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思いの交じる地
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その日の晩は、三人とも翌朝に備え早めに眠ることにした。
サラは眠れなかったのか、一人目を覚ますと、夜風に当たろうと表に出ていった。
彼女は自分の身体に起きている異変に、言葉にできないモヤモヤとしていた。
しかし、それは良くないものではなく、何か得体の知れない力が湧いてくるようでもあったのだ。
目を閉じ、手に力を集中させると光が溢れてくる。そんな様子を影から見ていた男が、サラに近寄りながら話しかけてくる。
「それは君に芽生えた力、“スキル”だよ」
サラは驚き、近づいてくる男の方を見る。
その風貌は、ウルカノから聞いた村の過去話に登場した、フードを被った黒いローブの姿をしていたのだ。
「だ・・・だれ?」
「メアの研究室で彼と話した、といえば分かるかな?」
サラに接触してきたこの男は、村を襲った者たちとは別の男だった。何よりもサラは一度、村を襲ったローブの男達に遭遇しており、その時のプレッシャーを覚えている。
それがこの男から感じないということは、メアに交渉を持ちかけた人物である可能性が高い。
「君はまだメアのこと・・・迷っているのかい?」
図星をつかれたサラ。
ミアが決断し、シンが迷いを断ち切ったが、サラはまだメアを倒す決心がつかないでいた。
できることなら、みんな助けたい。
村の人々も、友達も、両親も、そしてメアも。全部が元どおりになり、またあの頃の日常が戻ってくるのではないかと、思い続けていたのだ。
「君のような少女には、重たい選択だろう。だが、決断の時というのは誰にでも来る」
サラは、ふと男の顔を見上げる。男は悟っているかのような表情で、遠くの夜空を見上げていた。
彼女自身もわかっていた。このまま選択することから逃げ、新しい道を探そうとも、後ろから迫ってくる“その時”にいずれ追いつかれることを。
「それが大人になってからなのか、子供の時なのか、生まれて間もない赤子の時なのか・・・。それでも人はいつも決断してきた。その運命の歯車を回しながら生きていかねばならないのが、人の性なのだから・・・」
男は、凡そ少女にはまだ理解できぬ話をすると、空を見上げるのをやめ、サラの方を見ると、目の高さになるよう膝を折る。
そして、少女の肩に両手で軽く触れると、少し力が入る。男が何のためにここに現れたのか、何をしにきたのか、少女に何を伝えようというのか。
この時、まだ幼い少女にも、空気が少しだけ張り詰めるのがわかった。
「全ての選択で正解を選ぶのではなく、正解へ至る選択をするのだ」
それだけ言うと男は少女から手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
「君に訪れる決断の時は、すぐそこまで来ている。もう時間はない。君を助けようとする者達は決断し、メアやウルカノも既に決断している。君は決めなければならない・・・。どちらに付き、運命を委ねるかを」
男は、少女に伝えるべきことを伝え終えるとその場を立ち去ろうとする。
サラは咄嗟に、男に向かって一つの問いを投げかけた。
「どう・・・して、私・・・のところ・・・に?」
男はクスッと笑うと、少しだけ少女に振り向き、優しく言葉を返した。
「安心しなさい。君の決断がどんな結末に辿り着こうと、村の人々だけは必ず助けてあげよう」
男は少女の元を離れて行き、その身体はやがてスーッと透け始め、煙のように揺らめいて消えていった。
サラは男が去った後、暫く夜風に当たりながら、星を眺めていた。
朝の眩しい日差しが、脆く崩れかけた家屋の隙間からシンを照らす。
瞼越しに伝わる明るさに目を覚ますと、シンは横になったまま少しだけ余韻に浸る。
昨日の自分自身に起きた心の変動を思い返していた。
信じていた友人から、酷い仕打ちを受け、人との距離を縮めることに恐怖心が芽生え、厄介ごとや面倒ごとから極力距離を置くような性格になってしまっていた自分を変えるため、街の人々から疎まれていた少女の依頼を受けることにしたシン。
