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海に落ちた雲塊
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次々に並べられていく大筒を、如何いった用途で使われるのかも分からずただただ見送るルシアン。元々、口数の多い方ではないエリクがあれだけ喋ったのだ。こちらから聞き出さない限り、彼は黙々と作業を続けることだろう。
しかし、彼も言っていた通り、ルシアンの協力も必要となる手段なだけに、突然指示を受けるのも準備というものがある。事前に出来ることや、心構えくらいはしておきたい。大筒の位置を手際良く支持するエリクの頼もしい姿をその目に焼き付け、自身の役割について彼に尋ねた。
「エリク君、これは一体・・・?私は何を協力すれば・・・」
「ルシアンさんは準備が整うまでの間、敵船の砲撃を出来るだけ多く迎撃して下さい。最も敵船を迎撃出来るのは貴方です、今はそれに注力して必要となればこちらから声をかけます。準備はそれからでも十分間に合うので・・・」
「君がそう言うのであれば、それを信じましょう」
余計なことを考えることなく、彼が言う通り今は自分が出来ることに注力するルシアン。そこは流石はグレイス軍の主力の一人、再びシェイカーを振り、降り注ぐ敵軍の砲撃を次々に撃ち砕いて見せた。
船内から運ばれてくる、ゴロゴロと鉄製の車輪が木材の床を進む音が徐々に収まり、先に到着していた大筒を運ぶ船員達が次なる作戦の準備を行う。運んで来た筒の中に何かを取り付けた砲弾を詰め込み、一発二発とロッシュ軍の船へと打ち出していく。
大砲のように飛んでいった砲弾は、船や海面付近で着弾すると大量の白い煙を焚いた。所謂、スモーク弾と呼ばれるものだったのだろう。スモークがロッシュの船団を覆い尽くさんという勢いで広まっていき、遂にはその姿を眩ませる。
確かにスモークを張れば敵船からの攻撃を妨害することが出来る他、こちらの動きを悟られる心配もない。そして何より行動を起こすには煙から出なければならず、行動を制限することが出来る。だが、敵からも見えなければこちらからも中の様子を伺うことはできない。準備した大砲で狙うにしても、これでは敵船が何処にいるか分からずこちらの攻撃も当たらない。
「スモーク弾ですか・・・確かにこれなら時間稼ぎは出来るかもしれませんが、これではこちらも敵船の砲撃に対する反応が遅れ、攻撃も当てづらくなるのでは?」
スモークがロッシュ軍の船団を覆い尽くしたおかげで、敵船からの攻撃が正確ではなくなり、砲撃の数も減少した。
「ス・・・スモークですッ!敵船がスモーク弾を撃ち込んで来ましたッ!」
グレイスによるステータス向上効果を失った彼女の船団を見て、その後の戦場をフェリクスに一任したロッシュが船内からその様子を静かに見ていた。
「スモークとはな・・・。これではフェリクスの奴が使い物にならなくなってしまうな。・・・少し、手を貸してやるか・・・」
最早自軍の勝ちは揺るがないと、すっかり船内で寛いでいたロッシュは数メートル先も見えないような濃煙に包まれている甲板へ出ると、近場でグレイス軍への砲撃を行なっていた船員に、最後に敵船を視認した方角を聞く。
船上の状況を確認するのですら大変なこの事態に、船長が一体何をしようというのか分からないが、彼の言葉は絶対であるため、船員の男は理由を問うこともせず直ぐにその方角を指差した。
それを聞いたロッシュは、姑息な手段で延命を図ろうとするグレイス軍を鼻で笑い、濃煙の中をその方角へと歩いて行く姿を通り過ぎる船員達は何をするのかと不思議そうに眺めていた。彼が船首までやって来ると、何処から取り出したのかその手には戦闘機の模型のような物があり、ロッシュはそれを一度掌に乗せた後、軽く海へと飛ばしたのだった。
先端にプロペラのついた“プロペラ飛行機”と呼ばれる玩具を知っているだろうか。丁度それを飛ばした時の様に、緩やかにその模型は煙の中へと消えていった。濃煙の中でロッシュが何をしたのか見た者はいないだろう。仮に見たとしても何かを投げる様な動作をしていただけで、これといって不思議なことはしていない。強いて言えば、この状況においてその様なことをしている事自体が不思議に思えるだろう。
飛んで行った模型を見送り、ロッシュはそのまま暫く船首に立ち尽くしていた。船員の者が指示を仰ぐが、彼はフェリクスに従えと言うだけで他には何も指示しなかった。
