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ユスティーチの護光 聖騎士イデアール
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シンは、朝孝の道場でアーテムと共に、空を見上げながら倒れている。
模擬戦を重ねることで、着実にシンの短剣による戦闘術は向上していった。
アーテムの流れるように舞う、形に嵌らない短剣捌きは、宛ら風に舞う桜吹雪を避けきるように難しく、シンを苦しめた。
だが、彼のしなやかで素早い身のこなしは、シンのクラスであるアサシンの動きに合致していて、アサシンが戦闘に入ってしまった際の動きを、更に次の次元へと引き上げることだろう。
それにアーテムから盗んだ技術の数々は、本来のアサシンとしての技術、暗殺・不意打ち・先制攻撃などにも応用が利くため、正に出会うべくして出会った戦闘の師とも言える。
「はぁ・・・はぁ・・・、まさかお前がここまでついて来れるようになるとはな・・・」
シンの成長に、次第にアーテムはシンをライバルかの様に扱ってくれるまでになった。
それでもまだ、シンにはアーテムの全てを見極めるには至らず、まだまだ学べることも多かった。
シンの稽古は、短剣による戦闘技術だけではなく、実は思わぬ稽古も付けてもらっていた。
それは、シンの使う武器の一種である、“刀”だった。
この道場で、子供達にも指南している刀の師範、卜部朝孝その人が直々に稽古をつけてくれたのだ。
アーテムとはうって変わり、朝孝の剣術は形に嵌った硬派なものでもあり、やはりアーテムの先生というだけあって、読めぬ動きをする事もあった。
彼の過去を知れば何となく想像が付く癖というか、戦い方であるのが感じられる。
読めぬ動きや、時折見せる力任せな技は、最初に彼に剣術を教えた島の剣豪、幾度となく出会うことになり、そして朝孝が日本を出る際には命懸けで助けてくれた二天一流の剣豪・宮本武蔵。
形に嵌った堅実で日本特有の、実に硬派な剣術は、彼の黒く歪んでいた人生を正しく清らかに育ててくれた、剣術の師であり、人生の師にもなった剣聖・塚原卜伝。
この二人の存在が垣間見える、そんな稽古だった。
アーテムが何度か朝孝に試合を申し出ていたが、彼は一度もそれを受けることはなく、いつも流されていた。
故に稽古は付けてもらえたものの、朝孝の実力そのものを目にすることが出来ないのが残念でもあった。
「先生ー。 お客さん」
シンが朝孝に刀の稽古をつけてもらっていると、道場の子供が入り口の方からやってくる。
「アーテム。 すみませんが、お客さんを中へ案内してくれますか?」
アーテムがいつも通り渋々と玄関の方へとドカドカ歩いていくのが目に入る。暫くして二人分の足音が道場内へと聞こえてくると、シンはアーテムが連れて来た客人に、想像していた者とはかけ離れた、そしてシンにはあまり良い印象ではない格好をした驚きの人物の姿が目に入ってくる。
それは、シンが聖都ユスティーチを訪れ、初めに出会った異常な出来事、それを引き起こした者達と似通った、騎士の物よりもより動き易さに重点を置いたであろう白銀の甲冑に聖都の紋章、高貴そうな装飾が施されたその姿は、明らかに騎士の階級に在らず、話に聞いていた聖騎士を彷彿とさせるものだった。
「なッ・・・、何でこんな所にッ!?」
驚くシンを宥める様に朝孝が、彼が何者かを語る。
「大丈夫ですよ、シン君。 彼は資材を届けに来てくれただけですから。・・・それに彼は聖騎士隊隊長の中でも一番、理解のある人物だから・・・」
朝孝はシンを落ちたかせるために、簡潔に説明しただけなのかも知れないが、シンはそもそも聖騎士隊隊長は疎か、聖騎士すら出会ったことがなかった。
