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挿げ替えられたシナリオ
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「どういうことだ?ミア・・・」
ミアの言った“シュトラールしかいなかった”という言葉の意味が、上手く噛み砕けず話を飲み込めずにいるシンに、彼女は回りくどい言い方も、詩人染みた言葉に色をつけることもせず、彼の求める答えを何よりも先に教えてくれた。
「アーテムだよ。 彼がアタシらを、国外にあるこのテントまで運んでくれたんだ。 ・・・誰に見られることもなく・・・な」
アーテムには分かっていたのだ。
あの場にシン達を置いたままにしていては、いずれ救助に来た聖都の誰かに目撃され、シュトラールと共に倒れる彼らを見れば、彼らがシュトラールと戦い、そして殺したとしか思えないだろう。
だから彼は、その傷だらけの身体で、道場に倒れるシン達を安全なところにまで運び出したのだ。
「そんな・・・。 アーテムはッ!? 彼は今どこに・・・?」
道場での戦いで、薄れる意識の中シンが見た光景では、アーテムの怪我もとてもではないが、誰かの看護が必要である重症とみて然りある状態だった。
そんな身体で大の大人を、現実世界から来たシン、ミア、ツクヨの三人に加え、イデアール、シャルロット、そして朝孝の聖都組みの三人、つまり六人を方法は定かではないが運び出すなど、常人では不可能ではないだろうか。
更に、シンが気を失って以降も戦闘が行われたことを考えると、いくら深手を負ったシュトラールであれど、軽傷で済むはずがない。
命の恩人とも言える彼の行方を聞くシンに、彼女はそっと瞼を閉じ、俯き加減で首を横に振る。
「それはアタシにも分からない・・・。 他の者に聞いてみても、詳細を知る者はいなかった」
「そうか・・・。 みんなもここに? 朝孝さんは・・・?」
アーテムの行方が分からないのは心配だが、それ以外にもシンの心中を騒つかせる事柄はまだまだある。
その一つが、共にシュトラールと戦った者達がどこで何をしているのか、無事であるのかなどといったものである。
「ツクヨは重症だ・・・。 外傷もさることながら、毒による侵食が激しく、回復にはまだ少しかかるようだ。 イデアールも重症ではあったが、部下や民達が救助や救援に走り回っているのに、自分が寝ている訳にはいかない・・・と、既に復興作業に戻ったようだ。 そして、彼の部下であるシャルロットも、元々傷が浅かったために誰よりも先に目覚めた彼女は、直ぐに騎士達と合流して作業に当たっている」
ツクヨの重症に関しては、シンもその一部始終を目撃していたからこそ理解しており、シュトラールの水銀による毒の侵食が解毒可能だという事に、ホッと胸をなでおろす。
彼に関して言えば、戦闘による怪我よりも、寧ろ彼自身のクラスであるデストロイヤーによる、通常時を遥かに凌ぐステータスの向上及び、肉体の強化のデメリットや後遺症が無いのかどうかの方が心配である。
「ミア、ツクヨの件なんだが・・・。 ミアは彼のクラスのこと・・・知っていたのか?」
シンよりも先に彼と出会い、短いとはいえ共に時間を過ごしていたミアの方が、ツクヨのこと、クラスのことについて、何か聞いているのではないかと思ったが、何のことか分からず、首をかしげるミアの反応で、既に答えは見えていた。
「クラス? そういえば剣士の他にもう一つ、表示されないクラスがあると言っていたが・・・。 そのクラスのことを言っているのか?」
「表示されない・・・? じゃぁ普段はあのクラスは使えないのか・・・? それとも自分の意思では発動できないのか・・・」
勿体振り、一人で考え始めるシンに痺れを切らしたミアが、ツクヨのもう一つのクラスについて尋ねる。
「おいッ、 ツクヨの表示されないクラスについて、何か分かったのか? 」
アーテムの行方を聞いたシンの時とは立場が逆転し、シンも彼女と同じく結論から先に伝えた。
「彼のもう一つのクラスは破壊者・・・、デストロイヤーと言われるものだったんだ・・・」
普段のツクヨをよく知るミアだからこそ、シンの言うツクヨのもう一つのクラスが、デストロイヤーという彼の性格からは全く想像もつかないクラス名に、驚きを隠せない。
