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第二章 高校二年生(二学期)

おんせい(萌花)

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『朔良のバカー!』

 これは誰かが発した声ではない。
 いや、正確には、誰かが発した声を真似た音声とでもいうべきか。

「……それ、姉御が知ったら怒ると思いますけど」
「そのためにやってるんすよ」

 葉奈がドヤ顔でわけのわからないことを言う。
 そんな葉奈の右手は、手を入れて口を動かすぬいぐるみになっていた。
 小さい頃にそれらが動いている番組を見たことがあるような気がする。

 それがなぜ、葉奈の手元にあるのかというと……葉奈が面白そうと言って持ってきたのだ。
 ここはA組の隣の空き教室。
 そこで秘密裏に朔良をびっくりさせよう計画が始まったのだった。

「というか、悪巧み……といえるかわかんないですけど、なんで私を呼んだんですか? 適任なら他にもいるでしょうに……」

 例えば瑠衣や紫乃なら全力でノッてくれそうだし、美久里なら全力で巻き込まれそうだ。
 ……なんだかこれだと美久里が可哀想に思えるが。
 わざわざそういうのとは無縁な萌花を呼び出した理由はなんなのだろう。

「そりゃ、この道に引きずり落としがいのあるやつは萌花ちゃんしかいないっすよ」

 聞いた自分が馬鹿だった、と萌花は思った。
 そういうのとは無縁だからこそ誘ったのだという。
 本当に呆れてものも言えない。

「萌花ちゃーん? もしもーし?」
「……姉御にこのこと報告しますね」
「ちょっ、それはやめてくださいっす!」

 本気で焦る葉奈を横目に、萌花は本気で教室に帰ろうとする。
 その時、よく知った人物がドアの向こうにいるのが見えた。
 これはちょうどいいとばかりに、葉奈に耳打ちする。

「ん? もっかい聞かせてほしいんすか? しょうがないっすねー」
『朔良のバカー!』
「……誰がバカだって?」

 まんまとノッてくれた葉奈から距離を置く。
 葉奈の横には、バカと言われた本人が立っていた。
 すると、途端に葉奈の顔が青ざめていくのがわかった。

「ちょ、朔良……こ、これは誤解なんす」
「どんな誤解だ?」
「そ、それはっすね……って、萌花ちゃん!? 逃げないでくださいっす!」
「え、こうなることを望んでいたんですよね?」
「望んでた結末と少し……いや、かなり違うんすけど!?」

 そのあと葉奈がどうなったのか、萌花は知らないフリをした。
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