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第二章 高校二年生(二学期)

めいそう(朔良)

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 むかしむかしあるところで、おじいさんとおばあさんの変死体が見つかりました。
 おじいさんは山で、おばあさんは川で死んでいたのです。
 一体なにが起こったのでしょうか。
 事の発端は数年前にまで遡ります。

「――と、いう感じの作品作ってみようと思うんすけど、どうっすか?」
「……なんかすげー内容だな……」

 部活が終わった帰り道。もうすっかり暗くなってしまった廊下を歩いていると、葉奈が突然変なことを言い始めた。
 今日は珍しく、二人しか部室にいなかった。

「インパクトすごすぎるだろ……」

 文体や言葉選びは子ども向けっぽく見えるが、変死体とか物騒な言葉も混ざっている。
 葉奈は童話作家も目指しているのだと、前に聞いたことがある。
 多才なやつだなと、朔良は妬ましく思いながら話を聞く。

「童話とかもインパクトあった方がいいと思うんすよねー。昔話は結構悲惨なものが多いっすけど、今は子ども用にマイルドに変換してたりするんす。けど、やっぱりそれじゃ今の世の中やってけねぇっすよ!」
「それはお前の見解だろ……」
「そうっすけども!」

 言いたいことはわからなくもないが、葉奈が目指しているのは『童話作家』で『変人作家』ではないだろう。
 そもそも、童話は子ども向けだ。
 こんな内容では出版するのは厳しいだろうと朔良でもわかる。
 でも、葉奈は折れるつもりはないらしい。

「いいんす! うちはうちのやり方で荒波を乗り切ってやるんすから!」

 元気なのはいいことだが、方向性がおかしい気がするのは気のせいだろうか。
 朔良はもう、葉奈のノリについていけなくなった。
 ……いや、ついていけたことなんて一度もない気がするが。

 下駄箱につき、靴を履き替える。
 その時、葉奈の視線がギラついた気がした。
 朔良が認識できたのはそこまでで、あとはなにが起こったのか理解するのがやっとだった。

「朔良……」

 ――壁ドンされている。
 いや、正確には壁じゃないから壁ドンではないのだけど。
 それはどうでもいい。

 いつもと違う、葉奈の真剣な顔。
 それが間近にあるだけで、朔良の心臓は勢いよく脈打った。

「……葉奈」
「下駄箱から始まる恋! ってのも、よさそうっすね!」
「……はい……?」
「うおおー! なんかみなぎってくるっすー!」

 葉奈が真剣に見ていたのは、朔良じゃなくて下駄箱だった。
 朔良は不覚にもドキドキしてしまった自分を殴りたかった。
 でもまずは……

「ん? 朔良どうし――って、なんか殺気が見えるっす!?」
「ほう。すげーなお前。そんなすげーお前は一発殴ってやる」
「どうしてっすか!?」

 葉奈を殴らなければ、朔良の気が収まらないのである。
 そのあと、葉奈はなんとか必死に逃げ延びたようだった。
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