身を落として行った。

 二人が影に呑まれ姿を消した直後に、彼らを追って来た炎が到着するも影は炎の追跡を拒む。行き場を失った炎は、そのまま船底に凄まじい勢いで広がり、焼き尽くしていき、遂にはエンジンのあるところまで辿り着き、強烈な光を放つ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-

星井柚乃(旧名:星里有乃)
ファンタジー
 旧タイトル『美少女ハーレムRPGの勇者に異世界転生したけど俺、女アレルギーなんだよね。』『アースプラネットクロニクル』  高校生の結崎イクトは、人気スマホRPG『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のハーレム勇者として異世界転生してしまう。だが、イクトは女アレルギーという呪われし体質だ。しかも、与えられたチートスキルは女にモテまくる『モテチート』だった。 * 挿絵も作者本人が描いております。 * 2019年12月15日、作品完結しました。ありがとうございました。2019年12月22日時点で完結後のシークレットストーリーも更新済みです。 * 2019年12月22日投稿の同シリーズ後日談短編『元ハーレム勇者のおっさんですがSSランクなのにギルドから追放されました〜運命はオレを美少女ハーレムから解放してくれないようです〜』が最終話後の話とも取れますが、双方独立作品になるようにしたいと思っています。興味のある方は、投稿済みのそちらの作品もご覧になってください。最終話の展開でこのシリーズはラストと捉えていただいてもいいですし、読者様の好みで判断していただだけるようにする予定です。  この作品は小説家になろうにも投稿しております。カクヨムには第一部のみ投稿済みです。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

転生令嬢の幸福論

はなッぱち
ファンタジー
冒険者から英雄へ出世した婚約者に婚約破棄された商家の令嬢アリシアは、一途な想いを胸に人知の及ばぬ力を使い、自身を婚約破棄に追い込んだ女に転生を果たす。 復讐と執念が世界を救うかもしれない物語。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...