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覚悟を受け入れる覚悟
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手紙は急遽拵えたかのようなもので、お世辞にも綺麗とは言えないものだった。
「俺が意識を取り戻した後、医者から渡されたものだ。 懐に入れられていたらしい、俺の所持品だと思ったらしく、中を確認することはなかったそうだ」
イデアールから渡された手紙には、アーテムの字でいくつか今後のことに関する記述がまとめられていた。
まず、聖都ユスティーチ国内の混乱を最小限にする為、シュトラール及び聖騎士や騎士、ルーフェン・ヴォルフ組員、有志の協力者の負傷、殉職は騒動の鎮静化を行う際に生じた“事故”である、ということで話を進めて欲しいという。
国内の者同士の争いであったとなれば、自ずと二つの勢力が浮かび上がることだろう。 それはこの国の民達は勿論のこと、交渉でやってくる商人や他国の者であっても明白。
聖都に暮らす者はシュトラールを信じており、国中に撒かれた毒の発生源がルーフェン・ヴォルフのアジトへ続く出入り口付近からと知れば、彼らの行動は激化し、第二の動乱が起こりかねない。
次に、今回の騒ぎを引き起こしたのは、王位を狙ったアーテムの単独での行いであるように仕向けて欲しいということ。
本来であれば、ルーフェン・ヴォルフ内にアーテムを慕う者も多くいる中で、彼の単独の行いであるというのは考えづらいものだ。
ただ、今回起きた現在確認できる動乱の死者の中には、ルーフェン・ヴォルフの幹部や組員の名も多く、また、彼らに命を救われた民も多数存在し、騎士と協力しモンスターの討伐にあたる姿も確認されている。
それを逆手に取り、彼らはアーテムから何も知らされていないことと、目的の為なら組織の仲間でさえ犠牲にする非道さを際立たせることで、騎士や民達の目をアーテムに向けさせ、ルーフェン・ヴォルフの組員も同じ被害者であるよう仕向けられる。
そしてシン達も同じく、動乱の鎮静化に尽力し、命を懸けて協力してくれたユスティーチの盟友として、名誉を授かることもできる。
これにより、国王殺し及び、国王殺しの加担者という汚名で、世界から目をつけられることもなくなり、皆にとって最善の落とし所を得ることができるのだ。
「悪い、イデアール・・・。 まさか、アーテムがこんな・・・」
手紙の内容を読み、事の真相を知ったシンは、感情に任せイデアールに掴みかかってしまったことを謝罪すると共に、アーテムのおかげで今生きていられるのを知り、彼への感謝と申し訳なさで心を傷める。
「彼は・・・アーテムは一体何処へ・・・?」
聖都では彼が、民を惑わし仲間さえも騙し、己の私欲で国家の転覆を狙った犯罪者として憎む人が増え、とても彼を庇えるような状態ではない。
「残りの聖騎士と騎士達には見つけ次第、俺に報告するよう伝えてある。 民に関しても、もし見かけるようなことがあっても自分達でどうこうするなどとは考えず、騎士達に情報提供をするようにしているが、おそらくユスティーチには既にいないだろうな・・・」
それに今の聖都で身を隠すのは難しいだろう。 救助や復興で国中に騎士達が配置されており、小さな物音でもすれば直ぐに反応を示すほど神経質になっている。
他国へ逃亡しようにも、近隣諸国では入国の制限や、身元の確認などの審査が厳しくなっている為、真っ当な手段では入ることすら厳しいだろう。
「アーテムの誤解を解く術はないのか・・・?」
彼をなんとか助けられないだろうかと、まだ心のどこかで思っているシンだが、イデアールはそんな彼に冷たく現実を見せる。
「指名手配されている以上、彼に関わらない方が身の為だ・・・。 一国の犯罪者に留まらず、流通や貿易、他国らとの橋渡しなどの政策も行なっていたユスティーチを、機能出来ない状態に陥れた犯罪者となれば、手を貸しただけでも重罪になり得る・・・」
「そんなことはわかってるッ・・・! だが・・・何か、何かないのか・・・」
くにの事情に深入りしないよう心がけていたつもりだったが、親切にしてくれるアーテムや朝孝、そしてその仲間たちや街の人々に心動かされ、情が生まれことで見捨てることが出来なくなってしまったシン達。
