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神代 コウ

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憧れの人

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 少年にエイヴリー海賊団への入団の件を聞き、その交渉条件に使った死海文書なる代物のことを聞いていると、彼を呼び戻しに来たのかエイヴリー海賊団と思われる男が一人近づいて来た。

 「おい坊主、あんまりうろちょろすんじゃねぇ。ましてやお前は新入りなんだ、勝手なマネは慎むようにな」

 「マクシムさん、すみません・・・以前お世話になっていた方々を見かけたので挨拶を。それにちゃんと別れを言えていなかったので・・・」

 自らの勝手な振る舞いを改めるヘラルト。そんな彼の肩に優しく手を添えた男こそ、エイヴリー海賊団の最高幹部でもあるマクシム・ラ・フォルジュという男だ。唯一面識のあるツクヨと彼は、お互いの存在を認知し会釈をする。

 「あの時はありがとうございました。まさか貴方とも再会出来るとは・・・」

 「おう、あん時の兄ちゃんか?元気そうで何よりだ。そうか、アンタ達がコイツをこの町まで送り届けたっていう・・・」

 どうやらヘラルトもシン達のことを彼らに話していたようだった。だが彼との旅の中で聞かれてはまずい会話もなかったので、怪しまれることはないだろう。それに彼はとても賢い子だ。短い間ではあるが、時を同じく過ごしたシン達のこと悪く話すこともあるまい。確定していることではないが、一行はヘラルトを信用している。

 すると、マクシムは一行の中にいたもう一人の少年に気がつき、彼を揶揄する。恐らく造船技師であるウィリアム経由で顔見知りになったのだろう。久々に会う兄が弟を揶揄うような、そんなやり取りが繰り広げられた。

 「なんだ、ツバキもいんじゃねぇか。お前、自分の船に乗ってくれる奴を探してるんじゃなかったか?どうだ、いい人は見つかったのか?」

 「あぁ、見つかったよ!ここにいるコイツらさ!アンタらじゃ誰も乗ってくれねぇんでな!ッたく・・・先見の明のねぇ奴らだぜ。いつまでじじぃの技術に媚びてやがんだ。俺だってじじぃの技術を見てきてんだ、それに俺は流行や最新の技術を取り入れてる。じじぃにだって負けてねぇんだ・・・」

 ツバキは、ウィリアムの店で船のメンテナンスをよくしているエイヴリー海賊団にも、自身の船を使ってくれるよう以前から頼んでいた。だが当時のツバキにはまだ技術者としての技量がなく、エイヴリー海賊団の船員達が酒に酔って始める遊びの罰ゲームとして、ツバキの船の試し乗りをしていた。

 少年の造る船は毎度何処か欠陥があり、乗せられた船員達は痛い目をみていた。マクシムもそれを笑いながら見ていたが、ツバキの船に対する姿勢を認めており、彼の成長を見守っていたのだ。

 ウィリアムを目標とし、彼に追いつかんと努力する少年の姿をマクシムは知っている。

 「最新の技術・・・ねぇ。ウィリアムのじぃさんが何でお前に“あの荷物“を届けさせたのか・・・。ツバキ、お前は知ってか知らずかじぃさんの思いをしっかり受け取っていたようだな・・・」

 「あぁ!?じじぃが何だって!?」

 マクシムは嬉しそうに口角を上げる。

 「しかも船に乗ってくれる人達までちゃんと現れた。・・・良かったなツバキ。漸くじぃさんとの直接対決が叶いそうじゃねぇか!楽しみにしてるぜぇ。まぁ、じぃさんの船で優勝を掻っさらっちまうのは俺達エイヴリー海賊団だがな」

 「精々天狗になっとけよ!吠え面かくのはアンタらだぜ!俺はこのレースで、じじぃの船よりもすげぇモンを造った造船技師として名乗りを上げてやる!後でお前らが俺に船を見繕って欲しいって来ても、絶対に造ってやんねぇからな!」

 言いたいことを言い終え満足したマクシムは、ツバキの船に乗るシン達の方を見ると、まるで大切な我が子を彼らに預けるかのように託してきた。

 「アンタらもレースに出んのかい?・・・大変だねぇ、変なのに捕まっちまってよ。だが・・・コイツの技術は本物だ、俺が保証する。レースに出んだろ?楽しみにしてるぜ」

 そう言ってマクシムは笑って見せると、ヘラルトの肩を押しエイヴリーの元へと戻っていった。その後ろ姿に、ツバキはヤジを飛ばしながら見送る。これから始まるレースで彼らはライバルとなる。今はまだ、これ以上の言葉は必要ないだろう。

 全ては、レースが終わった後で・・・。
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