依頼のクエストは、依頼を受けた冒険者が失踪するという不思議な内容のものだった。
はじめのうちは、単純に強い敵や、特別な能力や厄介な攻撃をしてくるような敵がいるだけの、敵を倒せばクエストが完了するものだと思っていたが、複雑な事情があった。
目標である相手にも、守りたいものや助けたい人がいて、そのために自身の命をもかけられるような決意を持った人物であったのだ。
ただの悪ではない敵との戦いは、双方の思いのぶつかり合いになることは必至。
事情を知り、心に迷いが生まれてしまったシンは、悩み苦悩する。
全てを知り、それでも迷うことなく決断するミアの意思に魅せられ、始まりの思い、“サラを助ける”ことを思い出し、漸く決断することが出来た。
決意の余韻から覚めると、ゆっくりと起き上がる。
ミアはまだ寝ているようだったが、家屋の中を探してもサラの姿はなかった。と、玄関のドアが少し開いているのに気がつく。
ドアを開き外へ出ると、少し先の丘の上に立っているサラの姿があった。
「サラ、起きていたのか」
シンが声をかけると、その声に気づきゆっくり振り返るサラ。
「私も・・・決めたよ・・・。私を・・・助けて・・・メアを・・・倒して!」
昇り行く太陽が、サラの背後からゆっくりと顔を覗かせ、まるで彼女の決断を明るく照らすように光り輝いていた。
「決めたんだな・・・」
「うん、メアに・・・もう、いいよって・・・私は・・・大丈夫だよって・・・伝える・・・の」
小さい身体になんと重い選択を迫るのだろう。大切な者に安息の終わりを与えるという彼女の決断を、決して無駄にはしないと、シンは決意をより一層固めるのだった。
そうこうしている内に、目を覚ましたミアが家屋から出てくる。
「早いな・・・2人とも」
ミアは身体を伸ばすと、意を決した面持ちで言った。
「それじゃぁ、準備して向かうよ」
シンとサラは、ミアに呼応するように頷く。
使えそうな物を一通り回収し終えると、しばしの間お世話になった家屋に別れを告げると、三人はウルカノの待つグラテス村へと足を運ぶ。
村の側まで来ると、ウルカノが出迎えているのが見える。彼とミアは、ここで初めての対面をする。
シンは彼女の紹介をし、ミアとウルカノは軽く挨拶をする。その後うるかのはサラの方を見た。サラの心に迷いがないか確かめているようだった。
サラはその瞳を見つめ、ウルカノの思いを察する。
「大丈夫・・・、私・・・決めたから」
彼女の言葉よりも先にウルカノが驚いたのは、サラが言葉を話せるようになっていることだった。
「サラ コトバ ガ・・・!」
「うん、ミアがお薬を・・・作ってくれたの。それで・・・シンが自分の分を・・・私に・・・」
サラの話す内容に、彼は再度思った。
ここまでサラに良くしてくれた人物はいなかったと。
「ソウカ・・・、イイヒト タチニ アエタナ」
サラは力一杯に頷く。。
その後、ウルカノは案内すると言い、一同を村へと誘導する。
「お・・・襲って来ないんだな」
シンの驚きも無理もない。
肉は腐り、腐敗した恐ろしい見た目の動く屍は三人を意に介さず、ただただ彷徨っている。中には身体の一部を欠損している個体もいた。
ウルカノは彼らが何故襲ってこないのか、説明してくれた。
モンスターの中には好戦的な者や、そうでない者がいる。好戦的なモンスターは、視界に入るだけで襲ってきたり仲間を呼んだりするが、ここのアンデッドのように、手を出さなければ襲ってこないモンスターもいるという。
それに、ここのアンデッドは元々“人”だったためか、余計に人らしい一面ものぞかせるらしい。生前にしていた日課や行動、中には道具を使う者や、アンデッド同士で話しでもしているかのように呻き声をあげる者達もいるのだとか。
ウルカノはそんな彼らの姿を見ていると、あんな姿になろうとも、まだ人であろうとしているように見えて辛かったと話す。
村の中央辺りまで来るとウルカノは振り返り、村にある使えそうなものを持って行ってくれという。
今まで村を探索した者はおらず、小さな村とはいえ、冒険者に役立つアイテムがある。
