World of Fantasia

神代 コウ

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仄暗い部屋の攻防

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 周囲への警戒はそのままに、怪しい部屋へ追加で光を送り込むロッシュ。無論、部屋に何があるか分からないので、廊下から一歩も動かず中の捜索を行う。彼の放った光達は床や壁をゆっくり撫で回すように這って進み、何者かの痕跡を探す。

 すると、先ほど光が影に呑まれた現場に一つの光が再び近づいて行く。何かの異変を見つけるかもしれない光の動向を、常に見渡さなければならなかったのだが、何故かロッシュの視線は影に近づく光に吸い寄せられるように釘付けになった。

 論理的に考えれば効率が悪く、自身の身の危険を招きかねないことだと分かってはいたが、不思議と目を離すことが出来なかったのだ。それは心の中にあるちょっとした好奇心、或いはまた同じ現象が起こるのではないかという期待が上回った結果だろう。

 光は同じように影の中へ入ろうとした。ロッシュの意識はそれまで以上に、その光の行動を注視する。光はゆっくり影の中へ入り、周辺の痕跡を探る。すると、影の中で一部の箇所が徐々に色を濃くしていくように見えた。

 濃くなった影の部分にロッシュの送り込んだ光が接触すると、みるみる内に吸い込まれて消えてしまった。やはりここには何かいると思った時、扉の戸当たりの部分に黒い影が身を隠すようスッと室内へ入って行くのが見えた。

 正確にいえば“気がした”という感覚だったが、何者かが潜んでいるかも知れない暗闇を覗き、何かされ兼ねない状況ではそのちょっとしたことが、とても重大で大きなことになる。

 「ッ・・・!」

 咄嗟に廊下の方へ後退りするロッシュ。それまで少し離れたところで見ていたことが、自分の直ぐ真横にまで迫っていたのかと思うと、危うく影に引きずり込まれるところだったと冷や汗が止まらない。

 あのまま迫って来ていた影に気付かず、光が影に呑もれるところを見続けていたら、自分もあの光のように何処かへ消されていたのだろうか。

 「・・・誘っているのか・・・中へ入って来いと・・・。だが、これで俺はますます入らない覚悟を決めたぞッ!入らずに貴様を炙り出し始末してやる・・・」

 自身の不用意な好奇心を改め、仕切り直すように先ずは廊下を見渡し、他の捜索にあたる光を確認する。だが変化はなく、依然這い周りながら巡回を続けていた。そして目の前にある、薄暗い部屋へ続く入り口の方へ視線を送ると、ロッシュはあることに気付く。

 少し後退したことによって見える範囲が狭まったとはいえ、彼が送り出した筈の光が一向に見えてこないのだ。素早く動くものではないので、まだ見える位置に来ていないだけとも思えるが、這い周る光の数に対しこれは明かに不自然だ。

 「まさか・・・全て呑まれたとでも言うのか・・・?」

 彼が見えざる者の正体に手を拱いていると、廊下で捜索していた光が徐々に近づき、部屋の中へとゆっくり入って行った。それをただ黙って見送るも、結果は言うまでもない。

 天井の方からも光がやって来る。そして先程の光と同じようにして、真っ暗な部屋の中へと入る。そんな光景を見ていたロッシュは、ハッと我に帰り辺りを見渡すと、彼が放った無数の光は目の前の部屋に吸い込まれるようにして、次々にやって来ていたのだ。

 「こッ・・・これはッ!?そうか!これは奴のスキルによる何か・・・それに反応して集まり出したのか・・・。くッ!これでは無駄に呑み込まれる一方だッ・・・」

 ロッシュはその場でしゃがむと、床に掌をつける。目の前の部屋に向かって集まり出す光を無駄に失うまいと、自分の身体に戻して行く。しかし、これで彼に室内を調べる術はなくなった。自ら何が起きているかも分からぬ暗闇に足を踏み込む以外に方法はない。

 だがそれでは、敵の思惑通りに事が運ぶことになる。そうなれば相手の土俵で戦うことを強いられる圧倒的に不利な状況に陥るだけでなく、敵の掌の上で踊らされているということがロッシュは気に食わなかった。

 光を回収し終え立ち上がると、後退りした分を取り戻すように前進し部屋へと近づく。汗が頬を伝い、息を飲む音が聞こえる。最早、自らの目で確かめるしかないと、中を覗き込むようにして少しだけ前のめりになる。

 そこへ彼を挟むようにして廊下の両脇から音も無く矢が飛んで来る。前のめりになってしまっていた手前、ロッシュには前に回避するより道はない。勢い良く前に避け、部屋に入りそうになる身体を、扉の両枠に手を付いて支え、何とか中に入らずに矢を避けることが出来た。

 しかし、相手の攻撃はそこで終わらず畳み掛けるようにして彼を追い詰める。扉の枠に手を押し付けていた彼自身の影が、底無しの奈落へと通じる穴のように空洞に変わり、ロッシュの身体は宙に浮いて影の中へと落下する。

 「うッ・・・!」

 間一髪のところで床にしがみ付き、何とか落下を凌ぐ。だがその床は部屋への床。助かりたければ、何者かの潜む薄暗い部屋に身を投じるしかない。ロッシュはまんまと相手の思惑に嵌められたのだ。

 「これも貴様の思惑通りかッ・・・。なるほど、影に関するスキルか。通りで陰気くせぇところに隠れてる訳だッ・・・!」

 意を決し身体を持ち上げ、部屋の中へと転がり込む。例え不利な状況下でも必ず突破口はある。その為に一時‬の屈辱に耐え、プライドを捨てるロッシュ。

 「いいだろう、ここまでは貴様の勝利だ・・・認めざるを得ない。だが、まだ終わりではない。今、殺し損ねたのが貴様の敗因だと知れッ!俺はこれからだ・・・不利を覆しその死顔を拝んでやるぞ・・・」

 煮え滾るような闘志が漏れ出ているかのように、睨みを利かせて周囲の音や反応、気配に神経を研ぎ澄ませる。入り組んだ薄暗い船内という環境で、ロッシュは次なる手を打つ。
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