「デストロイヤー・・・? バーサーカーの凶暴性を更に引き伸ばした上位クラス・・・。 いやッ、そんなバカなッ! ・・・何故そんなクラスを・・・」
ミアが疑問に思ったのは、ツクヨのキャラクターを作ったのが、彼自身ではなく彼の妻であり、そんな人が理想の姿を作る時にデストロイヤーなどという、凶暴で意思疎通の出来ないクラスを選ぶのだろうかという疑問だ。
大概の人は、人生の伴侶を選ぶ時に、わざわざ凶暴性が表に出ていて、意思が一方的であり話を聞かない人物を選ぶだろうか。
それに普段は表示されないことから考えると、ツクヨのもう一つのクラスは、彼の妻が選んだクラスではない可能性が高い。
「彼に関しては、今後の経過をよく見ておいた方がいいと思う。 一時的にとはいえ、あのシュトラールを押していたんだからな・・・。 デメリットが無いとは考えられない」
シュトラール戦において最も危険な状態にあるのが、毒や外傷、能力のデメリットの三重苦にあるツクヨであるだろう。
「ミア、朝孝さんについては何か知らないか?」
「道場で倒れていたあの人か? 彼は・・・既に亡くなっていたようだ。 毒による内臓組織の損傷が激しかった様子から、彼は地下で救援活動をしていたのではないかと思われてるようだった・・・」
ミアが騎士であったり救助を行なっている人物から聞いた様子だと、シュトラールと朝孝は戦っていないことになっているらしい。
だがこれは朝孝にとって都合のいい噂であり、もし二人が戦ったなどと知れ渡れば、朝孝は国を崩壊へ導いた犯罪者、逆賊として汚名を背負わされることとなっていただろう。
これはシン達にとっても言える話であり、彼らがあの場にいなかったことになっていることで、汚名を被らされずに済んでいることから、何者かによってあそこで起きた出来事がそっくりそのまま別のシナリオにすり替えられているのだ。
そして、シンはそれが誰の仕業であるのかを悟った。
「・・・アーテム・・・お前・・・」
彼はシュトラールとの戦闘後、その身体に鞭打ち、シン達を運び出しただけではなく、彼らが有らぬ疑いを被らないように働きかけてくれていたのだった。
ミアの言った“シュトラールしかいなかった”という言葉の意味が、上手く噛み砕けず話を飲み込めずにいるシンに、彼女は回りくどい言い方も、詩人染みた言葉に色をつけることもせず、彼の求める答えを何よりも先に教えてくれた。
「アーテムだよ。 彼がアタシらを、国外にあるこのテントまで運んでくれたんだ。 ・・・誰に見られることもなく・・・な」
アーテムには分かっていたのだ。
あの場にシン達を置いたままにしていては、いずれ救助に来た聖都の誰かに目撃され、シュトラールと共に倒れる彼らを見れば、彼らがシュトラールと戦い、そして殺したとしか思えないだろう。
だから彼は、その傷だらけの身体で、道場に倒れるシン達を安全なところにまで運び出したのだ。
「そんな・・・。 アーテムはッ!? 彼は今どこに・・・?」
道場での戦いで、薄れる意識の中シンが見た光景では、アーテムの怪我もとてもではないが、誰かの看護が必要である重症とみて然りある状態だった。
そんな身体で大の大人を、現実世界から来たシン、ミア、ツクヨの三人に加え、イデアール、シャルロット、そして朝孝の聖都組みの三人、つまり六人を方法は定かではないが運び出すなど、常人では不可能ではないだろうか。
更に、シンが気を失って以降も戦闘が行われたことを考えると、いくら深手を負ったシュトラールであれど、軽傷で済むはずがない。
命の恩人とも言える彼の行方を聞くシンに、彼女はそっと瞼を閉じ、俯き加減で首を横に振る。
「それはアタシにも分からない・・・。 他の者に聞いてみても、詳細を知る者はいなかった」
「そうか・・・。 みんなもここに? 朝孝さんは・・・?」
アーテムの行方が分からないのは心配だが、それ以外にもシンの心中を騒つかせる事柄はまだまだある。
その一つが、共にシュトラールと戦った者達がどこで何をしているのか、無事であるのかなどといったものである。