「いいのか?俺達でもらっちゃって・・・」
「アァ カマワナイ。 ツカエル モノガ アレバイイガ・・・」
シンとミアは二手に分かれて村に残されたアイテムの捜索と回収を行う。
忌まわしい炎に焼かれ、黒い炭へと姿を変えた木材は、所々崩れてはいたが、ある程度家屋の形を残していた。その中には鉄製の箱、今で言う金庫のようなものがいくつかあり、銀貨や思い出の品などが入っていたりした。時折、昔冒険者でもやっていたのか、装備やアイテムが入ってる箱もあった。
「廃村ならではというべきか・・・、こいつは利用できそうだ」
ミアも何やら見つけたようだが、彼女の場合アイテムその物というよりは、形状を変えて集めているようだ。
ミアは調合のスキルを保有しているため、元からアイテムであるものだけでなく、原料や素材などからでもアイテムを作り出せるので、荷物の所持上限などを上手くやりくりできる。
それに引き換えシンの方は、至ってシンプルなアイテムや装備、投擲武器などの収集をした。特に多かったのは、ナイフや護身用などでも使われる短刀であり、投げられる物は多ければ多い程戦闘の幅を拡げられる。
シンがある家屋に入ると、中には何かを作っているアンデッドの姿があった。恐る恐る作業の様子をのぞいてみると、蔓を使った手作りのロープを何本も作っていた。
床に散らばる蔓のロープを手にとって、引っ張ってみる。
「すごい強度だ・・・」
強度にも驚きだったが、アンデッド化しているのに、器用にロープを作っていることにも驚かされた。気づけばロープを作るアンデッドは、作業の手を止め、シンの方を見ていた。
「これ・・・、お借りします」
伝わるかは分からなかったが、シンはロープを彼に見せながら、言葉を投げかけた。すると不思議なことに、アンデッドは返事をするかのように小さく呻き声をあげると、再び作業に戻った。
各々、集められるだけの物資を調達すると、村の中央でサラと待っていたウルカノの元に集合した。
「ありがとう、物資は十分集まった」
そしてシンはサラの方へ歩いて行き、片膝をつくとサラに目線を合わせた。
「サラ、一緒に行くのはここまでだ」
サラは驚いた表情をするが、ミアもウルカノも、こればかりはしょうがないという顔をしていた。
「私もメアに・・・」
「危険だ・・・、連れては行けない」
ウルカノは俯くサラの肩にそっと手を置くと、首を横に振った。彼もサラをメアの元に行かせるのには反対で、初めから来る時がきたら引き止める予定だったのだろう。
「なぁ、サラをパーティに加えることは可能か?」
シンは、ミアに聞いた。
「どうだろうな・・・、サラはユーザーでもなければ冒険者でもない」
通常、ユーザーの使うパーティシステムは複数のプレイヤーが共同でモンスターなどと戦いやすくしたり、位置情報などを把握したりすることのできるシステムで、パーティ内で会話したり、パーティのステータスを確認することもできる。
パーティになることで報酬が分配されることもあるが、それ以上にメリットが多く、パーテイ同士のコミュニケーションが取りやすくなり、連携が行える。
ただ、シンがしたかったことは、サラを戦闘に連れ出すのではなく、シンやミアのステータスの開示により、二人の置かれている状況の把握を目的としてだった。
「ゲストとしてなら、パーティ追加ができそうだな」
ゲストとは、ユーザーや冒険者の他に、制限がかかった状態でパーティに加入する形式のこと。主に非戦闘員による道案内や、イベント進行に必要な人物の同行などに用いられる。
「ならそれでいい、除け者は嫌だもんな・・・。サラにも行く末を見届けてもらおう」
サラをゲストとしてパーティに加えたことにより、二人にもサラのステータスを確認できるようになった。
「これなら寂しくないな」
シンはサラに笑顔を向け、安心させる。
彼女もその意図を汲み取ったように頷く。
サラを説得すると、いよいよメアの元へ向かう。ウルカノはメアとの約束通り、墓地に向かうと、ボスエリアへのワープがあるところへと案内する。
「ココヲ オリタサキ 二 ワープガ アル」
「ありがとう、ウルカノ。・・・それじゃぁ、行ってくるよ」
