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ロッシュ・ブラジリアーノ
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ロッシュ・ブラジリアーノ。
彼は大きな国の、ごく平凡な家庭に生まれた何処にでもいるような普通の子供だった。その国には、国民によって階級が設けられており、彼の家族は特別高い階級でも低い階級でもない標準的な家庭であり、贅沢をしなければそれなりの生活が送れていた。
信心深い彼らは一日に数度、祈りを捧げる。夜明けと共に起床しミサに行くと、最初の祈りを神に捧げる。その後朝食を済ませ、両親は仕事を始め、彼はその手伝いをしていた。意外なことに、幼少時代の彼は近所の者達から、よく働く真面目な少年として評判だった。
主な仕事や重労働は午前中の内に済ませ、昼食の前に再び祈りを捧げてから家族と共に食事を取る。
午後になると比較的自由な時間となり、残りの仕事を片付けた後は資産の点検や視察、狩りや武芸の鍛錬など、階級や家庭など人によって様々なことに時間を費やしている。
彼は身分の高い貴族が得意ではなく、あまり目立たぬように自身の家の敷地内で遊ぶ事が多く、よく父の短剣を持ち出しては一人で鍛錬を積んだり手遊びをしていた。父の仕事が早く終わった時は稽古をつけてもらえることもあったのだとか。
そして夜は芸術や音楽、娯楽などを家族と共に楽しむ時間として、彼は凄く楽しみにしていた。道化や芸者を呼んで、仲の良い仲間や家族を招待して大勢で楽しむこともあり、昼間の疲れを忘れ皆で同じ時を共有した。
一日の締めくくりに最後の祈りを捧げると、穏やかな気持ちで就寝する。
これが彼の幼少時代に過ごしていた国での毎日。楽しくもあり、両親の背中を見て、生きていく事の大変さを学ぶ、充実した日々でもあった。彼もまた父のように仕事をこなせるようになっていき、家庭を担っていく良き大人へと育っていくであろうと思っていた。
しかし、変化というものは突然訪れ、理不尽に人の運命を変えてしまうもの。そして彼のところにも、その変化の波がやって来ることになる。どうして平穏や楽しい時間というものは、止まることなく過ぎ去ってしまうのか。この時の彼は、まだそんなことを考えるなど予想だにしなかっただろう。
家柄や家庭で身分の差があると、当然不満や不平が出て来るもの。そして人の我慢には限界がある。不満を募らせた身分の低い者達の中に、上級階級の家庭を狙った強奪や殺人を行う事件の噂が広まり始め、彼の家にもその噂は広まって来ていた。
いつも以上に身の回りの点検や施錠を強化し、家族の無事や平穏な日々の継続を神に祈った。不安になる彼や仲間達を父は元気付け安心させる。その言葉に勇気づけられ、彼の中には自分の身の回りは大丈夫、事件が起きているのは他の地域でこちらの方にまではこないだろうと、根拠の無い安心感が芽生えていた。
そんなある日、彼の家族とも交流のあった、父と同じ趣味を嗜む友人の元に強盗が押し入ったという報告があった。強盗は金品や食料を大量に盗んで行ったことから、単独犯ではなく複数人による犯行であることが濃厚になる。
そしてそれ以上に彼らを恐怖に陥れたのは、その強盗が家主の一家を皆殺しにしたと言うことだ。つい先日まで一緒に過ごしていた家族が、突然帰らぬ人となったことが未だに信じられず、これが現実なのかと疑う程だった。
この一件があり、彼の家付近の警備が強化されることになり、武装した兵が昼夜問わず街中を巡回するようになった。これで犯行も極めて困難になることは間違い無いだろう。だが、守りがかためられた安心感よりも、変わり始める日常の方が彼は恐ろしかった。
時が経てば変化は何必ずやって来る。しかしこれは、受け入れられる変化ではなく、ましてや望んだ変化の形でもない。
どうして自分の周りにやって来るのか。自分の知らない他の場所でやってくれと、そんなことを想うばかりであった。何故自分のところが貧乏くじを引かなければならないのか、理不尽で仕方がない。
直ぐに熱りが覚め、失ったものはあれど再び平穏が戻って来てくれるのを祈りながら、閑散とした夜を過ごす。そんな彼の元に、今後の彼の人生を大きく揺るがす出来事が起こる。
いつものように神に祈りを捧げた後、部屋で就寝につく彼は目を閉じて明日を迎える準備に入っていた。すると、物音はしないのだが、何者かの気配のようなものが家にあるのを感じた。
それがそもそも人であるのか、彼の頭の中にある幽霊のようなものなのかすら分からなかった。ただ、その気配が家族のものではないのだけは分かった。自分の家でわざわざ物音を立てずに、息を殺す意味がない。
真っ暗なところを一人でいると、たまに霊的なものを想像してしまい、自分に迫って来る場面を思い浮かべてしまう。そんなことはあり得ないのに変な想像をしてしまう。その類のものだと思い、彼は想像することを止め、楽しい事や面白い事を考える内に、徐々に眠りの中へと落ちていった。
彼が薄っすらと眠りにつこうとしていた時、リビングの方で何か物音がしたのを聞いた。それは日常の中で聴くようなものではなく、食器や窓を割った時のような、珍しい音。トイレにでも立った両親が、暗くて何かを落としたのだろう。
それくらいのものと捉えていた彼は、特に気にすることもなく再び眠りに入ろうとしたが、呻き声のようなものも僅かに聞こえ出したように思えた。今度は気のせいではない。そしてそれは痛みに耐えるような呻き声で、彼はその声の主が少し心配になり、様子を見に行ってみることにした。
