World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
235 / 1,646

ロッシュのクラス

しおりを挟む

 グレイスの踊りは船員達のステータスを向上させ、それぞれの働きをより効率良く、よりこなしやすくしていった。再度彼女のバフを授かると、もう一度前線で戦う敵船へ乗り込む準備を始めるシルヴィ。

 「よっしゃッ!んじゃぁ俺も前線で暴れて来るとするか!」

 シンの中に過ったのは、最初にシルヴィを見かけた時の光景だった。元々ロッシュ襲撃を果たしたシンは、倒せるとまでは思っていなかったものの、何か彼の秘密や弱点でも探れれば儲けものくらいの気持ちで挑み、危険となれば直ぐに戦線を離脱するし、グレイスと合流する予定だった。

 しかし、ロッシュの執拗な攻撃を受けそれどころではなくなり、逃げ切るのがやっとの状況にまで追い詰められてしまった。やっとの思いで逃げ出す時に、一矢報いようとロッシュを引きずり落とそうとしたのが功を奏し、シンが脱出する時間とグレイスへの合流を果たす為の時間を稼ぐことに成功した。

 その途中、通り過ぎようとしていたシルヴィが乗り込んでいる敵船の甲板に、負傷して今にも息絶えそうな彼女の姿を見つけた。それが例えグレイス軍の者であろうとなかろうと、その人物を助け後々事情を聞こうと思ったのだ。

 もし仮にも、ロッシュ軍の者だったとなれば何か彼の秘密や作戦の一端を聞き出せるかも知れない。結果的にシルヴィという、グレイスの将であったことが判明。彼女の命を救い、そのことがルシアン救出にも影響してくることとなった。

 シルヴィが一人で敵船へ乗り込むことに、否定的な感情を持っていたシンは、勢いづく彼女を静止しようとした。

 「まッ・・・待て!戦況はこちらが押しているんだ。このまま様子を見て、ロッシュの介入を待ってからでも遅くないんじゃないか?」

 焦った様子で彼女の前に身を乗り出して静止するシン。それを見たシルヴィは、最初は驚いたものの直ぐに自身を心配しての行動であることを悟り、同じ轍は踏まないといった様子で彼を説得する。

 「安心しな、今度は姉さんのバフが乗ってんだ。そう簡単にはやられねぇよ。それに一人じゃねぇ・・・前線を押し上げるくらいのところで止まるさ。それともなにかい?俺じゃぁまたやられるとでも言うのか?」

 シルヴィのようなタイプの人は、あまり心配し過ぎて行動を静止するとかえってプライドを傷つけてしまうことになる。それに彼女の言葉には、シンを納得させられるだけの説得力がある。

 グレイスのバフ効果を受けたのはシンも同じであり、ルシアン救出のためシルヴィと共に彼女のバフを授かっていた。身体は軽くなりスキルの調子は良く、ボードの操縦も心なしか上手くいっていたように思える。

 そして彼女は身体を動かして準備を終えると、前に乗り出てきたシンの横を通り過ぎて行く時に彼の肩に手を置いた。

 「これ以上お前にみっともないところは見せられねぇしな・・・。言っただろ?グレイス軍の戦い方ってやつを見せてやるって。これからその真髄を味合わせてやるよ」

 そう言い残してシルヴィは、前線で敵船と接触し、戦闘を繰り広げている仲間の元へと馳せ参じて行った。

 シルヴィを見送り、自分にも何か出来ないかと考えた結果、シンも再びロッシュへの奇襲を仕掛けることを思いつく。彼女の言う通り、今度はシンもグレイスのバフを授かっている。

 スキルの能力アップ、距離や範囲の拡大、それに投擲の威力も増しているとあらば相殺されることもまず無いだろう。もう一度乗り込む覚悟を決めたシンは、その前にグレイスへロッシュとの戦闘のことを伝えた。

 「グレイス、ここへ来る途中ロッシュと戦ったんだが・・・」

 「何だってッ!?ロッシュと・・・?」

 シンの思わぬ告白に同様するグレイス。それもその筈、敵軍の総大将と既に一戦交えてきたと聞けば驚くのも無理もないだろう。元々この戦いは、グレイスがロロネーとロッシュの企みを知り、妨害する延長線上で画策したもの。

 ロッシュがグレイスのことを知っているのと同じく、グレイスもロッシュのことについて調べており、ある程度の予備知識はある状態で戦いに臨んでいた。だが、シンの語ったロッシュとの戦いは、彼女の知らぬ情報も含まれていた。

 「俺は奴の船に潜入して、ロッシュ或いは主戦力になりそうな奴の暗殺を試みようと思ったんだが、その前に奴に見つかって・・・。ロッシュはたんさく能力に長けているのか?それに船内で戦った時に見た、あの光るうねうねとしたモノは一体何だったんだ・・・。壁や床のあちこちを這っていて、俺の位置が直ぐにバレるんだ」

 「光るうねうね・・・?何だそれ?奴の新しい仲間か?・・・とにかく奴の感の良さと鋭さは、クラスやスキルの効果ではなく、奴自身のものだ。強いて言うのならばパッシブスキルのようなものだな。ただ、それで探索が出来るかと言われたら・・・甚だ疑問だねぇ・・・」

 彼女もロッシュの扱っていた“光”については知らなかったようだ。そしてシンがロッシュに奇襲を仕掛ける上で、最も知っておきたかった情報に触れたのをシンは聞き逃さなかった。

 「そうだ!グレイス、ロッシュのクラスについて何か知っているか?奴のクラスが分かれば、もっと警戒のしようもあっただろう。それに対策だって・・・まぁ調べ不足なのは俺が悪いんだが、まさかロッシュと戦うことになろうとは・・・」

 「アタシの知っている情報で良いんなら教えてやるよ。ロッシュのクラスは、トレジャーハンターとパイロットだ。珍しいクラスだが、それによって奴は凡ゆる乗り物を乗りこなし、相手から奪ったものを最大限有効活用する奴だったよ。・・・だからその光る何ちゃらって言うのは奴のモンじゃないかも知れないねぇ」

 トレジャーハンターのクラスはそこまで珍しくもない、割とメジャーなクラスだ。問題はロッシュのもう一つのクラスだろう。

 パイロット。全くもって想像もしなかったクラスだった。グレイスの言う通り、恐らく乗り物系統を自在に操れるようなスキルが用いられるのであろう。そして最も重要で不可解なモノが浮き彫りとなる。

 シンは潜入した際、船内を調べて確認している。ある程度の船員こそ乗っていたものの、二人が戦った室内の側に人影はなかった。あの場所にいたのはシンとロッシュのみ。故にグレイスの言う、第三者の介入は考えづらい。

 それならばあの“光”は、一体何者の仕業だったのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...