World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
173 / 1,646

参加表明

しおりを挟む
 妻子の行方を追うツクヨは、勿論現実の世界を荒らされることを望まない。ミアの言うように、どういう原理で彼らがWoFの世界に出入り出来るようになっているのか分からない以上、大元の世界を荒らされるのは非常に危険なことだ。

 「あぁ・・・私もミアに賛成だ。こんな力を持った人達が、私達の世界に行けば、きっと良くないことが起こる。それに・・・その、ゲームのことは良く分からないが、システムが破壊されれば私達もどうなるか分からないんだ・・・」

 世界間を誰もが移動できる、そんな俄かには信じ難い代物が実在するとでもいうのだろうか。こちらの世界の住人であろうと、現実世界の住人であろうと、ここではない別の世界が存在するなど証明することは出来ない。だが同時に、証明出来なければ否定もまた出来ない。男の言う異世界への移動ポータルという存在もまた、存在し得ないとは言い切れない。

 「私達の手で入手した方が良いと思う。そんな危険な物・・・他の誰かの手に渡らせて良い物ではない・・・」

 「ツクヨの言う通りだ。幸い、そんな非現実的なことが可能だと思う者など、アタシら以外にいないだろう」

 転移ポータルについて白獅にメッセージを送っていたシンに、彼からの返信が届く。だが、送られてきたのは彼らの期待するようなものではなく、またしても危険の中へと身を投じなければならないシン達プレイヤーの性を示唆する文面が含まれていた。

 「駄目だ・・・向こうでもそんな物の存在は確認できなかったみたいだ。それに彼らが現実世界に転移した際に、ポータルのような物を使った者はいない。それにアイテムによって転移されたと認識する者もいないそうだ」

 現実世界に転移したアサシンギルドの面々も、どうやら転移の原因や要因に心当たりがある者はおらず、何も分からないのはシン達と一緒のようだった。

 「それと・・・可能であれば、その移動ポータルを入手して欲しいそうだ。それを調べることが出来れば、彼らにとっても俺達にとっても現状を打開できる情報が手に入るかもしれない・・・と」

 それを聞いて三人の意は決した。また抗えぬ運命の波に身を投じることになるのだと。しかし今回はレースの道中に配置されているということなので、上手くやれば戦闘を避けることが出来る。聖都のように、負ければ自身の存在が消えてしまうかもしれない死闘を繰り広げなくても、逃げ切ることさえ出来れば目的は達成できる。

 「何だよ、アンタら一体何の話をしてんだ?」

 その場で危機感を醸し出し、焦りや恐怖といった雰囲気の中盛り上がる彼らの会話に、全くついていけないツバキが思わず口を開く。

 これは正しく運命、異世界への転移ポータルを入手する方法はレースに参加するか、レース後にそれを手にした者から買い取るしかない。だが彼らには移動ポータルを変えるような金銭はなく、選択肢は一つしかない。

 そして目の前には、自分の船を使ってレースに参加してくれる人物を探している少年がいる。三人は揃って驚くツバキの方を見る。そして彼らの方から少年にお願いする時がきた。

 「ツバキ・・・アンタの船っていうのは、まだあるのか?」

 「ぁ・・・ぁあ?まぁ一人用のボードは、さっきハオランに譲っちまったから台数は減ったが、レースに間に合うように準備はしてある・・・けど」

 それを聞いてまずは一安心し、大きく息を吐いたシン達。そして続け様にミアが口を開き、少年に質問する。

 「急遽レースに参加しなければならない事情が出来た。アンタが最初にアタシらに出してきた提案・・・、あれを受けたい。・・・アンタの船に乗せて欲しい」

 都合の良いことを言っているのは百も承知だった。だが今から船のことやレースのことを相談し、準備をすることなど不可能に近いだろう。そう、ツバキ以外では。

 彼はレース開催ギリギリまで間に合うように準備を進め、後は船に乗る人物を探すだけという状態にあった。幸い、このタイミングでレースに参加しようという変わり者は見つからず、シン達の為に空けられた特等席のように残っていたのだ。

 ミアのお願いに、動揺していた彼の表情は喜びのものへと変わり、声を荒立てて喜びを表す。シン達にとっても彼の条件は大いに助けとなる。それはツバキ自身も船に乗ってくれるということだ。海のことも分からず、船にも詳しくない三人は、ただ船を手に入れたところで、操縦を習う時間もなければ、波や天候の変化にも対応する術を持っていなかった。

 一度は断り、彼をガッカリさせてしまった三人は、そんな彼らの掌返しを快く迎えてくれたツバキに感謝した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...