World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
73 / 1,646

神速の月輝流

しおりを挟む
二人が再度、戦闘の構えを取ると、最初に動き出したのはシャーフの方だった。

未だ見たことのないアーテムの二刀流の構えに臆することなく、鍛え抜かれた抜刀術で先手を取る。

間合いを一気に詰め、放たれた一閃をアーテムが刀と小太刀を交差させ受け止める。

シャーフの凄まじい一閃に押され始めたアーテムは、防ぎきれなくなる前に二刀でシャーフの一閃の軌道を変えて、ふり抜かせる。

空を斬るシャーフの一閃。

隙だらけとなったシャーフ目掛けて、アーテムが刀を振り下ろす。

しかし、空振りにされた攻撃を手首を返し、素早く反転させたシャーフは、すぐ様アーテムの攻撃を刀で防ぐ。

二刀でも防ぐのが精一杯だったシャーフの攻撃を片手で防ぎ切るのは不可能。

だが、アーテムにとっては少しの間だけ時間を稼げれば問題ない。

それは、もう片方の手に持った小太刀で攻撃する隙を作るためだったからだ。

アーテムは小太刀でシャーフの首元を狙う。

「アーテム・・・、お前は聖騎士になってからの俺を知らない。 お前が成長してきた様に、俺も更なる次元へと成長したんだッ・・・!」

アーテムの小太刀が迫る中、息を整え何かを狙うシャーフ。

月輝流げっきりゅう月型つきがた・・・鏡月きょうげつッ!!」

シャーフは受け止めていたアーテムの刀から、今度は小太刀の方へと刀を振るう。

しかしこれでは、アーテムの刀の方がガラ空きになる。

そう思った矢先だった。

それはまるで、シャーフ刀が二手に分かれたかの様に、アーテムの刀と小太刀の両方を同時に弾いた。

「何だッ・・・!?」

突然のことに理解が追いつかない。

二刀を弾かれ、ガラ空きになったアーテム目掛けて、刀をくるりと回転させ、肩から入る縦斬りを仕掛けるシャーフ。

ハッと我に返ったアーテムは、刀と小太刀の二刀でそれを受け止める。

「くッ・・・!?」

攻撃を確かに受け止めた筈のアーテムの身体から、鮮血が飛び散る。

「何をもらったッ・・・!? 確かに防いだ筈なのにッ・・・」

後ろへよろめくアーテムへ更に追撃の一撃を打ち込んでいくシャーフ。

今度の一撃は、横薙ぎの一閃。
アーテムの目には、確実にその一撃が見えている。

どこから来たのか分からない一撃に備え、今度は片手でシャーフの攻撃を受け止めるアーテム。

「はッ・・・!」

刀身に映り込んだ“何か”に、漸くシャーフの攻撃のカラクリに気がついた。

それはまるで、シャーフの太刀筋を水面に反射する虚像が模しているかのように、対角線上に同じ斬撃が繰り出されているのだ。

つまり、右からの横薙ぎ一閃を放てば、左からも同じ横薙ぎ一閃が全く同じ速度で放たれているということ。

急ぎ反対の手に持った小太刀を振り上げると、見えぬ反対側からの斬撃を受け止めることに成功した。

「気が付いたか・・・アーテム。 鏡月は対象を挟み撃ちにするように俺の攻撃を、対角線上に模す技。お前の二刀流とは違い、両手に持つ必要がない・・・、故に力は分散しないッ!」

次々に斬撃を打ち込んでくるシャーフ。

アーテムはそれを受けるだけで精一杯になってしまう。

それどころか、刀と小太刀、それぞれに片手分の力しか込められないアーテムに対し、シャーフは一撃一撃に全力を注ぎ込めるため、アーテムは捌き切れなくなっていく。

「くそッ・・・! このままじゃ・・・」

「やはりお前は成長していなかったか? 仲間を集い、シュトラール様に争っていたようだが、結局は何も変わらない。 先生の甘い戯言では、正義を実現することなど出来ないッ・・・!」

