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ホロウ・ディヴォーティー
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彼の口から思わぬ言葉が飛び出した。
それは、慎がWoFの世界に転移してから、向こう側でまだ一度も訪れることが出来ていなかった自身のクラス、アサシンのギルドがまさか現実の世界にあるとは、露程も想像していなかった。
「アサシンギルド・・・?」
ただ、ここで慎が疑問に思ったのは、彼が言っているアサシンギルドが果たして、WoFの世界でいうギルドというものと、同じであるのかどうかどうかだ。
彼らがたまたまそう名乗っているだけなのかも知れないという、予想の域をでない以上はあまり期待し過ぎない方がいいと考えた慎は、彼らの目的について聞いてみることにした。
「ここでアンタ達は何を・・・? 目的があって集まっているのか?」
慎の方から質問が次々に出てくることは、白獅も予想していたことだったのだろう。 彼は落ち着いた様子で慎に話をする。
「まぁ、聞きたいことは沢山あるだろうが、まずはここにお前を呼んだ理由だ。 ついて来な」
そういうと彼は立ち上がり、慎を先導するように施設内を進んで行くと、慎もとりあえずは彼について行くことに決め、出来る限りの情報を持って帰ろうと目論む。
道中、施設内にいた黒装束の者達からの視線を浴びるが、彼らのその視線は初めて来る者を見るといった印象ではなく、一見しさらっと流す様なものだった。彼らもきっと、慎のような何も知らない者が施設を訪れるのに慣れているのだろう。
診察台の群れを抜け、幾つかの扉がある通路を進んで行くと、白獅はその一室の前に立つと、ドアが自動で開き、真っ暗な部屋の中へと慎を案内した。
「入ってくれ」
彼に導かれるがままに暗い部屋の中へと進むと、センサーが人の動きを検知したのか、部屋の明かりが勝手につき、室内の全貌を照らし出す。
そこはまるで現代で言う手術室のように、一台の診察台とそれに付随するタッチパネルのようなものがあるだけの、割と近代的であった施設からしたら、やや殺風景という印象の部屋だった。
二人が部屋に入るとドアは自動で閉まり、外から聞こえてくる音は、生活音から足音まで、耳を澄ましても聞こえないくらいに遮断されている。
「ここは・・・?」
「お前に見せたいものがあると言ったな、それがある場所だ」
彼の返しに、何かおかしいと感じた慎は眉をひそめて周囲を見渡すも、辺りには別段変わった物があるわけでも、誰かがいるわけでもない。
見せたいものの正体が分からず困惑する慎は、それがそもそも物であるのか人であるのか、或いは映像や白獅自身の何かであるのかさえ想像がつかず、その上で何もない部屋でここにあると言われたのだ、余計にいろいろな予想が慎の頭の中を駆け巡ってしまうのも無理もない。
しきりに見回す慎を余所に、白獅が歩いて彼の横を通りすぎると、診察台の近くにあるパネル台の元に止まり、何か操作をしていると、突然診察台の上に何者かが仰向けで寝そべった姿で現れ始める。
何事かと、急ぎ白獅の元までやってきた慎は、そこで驚きの光景を目にする。
「誰だ・・・これ・・・。 生きているのか?」
そこには一人の女性が診察台の上で横たわっており、彼女の身体の輪郭に低解像度の画像のようなジャギーが所々に見られ、映像の乱れのような現象が起こっている。
「生きているのか死んでいるのか・・・、明確な答えは我々には分からない。 彼女は雲母颯來きらら さら、お前と同じくWoFをプレイしていたユーザーの一人だ」
白獅の言葉に、驚きのあまり言葉を失う。 目の前にいる彼女が自分と同じ人間であることが俄かに信じ難い慎は、台の上で横たわる彼女の手に触れようとしたが、慎の手は彼女を擦り抜けてしまう。
「ッ・・・!?」
「それは彼女のデータ体だ、実体ではない」
慎は彼女を擦り抜けた自分の手を見ながら、彼女が実体でないことを確かめると、白獅が言っていた“データ体”という言葉が、慎の耳に鮮明に残っていた。
「データ体?」
「そうだ・・・。 彼女の本体、彼女自身は数年前に消息を絶っている。 そして彼女のWoF内での活動記録もまた、最近になって途絶えている」
彼らがどうやって彼女のことを調べたのかは分からないが、もし彼女が慎達と同じ“バグ”に遭遇し、WoFの世界に転移していたとするならば、彼女のこの状態に自分達も成り得るのだと思うと、慎の顔からは血の気が引いていった。
