World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
139 / 1,646

奪われた愛情

しおりを挟む
 シンとミアがウィリアムの店を出ていくのを見送ると、ツクヨはヘラルトを連れウィリアムの後をついて行った。油の臭いと鉄板に打ち付ける金属音、銅製の鉄板の上を歩いていく二人。彼の作業場は船が入れるように海上に設けられている、港にある倉庫の床がくり抜かれたような形状をしていた。

 音を立てていた者達は、船の周りで大きく逞しい声を張り上げながら修復や造船といった作業をしている。その中にある一際大きな人影こそウィリアムであった。彼は工具や書類が散らばる大きな机の上で設計図のようなものを広げ、部下達に指示を出している。

 「ウィルさん、少しよろしいでしょうか?」

 「ぉお?なんだぁ!?買う気になったか!武具か!アイテムか?それとも船かぁ!?」

 相変わらずの豪快な声で喉を鳴らす猛々しさで応えるが、残念ながらツクヨが彼に持ちかけた話はお金に関わる話ではなかった。

 「いえ、先程店内で気になったのですが、ツバキという少年についてお聞きしたいのです」

 ウィリアムはガッカリした様子を見せた後、大きく息を吐くとツバキのことについて聞かせてくれた。話を語る彼の表情は、孫を相手にする叔父というよりは親のそれに近しい。しかしこうも歳の離れた間柄というのも滅多なものではない。

 「あぁ・・・小僧のことか。何か気がついたようだな?」

 「はい。アランさんが気になる反応をしていたので・・・」

 「また彼奴は余計な・・・。そうさな、どこから話したものかのぉ。気づいておるかも知れんが、あの子はわしの子でも孫でもない。わしが昔海賊をやっていた頃に拾った捨て子だったんじゃ・・・。海賊が子守など可笑しな話じゃろ?」

 普段のウィリアムからは想像もできないような優しい表情でツクヨに話を振る。彼もどうやらツクヨが人の親であるのを感じていたようだった。

 「あの子を初めて見たのは雨風の強い嵐の最中にある海の上じゃった。誰も乗っていない小船に豪華に遇らわれた幾つもの箱や籠が積んであった。中に金目の物が無くても、籠や装飾品だけで大分金になりそうな物じゃったから、わしらはその船を嵐の中回収した」

 側にあった椅子を手に取ると、それをヘラルトへ渡して座るよう促すウィリアム。その好意に甘え、お辞儀をして座るヘラルトと、辺りを見渡すも他に座る物が見つからないといった様子をするウィリアムに、ツクヨは自分は立ったままでいいと掌を彼の方へ向けてハンドシグナルを送る。それを見て机の上の物を雑に退かすと、彼のその巨体を支えるように机に寄りかかると案の定、ギシギシと軋みながら悲鳴のような音を立てる。

 「予想に反して船の中には食糧や金目の物が沢山あった。その内の一つの籠に高貴な布で包まれた赤子が入っていた。それがツバキじゃ。初めは赤子など放っておいて金目の物だけ奪って捨てようとしたんじゃがな・・・。あんな嵐の中、泣きもせず波に揺られて死んでいくのだと思うと、どうにも・ ・・なぁ?」

 それからウィリアムの海賊団は、船長の失われていく権威や憧れにより愛想を尽かした船員達が内部分裂を起こし、海賊としての活動に限界を感じたウィリアムは、グラン・ヴァーグで海賊旗を下ろすことを決断したという。最後まで彼に付き添ってくれた船員達も、この町に留まったり、再び海に出る者、そして今度は陸を旅する者など、各々の人生を新たに歩み始めた。

 手先が器用で頭も切れたウィリアムは、発明や科学といった道を歩み、ツバキを育てながら地道な商売を続けていくことで、レースに出る者達の造船、武器の改造などでその名を広めていった。そんな彼の姿を見て育ったツバキは、ウィリアムのような“新たな物を造る”といったことに興味を持ち始め、メキメキとその実力をつけていく。

 ツバキが育つに連れ、ウィリアムの元にいるのが不自然なほど端正で美しい見た目になっていくことから彼は、この子が何処ぞの貴族の生まれ、或いは国王の子なのではないかと思いはじめる。

 「そしてわしの予想は当たっちまった・・・。ツバキの存在は世に出てはならないと、この子を殺しに来る輩が来るようになってな。昔の馴染みの海賊に依頼して、そいつらの尋問と親の存在を探ってもらった。そうして見つかったのが、ある国の王子の存在だった。若い頃から女遊びが酷かったらしく、ツバキもその内の一人の娘から生まれた子だったらしい」

 その王子は時期に国の王となると、そのような関係のあった者達を調べさせスキャンダルを揉み消していった。ツバキの母親は何とか子を守ろうとしたが追い詰められ、誰かの元に届いて生きて欲しいと賭けに出た母親が、自分にある全てのものを船に積み込み流した後に、王の追手によって殺されてしまったという。

 事情を知ったウィリアムは、レースで知り合ったギャングと協定を結び、王の持つ財宝を全て渡す代わりに国王殺しのための根回しを依頼。自身が開発した兵器をふんだんに持ち込み、国を制圧し国王を殺した重罪人として国際指名手配される。

 筈だったが、ギャングの根回しにより対立国の侵略という筋書きに書き換えられ、彼の兵器を目にした対立国側が、彼の技術を欲したお陰で守られることになったのだそうだ。

 「あんなゲス野郎は親でも何でもねぇッ!!・・・だが、ツバキから親を奪ったのはわしだ・・・。あんなのでも親は親じゃからな。つまりあの子は、親を殺した仇に育てられているって訳だ」

 「仇だなんて・・・。そんなこと誰も思う筈がない。あの子だって同じです」

 同じ家族を失った者として、ツバキは父親と母親を。ツクヨは妻と子を。だが二人のおかれた境遇には決定的な違いがある。それは“愛情”だ。愛情を知らずして奪われるのと愛情を奪われる違いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~

華音 楓
ファンタジー
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられtた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一
ファンタジー
『いーわよ、そこまで言うならもう、親子の縁なんて切ってやる!! 絶対に成功するから、今に見てなさいよ!!』 如月風歌は、考えるより先に行動する脳筋少女。中学の卒業式の日に、親と大喧嘩し、その勢いで家出する。時空航行船のチケットを握りしめ、着の身着のまま&ほぼ無一文で、異世界に向かっていった。 同じ地球でありながら、魔法で発展した平行世界エレクトラ。この世界に来たのは『シルフィード』と呼ばれる、女性だけがなれる『超人気職業』に就くためだ。 上位階級のシルフィードは、トップアイドルのような存在。また、絶大な人気・知名度・影響力を持ち、誰からも尊敬される、人生の成功者。巨万の富を築いた者も、少なくはない。 だが、お金もない・人脈もない・知識もない。加えて、女子力ゼロで、女らしさの欠片もない。全てがゼロからの、あまりにも無謀すぎる挑戦。しかも、親から勘当を言い渡され、帰る場所すらない状態。 夢に燃えて、意気揚々と異世界に乗り込んだものの、待ち受けていのは、恐ろしく厳しい現実と、パンと水だけの極貧生活だった。 『夢さえ持っていれば、気合さえあれば、絶対に上手くいく!!』と信じて疑わない、脳筋でちょっとお馬鹿な少女。だが、チート並みのコミュ力(無自覚)で、人脈をどんどん広げて行く。 ほのぼの日常系。でも、脳筋主人公のため、トラブルが発生したり、たまにシリアスだったり、スポ根っぽい熱い展開も……。 裸一貫から成り上がる、異世界シンデレラストーリー。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

処理中です...