シャーフは連撃を止め、技の構えに入る。

「月輝流・天満月あまみつつきッ!!」

半円を描くように下から上へと刀を振り上げると、上にシャーフが作った光る半月が、下には鏡月の技が作った逆半分の半月が作り出される。

そしてシャーフが踏み込みと共に、剣道の面打ちを更に加速させ、大振りしたような打ち下ろしをアーテムへ繰り出す。

勿論、それも鏡月により挟み撃つように、つまり下からも同じ面打ちが襲ってくる。

「ぅ・・・ぉぉおおおッ!!」

即座に後ろへ飛び退くアーテムだったが、シャーフの繰り出す技から完全に逃れることは出来ず、剣先部分がアーテムを捉える。

後ろへ飛びながら、二刀で上下からくる斬撃を防ぐも力で押し負け、アーテムの身体は玉座の間、後方入り口の扉の方まで勢いよく吹き飛ばされた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





その頃、城の上層部を目指して走るミアとツクヨ。

その道中には、先程相手にした空っぽの鎧がバラバラに散乱する現場を、いくつも目撃していた。

「何だ・・・一体誰が・・・?」

「アタシらよりも先に上を目指して向かった者がいる・・・。 そう考えるべきだろう」

だが、ミア達の前に現れたのは、バラバラになった鎧だけではなかった。

「ツクヨッ! 横の通路に何かいるぞッ!」

「あぁ! 影が・・・見えてるッ・・・よッ! 聖騎士殿ッ!」

剣を構えながら通路に入り込むと、剣を構えていた鎧の手から、その剣を弾き飛ばす。

「貴方は・・・“人”・・・ですか?」

外見からでは、鎧の中に誰がいるのか判断出来なかったため、一度言葉をかけるツクヨ。

暫くの沈黙があったが、彼の問いに鎧が答えることはなく、コレが答えだと言うように、別の武器を取り出し再び動き出す聖騎士の鎧。

「そうか・・・、なら遠慮はしないッ・・・!」

ツクヨは素早い踏み込みから鎧の片足を、足の付け根から吹き飛ばし、流れるように足と同じ側の腕を肩から飛ばすと、背後をクルっと周り、もう片方の腕も鮮やかに胴体から切り離した。

あっという間に片足立ちとなった鎧の足を、最後にツクヨは膝裏から蹴ると、鎧はバランスを崩し、床に倒れる。

「・・・見事なもんだな・・・」

「もう、要領は掴んだからね。 人が相手じゃなければ問題ない・・・」

そう言うと情け容赦なく、倒れる鎧の残された片足、足の付け根部分に剣を突き刺すと、まるでトロッコのレバーを倒すように剣で足を分解した。

「これでもう動けない。 さぁ、先を急ごう!」

こうして二人は何体かの、空っぽの鎧を相手にしながら城の上層部へと駆け上がっていき、先に上を目指した者がバラバラにしていった鎧の痕跡を辿る。

そしてその痕跡は、玉座の間付近で途絶えていた。

「・・・あそこで鎧の残骸が途絶えてる・・・」

「あの中に誰かが・・・?」

二人が中にいる何者かの存在を危惧していると・・・。

大きな物音と共に、扉を吹き飛ばし、何かが飛び出してきた。

「・・・ッ!?」

「何か出てきたぞッ! ・・・アレは・・・」

扉を突き破り、廊下の壁に激しく打ち付けられた人の形をしたもの、それはミアにとって見覚えのある顔だった。

「お前はッ・・・! アーテムッ・・・!? 一体何が・・・」

ミアが呆気にとられていると、突き破られた扉から、煙を巻き上げ突き進んでくるもう一人の人影が現れる。

「・・・ッ!? ミアッ!待って! もう一人いるぞッ! どうやら彼と戦っていたのはあの人・・・みたいだ」

ゆっくりとそのシルエットを二人の前に現したのは、聖騎士隊隊長最後の一人、シャーフの姿だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

トラップって強いよねぇ?

TURE 8
ファンタジー
 主人公の加藤浩二は最新ゲームであるVR MMO『Imagine world』の世界に『カジ』として飛び込む。そこで彼はスキル『罠生成』『罠設置』のスキルを使い、冒険者となって未開拓の大陸を冒険していく。だが、何やら遊んでいくうちにゲーム内には不穏な空気が流れ始める。そんな中でカジは生きているかのようなNPC達に自分とを照らし合わせていった……。  NPCの関わりは彼に何を与え、そしてこのゲームの隠された真実を知るときは来るのだろうか?

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

処理中です...