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神代 コウ

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底知れぬ漢の光

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「シュトラールの式神だ・・・」

ミアが口を開き、空っぽの聖騎士との戦闘を思い返すと、確かにシュトラールの式神であったとするならば、納得のいく点が多くある。

「馬鹿なッ・・・、あり得ないッ! いくら奴が化け物じみた強さだったとしても、数が多過ぎる。 もしそんなことが可能なら、一人で軍隊を組めるレベルだぞ・・・」

シュトラールのクラス陰陽師のスキル【式神】とは、召喚士のスキルである【召喚】と良く似ているが、召喚士の召喚は多くの魔力を消費してモンスターや精霊などを召喚し、陰陽師の式神は呼び出すモノや、どの程度自由に操作できるか、どのくらいの時間召喚しておくかなどで条件が変わり、要するに自由に操れる強い式神は消費が激しく多くは呼べない。

逆に、簡単な命令を守るだけで弱い式神であれば、多くの数を呼び出すこともできる。

「式神の強さにもよるが、不可能なことではないのかもしれない・・・」

錬金術のクラスについている、ミアだからこそ分かることがあるようだ。

「戦闘を行う際の、頭数であるなら分かるが・・・。 いや、それにしても数が尋常ではない・・・。 それに日常生活はどうしていたんだ? 無愛想なだけじゃなく、返事もしないんじゃ流石に誰か気づくんじゃないか?」

シンの言う疑問も、最もだ。 知性を持たない空っぽの鎧と訓練や生活をしていれば、イデアールが気づかないのもおかしい。

「詳しい方法は分からないが、切り替えていたんじゃないか? 普段は簡単な命令をこなす式神であって、戦闘や会話になれば、精度の高い式神に切り替わる仕組みが組まれていたのなら・・・」

「スキルをそんなに精密に遠隔操作できるものなのか・・・?」

逐一式神を監視し、状況を見て切り替えていたらシュトラールは、他のことが出来なくなってしまうのではないだろうか、それに単純にスキルをそこまで器用に使うことができるのかという疑問が、シンの中に湧いてくる。

「錬金術でも用いる錬成陣や魔法陣といった紋章や陣の設置だよ。 事前に準備をしておけば魔力消費や時間の短縮にもなる。要はシステムを組んでおくってことだよ」

ミアの言っていることは、必要に応じて聖騎士の中身が切り替わるようなシステムを組むことによって、単純な命令をこなす聖騎士が警備や巡回にあたり、問題が起きた際には精密な式神に切り替えていたのだという。

「それこそ、聖都中・・・国を覆い尽くすほど巨大な陣を使ってな・・・」

ミアの言うように、それほど巨大な工房であれば、あれだけ多くの聖騎士を管理することも可能だろう。

そしてシュトラールには、それを設けるだけの時間も力も、権力もある。

「彼ならそれも可能か・・・。 身内にもバレずに、出し抜かれていたのか・・・」

シュトラールが、残り一部の聖騎士達はおろか、隊長の三人にさえ悟られることなく、着々と準備を進めていたのかと思うと、如何に彼の力で聖都が支えられていたのかを知ったイデアール。

「なるほど・・・。 城内に人が少ない理由はわかった。 それでイデアール、ここに来る途中で気になる噂を耳にしたんだが・・・」

聖都の人手不足の理由を知ったシンは、いよいよ一番気になっていた噂の真偽について尋ねる。

「アーテムが・・・指名手配されていると聞いたんだが、本当なのか・・・?」

「・・・」

シンの質問にイデアールは口を紡ぎ、何と言えばいいのかと悩んでいるようすであったが、しばらくの間があった後に、答えを出した。

「・・・本当のことだ、アーテムは世界中に指名手配されている・・・」

それを聞き、信じられないといった様子で愕然とするシンとミア。

「な・・・なんでそんなことに・・・。 彼は国の為に戦ったんじゃないのかッ!? それがなんで犯罪者になるんだッ・・・」

短剣の技術を教えてくれた、短い間ではあるが共に日々を過ごしたアーテムの処遇に、ショックを受けるシンと、それを彼に伝えたイデアールは俯き、薄っすらと額に汗を浮かべる。

「イデアール・・・アンタか・・・?」

イデアールの様子に、まだ何かあると感づいたミアが目を見開いて、彼に問い詰める。

「シャルロットから聞いていた通り・・・、貴方は感が良いようだ」

「どういう・・・ことだ、イデアール?」

唖然として尋ねるシン。

「この国の者は、皆一様にシュトラール殿のことを信じている・・・。 誰も今回の件が彼の仕業だとは思わない。 他国からの侵攻だとも思わないだろう・・・。 なら、一体誰がこんなことをしたと国の者は思う・・・」

「・・・お前ッ・・・」

彼の発言にシンは、漸く頭の中の整理がつき、アーテムの指名手配の発注を誰がしたのかという発想に至った。

「聖都の・・・彼のやり方に反発していたのはルーフェン・ヴォルフという組織だ。 そしてその組織のリーダーは・・・」

イデアールが言葉を続けようとしたところで、シンはイデアールに掴みかかった。

「それでッ・・・! それでアーテムに全部なすりつけたのかッ!!!」

互いの額が付くのではないかというほど、顔を近づけ睨みつけるシンに、イデアールは彼の瞳から目をそらすこと無く答える。

「余所者のッ・・・! 民の命を預かる責任のないお前に何が分かるッ!!」

イデアールの怒号に僅かな間の静寂が訪れ、彼の答えにシンは返す言葉もなかった。

行き場を失った怒りは、掴みかかった手を離すという結果を生み出す。

「ッ・・・、それにこれは・・・アーテム本人が望んだことだ・・・」

彼の言葉に、再び頭が真っ白になるシンは、ゆっくりと顔を上げてイデアールの方を向くと、彼の次の言葉を煽るように声を発した。

「・・・アーテムが・・・?」

何も知らぬシンに、彼は懐から取り出した一通の手紙を差し出した。
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