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神代 コウ

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かの国の神器

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 目的のアイテムである、海賊船ごと別の場所までワープすることが出来るという移動ポータル。それをロッシュの海賊船から無事に盗み出すことに成功したシンとグレイスは、要所要所にある影の中を飛び石のように次へ、また次へと移動し、積荷が済んで戻ろうとしている舟に渡ると、そこに乗る者にバレないよう息を潜めて陸地に近づくのを待った。

 舟を陸地につけるよりも先に、シンがタイミングを見計らいながら近場の物陰へとスキル【潜影】で移動し、ある程度距離を空けると町を往来する人々の流れに紛れ込み、夜の町へと姿を消していった。

 フーファンとシュユーからの連絡で各ポイントにいたミアやツクヨ、そしてシン達に最初に会ったハオランの行きつけの店で落ち合うことを伝えると、フーファンは妖術を解き、ロッシュの海賊船周辺に張られていた術がなくなると、術式の台座が消滅し連絡はそこで途絶えた。

 店に一番乗りで辿り着いたのは、現場で潜入していたシンとグレイス。店員の者にグレイスが話を通すと、既に彼女らの手が回っていたのか直ぐに奥の個室の方へと通され、他の面々の到着を待つこととなる。二人の到着から間もなく、フーファンが一人で入って来る。

 「一人か、シュユーはどうした?」

 「店の外でミアさんとツクヨさんをお待ちです。シュユーさんが一緒じゃないといろいろと面倒なので!」

 暫くしてフーファンの言う通り、ミアとツクヨを連れたシュユーが一行のいる部屋へと通される。そこで漸く今回の任務がどういった意味があったのかの説明が、グレイスからされた。

 「皆ご苦労だった。シン達の手助けもあり何とかロッシュの海賊船から移動ポータルのアイテムを盗むことに成功した。思わぬハプニングもあったが彼の・・・アサシンのスキルがあったおかげで乗り越えることが出来た。アタシらだけだったら大事になっていたかもしれない、危ない作戦だった。アンタ達には本当に感謝しているよ、ありがとう」

 席を立ち、まるで演説のように話を始めたグレイスが感謝の意を込めて握手を要求する。ミアとツクヨが肩をぶつけてくると、三人を代表してシンが彼女と握手を交わし、グレイスは力強く彼の肩を叩くと上機嫌に高笑いをする。その様子をいつもの事のように、酒を飲みながら流すシュユーと、満面の笑みで喜びの感情を前面に出すフーファン。

 「さて・・・、アンタ達にはまだ話していなかったかな?何故、ロッシュからこのアイテムを盗む必要があったのか・・・。それはもうすぐ開かれるレースに関係がある」

 肩を摩りながら座っていた場所へと戻るシン。元々彼らは、造船技師ウィリアムの拾い子であるツバキの船に乗ってレースに参加してくれる、言わば自分達の代わりを探している最中だった。その中でレースについて何も知らない彼らは、少しでもレースのことについて知ろうと、ハオランの後を追って尋ねたことが全ての始まりだった。

 この時彼らがロロネーについて行かなかったのは、彼の粗暴がまともな人間のすることではないと判断し、危険な人間には関わらないでおこうと思ったからでろう。もし、あの時ロロネーを追っていたら、また別の任務が発生していたことであろう。これは彼らの運命でもあったが、それ以前にWoFというゲームにおいての、“どちらの勢力に加担するか”といったストーリーの分岐点だったのだ。

 「アタシの掴んだ情報によると、ロロネーの奴がレース内で、彼らシュユーやフーファンの親玉でもある“チン・シー”の襲撃を目論んでいたようだった。だが、勢力的にロロネー率いる一味だけでは到底“チン・シー”の船団を制圧することなど出来ない。そこで奴は、ロッシュと手を組んで挟撃しようと考えた。そこで用いられる予定だったのが、この移動ポータルさ」

 レース開始後、ロッシュは別働隊として他のことを進めていく中で、ロロネーの合図と共に移動ポータルでチン・シーを襲撃し、強力な勢力を潰そうというのだ。そしてハオランとロロネーが町で対面していた時に言っていた“次はアンタを貰いに行く”とは、チン・シーのことだったのだろう。

 無論、それを良しとしないチン・シーの一味は、シュユーとフーファンを差し出し、グレイスと共に作戦を失敗させる工作をすることとなった。

 「アタシとチン・シーは協力して奴らを分断し、動揺するロロネーとロッシュを各個撃破しようってんだ。・・・個人的にもアタシはロッシュに用があるからね・・・。奴らの同盟の話を聞いた他に、別のことも耳に入ってきちまってね・・・」

 任務成功を祝う場でありながら、グレイスはその時だけ表情を曇らせた。

 その後、窮地の知らせを届けてくれたグレイス宛に、チン・シーからシュユーを通してお礼の品があるといって、とある包みを取り出す彼はそのお礼の品の封を解き、箱を開けて見せる。

 そこには大層立派に包み込まれた、何かの御神木で作られたものだろうか、一本の短剣のようなものが収納されていた。だが、グレイス派今回の功労者はシンであると言い出し、代わりに彼らにあげてくれと話してくれた。

 「どんな大層なモンかは知らないけど、アタシには装備出来そうもないし、これ以上危ないモンを預かるのは御免さね」

 テーブルの上に乗せられた豪華な箱をシン達の方へと押してよこすグレイス。三人は思わず席を立ち、箱の中に入れられた見るからに珍しいものであろう装備を覗き込む。確かに形こそ短剣ではあるが、ユーザーである彼らにはそれが“剣“であると認識される。

 三人の中で剣を装備出来るクラスに就いているのはツクヨしかおらず、その剣を見るや否や二人はツクヨに視線を送る。自身のことを指差し二人の反応を伺うと、シンとミアは何も言わずに頷いた。恐る恐る箱に入れられた剣を手に取るツクヨ。同時にシュユーがその剣について簡単な説明をしてくれたのだが、その剣の名は彼らにとって馴染みのある響きをしていた。

 「どうぞ、お納めください。その剣は我々が前回のレースで勝ち得た戦利品。”布都御魂剣ふつのみたまのつるぎ“でございます」
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