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グレイスの目的
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小型船から島に降り立った彼女は、まだこちらに気付いていないツクヨの元へと静かな小走りで向かう。そうと知らず警戒をしていたツクヨは、船団の動きを見ながら自身が取るべき行動について状況を整理する。
船団の攻撃が島の向こう側へと放たれたことから、ツクヨを見つけるよりも先に何か別の標的を見つけたのだということ。そして複数隻ある船の中で、自身が物陰に隠れるのを、見かけた者がいるかどうか。否、あれだけの数の目がある中で目撃されていないと考えるのは難しい。
しかし、彼らがこちらに攻撃してこないというのは相手にされていないのか、それとも攻撃しない理由があるのか。だが今のツクヨにそれを突き止める術は無い。今はとにかくこの場を離れることが先決だろう。
攻撃してこないのなら好都合。その間に、彼らから見られないよう自分の船に戻ることにしたツクヨが、周辺の状況を確認し、次に自分が移動するポイントを見極めているその時。彼の方を叩く何者かの手の感触が伝わり、突如恐ろしいものが眼前に飛び出して来たかのような反応を示した。
「うッ・・・!?」
何者の気配も感じず、周囲には誰もいないであろうと思っていたツクヨは飛び上がるように背筋が伸び、全身を恐ばわせる。すると背後から囁くように、聞き覚えのある声が聞こえて来たのだ。
「ツクヨか?アンタこんなところで何をしている?」
目を丸くして驚くツクヨは何よりも先に、その聞き覚えのある声の主の方へと振り返る。なんとそこには、グラン・ヴァーグで出会い共に任務を遂行した、グレイスの姿が彼の瞳に飛び込んできた。見覚えのある顔と、敵ではない者ということに安堵したのか、大きく息を吐きながら全身の力が抜けたツバキは崩れるように腰を折り、落ちそうになる身体をつっかえ棒のように膝に伸ばした腕で支える。
「なッ・・・なんだ、グレイスか。・・・!?何でグレイスがここに!?」
「おい落ち着けよ、話を聞いてるのはこっちなんだぜぇ?・・・まぁいい、ここにいると危険だ。ついて来い!どうせここにいるのはアンタだけじゃないんだろ?世話になった礼だ、合流に手を貸して得やる」
そういうとグレイスはこっちへ来いとジェスチャーをしながら、来た道を戻っていく。まだ状況が分かっていないツクヨは、彼女に言われるがままその後をついて行った。だが、ツクヨの前に広がってくるのは何者の船かも分からぬ紅蓮の船団。何も語らず歩みを進めるグレイスにツクヨは、彼女の目的を尋ねる。
「あの・・・貴方は何故ここに?それに戦場になるとは一体・・・」
「なに・・・ただのデートさ、大したことじゃない。待ち合わせしてる奴がちょっと荒っぽい奴でね。何もないこの島を選んだんだけど・・・、どうやらアタシが来る前に待ちぼうけを食らってたみたいでね・・・。ちょいと戻って来てもらったのさ!・・・あぁ、あの船はアタシのだから心配いらないよ」
どうやらハオランだけではなく、グレイスもこの島で誰かと会おうとしていたようだった。しかし、彼女の船団が突然砲撃したところを見ると、とてもデートなどという雰囲気ではなく、対談で済むような様子ではなかった。
何はともあれ、眼前に広がる物騒な船団がグレイスのものであると知り、更にはシンやミアとの合流に手を貸してもらえることにツクヨは束の間の安堵を噛み締めていた。
彼女の乗って来た小型船に乗り込むと、紅蓮の色をした海賊船に近くに連れ、彼女の部下だろうか。女性の声でグレイスの名を呼ぶ声が聞こえて来た。大きく手を振る者もいたが、同行するツクヨの姿が目に入ると、直ぐにその手を下ろしてしまった。