そんな恩人を救いたいと思って戦った結果、彼から自由を奪い、母国から半ば追放という形となり、犯罪者という汚名まで背負わせてしまったことが、別の方法があったのではないか、自分達が関与しなければと、悔やんでも悔やみきれない気持ちでいた。
イデアール自身も、国のあり方、シュトラールの理想と袂を分かち、対立する結果となったが故、下手をすれば同じ犯罪者となっていてもおかしくなかった。
それでも彼は取り乱すことなく、毅然とした態度でシンに振舞っていた。
「シン、ミア・・・。 君達がここ、聖都ユスティーチを訪れようが訪れまいが・・・、我々と関わろうが関わらまいが、いずれ争いは起きていたんだ・・・。 もう彼のことは忘れろ・・・。 それが君達の・・・お前の為でもあるんだ、シン」
イデアールが、自分と同じ後悔の念を持っているものだと思っていたシンは、アーテムの一件に悔いが無い様子で、区切りを付けられている様子の彼に、薄情ではないかと思っていた。
「何故そんなに淡白でいられる・・・? アンタにとっても朝孝さんの志を共にした兄弟子のような存在だろ・・・。 そんなアーテムのことを忘れろだなんて・・・」
未練がましいシンの態度に、彼を突き放つかのようにイデアールは言う。
「組織に属さぬお前には分からんさ・・・」
「・・・何ッ・・・?」
彼の哀れむ目に、苛立ちを込めた睨みで返すシン。
「死地へ赴く仲間が、友人が、家族がッ・・・。 腹を括って決めたことやケジメ、覚悟をどうにかしてやりたいなど、その者に対する侮辱に値する行為だッ・・・!」
イデアールには、アーテムがどんな思いで決断し、責任を負う覚悟を決めたのかが分かっていたのだ。
それ故に、彼の行為にそれ以上口出しすることも、余計なことをするつもりもなく、全てを受け入れ、非常な決断をする覚悟をもって振舞っていたのだった。
「お前は・・・アーテムの覚悟に泥を塗るつもりか・・・?」
軍隊や武装組織など、命をかけるという重たい志を持って組織に属したことがなかったシンは、そんな彼らの思いを察することが出来ず、ただ子供のようなわがままで幼稚なことを口にしていたのだと、その時初めて思い知らされた。
「俺が意識を取り戻した後、医者から渡されたものだ。 懐に入れられていたらしい、俺の所持品だと思ったらしく、中を確認することはなかったそうだ」
イデアールから渡された手紙には、アーテムの字でいくつか今後のことに関する記述がまとめられていた。
まず、聖都ユスティーチ国内の混乱を最小限にする為、シュトラール及び聖騎士や騎士、ルーフェン・ヴォルフ組員、有志の協力者の負傷、殉職は騒動の鎮静化を行う際に生じた“事故”である、ということで話を進めて欲しいという。
国内の者同士の争いであったとなれば、自ずと二つの勢力が浮かび上がることだろう。 それはこの国の民達は勿論のこと、交渉でやってくる商人や他国の者であっても明白。
聖都に暮らす者はシュトラールを信じており、国中に撒かれた毒の発生源がルーフェン・ヴォルフのアジトへ続く出入り口付近からと知れば、彼らの行動は激化し、第二の動乱が起こりかねない。
次に、今回の騒ぎを引き起こしたのは、王位を狙ったアーテムの単独での行いであるように仕向けて欲しいということ。
本来であれば、ルーフェン・ヴォルフ内にアーテムを慕う者も多くいる中で、彼の単独の行いであるというのは考えづらいものだ。
ただ、今回起きた現在確認できる動乱の死者の中には、ルーフェン・ヴォルフの幹部や組員の名も多く、また、彼らに命を救われた民も多数存在し、騎士と協力しモンスターの討伐にあたる姿も確認されている。
それを逆手に取り、彼らはアーテムから何も知らされていないことと、目的の為なら組織の仲間でさえ犠牲にする非道さを際立たせることで、騎士や民達の目をアーテムに向けさせ、ルーフェン・ヴォルフの組員も同じ被害者であるよう仕向けられる。
そしてシン達も同じく、動乱の鎮静化に尽力し、命を懸けて協力してくれたユスティーチの盟友として、名誉を授かることもできる。
これにより、国王殺し及び、国王殺しの加担者という汚名で、世界から目をつけられることもなくなり、皆にとって最善の落とし所を得ることができるのだ。