一方、ロッシュから指揮系統を一任されたフェリクスは、グレイス軍の煙幕により完全に視界を失い、攻撃の手を封じられていた。
「くッ・・・!煙幕など小賢しい真似を・・・。マズイですね・・・如何したものか、迂闊に煙から出れば間違いなく敵船の餌食になる。・・・船長にはわるいですが、一隻囮りにでも使おうか・・・」
容易にして厄介な煙幕。主に地上戦において用いられることの多い戦法の一つで、味方への合図やヘリの回収ポイントを示すことにも使われる。ただ、海上戦においては、風や常に移動することもあり地上程の効果は得られず、僅かな間の目眩し程度に過ぎないだろう。それでも一度敵を見失うというのは、それだけで後手に回る危険なことだ。
しかし、エリクは自身のクラスを上手く利用し煙幕を滞在させていた。術中にハマり手をこまねいていると、煙の中でフェリクスはある光を目にした。
「・・・ん?あれは・・・」
次々に発煙弾を撃ち込んでいくグレイス軍は、ロッシュの船団の周りに濃煙を作り上げると、次にその大筒に別の物を詰め込み始めた。風水の力で風を調節するエリクがいよいよと言わんばかりにルシアンに声をかける。
「敵船の攻撃が止んできました。今の内に次の攻撃に移ります。ルシアンさん、貴方に調合して貰いたい砲弾があります。迎撃を一時中断し、作業に取り掛かって下さい。道具とレシピも用意してあります」
「わかりました。・・・それで煙幕の次は一体何を・・・?」
「これは迫撃砲ってヤツですよ。空高く打ち上げて、上空から攻撃する砲撃です。一般的に使われる大砲とは違い、放物線を描いて飛んでいくため障害物を越えて攻撃できます。奥行きを見ながら着弾点を予想して撃つのとは違い、床に広げた地図に直接印をつける様に狙えるため、大砲で偏差射撃するよりも相手に当てやすいんですよ」
「なるほど・・・。しっしかし、あれだけの煙幕があっては狙いがつけられないのでは・・・?」
ルシアンは、ロッシュの船団の方に目をやると眼前に広がる空から落ちてきた雲塊を見つめる。煙幕は相手の攻撃を妨害できるが、その実こちらからも無闇に攻撃出来ない場面がある。こちらが一撃で相手を仕留められない場合、相手に攻撃した位置をしられ反撃されてしまう恐れがある。だが、作戦の立案者であるエリクはその事も勿論分かった上で実行していたのだ。
「狙う必要はないんですよ・・・。この迫撃砲は上空で砲弾が炸裂し拡散、中の弾が雨の様に降り注ぐ仕組みになっているんです。・・・さぁ、反撃ですよルシアンさん」
しかし、彼も言っていた通り、ルシアンの協力も必要となる手段なだけに、突然指示を受けるのも準備というものがある。事前に出来ることや、心構えくらいはしておきたい。大筒の位置を手際良く支持するエリクの頼もしい姿をその目に焼き付け、自身の役割について彼に尋ねた。
「エリク君、これは一体・・・?私は何を協力すれば・・・」
「ルシアンさんは準備が整うまでの間、敵船の砲撃を出来るだけ多く迎撃して下さい。最も敵船を迎撃出来るのは貴方です、今はそれに注力して必要となればこちらから声をかけます。準備はそれからでも十分間に合うので・・・」
「君がそう言うのであれば、それを信じましょう」
余計なことを考えることなく、彼が言う通り今は自分が出来ることに注力するルシアン。そこは流石はグレイス軍の主力の一人、再びシェイカーを振り、降り注ぐ敵軍の砲撃を次々に撃ち砕いて見せた。
船内から運ばれてくる、ゴロゴロと鉄製の車輪が木材の床を進む音が徐々に収まり、先に到着していた大筒を運ぶ船員達が次なる作戦の準備を行う。運んで来た筒の中に何かを取り付けた砲弾を詰め込み、一発二発とロッシュ軍の船へと打ち出していく。
大砲のように飛んでいった砲弾は、船や海面付近で着弾すると大量の白い煙を焚いた。所謂、スモーク弾と呼ばれるものだったのだろう。スモークがロッシュの船団を覆い尽くさんという勢いで広まっていき、遂にはその姿を眩ませる。
確かにスモークを張れば敵船からの攻撃を妨害することが出来る他、こちらの動きを悟られる心配もない。そして何より行動を起こすには煙から出なければならず、行動を制限することが出来る。だが、敵からも見えなければこちらからも中の様子を伺うことはできない。準備した大砲で狙うにしても、これでは敵船が何処にいるか分からずこちらの攻撃も当たらない。
「スモーク弾ですか・・・確かにこれなら時間稼ぎは出来るかもしれませんが、これではこちらも敵船の砲撃に対する反応が遅れ、攻撃も当てづらくなるのでは?」
スモークがロッシュ軍の船団を覆い尽くしたおかげで、敵船からの攻撃が正確ではなくなり、砲撃の数も減少した。
