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聖都の裁き 聖騎士リーベ
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聖都を訪れ、調合士のギルドがあると言われた、聖騎士の城を目指していると、少し幅の狭い道で、広がって楽しそうに話す街の人数名を見かけた。
ミアはその道を進み、ぶつからないよう端を歩いて、横を通り抜けようとしたところ、話をしていた数名の内の一人が、周りを確認せずジェスチャーを取ろうといた際に、腕がミアにぶつかってしまった。
「ぁ、すいません! 大丈夫ですか?」
その人は、ぶつかったことに気がつくと、直ぐにミアへの謝罪と気遣いをしてくれた。
ミア自身も、横を通り過ぎる時にぶつかるかもしれないとは思っていたが、あまり道に詳しくないミアは止むを得ず通ることに、そして案の定、事は起きたが、その者の対応も良かったこともあり、そこまで気にすることでもなかった。
「えぇ、大丈夫です」
ミアがその者に返事を返すと、間髪入れず、女性のおっとりとした声が、その場を凍りつかせる。
「いけませんわ・・・貴方達。 何故そんなところで道を塞いでいたのかしら?」
市街地でシンにぶつかった子供の時と同じく、周りの者が立ち止まり、ぶつかった者が青ざめた顔をしている。
「リーベ様・・・何故、貴方様が・・・。 ハッ! こ・・・これは・・・、違うのです! 少し・・・、そう! 少しだけだったのです! 私は気遣いを忘れてなど・・・」
ミアにぶつかった者は、リーベと呼ばれる、黄金に輝く髪を靡かせ、聖騎士隊に良く似た甲冑を身に纏ったその女性に対し、必死に弁解する。
彼女用に改良されているのか、スリムな造形に聖都の紋章、特別な装飾が施され、見るからに他の聖騎士隊達よりも階級の高そうな女性だ。
「言い訳など・・・。 貴方の心に“悪”が巣くってしまったのですね・・・」
リーベは、哀れみの目をその者に送ると、周りに集まった民衆へ語りかけた。
「“悪”が芽生えた心は、人への気遣いを忘れ、他者への思いやりの心を奪われる! “悪”は絶やさねばなりません! 我らが聖なる力によってこの者を浄化し、神聖なる輪廻の輪へと還します!」
リーベと共に現れた聖騎士隊の二人が、ミアにぶつかった者を両側から取り押さえながら、畳まれた羽を広げ、宙へと上がっていく。
「まッ・・・待って! 忘れてないッ! 忘れてなんかいないからッ!! ちゃんと気遣いも!思いやりも! ちゃんと出来るからッ! お願い!許して!」
赦しを乞う声に応えるでも無く、リーベもまた、宙に上がっていった聖騎士達の元へとゆっくり上昇していく。
リーベが片手を大きく頭上へかざすと、光が集まりだし、巨大な光の塊となり、一気に弾けた。
すると、鏡や窓、水や銀製品などに、リーベと聖騎士隊、そして取り押さえられた者の姿が聖都全域へと映し出される。
「かの者の“悪”を浄化し、その魂を我らが戒めとするのです。 聖都に生きる全ての者よ!この者の魂から今一度、自身の心を改め、清めるのです!」
リーベは、取り押さえられた者の頬に、そっと手を添え、優しく摩る。
「怖がることはありません。 痛みも、苦痛もありません。貴方の魂は、愛の恩寵に満たされ、安らかに眠るだけです」
「あ・・・あぁっ・・・」
聖都中の者が膝をつき、その光景に祈りを捧げる。
「聖者の慈悲に感謝を。我らに正しき戒めを」
聖都の者達が祈りの言葉を繰り返す。
その異様な光景に、ミアは背筋がゾッとした。
昔の風習や、儀式などで、このようなことが行われていたという歴史があったというのは知っていたが、写真や絵で見るのとはまるで違う。
「なっ・・・なんだ、これは・・・」
ミアがその光景に驚いている間に、リーベはその手に、全てが光でできた細めの槍のような物で、ゆっくりとその者を刺していき、そして身体を貫通する。
「あッ・・・、あぁー・・・」
刺された者に苦痛の表情はなく、安らかでどこか気持ち良さそうでもあった。
その者は、目を瞑り空を仰ぐと、身体は足の方から光の粒子となり消えていき、そしてそこには何もなくなった。
「聖都の者達よ。 “裁き”は成されました。 ご協力に感謝致します」
リーベが、その場にいた者や、窓や水などで見ていた者達に声をかけると、聖都の者達は立ち上がり、またいつもの日常へと帰っていった。
「これが・・・聖都の“裁き”・・・?」