別の者がグレイスに、同行者のことについて聞いていたのを、自分のことをどう話すのか気になるのと同時に、自分だけ浮いている集団の輪の中に入るのが少し躊躇われる心境だった。
「船長、その方は・・・?この惨状の生存者ですか?」
船を引き上げ、海賊船に戻って来たグレイスは早速部下の者にツクヨの存在について問われていた。その部下はツクヨの爪先から頭まで舐めるように見る。しかし、その者の言う島に起きた惨状の生存者にしたら、やけに服装が綺麗だ。それにこれだけの事を起こしておいて、生存者を残すような真似をするだろうかと難しい顔をしていた。
「いや、違う。彼はグラン・ヴァーグで作戦の手伝いをしてくれた者だ。彼本人ではないが、あの作戦が明るみに出ず、誰にも悟られなかったのは彼らのおかげだ」
それを聞いた部下の者は背筋を正し、ツクヨにグレイスが無事に帰った礼をしているのだろうか頭を下げた。思わずツクヨも条件反射で会釈をする。
船に戻ったグレイスはツクヨについて来るように言うと、早足で船内へと入っていった。
「反撃はあったか?」
「いえ・・・。ですが、こちらの砲撃を途中で打ち落としたようです。それっきり砲撃の様子はありません」
「移動し始めたか・・・。さて、どっちから来るかな?・・・あぁ、それと島に停泊している別の船はあったか?」
「船の反応は目標以外には確認されていませんが、少し前に小さな波の反応がありました」
部下の報告に指をパチンと鳴らしたグレイスは、それだと言わんばかりに部下を指差す。恐らくその波の反応こそ、ツクヨ達がこの島に向かっていた時の反応だろう。それを確認する様に彼女はツクヨの方を振り返る。彼もそれで察したのか、勢い良く数回頷くと、グレイスは手際良く部下に指示を出し、ツクヨと共に別の船に乗り込んでその波を起こしたであろう船の場所へ向かうと言い出した。
グレイスの船団は島を回るように二手に別れ、目標との接触を図る部隊と、シンとミアのいる船を目指す部隊にそれぞれ分岐して進軍していった。
船団の攻撃が島の向こう側へと放たれたことから、ツクヨを見つけるよりも先に何か別の標的を見つけたのだということ。そして複数隻ある船の中で、自身が物陰に隠れるのを、見かけた者がいるかどうか。否、あれだけの数の目がある中で目撃されていないと考えるのは難しい。
しかし、彼らがこちらに攻撃してこないというのは相手にされていないのか、それとも攻撃しない理由があるのか。だが今のツクヨにそれを突き止める術は無い。今はとにかくこの場を離れることが先決だろう。
攻撃してこないのなら好都合。その間に、彼らから見られないよう自分の船に戻ることにしたツクヨが、周辺の状況を確認し、次に自分が移動するポイントを見極めているその時。彼の方を叩く何者かの手の感触が伝わり、突如恐ろしいものが眼前に飛び出して来たかのような反応を示した。
「うッ・・・!?」
何者の気配も感じず、周囲には誰もいないであろうと思っていたツクヨは飛び上がるように背筋が伸び、全身を恐ばわせる。すると背後から囁くように、聞き覚えのある声が聞こえて来たのだ。
「ツクヨか?アンタこんなところで何をしている?」
目を丸くして驚くツクヨは何よりも先に、その聞き覚えのある声の主の方へと振り返る。なんとそこには、グラン・ヴァーグで出会い共に任務を遂行した、グレイスの姿が彼の瞳に飛び込んできた。見覚えのある顔と、敵ではない者ということに安堵したのか、大きく息を吐きながら全身の力が抜けたツバキは崩れるように腰を折り、落ちそうになる身体をつっかえ棒のように膝に伸ばした腕で支える。
「なッ・・・なんだ、グレイスか。・・・!?何でグレイスがここに!?」