「ス・・・スモークですッ!敵船がスモーク弾を撃ち込んで来ましたッ!」
グレイスによるステータス向上効果を失った彼女の船団を見て、その後の戦場をフェリクスに一任したロッシュが船内からその様子を静かに見ていた。
「スモークとはな・・・。これではフェリクスの奴が使い物にならなくなってしまうな。・・・少し、手を貸してやるか・・・」
最早自軍の勝ちは揺るがないと、すっかり船内で寛いでいたロッシュは数メートル先も見えないような濃煙に包まれている甲板へ出ると、近場でグレイス軍への砲撃を行なっていた船員に、最後に敵船を視認した方角を聞く。
船上の状況を確認するのですら大変なこの事態に、船長が一体何をしようというのか分からないが、彼の言葉は絶対であるため、船員の男は理由を問うこともせず直ぐにその方角を指差した。
それを聞いたロッシュは、姑息な手段で延命を図ろうとするグレイス軍を鼻で笑い、濃煙の中をその方角へと歩いて行く姿を通り過ぎる船員達は何をするのかと不思議そうに眺めていた。彼が船首までやって来ると、何処から取り出したのかその手には戦闘機の模型のような物があり、ロッシュはそれを一度掌に乗せた後、軽く海へと飛ばしたのだった。
先端にプロペラのついた“プロペラ飛行機”と呼ばれる玩具を知っているだろうか。丁度それを飛ばした時の様に、緩やかにその模型は煙の中へと消えていった。濃煙の中でロッシュが何をしたのか見た者はいないだろう。仮に見たとしても何かを投げる様な動作をしていただけで、これといって不思議なことはしていない。強いて言えば、この状況においてその様なことをしている事自体が不思議に思えるだろう。
飛んで行った模型を見送り、ロッシュはそのまま暫く船首に立ち尽くしていた。船員の者が指示を仰ぐが、彼はフェリクスに従えと言うだけで他には何も指示しなかった。
一方、ロッシュから指揮系統を一任されたフェリクスは、グレイス軍の煙幕により完全に視界を失い、攻撃の手を封じられていた。
「くッ・・・!煙幕など小賢しい真似を・・・。マズイですね・・・如何したものか、迂闊に煙から出れば間違いなく敵船の餌食になる。・・・船長にはわるいですが、一隻囮りにでも使おうか・・・」
容易にして厄介な煙幕。主に地上戦において用いられることの多い戦法の一つで、味方への合図やヘリの回収ポイントを示すことにも使われる。ただ、海上戦においては、風や常に移動することもあり地上程の効果は得られず、僅かな間の目眩し程度に過ぎないだろう。それでも一度敵を見失うというのは、それだけで後手に回る危険なことだ。
しかし、エリクは自身のクラスを上手く利用し煙幕を滞在させていた。術中にハマり手をこまねいていると、煙の中でフェリクスはある光を目にした。
「・・・ん?あれは・・・」
次々に発煙弾を撃ち込んでいくグレイス軍は、ロッシュの船団の周りに濃煙を作り上げると、次にその大筒に別の物を詰め込み始めた。風水の力で風を調節するエリクがいよいよと言わんばかりにルシアンに声をかける。
「敵船の攻撃が止んできました。今の内に次の攻撃に移ります。ルシアンさん、貴方に調合して貰いたい砲弾があります。迎撃を一時中断し、作業に取り掛かって下さい。道具とレシピも用意してあります」
「わかりました。・・・それで煙幕の次は一体何を・・・?」
「これは迫撃砲ってヤツですよ。空高く打ち上げて、上空から攻撃する砲撃です。一般的に使われる大砲とは違い、放物線を描いて飛んでいくため障害物を越えて攻撃できます。奥行きを見ながら着弾点を予想して撃つのとは違い、床に広げた地図に直接印をつける様に狙えるため、大砲で偏差射撃するよりも相手に当てやすいんですよ」
「なるほど・・・。しっしかし、あれだけの煙幕があっては狙いがつけられないのでは・・・?」
ルシアンは、ロッシュの船団の方に目をやると眼前に広がる空から落ちてきた雲塊を見つめる。煙幕は相手の攻撃を妨害できるが、その実こちらからも無闇に攻撃出来ない場面がある。こちらが一撃で相手を仕留められない場合、相手に攻撃した位置をしられ反撃されてしまう恐れがある。だが、作戦の立案者であるエリクはその事も勿論分かった上で実行していたのだ。
「狙う必要はないんですよ・・・。この迫撃砲は上空で砲弾が炸裂し拡散、中の弾が雨の様に降り注ぐ仕組みになっているんです。・・・さぁ、反撃ですよルシアンさん」
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