墓石をズラすと隠し階段が現れ、シンとミアは二人に見送られながら、地下へと続く道を降りていった。
自分を変えるため
村を救うため
役割を果たすため
それぞれの思いを胸に、決着の場所へ。
サラは眠れなかったのか、一人目を覚ますと、夜風に当たろうと表に出ていった。
彼女は自分の身体に起きている異変に、言葉にできないモヤモヤとしていた。
しかし、それは良くないものではなく、何か得体の知れない力が湧いてくるようでもあったのだ。
目を閉じ、手に力を集中させると光が溢れてくる。そんな様子を影から見ていた男が、サラに近寄りながら話しかけてくる。
「それは君に芽生えた力、“スキル”だよ」
サラは驚き、近づいてくる男の方を見る。
その風貌は、ウルカノから聞いた村の過去話に登場した、フードを被った黒いローブの姿をしていたのだ。
「だ・・・だれ?」
「メアの研究室で彼と話した、といえば分かるかな?」
サラに接触してきたこの男は、村を襲った者たちとは別の男だった。何よりもサラは一度、村を襲ったローブの男達に遭遇しており、その時のプレッシャーを覚えている。
それがこの男から感じないということは、メアに交渉を持ちかけた人物である可能性が高い。
「君はまだメアのこと・・・迷っているのかい?」
図星をつかれたサラ。
ミアが決断し、シンが迷いを断ち切ったが、サラはまだメアを倒す決心がつかないでいた。
できることなら、みんな助けたい。
村の人々も、友達も、両親も、そしてメアも。全部が元どおりになり、またあの頃の日常が戻ってくるのではないかと、思い続けていたのだ。
「君のような少女には、重たい選択だろう。だが、決断の時というのは誰にでも来る」
サラは、ふと男の顔を見上げる。男は悟っているかのような表情で、遠くの夜空を見上げていた。
彼女自身もわかっていた。このまま選択することから逃げ、新しい道を探そうとも、後ろから迫ってくる“その時”にいずれ追いつかれることを。
「それが大人になってからなのか、子供の時なのか、生まれて間もない赤子の時なのか・・・。それでも人はいつも決断してきた。その運命の歯車を回しながら生きていかねばならないのが、人の性なのだから・・・」
男は、凡そ少女にはまだ理解できぬ話をすると、空を見上げるのをやめ、サラの方を見ると、目の高さになるよう膝を折る。
そして、少女の肩に両手で軽く触れると、少し力が入る。男が何のためにここに現れたのか、何をしにきたのか、少女に何を伝えようというのか。
この時、まだ幼い少女にも、空気が少しだけ張り詰めるのがわかった。
「全ての選択で正解を選ぶのではなく、正解へ至る選択をするのだ」
それだけ言うと男は少女から手を離し、ゆっくりと立ち上がる。
「君に訪れる決断の時は、すぐそこまで来ている。もう時間はない。君を助けようとする者達は決断し、メアやウルカノも既に決断している。君は決めなければならない・・・。どちらに付き、運命を委ねるかを」
男は、少女に伝えるべきことを伝え終えるとその場を立ち去ろうとする。
サラは咄嗟に、男に向かって一つの問いを投げかけた。
「どう・・・して、私・・・のところ・・・に?」
男はクスッと笑うと、少しだけ少女に振り向き、優しく言葉を返した。
「安心しなさい。君の決断がどんな結末に辿り着こうと、村の人々だけは必ず助けてあげよう」
男は少女の元を離れて行き、その身体はやがてスーッと透け始め、煙のように揺らめいて消えていった。
サラは男が去った後、暫く夜風に当たりながら、星を眺めていた。
朝の眩しい日差しが、脆く崩れかけた家屋の隙間からシンを照らす。
瞼越しに伝わる明るさに目を覚ますと、シンは横になったまま少しだけ余韻に浸る。
昨日の自分自身に起きた心の変動を思い返していた。
信じていた友人から、酷い仕打ちを受け、人との距離を縮めることに恐怖心が芽生え、厄介ごとや面倒ごとから極力距離を置くような性格になってしまっていた自分を変えるため、街の人々から疎まれていた少女の依頼を受けることにしたシン。
依頼のクエストは、依頼を受けた冒険者が失踪するという不思議な内容のものだった。