「悪い、イデアール・・・。 まさか、アーテムがこんな・・・」
手紙の内容を読み、事の真相を知ったシンは、感情に任せイデアールに掴みかかってしまったことを謝罪すると共に、アーテムのおかげで今生きていられるのを知り、彼への感謝と申し訳なさで心を傷める。
「彼は・・・アーテムは一体何処へ・・・?」
聖都では彼が、民を惑わし仲間さえも騙し、己の私欲で国家の転覆を狙った犯罪者として憎む人が増え、とても彼を庇えるような状態ではない。
「残りの聖騎士と騎士達には見つけ次第、俺に報告するよう伝えてある。 民に関しても、もし見かけるようなことがあっても自分達でどうこうするなどとは考えず、騎士達に情報提供をするようにしているが、おそらくユスティーチには既にいないだろうな・・・」
それに今の聖都で身を隠すのは難しいだろう。 救助や復興で国中に騎士達が配置されており、小さな物音でもすれば直ぐに反応を示すほど神経質になっている。
他国へ逃亡しようにも、近隣諸国では入国の制限や、身元の確認などの審査が厳しくなっている為、真っ当な手段では入ることすら厳しいだろう。
「アーテムの誤解を解く術はないのか・・・?」
彼をなんとか助けられないだろうかと、まだ心のどこかで思っているシンだが、イデアールはそんな彼に冷たく現実を見せる。
「指名手配されている以上、彼に関わらない方が身の為だ・・・。 一国の犯罪者に留まらず、流通や貿易、他国らとの橋渡しなどの政策も行なっていたユスティーチを、機能出来ない状態に陥れた犯罪者となれば、手を貸しただけでも重罪になり得る・・・」
「そんなことはわかってるッ・・・! だが・・・何か、何かないのか・・・」
くにの事情に深入りしないよう心がけていたつもりだったが、親切にしてくれるアーテムや朝孝、そしてその仲間たちや街の人々に心動かされ、情が生まれことで見捨てることが出来なくなってしまったシン達。
そんな恩人を救いたいと思って戦った結果、彼から自由を奪い、母国から半ば追放という形となり、犯罪者という汚名まで背負わせてしまったことが、別の方法があったのではないか、自分達が関与しなければと、悔やんでも悔やみきれない気持ちでいた。
イデアール自身も、国のあり方、シュトラールの理想と袂を分かち、対立する結果となったが故、下手をすれば同じ犯罪者となっていてもおかしくなかった。
それでも彼は取り乱すことなく、毅然とした態度でシンに振舞っていた。
「シン、ミア・・・。 君達がここ、聖都ユスティーチを訪れようが訪れまいが・・・、我々と関わろうが関わらまいが、いずれ争いは起きていたんだ・・・。 もう彼のことは忘れろ・・・。 それが君達の・・・お前の為でもあるんだ、シン」
イデアールが、自分と同じ後悔の念を持っているものだと思っていたシンは、アーテムの一件に悔いが無い様子で、区切りを付けられている様子の彼に、薄情ではないかと思っていた。
「何故そんなに淡白でいられる・・・? アンタにとっても朝孝さんの志を共にした兄弟子のような存在だろ・・・。 そんなアーテムのことを忘れろだなんて・・・」
未練がましいシンの態度に、彼を突き放つかのようにイデアールは言う。
「組織に属さぬお前には分からんさ・・・」
「・・・何ッ・・・?」
彼の哀れむ目に、苛立ちを込めた睨みで返すシン。
「死地へ赴く仲間が、友人が、家族がッ・・・。 腹を括って決めたことやケジメ、覚悟をどうにかしてやりたいなど、その者に対する侮辱に値する行為だッ・・・!」
イデアールには、アーテムがどんな思いで決断し、責任を負う覚悟を決めたのかが分かっていたのだ。
それ故に、彼の行為にそれ以上口出しすることも、余計なことをするつもりもなく、全てを受け入れ、非常な決断をする覚悟をもって振舞っていたのだった。
「お前は・・・アーテムの覚悟に泥を塗るつもりか・・・?」
軍隊や武装組織など、命をかけるという重たい志を持って組織に属したことがなかったシンは、そんな彼らの思いを察することが出来ず、ただ子供のようなわがままで幼稚なことを口にしていたのだと、その時初めて思い知らされた。
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