「おい落ち着けよ、話を聞いてるのはこっちなんだぜぇ?・・・まぁいい、ここにいると危険だ。ついて来い!どうせここにいるのはアンタだけじゃないんだろ?世話になった礼だ、合流に手を貸して得やる」
そういうとグレイスはこっちへ来いとジェスチャーをしながら、来た道を戻っていく。まだ状況が分かっていないツクヨは、彼女に言われるがままその後をついて行った。だが、ツクヨの前に広がってくるのは何者の船かも分からぬ紅蓮の船団。何も語らず歩みを進めるグレイスにツクヨは、彼女の目的を尋ねる。
「あの・・・貴方は何故ここに?それに戦場になるとは一体・・・」
「なに・・・ただのデートさ、大したことじゃない。待ち合わせしてる奴がちょっと荒っぽい奴でね。何もないこの島を選んだんだけど・・・、どうやらアタシが来る前に待ちぼうけを食らってたみたいでね・・・。ちょいと戻って来てもらったのさ!・・・あぁ、あの船はアタシのだから心配いらないよ」
どうやらハオランだけではなく、グレイスもこの島で誰かと会おうとしていたようだった。しかし、彼女の船団が突然砲撃したところを見ると、とてもデートなどという雰囲気ではなく、対談で済むような様子ではなかった。
何はともあれ、眼前に広がる物騒な船団がグレイスのものであると知り、更にはシンやミアとの合流に手を貸してもらえることにツクヨは束の間の安堵を噛み締めていた。
彼女の乗って来た小型船に乗り込むと、紅蓮の色をした海賊船に近くに連れ、彼女の部下だろうか。女性の声でグレイスの名を呼ぶ声が聞こえて来た。大きく手を振る者もいたが、同行するツクヨの姿が目に入ると、直ぐにその手を下ろしてしまった。
別の者がグレイスに、同行者のことについて聞いていたのを、自分のことをどう話すのか気になるのと同時に、自分だけ浮いている集団の輪の中に入るのが少し躊躇われる心境だった。
「船長、その方は・・・?この惨状の生存者ですか?」
船を引き上げ、海賊船に戻って来たグレイスは早速部下の者にツクヨの存在について問われていた。その部下はツクヨの爪先から頭まで舐めるように見る。しかし、その者の言う島に起きた惨状の生存者にしたら、やけに服装が綺麗だ。それにこれだけの事を起こしておいて、生存者を残すような真似をするだろうかと難しい顔をしていた。
「いや、違う。彼はグラン・ヴァーグで作戦の手伝いをしてくれた者だ。彼本人ではないが、あの作戦が明るみに出ず、誰にも悟られなかったのは彼らのおかげだ」
それを聞いた部下の者は背筋を正し、ツクヨにグレイスが無事に帰った礼をしているのだろうか頭を下げた。思わずツクヨも条件反射で会釈をする。
船に戻ったグレイスはツクヨについて来るように言うと、早足で船内へと入っていった。
「反撃はあったか?」
「いえ・・・。ですが、こちらの砲撃を途中で打ち落としたようです。それっきり砲撃の様子はありません」
「移動し始めたか・・・。さて、どっちから来るかな?・・・あぁ、それと島に停泊している別の船はあったか?」
「船の反応は目標以外には確認されていませんが、少し前に小さな波の反応がありました」
部下の報告に指をパチンと鳴らしたグレイスは、それだと言わんばかりに部下を指差す。恐らくその波の反応こそ、ツクヨ達がこの島に向かっていた時の反応だろう。それを確認する様に彼女はツクヨの方を振り返る。彼もそれで察したのか、勢い良く数回頷くと、グレイスは手際良く部下に指示を出し、ツクヨと共に別の船に乗り込んでその波を起こしたであろう船の場所へ向かうと言い出した。
グレイスの船団は島を回るように二手に別れ、目標との接触を図る部隊と、シンとミアのいる船を目指す部隊にそれぞれ分岐して進軍していった。
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