World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
155 / 1,646

絶対なる信頼

しおりを挟む
 船内に乗り込むとフーファンとシュユーは、徐に積まれていた荷物を退かしながらスペースを確保すると、フーファンは文字のようなものが書かれた札を取り出し、船の床に魔法陣を作り、その中に札を何枚か貼ると、中心部から然程大きくはない祭壇が出現する。

 「では私はここで祈祷に入ります。シュユーさん、皆さんの案内をお願いしますね」

 「了解した。設置が終わったら戻ってくる。呉々も余計なことはしないように」

 「分かってます。子供扱いしないでくださいよ!シュユーさん!」

 彼らの間で行われる定番のやり取りなのだろうか、穏やかな表情のシュユーとふてくされた様子で頬を膨らませるフーファンが会話を済ませると、少女は道具を取り出し儀式を行う。

 「それでは次のポイントに参りましょう」

 船から降りるよう手で促すシュユーに従い、ミアとツクヨは言われるがままフーファンの乗る船を降りる。船の方を振り返ると、少女のいたところから薄っすらと怪しげなオーラが立ち昇っていた。無論、目立つようなものではなく、まだ距離の空いていないミア達だからこそ、その瞳に映るものだった。

 三人は停泊場を離れ、今度は町にある港を一望出来る絶景スポットにやってくる。海だけではなく町の様子もある程度見渡せるため、何か揉め事や騒動などがあれば人の動きで直ぐに確認出来るであろう高所であり、周囲の見張りには持って来いのポイントだった。

 「さぁ、着きました。ここが次なるポイントです」

 片腕で地平線をなぞる様に広げ、ミアとツクヨに周囲の景色を確認させると、シュユーは懐からフーファンの持っていた札に良く似たものを取り出すと、辺りをキョロキョロと見渡す。そして人目につかず、あまり目立たない場所を見つけると歩みを進め、腰を下ろし手にした札を床に貼る。

 と、ここに来てただ言われるがままついて来ていただけだったツクヨが、最初のポイントを離れ始めてから疑問に思っていたことを口にした。

 「すみません、ちょっと伺いたいんですが、妖術師であるフーファン殿を置いてきてしまって良かったのですか?その・・・術式?ですか、それは彼女が居なければ設置できないのでは・・・?」

 彼の疑問というのは、妖術師が術式を設置してスキルを発動するというのに、当の本人がその場に居ずして術式の設置が可能なのか、ということだ。直接的な魔法や術を扱うクラスがいないシン達のパーティにいるツクヨには、それらの発動に必要なものや条件について疎くなってしまうのは無理もない。

 「妖術師のクラスを見るのは初めてですか?ご安心を、フーファンの術式の書かれたこの札を、術式を設置したい場所に貼れば・・・」

 そういうと、彼が札を貼った床の周りに魔法陣が浮かび上がり始め、その中心から台座の様なものが徐々に姿を表す。

 「準備が出来ましたよ、フーファン。リンクを開始して下さい」

 「了解です!」

 床に浮かび上がった魔法陣の中から少女の声が聞こえた。どうやらフーファンのいる最初のポイントとこの魔法陣が繋がっているということなのだろう。そして、彼の言うリンクというものが開始されると、台座が淡い光を灯し始める。

 「これで彼女の妖術が強化されました。より広範囲に、より強力に・・・。今回の任務では多く設置することはないので、あまり高度な効果は発動しません。さぁ、完了しました。ここのポイントはツクヨ殿にお任せしたいのですが・・・、よろしいでしょうか?」

 台座が光り、完了の合図を知らせるとツクヨに歩み寄るシュユー。町や港がよく見える見晴らしのいいこの場所は、銃による援護を行えるミアが残るのかと思っていた二人は、何故ツクヨなのかと彼に尋ねた。

 「これだけ見晴らしが良いんだ。銃による援護が出来る私じゃなくていいのか?」

 「えぇ、この配置で問題ありません。それと言うのも、狙撃が可能なミア殿には、最後のポイントを担当して頂きたく思います。それに・・・、こんな町中で銃声など穏やかではありませんしね」

 彼の言葉に思わず納得する二人。作戦のことが優先され、当然のことが頭から抜けてしまっていた。正に灯台下暗しと言いたいところであったが、ツクヨは聖都でのミアの戦いを見て、彼女はその時銃声のしない弾を撃っていたことを思い出す。

 「ミア、君は確か音を出さずに銃が撃てなかったかい?それがあれば周りに銃声を聞かれないのはおろか、物音だって立てずに済むじゃないか」

 ミアが聖都で使っていた陰属性の力を使えば、様々なモノが奪える。それこそシュユーのエンチャントによる不可視の装備と合わせれば、音を消し、気配を消し、匂いまでも消すことが可能だろう。強いて言うならば、温度探知だけは逃れることができない。確かに体温を奪うことも可能だが、それでは自身の生命を維持することができなくなってしまうからだ。

 だが、ミアの何かを奪う陰属性の力は、聖都という地にある固有の属性原子を使ったモノなので、ここで同じ芸当をするのならば、この港町グラン・ヴァーグ固有の原子が陰属性でなければならない。

 「残念だが、それ不可能だ。あれはその地にある属性を使ったものだったんだ。ここで同じことは出来ない。どの道、彼が最終ポイントに私を置きたいと言っているんだ。それに従おう」

 「それもそうだね・・・、了解した」

 ツクヨとは町の高台で別れ、次なるポイントへ移動するミアとシュユー。賑な町並みまで戻ってくると、次の経路は再び港寄りになっていく。しかし、如何やら船の方ではなく、町の外れに位置する高い丘の上にある岬の方へと進んでいるようだった。

 「なるほど。最後のポイントは船を一望出来るあの岬って訳か?」

 彼女の推測の通り、シュユーは数ある船を一望出来る岬をミアの防衛地点として残していた。ここならば不測の事態が起きた際に、銃声をあまり気にすることなく援護射撃が行える。

 「ご名答。ミア殿の推測通り、あそこが最後のポイントとなります。あのポイントならば潜入する彼女らと、妖術を使っているフーファンの両方を援護出来ます。まぁ、そんな事態にならない事を祈りますが・・・」

 漸く最後のポイントへと辿り着いたミアとシュユー。そして再び辺りを見渡し、いいポジションを探るシュユーとミア。最終的に彼女が狙いやすい場所に札を置き、フーファンに連絡を取ると、ツクヨのいたポイントと同じく魔法陣の中から台座が出現し、光を灯す。

 「これで準備は完了です」

 「アンタはどうするんだ。術式の設置はこれで最後なんだろ?潜入するシン達と合流する訳でもあるまいし」

 「私の最後の役割はフーファンの護衛です。術を発動している彼女は完全に無防備な状態になってしまいますので、誰かが側で守らなければなりません・・・」

 そう言ったシュユーの表情は穏やかで温かいものがあった。まるで信頼し合い強い絆で結ばれた相棒を想うかの様に。

 「いい相棒なんだな・・・、アンタ達」

 「えぇ・・・。私達は“あの方”に拾われなければ、自分の力の使い方も知らず、死んでいくか、利用されるかしかありませんでした。我々に道を示し、役目を与えて下さった“あの方”の判断に間違いはありません。私とフーファンが組むのも必然だったのかもしれませんね」

 彼らが厚い信頼を置く“あの方”というのは、グレイスが口にしていたチン・シーという人物で間違いないだろう。そしてその人物の言う事を疑う事なく信じる彼らは、組まされた相棒のことも疑うことなく信じて背中を預ける。彼らのその様子から、彼らのチームが如何に統率が取れたチームなのかがよく伺えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...