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第二章 高校二年生(二学期)

もどかしさ(美奈)

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「お、おぉ? なんか……すごくチカチカしてきたんだけど……あたまもくらくらする……」

 ぽけーっと周囲を眺める美久里に、美奈は試しに軽く肩をぶつけてみる。
 すると、ふらーっとゆっくり倒れそうになるのをなんとか持ちこたえた。……かと思いきや、思いっきり倒れる。

「ごめん……美奈。食べ過ぎてフラフラする……ぶつかったよね……?」
「ぶつかってないよ。ところでなんでフラフラするのかわかる?」
「ふぇ? えーっと……ごはんたべたから……?」

 あまり呂律が回っておらず、美奈が料理にこっそり入れたウィスキーにも全く気づいていないようだった。
 ご飯を食べ過ぎただけで頭がくらくらするなんてことはないだろう。
 本当におマヌケさんだ。いや、これはウィスキーのせいかもしれないけど。

「……よし」

 ここまで来たらやるしかない。
 いつもなら失敗したらどうだとか色々と考えるのだが、もう後には引けない。
 やると決めた以上、覚悟しなくてはならない。

「おねえ……聞いてほしいんだ」
「うん?」

 いつ以来だろう。姉の目を正面から、まっすぐに見つめることができたのは。
 それをしようと思えばできたはずなのに、そんな勇気など持ち合わせていなかった。
 だけど卑怯とはいえ、お酒の力を借り……いや、押し付けた今ならきっと。

「……好き、です」
「ふぇ? 私も好きだよ?」

 『好き』――互いに発したその言葉は、同じはずなのに違う意味を持っていた。
 こうなることはわかりきっていた。
 だけど、ここで引き下がるわけにはいかない。

「そうじゃなくて……家族とか姉妹とかじゃなくて……もっとこう、別の……」
「……うん?」

 震える唇を噛み締め、逃げ出したくなる足を必死に抑えながら声を絞り出す。

「……おねえが好きなの。誰より、何より。ずっと一緒にいたい。姉妹よりも……もっと特別な存在として」

 こんな大胆な告白をしておいて、恥ずかしさですぐに穴を掘って埋まりたいくらいだ。
 いや、告白をしたから、だろうか。
 でも、もう引き返せないところまで来てしまっている。行くしかない。

「私と……付き合ってほしいの……!」

 心臓の音が耳まで届いてうるさい。
 それでも、返事を聞き逃さないようひたすらに耳を澄ませた。

 そのまま何秒……何分……はたまた何時間経っただろうか。
 それでもひたすらに無言で、身体が震え出した。

 無言の肯定という言葉はあれど、この状況においてはありえない。
 理解して、心臓が止まりそうになる。
 言わなければよかったと、後悔の念すら湧き出していた。

「うぅ……」

 まぶたを開けていられなくなり、全てを見ないようにしてしまおう。
 そう思った直後、床に向いていた視界を何かがゆらりと横切った。
 そのままぽすっと。あたたかくて、柔らかくて、予想以上に軽いものが倒れこんでくる。

「……んん……」
「え、あれ?」

 美久里は赤くなった顔をゆるめ、すやすやと心地良さそうな寝息を立てていた。
 美奈の一世一代の告白は、都合よく寝落ちした美久里には聞こえてなかったようだ。
 なんなんだ、このテンプレな展開は。

「うそ……ね、寝ちゃったの……!?」

 だけど、美奈はこのもどかしさも心地よく感じていた。

「ふふっ。あー、緊張して損したー」

 いつかは振り向かせてみせる。
 そう決めて、美久里が起きるまで膝枕を続けたのだった。
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