World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
244 / 1,646

難攻不落

しおりを挟む
 グレイスがロッシュの短剣を避ける度に、その動きと鞭の威力、スピードが増していくのだ。ロッシュの曲がる投擲を逆手に取り、避ける動作と踊りのスキルを同時にこなすことで、攻撃を避けながらにしてバフの効果を得ているのだ。

 「何ぃッ・・・!お、押され始めている!?それどころか、俺と奴との間に差が生まれているのか・・・。これではいずれッ・・・!」

 タダでさえ互角だったというのに、更に攻撃の回転数を上げていくグレイス。そしてそれは攻撃面だけに有らず、防御や体力、凡ゆるステータスを上げていく結果となる。

 しかし、ロッシュが次の手を考えるよりも早く、彼女の波状攻撃が男の守りを崩す。投げた短剣は尽く弾かれ、新たに投擲しようとする物は次第にその飛距離を縮めていく。そして仕舞いには、投げようと短剣を手にした次点で弾き飛ばされるようになっていた。

 遂に武器の在庫が切れたのか、最後の短剣を取り出したロッシュだったが、それもグレイスによって弾かれる。間に合わなかった。そういった表情で、弾かれた短剣が舞う上空へと視線を向ける。

 直ぐ様グレイスの方を向き直ると、彼女の攻撃動作は既に完了しており、目で追うよりも素早くロッシュの身体へ鞭の先端、フォールを差し向けていた。タオルをしならせ打ちつけるように、ロッシュの身体を鋭い一撃が襲う。

 「うッ・・・!」

 まるで職人によって研ぎ澄まされた刃のような傷跡。ロッシュの身体を擦った鞭の先端の軌道を表すかのように、宙に鮮血の線が浮かび上がる。

 堪らず距離を取ろうと後退するロッシュだが、なかなかグレイスの攻撃範囲から出ることが出来ず、移動するだけでも男の身体には無数の切り傷が刻まれた。

 多少二人の間に距離が空き、鞭の有効範囲から逸れたロッシュを追い、前身するグレイス。

だが、これがこの男の狙いだった。ロッシュはただ攻撃の嵐の中から逃れようとしただけではなく、彼女をある位置へと誘き出そうとしていたのだ。ロッシュが弧を描くように後退しながら曲がって移動すると、グレイスは最短距離で間を詰めようと向かって来る。

 「逃げようったって、そうはいかないよッ!」

 そして再び、触手のように変幻自在に動きを変える鞭がロッシュを捉える。しかし男は突然立ち止まり、向かって来る鞭を態と自身の腕に巻き付けさせて動きを固定する。

 ロッシュの意外な行動に驚かされるグレイス。二人の間は再び鞭の有効範囲内。辺りの床は、彼女の攻撃の威力を物語るように抉れ、得物の長い刀剣でも振り回したかのような傷が船に刻まれており、そのあちこちにはグレイスが弾いたロッシュの短剣が散らばる。

 「アンタ・・・こういう得物を相手にするのは初めてかい?捕まったらどうなるか・・・分からん訳でもあるまい。追いかけっこはもう終わりだよ・・・」

 グレイスが手にした鞭をグリップをギュッと握りしめ、バフで底上げされたその力で一気に引っ張ろうとした。鞭に拘束されたのは二度目だが、恐らくグレイスは一度目のように、鞭の切断を許す気はないだろう。

 解けないロープで拘束され、人をいとも容易く振り回せる程の力を持つ相手に捕まれば、赤子が紐のついた玩具を振り回して遊ぶように一方的な戦いになる。壁に打ちつけようが床に叩きつけようが、宙で振り回し遠心力で負荷をかけようが思いのまま。

 だが、この一見危機的状況に置かれている最中でも、ロッシュは取り乱すことなく、ひどく冷静だった。散々ロッシュの手口を味わって来たシンにとって、最早この男が感情的になろうが冷静でいようが関係ない。また何かを企んでいるのではないだろうか。そう思うようになってしまっていた。

 そしてシンの想像通り、ロッシュは策を巡らせていた。

 「あぁ、そうだな・・・。もう動き回るのは終わりだ。これからは一方的な戦いになる。ただ・・・お前が床に転がり、俺がお前を踏み躙るって構図だがな・・・」

 悍しい笑みを浮かべて、俯いていた顔を起こすロッシュ。そしてグレイスはまだ目の当たりにしていない。この男の不可解な能力を。それによってシルヴィが倒されたことを、彼女はまだ知らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

超リアルなVRMMOのNPCに転生して年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれていました

k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★お気に入り登録ポチリお願いします! 2024/3/4 男性向けホトラン1位獲得  難病で動くこともできず、食事も食べられない俺はただ死を待つだけだった。  次に生まれ変わったら元気な体に生まれ変わりたい。  そんな希望を持った俺は知らない世界の子どもの体に転生した。  見た目は浮浪者みたいだが、ある飲食店の店舗前で倒れていたおかげで、店主であるバビットが助けてくれた。  そんなバビットの店の手伝いを始めながら、住み込みでの生活が始まった。  元気に走れる体。  食事を摂取できる体。  前世ではできなかったことを俺は堪能する。  そんな俺に対して、周囲の人達は優しかった。  みんなが俺を多才だと褒めてくれる。  その結果、俺を弟子にしたいと言ってくれるようにもなった。  何でも弟子としてギルドに登録させると、お互いに特典があって一石二鳥らしい。  ただ、俺は決められた仕事をするのではなく、たくさんの職業体験をしてから仕事を決めたかった。  そんな俺にはデイリークエストという謎の特典が付いていた。  それをクリアするとステータスポイントがもらえるらしい。  ステータスポイントを振り分けると、効率よく動けることがわかった。  よし、たくさん職業体験をしよう!  世界で爆発的に売れたVRMMO。  一般職、戦闘職、生産職の中から二つの職業を選べるシステム。  様々なスキルで冒険をするのもよし!  まったりスローライフをするのもよし!  できなかったお仕事ライフをするのもよし!  自由度が高いそのゲームはすぐに大ヒットとなった。  一方、職業体験で様々な職業別デイリークエストをクリアして最強になっていく主人公。  そんな主人公は爆発的にヒットしたVRMMOのNPCだった。  なぜかNPCなのにプレイヤーだし、めちゃくちゃ強い。  あいつは何だと話題にならないはずがない。  当の本人はただただ職場体験をして、将来を悩むただの若者だった。  そんなことを知らない主人公の妹は、友達の勧めでゲームを始める。  最強で元気になった兄と前世の妹が繰り広げるファンタジー作品。 ※スローライフベースの作品になっています。 ※カクヨムで先行投稿してます。 文字数の関係上、タイトルが短くなっています。 元のタイトル 超リアルなVRMMOのNPCに転生してデイリークエストをクリアしまくったら、いつの間にか最強になってました~年中無休働いていたら、社畜NPCと呼ばれています〜

処理中です...