ミアがあっけに取られていると、リーベが地上に舞い降り、ゆっくりとミアの元へと歩いてくる。
「ぅッ・・・!」
咄嗟に身構えるミアだったが、リーベは麗しい笑顔で彼女を迎えた。
「“裁き”を見るのは初めてかしら? 旅のお方」
リーベの様子に、忘れていた呼吸を思い出したように再開する。
「怖く見えてしまうのも無理はありません。 ですが、貴方も直ぐに理解できますわ。 いかに人を気遣い、思いやりながら生きることが大切なのかを・・・」
ミアの両の手を、そっと拾い上げ、胸の高さに持ってくると、リーベの手がそれを優しく包み込む。
「申し遅れました。 私は聖都の聖騎士隊隊長の一人、リーベ・イーア・グナーデと申します。 皆からはリーベと呼ばれております。 以後、お見知り置きを・・・」
“裁き”の行いとは真逆に、リーベの佇まいはまるで聖母のように、人を安心させる暖かな光に包まれているかのようであった。
「わ・・・私はミア」
「よろしくお願いしますわ、ミアさん。 貴方は・・・そう、聖騎士隊の城へ行く途中だったのですね?」
何故リーベが目的地を知っているのか、ミアは驚いた。彼女との会話はこれが初めての筈なのに。
「どうしてそれを・・・?」
リーベは困惑するミアの表情を見ると、あどけない笑顔で笑い、その理由を教えてくれた。
「ごめんなさい、簡単ですわ。 聖都に入る時、門番の者から光を授からなかったかしら?」
ミアは聖都の入り口で、聖騎士の者から光は体に入れられたのを思い出し、漸く辻褄が合った。
「私達、聖騎士隊の一部の者は、その光から色々な情報を汲み取ることができるのです。ただ安心して下さい。 そこまで深い個人情報などは汲み取れませんので。 あくまで表面的なものや、聖都を訪れた目的などくらいなものです」
門番が言っていた身分証とは、こういう事だったのかとミアは納得した。
そしてもう一つ、彼女が気づいたことがあった。
「表面的って・・・それじゃぁ私の名前・・・」
「えぇ、手に触れた時に既に知っていましたわ」
ミアは少しムスッとした表情をして返す。
「意地悪な聖騎士様だな・・・」
彼女はミアを宥めると、ある申し出を持ちかけてきた。
「ごめんなさい、 お詫びに調合士ギルドまで私が案内致します」
「助かるよ、ありがとう」
ミアは、リーベの申し出を受け入れ、彼女と共に聖騎士隊の城へと向かう。
ミアはその道を進み、ぶつからないよう端を歩いて、横を通り抜けようとしたところ、話をしていた数名の内の一人が、周りを確認せずジェスチャーを取ろうといた際に、腕がミアにぶつかってしまった。
「ぁ、すいません! 大丈夫ですか?」
その人は、ぶつかったことに気がつくと、直ぐにミアへの謝罪と気遣いをしてくれた。
ミア自身も、横を通り過ぎる時にぶつかるかもしれないとは思っていたが、あまり道に詳しくないミアは止むを得ず通ることに、そして案の定、事は起きたが、その者の対応も良かったこともあり、そこまで気にすることでもなかった。
「えぇ、大丈夫です」
ミアがその者に返事を返すと、間髪入れず、女性のおっとりとした声が、その場を凍りつかせる。
「いけませんわ・・・貴方達。 何故そんなところで道を塞いでいたのかしら?」
市街地でシンにぶつかった子供の時と同じく、周りの者が立ち止まり、ぶつかった者が青ざめた顔をしている。
「リーベ様・・・何故、貴方様が・・・。 ハッ! こ・・・これは・・・、違うのです! 少し・・・、そう! 少しだけだったのです! 私は気遣いを忘れてなど・・・」
ミアにぶつかった者は、リーベと呼ばれる、黄金に輝く髪を靡かせ、聖騎士隊に良く似た甲冑を身に纏ったその女性に対し、必死に弁解する。
彼女用に改良されているのか、スリムな造形に聖都の紋章、特別な装飾が施され、見るからに他の聖騎士隊達よりも階級の高そうな女性だ。
「言い訳など・・・。 貴方の心に“悪”が巣くってしまったのですね・・・」
リーベは、哀れみの目をその者に送ると、周りに集まった民衆へ語りかけた。
「“悪”が芽生えた心は、人への気遣いを忘れ、他者への思いやりの心を奪われる! “悪”は絶やさねばなりません! 我らが聖なる力によってこの者を浄化し、神聖なる輪廻の輪へと還します!」
リーベと共に現れた聖騎士隊の二人が、ミアにぶつかった者を両側から取り押さえながら、畳まれた羽を広げ、宙へと上がっていく。
