World of Fantasia

神代 コウ

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アサシンの流儀

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ツクヨが蹌踉めく姿を、シュトラールはじっと観察していた。

何故絶好の攻め時に攻撃を仕掛けてこなかったのか、それは彼にしか分からないが、獲物を品定めするような彼の眼光は、何か意味を含んでいるようにしか見えない。

警戒しつつもツクヨには、シュトラールへ向かっていくしかない。

彼に何かされた可能性もあるが、それ以前に破壊者デストロイヤーのクラスの特徴なのだろうか、赤黒いオーラが血の蒸気であるのなら、身を削って力を得ていると考えるのが普通だろう。

あれほどの力を、デメリット無しに得られるとは考えづらい。

腹を括ったかのようにツクヨは、シュトラールに飛びかかっていき、黒炎の剣を振りかざす。

シュトラールは最早避けることもしなくなり、迫り来るツクヨを迎え撃つように銀の腕を構えると、黒炎の剣を受け止めて見せる。

しかし黒炎は彼の腕に燃え移ることはなく、剣と腕の接触部分から鎮静化が始まるのと同時に、ツクヨの口から出る赤黒い蒸気は濃さを増す。

「ダメだッ・・・、折角の黒炎だがシュトラールには通用しない・・・」

二人の戦う様子を見ながらシンは、まだ明かされないシュトラールの秘密を探ろうと釘付けになる。

激しく剣と銀の腕を打ち付け合う二人だったが、次第に均衡は崩れ始め、要所要所で剣を弾き拳を入れていくシュトラールが、戦況を有利に進めていく。

だがどうだろうか、シンもイデアールも、シュトラールの攻撃を受けているからツクヨの動きが鈍くなり出したようには見えなかった。

それよりも気になるのが、攻撃を受けるに連れ、ツクヨの発する蒸気がその色の濃さと激しさを増していくことだ。

「蒸気が濃くなっている・・・? もし、あれが血の蒸発だとするならば、ただ拳を受けているだけにしては、出血の量が多く見えるが・・・」

「シンも気が付いたか・・・。 顔にそれ程貰っている訳でもないのに、出血が多過ぎる・・・。 それこそ斬撃によって斬り刻まれたかのように・・・」

イデアールの言うように、肌を切って出る血の量であるのなら納得もいくと言うものだが、ツクヨの身体にはそのような傷跡は見られない。

これがつまり、どういう意味を示しているのかというと、二人の見解は一致していた。

「・・・内部に損傷を受けている・・・。 だが、内部にダメージを与えるにしても一体どうやって・・・」

内部に受けるダメージは、シンもシュトラールから受けている。

しかし、それは彼が自身の影に細工を施した事による、“スキル”によって受けたダメージであり、今目の前で繰り広げられている打ち合いの最中に、シンとイデアールの視線を掻い潜りながら、悟られずに行える芸当ではない。

ツクヨの内部に受ける損傷は、シュトラールのスキルから来るものではない。

「単純に、強力な力を得た代償・・・とは考えられないッ! 彼の視線はそんなものを指しているのではないんだッ・・・。 もっとこう・・・自分の掌の上でことが進んでいるのを見るかのような・・・そんな目だッ・・・」

彼がシュトラールの視線に疑念を抱く様子を見て、触発されるようにシンもシュトラールの瞳に隠された思惑とは何なのか考えていると、それはフッと彼の頭の中に、以前ゲームとして遊んでいた頃の光景が思い浮かんできた。





それは、彼が幹部の男とアサシンギルドのクエストに赴いている時のことだった。

幹部の男が、シンはここで待つようにとジェスチャーを取り、一人で標的の人物らしき者の元へと向かっていく。

舞台はある宮廷で行われている舞踏会。

皆、一様に仮装と仮面をつけ、お洒落な音楽と共に踊りを踊ったり、シャンパンを片手に談笑したりなど所謂、仮面舞踏会が催され多くの人でごった返していた。

同じような格好の変装をし、とある一人の人物にぶつかる幹部の男。

申し訳なさそうに謝罪する幹部の男と、構わないから今宵は楽しみなさいと言うように促すぶつかられた男。

幹部の男は、適当に辺りを歩き回りシンの元へ戻ってくると、会場で受け取ったシャンパンを渡し、バルコニーへと誘導する。

怪しまれない様、会話をし始める幹部の男は、シンにあることを話し始める。

「シン、俺達のクエストは国の未来に暗い影を落とすような重要なものも多い。 だがそれは、いずれ来る階級や身分も関係ない・・・虐げられる者のいない世界を作るのに必要なことなんだ。 俺達は影に暗躍し、間違った未来へ向かおうとする世界を正す存在・・・」

幹部の男は鋭い目つきで、したたかに先ほどぶつかった男の方を見ている。

すると男は次第に苦しみ出し、その場に倒れると、近くにいた女性の悲鳴と共に、会場はパニックに陥る。

標的の倒れる様子を確認した幹部の男は、怪しまれないようにその場を去るぞとシンに促す。

「それが・・・アサシンギルドの在り方なんだ」

それはアサシンの本業である、“暗殺”の現場。

幹部の男は、“毒”を用いて標的を殺害したのだ。





シンは、あの時見た幹部の男の目と、シュトラールの目が重なり、彼が何を観察しているのか気がついた。

「毒だ・・・」

長い迷宮の中、出口を探し彷徨っていると、意外なところから出口への光明を見出したかのように、呆気にとられた表情で言葉をこぼすシン、そしてその真意を確かめるようにイデアールが尋ねる。

「毒・・・? 馬鹿なッ! シュトラール殿がその様なものを・・・ッ!?」

聖人君主のようなシュトラールが、そんなことをするなどあり得ないと言いかけたイデアールだったが、そんな彼に利用され毒の入った荷物を運ばされていたことを思い出す。

「間違いないッ・・・。 俺のクラス、アサシンは暗殺で毒を用いることが多い。 あの目は標的が毒に侵される様子を観察する目だッ・・・!」

徐々に最初の勢いを失っていくツクヨの攻撃を、シュトラールが軽々と避け始め、お返しだと言わんばかりに、ツクヨの顔を銀の腕で鷲掴みにすると、思い切り地面に叩きつけた。

シュトラールの指の間からは、赤黒い液体が吹き出す。

気体と化していないことから、それがツクヨの快進撃の終わりを告げる幕引きを表していた。
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