そして白獅の口から、更に慎を驚かせる真実が告げられる。
「彼女のキャラクター名は“サラ”。 WoFの世界に転移できるようになってからは、向こうでサラ・マクブライドという名で活動していたらしい」
それは慎達が最初にWoF内で遭遇した異常なクエストで出逢った少女、サラの名前であった。 だが、慎達が会ったのは“少女”の姿をしたサラであって、今目の前の診察台に横たわっている女性とは、歳も体格も全くの別人だが、見ず知らずの女性と、僅かだが共に過ごしていた少女が同じ名前のキャラクターであること、急に与えられた情報と自身の知り得るサラの情報が混ざり、混乱する慎の額からは冷や汗が滲み出て、彼の意思とは別に口が徐々に開いていた。
「前回、お前に接触した際に、お前から記憶のデータをダウンロードした。 その中に“サラ・マクブライド”という人物のデータがあることが後に分かったんだ」
「あ・・・ぁ・・・いやまてッ! 俺の知っているサラは子供だったぞ!? 彼女とはッ・・・」
思わず声を震わせながら、自分の知っているサラの情報は話し、ここにいる彼女とは別人ではないのかと意見を提示する慎。
「WoFのキャラクターは自分好みに作成することができる・・・違うか? 歳や体格といった外見上の情報は、必ずしも本人を模しているとは限らない」
白獅の言う通り、キャラクターメイキングは各々が自由に作り替えることのできるもので、自身に似せたキャラクターを作る人もいれば、全く違う自分の好きを集めたかのようなキャラクターを作る人もいる。 故に先程慎の言おうとしていた、彼の知るサラと目の前にいる彼女のキャラクターであるサラが、別人である証拠にはならない。
「慎、話せ・・・。 お前の知り得る彼女についての情報を。 これはお前達自身にも関わる重大なことだぞッ!」
彼の言うサラの現状と、ここにいる慎や、WoF内にいるミアとツクヨ、そして他にもいるのかもしれない“バグ”に遭遇したプレイヤー達が、どういった状態にあるのか、そして現実世界で消息を絶ったプレイヤーとWoF内のキャラクターの関連性は、彼らの生き死に関わること、そして現実世界には転移してきたアサシンギルドの者達にとっても、何かしらの手掛かりに成り得る可能性が、この一件にはあるのかもしれない。
それは、慎がWoFの世界に転移してから、向こう側でまだ一度も訪れることが出来ていなかった自身のクラス、アサシンのギルドがまさか現実の世界にあるとは、露程も想像していなかった。
「アサシンギルド・・・?」
ただ、ここで慎が疑問に思ったのは、彼が言っているアサシンギルドが果たして、WoFの世界でいうギルドというものと、同じであるのかどうかどうかだ。
彼らがたまたまそう名乗っているだけなのかも知れないという、予想の域をでない以上はあまり期待し過ぎない方がいいと考えた慎は、彼らの目的について聞いてみることにした。
「ここでアンタ達は何を・・・? 目的があって集まっているのか?」
慎の方から質問が次々に出てくることは、白獅も予想していたことだったのだろう。 彼は落ち着いた様子で慎に話をする。
「まぁ、聞きたいことは沢山あるだろうが、まずはここにお前を呼んだ理由だ。 ついて来な」
そういうと彼は立ち上がり、慎を先導するように施設内を進んで行くと、慎もとりあえずは彼について行くことに決め、出来る限りの情報を持って帰ろうと目論む。
道中、施設内にいた黒装束の者達からの視線を浴びるが、彼らのその視線は初めて来る者を見るといった印象ではなく、一見しさらっと流す様なものだった。彼らもきっと、慎のような何も知らない者が施設を訪れるのに慣れているのだろう。
診察台の群れを抜け、幾つかの扉がある通路を進んで行くと、白獅はその一室の前に立つと、ドアが自動で開き、真っ暗な部屋の中へと慎を案内した。
「入ってくれ」
彼に導かれるがままに暗い部屋の中へと進むと、センサーが人の動きを検知したのか、部屋の明かりが勝手につき、室内の全貌を照らし出す。
そこはまるで現代で言う手術室のように、一台の診察台とそれに付随するタッチパネルのようなものがあるだけの、割と近代的であった施設からしたら、やや殺風景という印象の部屋だった。
二人が部屋に入るとドアは自動で閉まり、外から聞こえてくる音は、生活音から足音まで、耳を澄ましても聞こえないくらいに遮断されている。
「ここは・・・?」
「お前に見せたいものがあると言ったな、それがある場所だ」