はじめのうちは、単純に強い敵や、特別な能力や厄介な攻撃をしてくるような敵がいるだけの、敵を倒せばクエストが完了するものだと思っていたが、複雑な事情があった。
目標である相手にも、守りたいものや助けたい人がいて、そのために自身の命をもかけられるような決意を持った人物であったのだ。
ただの悪ではない敵との戦いは、双方の思いのぶつかり合いになることは必至。
事情を知り、心に迷いが生まれてしまったシンは、悩み苦悩する。
全てを知り、それでも迷うことなく決断するミアの意思に魅せられ、始まりの思い、“サラを助ける”ことを思い出し、漸く決断することが出来た。
決意の余韻から覚めると、ゆっくりと起き上がる。
ミアはまだ寝ているようだったが、家屋の中を探してもサラの姿はなかった。と、玄関のドアが少し開いているのに気がつく。
ドアを開き外へ出ると、少し先の丘の上に立っているサラの姿があった。
「サラ、起きていたのか」
シンが声をかけると、その声に気づきゆっくり振り返るサラ。
「私も・・・決めたよ・・・。私を・・・助けて・・・メアを・・・倒して!」
昇り行く太陽が、サラの背後からゆっくりと顔を覗かせ、まるで彼女の決断を明るく照らすように光り輝いていた。
「決めたんだな・・・」
「うん、メアに・・・もう、いいよって・・・私は・・・大丈夫だよって・・・伝える・・・の」
小さい身体になんと重い選択を迫るのだろう。大切な者に安息の終わりを与えるという彼女の決断を、決して無駄にはしないと、シンは決意をより一層固めるのだった。
そうこうしている内に、目を覚ましたミアが家屋から出てくる。
「早いな・・・2人とも」
ミアは身体を伸ばすと、意を決した面持ちで言った。
「それじゃぁ、準備して向かうよ」
シンとサラは、ミアに呼応するように頷く。
使えそうな物を一通り回収し終えると、しばしの間お世話になった家屋に別れを告げると、三人はウルカノの待つグラテス村へと足を運ぶ。
村の側まで来ると、ウルカノが出迎えているのが見える。彼とミアは、ここで初めての対面をする。
シンは彼女の紹介をし、ミアとウルカノは軽く挨拶をする。その後うるかのはサラの方を見た。サラの心に迷いがないか確かめているようだった。
サラはその瞳を見つめ、ウルカノの思いを察する。
「大丈夫・・・、私・・・決めたから」
彼女の言葉よりも先にウルカノが驚いたのは、サラが言葉を話せるようになっていることだった。
「サラ コトバ ガ・・・!」
「うん、ミアがお薬を・・・作ってくれたの。それで・・・シンが自分の分を・・・私に・・・」
サラの話す内容に、彼は再度思った。
ここまでサラに良くしてくれた人物はいなかったと。
「ソウカ・・・、イイヒト タチニ アエタナ」
サラは力一杯に頷く。。
その後、ウルカノは案内すると言い、一同を村へと誘導する。
「お・・・襲って来ないんだな」
シンの驚きも無理もない。
肉は腐り、腐敗した恐ろしい見た目の動く屍は三人を意に介さず、ただただ彷徨っている。中には身体の一部を欠損している個体もいた。
ウルカノは彼らが何故襲ってこないのか、説明してくれた。
モンスターの中には好戦的な者や、そうでない者がいる。好戦的なモンスターは、視界に入るだけで襲ってきたり仲間を呼んだりするが、ここのアンデッドのように、手を出さなければ襲ってこないモンスターもいるという。
それに、ここのアンデッドは元々“人”だったためか、余計に人らしい一面ものぞかせるらしい。生前にしていた日課や行動、中には道具を使う者や、アンデッド同士で話しでもしているかのように呻き声をあげる者達もいるのだとか。
ウルカノはそんな彼らの姿を見ていると、あんな姿になろうとも、まだ人であろうとしているように見えて辛かったと話す。
村の中央辺りまで来るとウルカノは振り返り、村にある使えそうなものを持って行ってくれという。
今まで村を探索した者はおらず、小さな村とはいえ、冒険者に役立つアイテムがある。
「いいのか?俺達でもらっちゃって・・・」
「アァ カマワナイ。 ツカエル モノガ アレバイイガ・・・」
シンとミアは二手に分かれて村に残されたアイテムの捜索と回収を行う。