そして何よりも衝撃だったのが、聖騎士隊の隊長に追従して来た二人の甲冑姿であった。
その白銀の甲冑に、背中には不気味に思える程美しい羽が折りたたまれている姿は、以前、現実世界に戻った際に、慎を襲ったモンスターと、首の有無はあるものの、その他は瓜二つと言っていいほど酷似していたのだ。
「理解がある・・・とは少し違う気がしますが・・・」
如何にも聖都の人間であろう男が口を開く。
その反応からは、幾度か朝孝とも接点があることがある事が伺える。
資材を届けに来たと言っていたが、市街地は騎士とルーフェン・ヴォルフでいざこざがあるというイメージがあったため、その上層部である聖都の者となれば、その確執はより一層強いものになりそうなものだが、朝孝の道場とこの聖騎士の男は一体どんな関係にあるのか。
「こちらの方は・・・見ない顔ですね。 新しい生徒さんですか?」
聖騎士隊の隊長の男が、親しげに朝孝にシンの事について質問する。
「こちらは旅のお方で、冒険者をされているシン君です」
「どっどうも・・・、お世話になっております」
シンは、聖都でミアがしているのと同じく、組織的な者にはなるべく敵対しない様に振る舞う。
「俺の前では畏まらなくても大丈夫ですよ」
聖騎士というから、堅苦しい人物を想像していたが、市街地で見た騎士達よりも何処か距離が近く感じた。
「・・・紹介が遅れました。 私は聖騎士隊隊長が一人、イデアール・ゼルプスト・アンビツィオーンと申します。 私がここ市街地にいるのは、私の隊の管轄であるからです」
市街地が管轄とはどういうことなのだろうかと、シンはふと思った。
市街地の治安や秩序は騎士に任せているものだとばかり思っていたが、無法地帯にしない為にも聖都の者の目を光らせているというのだろうか。
「やっぱり似合わねぇな・・・、その口調」
皮肉っぽく聞こえるアーテムの、イデアールに向けた発言に、シンは内心冷やっとした。
「ふっ・・・。 お前はもう少し俺に感謝した方がいいんじゃないか? お前のルーフェン・ヴォルフに物資を届けてやってるのも、活動に関してシュトラール様に色々してやってるのは俺なんだぞ?」
イデアールも負けじと皮肉を込めて言い返す。
その発言から、イデアールはルーフェン・ヴォルフとシュトラールの橋渡しをしている人物であることが分かった。
彼が言うには、聖都ユスティーチを守るにあたってルーフェン・ヴォルフの存在は無視できない。彼らと協力して国を守ることに尽力するべきだ。正しく生きようとする人達を守ろうとする意志は、皆一緒なのだからという。
「感謝してるさ・・・、感謝してるとも。 俺達が活動出来ているのもイデアール、アンタのおかげだよ・・・。 ありがとう・・・」
珍しく丁寧に感謝の言葉を口にするアーテムの態度にシンは、彼の態度をここまで変えさせるイデアールという男に感服する。
イデアールがアーテムとのやり取りを交わす中、朝孝が思い出したかの様に口を開く。
「どうでしょうイデアール君。 もし時間があればシン君の相手をして貰えませんか?私の道場では、貴方と同じ武器を扱える者がいません。是非協力して貰えると助かるのですが・・・」
シンは朝孝の、シンの成長の為にしてくれる好意が素直に嬉しかった。
それと同時に、アーテムとの稽古で成長した実力を、この国の上層部の者相手に試せるかもしれない機会に期待した。
「そうですね・・・。 二・三戦くらいなら。 丁度俺も身体が鈍っていたところだ。
お手柔らかに頼むよ、シン」
そういうとイデアールは聖騎士達を先に帰らせ、甲冑を外し、動きやすい格好になると、手から放たれた強い光の中から武器を取り出した。
「これが、俺の獲物だ」
