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第二章 高校二年生(一学期)

じもと(紫乃)

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 紫乃は今地元の小学校に来ていた。
 あまり深い意味はないが、なぜかふと来てみたくなったのだ。

「あの子は……来ないよね~……」

 記憶の中に鮮明に残る“あの子”の姿。
 いつの間にかこの目は美久里を追っていたが、あくまで美久里は似ているだけ。
 “あの子”だとは限らない。

「うーん……もうちょっと見ていこうかな~……」
「あ、あの……そこにずっといると不審者だと思われますよ……?」

 紫乃がブツブツ独り言を呟いていると、後ろから戸惑い交じりの声が聞こえてきた。
 誰だろうと思って振り返ると、紫乃は目を疑った。
 だってそれは、その人は、紛れもない――“あの子”だったから。

「え、え、え? なんで……ここに……」
「はい? 私のことご存知なんですか……?」

 ご存知もなにも、本人だろう。
 紫乃はそう決めつけ、じっくりと舐め回すようにその子を見る。
 美久里と同じような紫色の髪をしているが、美久里よりも長くて整っている。

「ね、ねぇ、僕のことわからない~……? 一緒にここ通ってたよね~?」
「確かにここには通ってましたが……あなたのことは……ん? いや、僕っ娘でその青色の髪……紫乃さん、ですか?」
「おぉ~! やっぱり僕のこと知ってるんだ~!」
「ち、近い近い! 知ってはいるけど、会ったことはないですよ……?」

 この子はなにを言っているのだろう。
 ストーカーでもない限り、会ってなきゃ知らないだろう。
 でもこの子は話しかけてきたからストーカーではない……と思う。

「あ、あの、とりあえず落ち着いてください。私は美奈って言います。姉がいつもお世話になっております」 

 美奈と名乗った子は、深々と頭を下げる。
 美奈……姉……美久里と似たような髪……

「えっ!? もしかして美久里ちゃんの妹さん~!?」
「そ、そうですけど……」
「わー、はじめまして~。噂には聞いてたけどしっかりしてそうな感じがあるね~」
「え、えっと、ありがとうございます……」

 紫乃のペースに持ち込まれた美奈は、困惑しながら返事をする。

「可愛いね~。でも背もそこそこあって……さすが美久里ちゃんの妹さんだ~」
「な、なにを褒められているのかわかりませんが……えっと、ここでなにを?」

 美奈の問いかけに、紫乃は目を見開いた。
 そういえば、“あの子”を探しに来ていたのだ。
 それを忘れてしまうなんて。

「実はね、僕には忘れられない人がいて~……」

 そうして紫乃は語り出す。
 美奈はどう思っているのかわからないが、徐々に真剣そうな面持ちになる。
 紫乃の話が真剣なものとわかったからだろう。

「……ってことで、ここに来たってわけ~」
「なるほど……紫乃さんは本当にその人のことが好きなんですね」
「うん、そうだね~。またその子に会いたいと思ってるんだけど……なかなか難しいのかも~……」

 紫乃は抜けるような青空を見上げながらつぶやく。
 もう一度だけでいいからあの子と会って、楽しくおしゃべりができたら……紫乃はそれで満足なのだ。
 思い出補正がかかっていて、その子がヒーローのように見えるだけかもしれない。
 でも、それでもいい。紫乃が救われたのは、紛れもない事実なのだから。

「うーん……それ、うちの姉ってことはないですかね……?」

 美奈は顎に手を添えながら尋ねる。

「えー……でも、僕が説明した時は『私は関係ないです』って感じだったよ~?」
「あー、姉は記憶力ないですから。多分そのせいだと思います」

 え……っと、つまり……?
 どういうことだろうと、紫乃の頭は混乱の渦に巻き込まれる。
 理解はできていない。
 だけど、もしそうなら……という希望が見えてきた。

「私や姉と姿が似ているんですよね? しかも一人だった紫乃さんに声をかけて友だちに。姉は確かにコミュ障ですけど、同じ趣味を持つ子だったらそれはやわらぐだろうと思いますし」
「な、なるほど~……でも、なんか釈然としないというか……」

 紫乃はうんうん唸る。
 思い出の子が美久里だということが嫌なわけではない。
 むしろより身近な存在だったのなら、紫乃の願いはもう叶っているわけで。

「でも……でも……それを向こうが知らないままなんていうのは……なんか嫌だな~……」
「確かにそうですね。気持ちはわかります。なので、根気よく思い出させるのがいいのではないかと。私も協力しますよ」

 そう言って、美奈は口角を上げる。
 それと同時に、紫乃の顔もパァーっと明るくなる。
 紫乃の願いを叶えるのに、これ以上の味方はいないのだから。

「あっ、ありがと~!」

 紫乃の目頭が、少しだけ熱くなったような気がした。
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