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因縁に紡がれる使徒
しおりを挟む降ってきた何かはコンクリートを粉々に叩き割り、その場にクレーターが出来るほどの勢いで着地すると、風圧と共に石や土煙が慎を襲う。
「・・・ッ!?」
あまりの出来事と衝撃に身を屈めて顔を覆うが、WoFに長くいたせいか、あの時とは勝手が違うのを今になって漸く思い出すことになる。
危険を前にしても身体が動かず、ただの風圧に耐えるだけでも精一杯であった。
薄目を開けて何かが落ちたであろう土煙の中を見ると、人影のようなものがその場で立ち上がり、そのままこちらへと歩いてくる。
「目標を捕捉・・・、対象に接触する」
やや高めの機械音声のようなもので、人影が何やら不穏な言葉を発すると、その瞬間に姿を消して慎の背後に回り、彼の両腕を背中に持っていくと、振り解こうとする彼を片手で抑え、その首筋にひんやりと冷たい何かを当てる。
もしこの人物が殺意を持っているのであれば、取り押さえるよりも先に首を跳ねられていてもおかしくない。
それをしないということは、彼を利用するか、或いは対話を求めてくるといった可能性があるのではないかと考えた慎は、抵抗することなく、大人しく為すがままにされることを選んだ。
慎の選択が功を制したのか、その人物は彼の拘束を解き、自由の身にすると再度、機械音声で誰かと通信しているようだった。
「対象の情報不足を検知・・・、アップデートを推奨」
すると、その人物の機械音声とは別に、聞き覚えのある男の声が、その人物の方から聞こえてきた。
「・・・まさか君も襲ったのか? ま、まぁ・・・前回話す時間も無かったしな」
男の声に聞き覚えのあった慎は、すぐにその人物の方を振り返り、話しかけようとしたが、漸く全貌を表したその人物の姿を前に、話そうとしていた内容が頭から消えてしまった。
彼の前に立っていたのは、身体にピッタリと密着し黒々とした、何かの特殊なスーツを身に纏い武装した女性の姿があった。
彼女は胸元に手を入れ何かを取り出すと、その球体状の何かを上に投げる。
慎は咄嗟に女性から目を逸らすが、投げられた球体に目が行くと、球体から光が放たれ、建物の壁に移動ポータルのようなものを映し出した。
女性が入れと言わんばかりに顎で慎を扱うが、当然彼もそんな得体の知れないものに、何の疑いもなく入るほど馬鹿ではなかったため、何の為に自分がここに来たのか、目的を話して彼女を説得しようと試みる。
「俺はここで、人と会う約束をしてるんだ」
ポータルに入らず叙説し始める慎に痺れを切らしたのか、有無を言わさず近づき彼の襟を掴むと、女性のものとは俄かに信じがたい力で持ち上げられ、球体の映し出すポータルの方へと半ば強制的に運んで行く。
「まッ・・・待ってくれッ! 俺は人に会いに来ただけなんだッ!」
何とか彼女の手から逃れようと暴れ回る慎だったが、その腕はピクリとも動くことはなかった。
「連行する・・・」
感情の一切篭らぬ機械音声で、無慈悲に放たれた彼女の言葉に焦燥の色を見せる慎は、彼女が通信していた声の主を思い出し、その人物が慎の約束の人物、白獅であると決め打ち、誰に会う為なのか明確なことを言い、彼女の信用を得ようと試みる。
「俺はッ・・・アンタの通信相手に呼ばれてッ・・・」
慎が咄嗟に考えた叙説を待たずして、彼女が彼の言葉を遮るように割り込んでくると、慎にとっては好都合な、思いもがけない言葉が彼女の口からか、そのスーツからか発せられた。
「だから・・・会いに行く」
「・・・えッ?」
そして冷静になれば分かっていたであろう事柄が、浮かび上がってく。
彼女の通信相手の声、それは慎も一度は聞いて知っている声であったことから、彼女はその声の主と内通している。
「“白獅”に合流する・・・」
「・・・!?」
呆気にとられる慎を余所に、彼を掴んだまま彼女はポータルの中へと入っていくと、ログインやログアウトの時と同じような空間を渡り、別の場所へと移動してきた二人。
雑にその手から解放された慎は、まだ身体に力が入らず膝から崩れ落ち、四つん這いの体勢で暫く放心状態となった。
「ご苦労様。 ありがとう、助かった」
一人の男が近づいて来ると、慎を連れて来た女性と何やら話をしているのが聞こえてくる。
「報酬の確認・・・」
「分かってる。 アップデートの準備は出来てるから」
男から何か依頼されていたのだろうか、報酬の確認が取れると彼女はそそくさと歩いて行ってしまった。
「感謝・・・」
彼女を見送り、男は慎の側で身を屈めると、手を差し伸べて自らが赴けなかったことを詫びると、慎は男の顔を見て、彼が以前に現実世界で会った白獅と名乗る人物であると、確信する。
「悪いな、急に呼び出して・・・」
「ここは・・・一体・・・?」
何処かの研究施設のような場所で、明かりは少なく、診察台のようなものが幾つもあり、その側には多くのモニターがアーム状のもので設置されていた。
辺りでは座って会話を弾ませている者達や、機械を操作し何かを調べている者、寝そべって休息する者など、様々な者達がいるようだが皆共通して黒っぽい目立たぬ格好をしている印象を受けた。
「あぁ、彼らとは仲間・・・と言うよりは協力関係、同盟者みたいなもんかな。 似たような境遇の奴らが集まって、情報を共有したり共に戦ったりしている」
同じ境遇の者ということは、ここにいる皆は一様に慎と同じく、奇怪なバグに遭遇した者達なのだろうか。
しかし、目立たないとは言え、それで外を歩けば人目につくような格好しているため、恐らく生身ではなくキャラクターでここに来ているのだろう。
そうした考察を広げる慎であったが、どうやら話はもっと複雑なようで、白獅が最初に言っていた“厳密には違う”という意味が、ここで漸く明かされることになる。
「俺達は元々別の場所からやってきたんだ。 そう、お前達がWoFと呼ぶ世界に、良く似た世界からやってきた転移者・・・」
「WoFの世界から・・・?」
白獅の発言から、どうやらここに集まってきている者達は、WoFの世界からこちらに転移して来た、慎達とは逆の境遇にある者達のようだ。
「そして、何故だかは知らんが、ここに来る奴らは決まって同じクラスについている・・・。 だから俺達は、自分らが元いた世界になぞって、この場所のことをこう呼んでいる・・・」
彼は目を閉じ、少しだけ溜めを作ると、新人を快く迎え入れる様に口角を上げて、慎がWoFで探していた施設の名を口にする。
「“アサシンギルド”ってな・・・。 無事だった様で何よりだ、慎」
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