イデアールが光の中から取り出したのは、長い柄に鋭い鉾先、彼の愛用する武器、それは、獲物の長さからくる威圧感や、打撃・刺突、物によっては斬撃までもある多彩な攻撃手段を持つ、“槍”であった。
模擬戦を重ねることで、着実にシンの短剣による戦闘術は向上していった。
アーテムの流れるように舞う、形に嵌らない短剣捌きは、宛ら風に舞う桜吹雪を避けきるように難しく、シンを苦しめた。
だが、彼のしなやかで素早い身のこなしは、シンのクラスであるアサシンの動きに合致していて、アサシンが戦闘に入ってしまった際の動きを、更に次の次元へと引き上げることだろう。
それにアーテムから盗んだ技術の数々は、本来のアサシンとしての技術、暗殺・不意打ち・先制攻撃などにも応用が利くため、正に出会うべくして出会った戦闘の師とも言える。
「はぁ・・・はぁ・・・、まさかお前がここまでついて来れるようになるとはな・・・」
シンの成長に、次第にアーテムはシンをライバルかの様に扱ってくれるまでになった。
それでもまだ、シンにはアーテムの全てを見極めるには至らず、まだまだ学べることも多かった。
シンの稽古は、短剣による戦闘技術だけではなく、実は思わぬ稽古も付けてもらっていた。
それは、シンの使う武器の一種である、“刀”だった。
この道場で、子供達にも指南している刀の師範、卜部朝孝その人が直々に稽古をつけてくれたのだ。
アーテムとはうって変わり、朝孝の剣術は形に嵌った硬派なものでもあり、やはりアーテムの先生というだけあって、読めぬ動きをする事もあった。
彼の過去を知れば何となく想像が付く癖というか、戦い方であるのが感じられる。
読めぬ動きや、時折見せる力任せな技は、最初に彼に剣術を教えた島の剣豪、幾度となく出会うことになり、そして朝孝が日本を出る際には命懸けで助けてくれた二天一流の剣豪・宮本武蔵。
形に嵌った堅実で日本特有の、実に硬派な剣術は、彼の黒く歪んでいた人生を正しく清らかに育ててくれた、剣術の師であり、人生の師にもなった剣聖・塚原卜伝。
この二人の存在が垣間見える、そんな稽古だった。
アーテムが何度か朝孝に試合を申し出ていたが、彼は一度もそれを受けることはなく、いつも流されていた。
故に稽古は付けてもらえたものの、朝孝の実力そのものを目にすることが出来ないのが残念でもあった。
「先生ー。 お客さん」
シンが朝孝に刀の稽古をつけてもらっていると、道場の子供が入り口の方からやってくる。
「アーテム。 すみませんが、お客さんを中へ案内してくれますか?」
アーテムがいつも通り渋々と玄関の方へとドカドカ歩いていくのが目に入る。暫くして二人分の足音が道場内へと聞こえてくると、シンはアーテムが連れて来た客人に、想像していた者とはかけ離れた、そしてシンにはあまり良い印象ではない格好をした驚きの人物の姿が目に入ってくる。
それは、シンが聖都ユスティーチを訪れ、初めに出会った異常な出来事、それを引き起こした者達と似通った、騎士の物よりもより動き易さに重点を置いたであろう白銀の甲冑に聖都の紋章、高貴そうな装飾が施されたその姿は、明らかに騎士の階級に在らず、話に聞いていた聖騎士を彷彿とさせるものだった。
「なッ・・・、何でこんな所にッ!?」
驚くシンを宥める様に朝孝が、彼が何者かを語る。
「大丈夫ですよ、シン君。 彼は資材を届けに来てくれただけですから。・・・それに彼は聖騎士隊隊長の中でも一番、理解のある人物だから・・・」
朝孝はシンを落ちたかせるために、簡潔に説明しただけなのかも知れないが、シンはそもそも聖騎士隊隊長は疎か、聖騎士すら出会ったことがなかった。
そして何よりも衝撃だったのが、聖騎士隊の隊長に追従して来た二人の甲冑姿であった。
その白銀の甲冑に、背中には不気味に思える程美しい羽が折りたたまれている姿は、以前、現実世界に戻った際に、慎を襲ったモンスターと、首の有無はあるものの、その他は瓜二つと言っていいほど酷似していたのだ。
