World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
75 / 1,646

月光と雷光

しおりを挟む
激しくぶつかり合うアーテムとシャーフ。

手負いとは思えぬほどの力で、シャーフを玉座の間中腹まで押し返すアーテム。

「お前ッ・・・! まだこれ程の力をッ・・・!?」

その隙にナーゲルが肉体強化のスキルで、脚部に獣の力を宿す。

「待っててくれっス・・・シャルロットさん。今行きますッ!」

そしてナーゲルは、アーテムが押し返した後ろを通り、倒れているシャルロットの元へ向かう。

だが、何かが妙だ。
あれ程自信満々だったシャーフが、ナーゲルの侵入を見す見す許していることが引っかかる。

ミアは銃を取り出し、一発だけナーゲルの向かうシャルロットの方へ、弾を放った。

何もなければ、弾はそのままナーゲルを追い越し、窓ガラスを突き抜け外へと飛び出していくだけだ。

そう、何もなければ・・・。



弾はナーゲルを追い越し、シャルロットの近くを通ろうかといった瞬間、何かを弾き飛ばし、軌道を変え別の方角へと飛んで行くと、壁に突き刺さる。

「・・・ッ!? ナーゲルッ!! 何かあるぞッ!!」

ミアの声を聞き、目の前で銃弾が弾かれたのも見ていたナーゲルは、咄嗟に急ブレーキをかける。

しかし、どうやら少しだけ間に合わなかったようで、ナーゲルの頬が何かに触れ切れると、そこから赤いものが滴った。

それを拭って確かめるナーゲルの手には、べっとりと血が付いていた。

彼が通過した場所に“何かがあった”のだと悟ると、その場から動けなくなった彼は、自分の身の周りに何があるのか、どういう状況下にあるのかミア達に向けて質問する。

「なッ・・・!? どうなってるッ? 何か見えるっスかッ!?」

ミアには、ナーゲルの周りに何かあるかどうか確認できず、ツクヨの方を向いて彼の顔を伺う。

それに気がついたツクヨは、ミアの方を向くと汗の滲んだ顔を小さく横に振る。

「いいのか? アーテム・・・、お仲間が動けなくなっているようだが?」

「“任せる”と言ったんだ・・・、俺はお前の相手をする」

アーテムは、後ろを振り返ることもせず、シャーフの刀を弾くと、一気に攻勢に出る。

刀と小太刀を同じ方向・同じ向きに揃え並べると、素早い踏み込みと腰の捻りで、二重の斬撃を電光石火の速さで放つ。

2つのツヴァイ・雷光ブリッツッ!!」

シャーフは刀でこれを受け止め、刀身を腕で押し込む。

ぶつかり合った刀からは、雷のようなものが辺りへと飛び散る。

「まぁぁだまだぁッ!!」

間髪入れずに、二重の斬撃を放ち続けるアーテム。

彼の素早い身のこなしと、全身を捻りしならせる攻撃は、彼自身の身体へも負担を強いるもの。

だが、それを補って余りある程の威力と速度、そして予想できない動きが、シャーフから余裕の表情を奪っていく。

「くッ・・・! 何て型破りな奴だッ・・・。 それに、この雷撃はッ・・・!」

アーテムの使う技は雷撃を纏い、例え刀で防いだとしても、接触部から雷が伝い相手の身体を痺れさせていく。

それに気づいたシャーフは、彼の攻撃を避けることにシフトし、合間を見て刀を振るうが、彼の動きを捉えきれずにいた。

ところが、押しているように見えていたアーテムの方が先に、鮮血に身を染める。

「うぅッ・・・。 何故だッ!? 攻撃は貰ってねぇ筈なのにッ・・・!!