「ツクヨは重症だ・・・。 外傷もさることながら、毒による侵食が激しく、回復にはまだ少しかかるようだ。 イデアールも重症ではあったが、部下や民達が救助や救援に走り回っているのに、自分が寝ている訳にはいかない・・・と、既に復興作業に戻ったようだ。 そして、彼の部下であるシャルロットも、元々傷が浅かったために誰よりも先に目覚めた彼女は、直ぐに騎士達と合流して作業に当たっている」
ツクヨの重症に関しては、シンもその一部始終を目撃していたからこそ理解しており、シュトラールの水銀による毒の侵食が解毒可能だという事に、ホッと胸をなでおろす。
彼に関して言えば、戦闘による怪我よりも、寧ろ彼自身のクラスであるデストロイヤーによる、通常時を遥かに凌ぐステータスの向上及び、肉体の強化のデメリットや後遺症が無いのかどうかの方が心配である。
「ミア、ツクヨの件なんだが・・・。 ミアは彼のクラスのこと・・・知っていたのか?」
シンよりも先に彼と出会い、短いとはいえ共に時間を過ごしていたミアの方が、ツクヨのこと、クラスのことについて、何か聞いているのではないかと思ったが、何のことか分からず、首をかしげるミアの反応で、既に答えは見えていた。
「クラス? そういえば剣士の他にもう一つ、表示されないクラスがあると言っていたが・・・。 そのクラスのことを言っているのか?」
「表示されない・・・? じゃぁ普段はあのクラスは使えないのか・・・? それとも自分の意思では発動できないのか・・・」
勿体振り、一人で考え始めるシンに痺れを切らしたミアが、ツクヨのもう一つのクラスについて尋ねる。
「おいッ、 ツクヨの表示されないクラスについて、何か分かったのか? 」
アーテムの行方を聞いたシンの時とは立場が逆転し、シンも彼女と同じく結論から先に伝えた。
「彼のもう一つのクラスは破壊者・・・、デストロイヤーと言われるものだったんだ・・・」
普段のツクヨをよく知るミアだからこそ、シンの言うツクヨのもう一つのクラスが、デストロイヤーという彼の性格からは全く想像もつかないクラス名に、驚きを隠せない。
「デストロイヤー・・・? バーサーカーの凶暴性を更に引き伸ばした上位クラス・・・。 いやッ、そんなバカなッ! ・・・何故そんなクラスを・・・」
ミアが疑問に思ったのは、ツクヨのキャラクターを作ったのが、彼自身ではなく彼の妻であり、そんな人が理想の姿を作る時にデストロイヤーなどという、凶暴で意思疎通の出来ないクラスを選ぶのだろうかという疑問だ。
大概の人は、人生の伴侶を選ぶ時に、わざわざ凶暴性が表に出ていて、意思が一方的であり話を聞かない人物を選ぶだろうか。
それに普段は表示されないことから考えると、ツクヨのもう一つのクラスは、彼の妻が選んだクラスではない可能性が高い。
「彼に関しては、今後の経過をよく見ておいた方がいいと思う。 一時的にとはいえ、あのシュトラールを押していたんだからな・・・。 デメリットが無いとは考えられない」
シュトラール戦において最も危険な状態にあるのが、毒や外傷、能力のデメリットの三重苦にあるツクヨであるだろう。
「ミア、朝孝さんについては何か知らないか?」
「道場で倒れていたあの人か? 彼は・・・既に亡くなっていたようだ。 毒による内臓組織の損傷が激しかった様子から、彼は地下で救援活動をしていたのではないかと思われてるようだった・・・」
ミアが騎士であったり救助を行なっている人物から聞いた様子だと、シュトラールと朝孝は戦っていないことになっているらしい。
だがこれは朝孝にとって都合のいい噂であり、もし二人が戦ったなどと知れ渡れば、朝孝は国を崩壊へ導いた犯罪者、逆賊として汚名を背負わされることとなっていただろう。
これはシン達にとっても言える話であり、彼らがあの場にいなかったことになっていることで、汚名を被らされずに済んでいることから、何者かによってあそこで起きた出来事がそっくりそのまま別のシナリオにすり替えられているのだ。
そして、シンはそれが誰の仕業であるのかを悟った。
「・・・アーテム・・・お前・・・」
彼はシュトラールとの戦闘後、その身体に鞭打ち、シン達を運び出しただけではなく、彼らが有らぬ疑いを被らないように働きかけてくれていたのだった。
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