ゆっくり壁に手を添えながら歩いていくと、その声の主が父であることが分かった。父さんと声を掛けながら近づくと、彼は足元にあった何かに躓き転んでしまう。何に躓いたのかと確認した彼は、そこに転がっていたものに息を飲んだ。
床に転がり、彼を転ばせたものは人の切断された腕だったのだ。
彼は大きな国の、ごく平凡な家庭に生まれた何処にでもいるような普通の子供だった。その国には、国民によって階級が設けられており、彼の家族は特別高い階級でも低い階級でもない標準的な家庭であり、贅沢をしなければそれなりの生活が送れていた。
信心深い彼らは一日に数度、祈りを捧げる。夜明けと共に起床しミサに行くと、最初の祈りを神に捧げる。その後朝食を済ませ、両親は仕事を始め、彼はその手伝いをしていた。意外なことに、幼少時代の彼は近所の者達から、よく働く真面目な少年として評判だった。
主な仕事や重労働は午前中の内に済ませ、昼食の前に再び祈りを捧げてから家族と共に食事を取る。
午後になると比較的自由な時間となり、残りの仕事を片付けた後は資産の点検や視察、狩りや武芸の鍛錬など、階級や家庭など人によって様々なことに時間を費やしている。
彼は身分の高い貴族が得意ではなく、あまり目立たぬように自身の家の敷地内で遊ぶ事が多く、よく父の短剣を持ち出しては一人で鍛錬を積んだり手遊びをしていた。父の仕事が早く終わった時は稽古をつけてもらえることもあったのだとか。
そして夜は芸術や音楽、娯楽などを家族と共に楽しむ時間として、彼は凄く楽しみにしていた。道化や芸者を呼んで、仲の良い仲間や家族を招待して大勢で楽しむこともあり、昼間の疲れを忘れ皆で同じ時を共有した。
一日の締めくくりに最後の祈りを捧げると、穏やかな気持ちで就寝する。
これが彼の幼少時代に過ごしていた国での毎日。楽しくもあり、両親の背中を見て、生きていく事の大変さを学ぶ、充実した日々でもあった。彼もまた父のように仕事をこなせるようになっていき、家庭を担っていく良き大人へと育っていくであろうと思っていた。
しかし、変化というものは突然訪れ、理不尽に人の運命を変えてしまうもの。そして彼のところにも、その変化の波がやって来ることになる。どうして平穏や楽しい時間というものは、止まることなく過ぎ去ってしまうのか。この時の彼は、まだそんなことを考えるなど予想だにしなかっただろう。
家柄や家庭で身分の差があると、当然不満や不平が出て来るもの。そして人の我慢には限界がある。不満を募らせた身分の低い者達の中に、上級階級の家庭を狙った強奪や殺人を行う事件の噂が広まり始め、彼の家にもその噂は広まって来ていた。
いつも以上に身の回りの点検や施錠を強化し、家族の無事や平穏な日々の継続を神に祈った。不安になる彼や仲間達を父は元気付け安心させる。その言葉に勇気づけられ、彼の中には自分の身の回りは大丈夫、事件が起きているのは他の地域でこちらの方にまではこないだろうと、根拠の無い安心感が芽生えていた。
そんなある日、彼の家族とも交流のあった、父と同じ趣味を嗜む友人の元に強盗が押し入ったという報告があった。強盗は金品や食料を大量に盗んで行ったことから、単独犯ではなく複数人による犯行であることが濃厚になる。
そしてそれ以上に彼らを恐怖に陥れたのは、その強盗が家主の一家を皆殺しにしたと言うことだ。つい先日まで一緒に過ごしていた家族が、突然帰らぬ人となったことが未だに信じられず、これが現実なのかと疑う程だった。
この一件があり、彼の家付近の警備が強化されることになり、武装した兵が昼夜問わず街中を巡回するようになった。これで犯行も極めて困難になることは間違い無いだろう。だが、守りがかためられた安心感よりも、変わり始める日常の方が彼は恐ろしかった。
時が経てば変化は何必ずやって来る。しかしこれは、受け入れられる変化ではなく、ましてや望んだ変化の形でもない。
どうして自分の周りにやって来るのか。自分の知らない他の場所でやってくれと、そんなことを想うばかりであった。何故自分のところが貧乏くじを引かなければならないのか、理不尽で仕方がない。
直ぐに熱りが覚め、失ったものはあれど再び平穏が戻って来てくれるのを祈りながら、閑散とした夜を過ごす。そんな彼の元に、今後の彼の人生を大きく揺るがす出来事が起こる。
いつものように神に祈りを捧げた後、部屋で就寝につく彼は目を閉じて明日を迎える準備に入っていた。すると、物音はしないのだが、何者かの気配のようなものが家にあるのを感じた。
それがそもそも人であるのか、彼の頭の中にある幽霊のようなものなのかすら分からなかった。ただ、その気配が家族のものではないのだけは分かった。自分の家でわざわざ物音を立てずに、息を殺す意味がない。
真っ暗なところを一人でいると、たまに霊的なものを想像してしまい、自分に迫って来る場面を思い浮かべてしまう。そんなことはあり得ないのに変な想像をしてしまう。その類のものだと思い、彼は想像することを止め、楽しい事や面白い事を考える内に、徐々に眠りの中へと落ちていった。
彼が薄っすらと眠りにつこうとしていた時、リビングの方で何か物音がしたのを聞いた。それは日常の中で聴くようなものではなく、食器や窓を割った時のような、珍しい音。トイレにでも立った両親が、暗くて何かを落としたのだろう。
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ゆっくり壁に手を添えながら歩いていくと、その声の主が父であることが分かった。父さんと声を掛けながら近づくと、彼は足元にあった何かに躓き転んでしまう。何に躓いたのかと確認した彼は、そこに転がっていたものに息を飲んだ。
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