「まッ・・・待って! 忘れてないッ! 忘れてなんかいないからッ!! ちゃんと気遣いも!思いやりも! ちゃんと出来るからッ! お願い!許して!」
赦しを乞う声に応えるでも無く、リーベもまた、宙に上がっていった聖騎士達の元へとゆっくり上昇していく。
リーベが片手を大きく頭上へかざすと、光が集まりだし、巨大な光の塊となり、一気に弾けた。
すると、鏡や窓、水や銀製品などに、リーベと聖騎士隊、そして取り押さえられた者の姿が聖都全域へと映し出される。
「かの者の“悪”を浄化し、その魂を我らが戒めとするのです。 聖都に生きる全ての者よ!この者の魂から今一度、自身の心を改め、清めるのです!」
リーベは、取り押さえられた者の頬に、そっと手を添え、優しく摩る。
「怖がることはありません。 痛みも、苦痛もありません。貴方の魂は、愛の恩寵に満たされ、安らかに眠るだけです」
「あ・・・あぁっ・・・」
聖都中の者が膝をつき、その光景に祈りを捧げる。
「聖者の慈悲に感謝を。我らに正しき戒めを」
聖都の者達が祈りの言葉を繰り返す。
その異様な光景に、ミアは背筋がゾッとした。
昔の風習や、儀式などで、このようなことが行われていたという歴史があったというのは知っていたが、写真や絵で見るのとはまるで違う。
「なっ・・・なんだ、これは・・・」
ミアがその光景に驚いている間に、リーベはその手に、全てが光でできた細めの槍のような物で、ゆっくりとその者を刺していき、そして身体を貫通する。
「あッ・・・、あぁー・・・」
刺された者に苦痛の表情はなく、安らかでどこか気持ち良さそうでもあった。
その者は、目を瞑り空を仰ぐと、身体は足の方から光の粒子となり消えていき、そしてそこには何もなくなった。
「聖都の者達よ。 “裁き”は成されました。 ご協力に感謝致します」
リーベが、その場にいた者や、窓や水などで見ていた者達に声をかけると、聖都の者達は立ち上がり、またいつもの日常へと帰っていった。
「これが・・・聖都の“裁き”・・・?」
ミアがあっけに取られていると、リーベが地上に舞い降り、ゆっくりとミアの元へと歩いてくる。
「ぅッ・・・!」
咄嗟に身構えるミアだったが、リーベは麗しい笑顔で彼女を迎えた。
「“裁き”を見るのは初めてかしら? 旅のお方」
リーベの様子に、忘れていた呼吸を思い出したように再開する。
「怖く見えてしまうのも無理はありません。 ですが、貴方も直ぐに理解できますわ。 いかに人を気遣い、思いやりながら生きることが大切なのかを・・・」
ミアの両の手を、そっと拾い上げ、胸の高さに持ってくると、リーベの手がそれを優しく包み込む。
「申し遅れました。 私は聖都の聖騎士隊隊長の一人、リーベ・イーア・グナーデと申します。 皆からはリーベと呼ばれております。 以後、お見知り置きを・・・」
“裁き”の行いとは真逆に、リーベの佇まいはまるで聖母のように、人を安心させる暖かな光に包まれているかのようであった。
「わ・・・私はミア」
「よろしくお願いしますわ、ミアさん。 貴方は・・・そう、聖騎士隊の城へ行く途中だったのですね?」
何故リーベが目的地を知っているのか、ミアは驚いた。彼女との会話はこれが初めての筈なのに。
「どうしてそれを・・・?」
リーベは困惑するミアの表情を見ると、あどけない笑顔で笑い、その理由を教えてくれた。
「ごめんなさい、簡単ですわ。 聖都に入る時、門番の者から光を授からなかったかしら?」
ミアは聖都の入り口で、聖騎士の者から光は体に入れられたのを思い出し、漸く辻褄が合った。
「私達、聖騎士隊の一部の者は、その光から色々な情報を汲み取ることができるのです。ただ安心して下さい。 そこまで深い個人情報などは汲み取れませんので。 あくまで表面的なものや、聖都を訪れた目的などくらいなものです」
門番が言っていた身分証とは、こういう事だったのかとミアは納得した。
そしてもう一つ、彼女が気づいたことがあった。
「表面的って・・・それじゃぁ私の名前・・・」
「えぇ、手に触れた時に既に知っていましたわ」
ミアは少しムスッとした表情をして返す。
「意地悪な聖騎士様だな・・・」
彼女はミアを宥めると、ある申し出を持ちかけてきた。
「ごめんなさい、 お詫びに調合士ギルドまで私が案内致します」
「助かるよ、ありがとう」
ミアは、リーベの申し出を受け入れ、彼女と共に聖騎士隊の城へと向かう。
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