World of Fantasia

神代 コウ

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サムワン・テイル

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 しかし、慎には彼に話せるほどサラに関する情報を持っておらず、事態を好転させるようなものも見てはいない。

 「話せと言われても、俺には何も・・・。村で別れて以来、サラとは会っていないしその後どうなったかも分からないんだ」

 「・・・ミア、彼女はどうだ?何か知っているかもしれない。連れて来てくれないか?」

 彼の持ち出して来た提案に慎は、背筋を凍りつかされた。現実世界に来ているのは自分自身の興味や、置かれている状態の手掛かりが掴めるかもしれないという可能性があるからだった。だが、そんな身勝手な好奇心の為にミアを巻き込んでしまうという事態に、彼は何としてもそれだけは避けたい思いで胸中穏やかではなかった。

 「それは・・・。なぁ、俺はアンタ達に協力するから仲間を・・・ミアを巻き込むのはやめてくれないか?」

 慎の仲間意識は、白獅に疑いの目を向けさせるには十分な怪しさを漂わせる結果になってしまった。慎がミアをこちらに連れて来て、彼らに記憶のデータをダウンロードさせれば済む話だが、慎にはミアが現実世界に戻りたくない理由が分からないし、白獅にはそれを庇おうとする慎の対応も理解できない。

 「何故だ?お前が庇いだてする理由が分からない・・・。やはり彼女は何かを隠しているんじゃないか?」

 「それは・・・。ミアはこっちの世界に来ることを望んでいないし、その理由も俺には分からない。もしかしたらミアはサラについて何か知っているのかもしれない。俺が聞いてくるだけじゃ駄目か?・・・彼女とは友好的な関係でありたいんだ。俺には数少ない仲間だから・・・」

 必死にミアとの関係性を保つため懇願する慎に、彼は意外にも理解を示し慎の提案を受け入れてくれたようで、代わりに彼らに協力するよう要請してきた。

 「いいだろう。我々は脅迫するつもりも敵対する気もないしな。できることならお前達プレイヤーとは友好的でいたい。その代わりと言っては何だが、あちらで見たり感じた異変を我々に報告してもらいたい」

 「よかった・・・。協力するよ、それに願ってもないことだ。俺一人では調べられそうにないことだったし・・・。設備や仲間の整っているアンタ達の方が、詳しく情報を調べてくれそうだしな」

 彼らの情報網は分からないが、単独の慎よりは遥かに動きやすい。その上彼らは慎の知らないことも多く知っているようで、彼らと友好的であれば、そんな情報も聞き出せるかも知れないし、これからの活動において有益な情報も提供してくれそうだった。何より、これ以上敵を増やしたくなかったという思いが、一番大きい。

 「ところで、アンタ達は自分で調べには行かないのか?アンタも、さっきの女も俺より明かに強いだろ・・・。何も俺なんか使わなくても」

 慎が疑問に思うのも無理はないだろう。これだけの施設を持ち、簡単に慎を抑え込めるほどの力を持った仲間がいるのだ、自分達でチームを組みWoFの世界を捜索した方が、ずっと効率的だろう。それでも慎達プレイヤーにそれを頼むのには、訳があるからだ。

 「行けないんだ・・・」

 「え・・・?」

 彼は俯いてそう答えると、慎も動揺を隠せなかった。自分はWoFの世界へ転移出来ているのに、彼らは転移したっきり戻れないというのだ。いつ自分達が同じ状況になるとも限らない、そう思うと何も考えず行ったり来たりするのは、危険なのかもしれないし、慎が知らないだけで転移に条件があるのかもしれない。

 「俺達、アサシンギルドの連中は誰一人、お前達のように行き来できる者はいない。だからプレイヤーを探して協力を煽っているんだ。颯來もその内の一人だった。それがこんなことになるとは・・・」

 彼らの現状や、慎達プレイヤーに接触する理由を聞いた慎は、新たに一つの疑問が湧いてきた。それは自分よりも以前、それも数年前と彼は言っただろうか、そのプレイヤーである颯來が消息を絶っている。

 「・・・?ちょっと待ってくれ、彼女は数年前に消息を絶ったと言ったな?ということは、このバグはそんなに前から起こっていたことなのか・・・?」

 「バグ・・・?転移のことか?いつ頃から起きたことなのか、こちらでも正確には把握しきれていないな」

 慎が本当に気になったのはそんなことではない。そんなに前からこんな異常なことが起きているのに、どうしてニュースや騒ぎになっていないのかということだ。

 「何で誰も気づかない・・・?人がいなくなったり消えたりしているんだぞ!?騒ぎにならないなどそれこそ・・・」

 慎が熱量を上げ、声量を強めて話していると、彼を落ち着かせるように白獅が割って入った。

 「当事者でない者には見えないし、感じることも出来ない・・・、そしてそれを話したところで理解などされないだろう。お前は幽霊を見たと言って、それをどうやって証明する?どうやって理解してもらう?逆も然りだ。俺は異世界に転移していると言っている人間を、お前はどんな目で見る?」

 彼の言う通り自分にしか見えない、感じないものを他者に理解してもらおうとするのは、極めて困難なことであり、大抵の人間なら信じることは無いし、おかしくなったと思われてしまうだろう。それでも、例え証明出来ずとも人がいなくなっている事実がある。

 「それなら人がいなくなっていることは、どう説明するんだ?独り身の人間ばかりいなくなっている訳でもあるまいし・・・」

 「人が得ている情報というものは、極めて曖昧なものだ。いつ誰がどこで何をしていたかなど、そんな情報はいとも容易く挿げ替えられる。家族や身近な人間であってもそれは同じだ。初めからいなかった、そういうものだったと情報は更新されていく」

 「馬鹿なッ・・・家族まで?そんな簡単に忘れる訳ないだろ・・・」

 そう言いながらも慎は、自身の転移している間の家では何が起こっているのかを知らない。そして帰ってきてみれば、何事もなかったかのように日常が送られている。

 「俺達だけではないのかも知れないな・・・、異変に巻き込まれているのは」

 白獅の言葉に慎はゾッとした。自分の知らないところで、そんなに大規模な異常が起きているのかと思うと、何が本当のことで何が異常による影響を受けたことなのか、最早彼には判断のつけようもない。
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