忌まわしい炎に焼かれ、黒い炭へと姿を変えた木材は、所々崩れてはいたが、ある程度家屋の形を残していた。その中には鉄製の箱、今で言う金庫のようなものがいくつかあり、銀貨や思い出の品などが入っていたりした。時折、昔冒険者でもやっていたのか、装備やアイテムが入ってる箱もあった。
「廃村ならではというべきか・・・、こいつは利用できそうだ」
ミアも何やら見つけたようだが、彼女の場合アイテムその物というよりは、形状を変えて集めているようだ。
ミアは調合のスキルを保有しているため、元からアイテムであるものだけでなく、原料や素材などからでもアイテムを作り出せるので、荷物の所持上限などを上手くやりくりできる。
それに引き換えシンの方は、至ってシンプルなアイテムや装備、投擲武器などの収集をした。特に多かったのは、ナイフや護身用などでも使われる短刀であり、投げられる物は多ければ多い程戦闘の幅を拡げられる。
シンがある家屋に入ると、中には何かを作っているアンデッドの姿があった。恐る恐る作業の様子をのぞいてみると、蔓を使った手作りのロープを何本も作っていた。
床に散らばる蔓のロープを手にとって、引っ張ってみる。
「すごい強度だ・・・」
強度にも驚きだったが、アンデッド化しているのに、器用にロープを作っていることにも驚かされた。気づけばロープを作るアンデッドは、作業の手を止め、シンの方を見ていた。
「これ・・・、お借りします」
伝わるかは分からなかったが、シンはロープを彼に見せながら、言葉を投げかけた。すると不思議なことに、アンデッドは返事をするかのように小さく呻き声をあげると、再び作業に戻った。
各々、集められるだけの物資を調達すると、村の中央でサラと待っていたウルカノの元に集合した。
「ありがとう、物資は十分集まった」
そしてシンはサラの方へ歩いて行き、片膝をつくとサラに目線を合わせた。
「サラ、一緒に行くのはここまでだ」
サラは驚いた表情をするが、ミアもウルカノも、こればかりはしょうがないという顔をしていた。
「私もメアに・・・」
「危険だ・・・、連れては行けない」
ウルカノは俯くサラの肩にそっと手を置くと、首を横に振った。彼もサラをメアの元に行かせるのには反対で、初めから来る時がきたら引き止める予定だったのだろう。
「なぁ、サラをパーティに加えることは可能か?」
シンは、ミアに聞いた。
「どうだろうな・・・、サラはユーザーでもなければ冒険者でもない」
通常、ユーザーの使うパーティシステムは複数のプレイヤーが共同でモンスターなどと戦いやすくしたり、位置情報などを把握したりすることのできるシステムで、パーティ内で会話したり、パーティのステータスを確認することもできる。
パーティになることで報酬が分配されることもあるが、それ以上にメリットが多く、パーテイ同士のコミュニケーションが取りやすくなり、連携が行える。
ただ、シンがしたかったことは、サラを戦闘に連れ出すのではなく、シンやミアのステータスの開示により、二人の置かれている状況の把握を目的としてだった。
「ゲストとしてなら、パーティ追加ができそうだな」
ゲストとは、ユーザーや冒険者の他に、制限がかかった状態でパーティに加入する形式のこと。主に非戦闘員による道案内や、イベント進行に必要な人物の同行などに用いられる。
「ならそれでいい、除け者は嫌だもんな・・・。サラにも行く末を見届けてもらおう」
サラをゲストとしてパーティに加えたことにより、二人にもサラのステータスを確認できるようになった。
「これなら寂しくないな」
シンはサラに笑顔を向け、安心させる。
彼女もその意図を汲み取ったように頷く。
サラを説得すると、いよいよメアの元へ向かう。ウルカノはメアとの約束通り、墓地に向かうと、ボスエリアへのワープがあるところへと案内する。
「ココヲ オリタサキ 二 ワープガ アル」
「ありがとう、ウルカノ。・・・それじゃぁ、行ってくるよ」
墓石をズラすと隠し階段が現れ、シンとミアは二人に見送られながら、地下へと続く道を降りていった。
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