刀を突きの構えにしたまま動きを止めるシャーフ。

「月輝流・月型・・・、残月・・・そして雨夜月。 これでもう、その五月蝿い動きは封じたぞ・・・」

「あぁッ!? こんなもので俺が止まるか・・・」

強引に動き出すアーテムの身体から突然、無数の切り傷が発生し、彼の動きを止める。

「何がッ・・・起きてやがるッ!? 何で傷がッ・・・!」

それは今まさに、ナーゲルの身の周りに起きている現象と同じだった。

「奴の技だ・・・。 だが何故見えない? アーテムと戦っている間にもナーゲルの周りには存在するのか?」

ミアには全く見当がつかない。

いや、この場にいる誰もがシャーフの妙技に惑わされていた。

しかし、その状況の中、逸早くシャーフの使う月輝流の手掛かりを掴んだのは、冷静に状況を観ていたツクヨだった。

「・・・光だ・・・。 聖騎士隊はみんな光に纏わる技を使う筈だッ! きっとこの技にも、光が関係している」

そう言うとツクヨは、近くの窓ガラスを割ると大きめのガラス片を手に持ち、ナーゲルの頭上へと投げた。

「ミアッ! あれを撃ってくれッ!!」

ツクヨの突然の行動に、まだ理解の追いついていないミアだったが、言われた通り銃でツクヨの投げたガラス片を撃ち抜く。

「ナーゲルすまない・・・。 でも、周りを良く見ておいてくれッ!」

ナーゲルの周りに、雨のように降り注ぐガラスの欠片が、光を反射させることにより、辺りに起きている異様な光景を映し出す。

「なッ・・・何だこれはッ!?」

ナーゲルの周りには、水とも空間の歪みとも見える斬撃の衝撃波が、空気中に固定され、それがそこら中に散りばめられていたのだ。

「衝撃波だッ・・・。 見えない斬撃の衝撃波が・・・空中に配置されているっス!!」

その様子を見ていたアーテムが、技のカラクリを理解し、動き出す。

「なるほど・・・、そう言うことかよッ!」

刀身の反射で辺りを見ながら、ジャンプ出来る位置を見つけ、素早く移動したアーテムは跳躍すると、短剣をシャーフの周りへばら撒いた。

降り注ぐドルヒ・雷撃ゲヴィッターッ!!」

雨のように降り注ぐ短剣が、周囲に固定された見えざる斬撃を映し出し、そして削り取っていく。

「チッ・・・! 勘のいい奴だ・・・! ここまで来ただけのことはある・・・ということかッ!」

焦燥の色を見せるシャーフに、彼への道を切り開いたアーテムが、短剣の雨と共に落ちてくる。

「捉えたぜッ!落雷ドンナー・シュラークッ!!」

それは宛ら、雨の中に落ちてくる落雷のように、刀と小太刀を構え、落下の力を加え更に強力となった一撃が、シャーフへと落下する。

目にも留まらぬ速さで落ちる、雷光となったアーテムを避けるため、飛んで退こうとしたが間に合わず、刀で受け止めるシャーフ。

しかし、アーテムの攻撃は重く強力なため衝撃を去なすことが出来ず、更に雷を纏った斬撃が刀を伝い、身体中を駆け巡る。

「ぅぉぉぉあああッ!!!」

シャーフの辺りには、室内にいるにも関わらず、まるで落雷したかのような焦げた跡と残火が、床一帯に広がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トラップって強いよねぇ?

TURE 8
ファンタジー
 主人公の加藤浩二は最新ゲームであるVR MMO『Imagine world』の世界に『カジ』として飛び込む。そこで彼はスキル『罠生成』『罠設置』のスキルを使い、冒険者となって未開拓の大陸を冒険していく。だが、何やら遊んでいくうちにゲーム内には不穏な空気が流れ始める。そんな中でカジは生きているかのようなNPC達に自分とを照らし合わせていった……。  NPCの関わりは彼に何を与え、そしてこのゲームの隠された真実を知るときは来るのだろうか?

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

クズな恩恵を賜った少年は男爵家を追放されました、 恩恵の名は【廃品回収】ごみ集めか?呪いだろうこれ、そう思った時期がありました、

shimashima
ファンタジー
成人に達した少年とその家族、許嫁のジルとその両親とともに参加した恩恵授与式、そこで教会からたまわった恩恵は前代未聞の恩恵、誰が見たって屑   文字通りの屑な恩恵 その恩恵は【廃品回収】  ごみ集めですよね これ・・  それを知った両親は少年を教会に置いてけぼりする、やむを得ず半日以上かけて徒歩で男爵家にたどり着くが、門は固く閉ざされたまま、途方に暮れる少年だったがやがて父が現れ 「勘当だ!出て失せろ」と言われ、わずかな手荷物と粗末な衣装を渡され監視付きで国を追放される、 やがて隣国へと流れついた少年を待ち受けるのは苦難の道とおもいますよね、だがしかし  神様恨んでごめんなさいでした、 ※内容は随時修正、加筆、添削しています、誤字、脱字、日本語おかしい等、ご教示いただけると嬉しいです、  健康を害して二年ほど中断していましたが再開しました、少しずつ書き足して行きます。

処理中です...