彼の返しに、何かおかしいと感じた慎は眉をひそめて周囲を見渡すも、辺りには別段変わった物があるわけでも、誰かがいるわけでもない。
見せたいものの正体が分からず困惑する慎は、それがそもそも物であるのか人であるのか、或いは映像や白獅自身の何かであるのかさえ想像がつかず、その上で何もない部屋でここにあると言われたのだ、余計にいろいろな予想が慎の頭の中を駆け巡ってしまうのも無理もない。
しきりに見回す慎を余所に、白獅が歩いて彼の横を通りすぎると、診察台の近くにあるパネル台の元に止まり、何か操作をしていると、突然診察台の上に何者かが仰向けで寝そべった姿で現れ始める。
何事かと、急ぎ白獅の元までやってきた慎は、そこで驚きの光景を目にする。
「誰だ・・・これ・・・。 生きているのか?」
そこには一人の女性が診察台の上で横たわっており、彼女の身体の輪郭に低解像度の画像のようなジャギーが所々に見られ、映像の乱れのような現象が起こっている。
「生きているのか死んでいるのか・・・、明確な答えは我々には分からない。 彼女は雲母颯來きらら さら、お前と同じくWoFをプレイしていたユーザーの一人だ」
白獅の言葉に、驚きのあまり言葉を失う。 目の前にいる彼女が自分と同じ人間であることが俄かに信じ難い慎は、台の上で横たわる彼女の手に触れようとしたが、慎の手は彼女を擦り抜けてしまう。
「ッ・・・!?」
「それは彼女のデータ体だ、実体ではない」
慎は彼女を擦り抜けた自分の手を見ながら、彼女が実体でないことを確かめると、白獅が言っていた“データ体”という言葉が、慎の耳に鮮明に残っていた。
「データ体?」
「そうだ・・・。 彼女の本体、彼女自身は数年前に消息を絶っている。 そして彼女のWoF内での活動記録もまた、最近になって途絶えている」
彼らがどうやって彼女のことを調べたのかは分からないが、もし彼女が慎達と同じ“バグ”に遭遇し、WoFの世界に転移していたとするならば、彼女のこの状態に自分達も成り得るのだと思うと、慎の顔からは血の気が引いていった。
そして白獅の口から、更に慎を驚かせる真実が告げられる。
「彼女のキャラクター名は“サラ”。 WoFの世界に転移できるようになってからは、向こうでサラ・マクブライドという名で活動していたらしい」
それは慎達が最初にWoF内で遭遇した異常なクエストで出逢った少女、サラの名前であった。 だが、慎達が会ったのは“少女”の姿をしたサラであって、今目の前の診察台に横たわっている女性とは、歳も体格も全くの別人だが、見ず知らずの女性と、僅かだが共に過ごしていた少女が同じ名前のキャラクターであること、急に与えられた情報と自身の知り得るサラの情報が混ざり、混乱する慎の額からは冷や汗が滲み出て、彼の意思とは別に口が徐々に開いていた。
「前回、お前に接触した際に、お前から記憶のデータをダウンロードした。 その中に“サラ・マクブライド”という人物のデータがあることが後に分かったんだ」
「あ・・・ぁ・・・いやまてッ! 俺の知っているサラは子供だったぞ!? 彼女とはッ・・・」
思わず声を震わせながら、自分の知っているサラの情報は話し、ここにいる彼女とは別人ではないのかと意見を提示する慎。
「WoFのキャラクターは自分好みに作成することができる・・・違うか? 歳や体格といった外見上の情報は、必ずしも本人を模しているとは限らない」
白獅の言う通り、キャラクターメイキングは各々が自由に作り替えることのできるもので、自身に似せたキャラクターを作る人もいれば、全く違う自分の好きを集めたかのようなキャラクターを作る人もいる。 故に先程慎の言おうとしていた、彼の知るサラと目の前にいる彼女のキャラクターであるサラが、別人である証拠にはならない。
「慎、話せ・・・。 お前の知り得る彼女についての情報を。 これはお前達自身にも関わる重大なことだぞッ!」
彼の言うサラの現状と、ここにいる慎や、WoF内にいるミアとツクヨ、そして他にもいるのかもしれない“バグ”に遭遇したプレイヤー達が、どういった状態にあるのか、そして現実世界で消息を絶ったプレイヤーとWoF内のキャラクターの関連性は、彼らの生き死に関わること、そして現実世界には転移してきたアサシンギルドの者達にとっても、何かしらの手掛かりに成り得る可能性が、この一件にはあるのかもしれない。
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