「理解がある・・・とは少し違う気がしますが・・・」
如何にも聖都の人間であろう男が口を開く。
その反応からは、幾度か朝孝とも接点があることがある事が伺える。
資材を届けに来たと言っていたが、市街地は騎士とルーフェン・ヴォルフでいざこざがあるというイメージがあったため、その上層部である聖都の者となれば、その確執はより一層強いものになりそうなものだが、朝孝の道場とこの聖騎士の男は一体どんな関係にあるのか。
「こちらの方は・・・見ない顔ですね。 新しい生徒さんですか?」
聖騎士隊の隊長の男が、親しげに朝孝にシンの事について質問する。
「こちらは旅のお方で、冒険者をされているシン君です」
「どっどうも・・・、お世話になっております」
シンは、聖都でミアがしているのと同じく、組織的な者にはなるべく敵対しない様に振る舞う。
「俺の前では畏まらなくても大丈夫ですよ」
聖騎士というから、堅苦しい人物を想像していたが、市街地で見た騎士達よりも何処か距離が近く感じた。
「・・・紹介が遅れました。 私は聖騎士隊隊長が一人、イデアール・ゼルプスト・アンビツィオーンと申します。 私がここ市街地にいるのは、私の隊の管轄であるからです」
市街地が管轄とはどういうことなのだろうかと、シンはふと思った。
市街地の治安や秩序は騎士に任せているものだとばかり思っていたが、無法地帯にしない為にも聖都の者の目を光らせているというのだろうか。
「やっぱり似合わねぇな・・・、その口調」
皮肉っぽく聞こえるアーテムの、イデアールに向けた発言に、シンは内心冷やっとした。
「ふっ・・・。 お前はもう少し俺に感謝した方がいいんじゃないか? お前のルーフェン・ヴォルフに物資を届けてやってるのも、活動に関してシュトラール様に色々してやってるのは俺なんだぞ?」
イデアールも負けじと皮肉を込めて言い返す。
その発言から、イデアールはルーフェン・ヴォルフとシュトラールの橋渡しをしている人物であることが分かった。
彼が言うには、聖都ユスティーチを守るにあたってルーフェン・ヴォルフの存在は無視できない。彼らと協力して国を守ることに尽力するべきだ。正しく生きようとする人達を守ろうとする意志は、皆一緒なのだからという。
「感謝してるさ・・・、感謝してるとも。 俺達が活動出来ているのもイデアール、アンタのおかげだよ・・・。 ありがとう・・・」
珍しく丁寧に感謝の言葉を口にするアーテムの態度にシンは、彼の態度をここまで変えさせるイデアールという男に感服する。
イデアールがアーテムとのやり取りを交わす中、朝孝が思い出したかの様に口を開く。
「どうでしょうイデアール君。 もし時間があればシン君の相手をして貰えませんか?私の道場では、貴方と同じ武器を扱える者がいません。是非協力して貰えると助かるのですが・・・」
シンは朝孝の、シンの成長の為にしてくれる好意が素直に嬉しかった。
それと同時に、アーテムとの稽古で成長した実力を、この国の上層部の者相手に試せるかもしれない機会に期待した。
「そうですね・・・。 二・三戦くらいなら。 丁度俺も身体が鈍っていたところだ。
お手柔らかに頼むよ、シン」
そういうとイデアールは聖騎士達を先に帰らせ、甲冑を外し、動きやすい格好になると、手から放たれた強い光の中から武器を取り出した。
「これが、俺の獲物だ」
イデアールが光の中から取り出したのは、長い柄に鋭い鉾先、彼の愛用する武器、それは、獲物の長さからくる威圧感や、打撃・刺突、物によっては斬撃までもある多彩な攻撃手段を持つ、“槍”であった。
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