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第一章 高校一年生(三学期)

おさそい(紫乃)

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 午後のHRも終わり、クラスメイトのほとんどは早々と教室を後にしていた。
 部活動に向かう者、バイト先へと急ぐ者。
 理由は様々だが、皆一様に忙しそうだ。

 その点、今日は部活動がなく、バイトもしていない紫乃と美久里はずいぶんとのんきなもので、今だにのろのろと二人して帰り支度をしていた。
 ふと、前の席にいる美久里に目をやる。

 今朝方、彼女の後頭部に発見したぴょんとはねた髪。
 たぶん寝癖だろうが、いつものことなので指摘しないでおいた。

 案の定、全く気付いていないらしく、今でも今朝と変わらずそのままの状態であった。
 そんなところもなんだか美久里らしいと、紫乃は微笑ましく思った。

「美久里ちゃん、今日これから時間空いてる~?」
「ふぇ? な、なんで?」

 紫乃は自分の手元にある、自分のスマホに目を落とした。
 その画面に写っているのは、今朝目に付いたファミレスの広告だ。

「ん?」

 ちょっと興味を引かれたらしく、美久里は紫乃の手元――正確にはスマホへと顔を近付ける。
 そのため、先程より二人の距離も近くなった。
 思わぬ事態に、紫乃の頬が熱を帯びる。

「な、なんかね、今日いちご祭りやってるんだってさ~。えっと、もしよかったら一緒に行こうよ~」
「えっ!? いちご祭り!?」
「うん~、美久里ちゃんさえ嫌じゃなかったら……」
「もちろん行くよ! やった、楽しみ!」

 もし断られたらと内心不安だった紫乃は、美久里が嬉しそうにOKしてくれたことで、ほっと息をついた。

 それにしても、美久里のはしゃぎ様といったら、まるっきり小さな子供のようだ。
 一学期のおどおどしていた態度が嘘のように、素直に自分の内面を外に出すようになっていた。
 そんな姿に、思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、ここは教室だと思いぐっと堪える。

「じゃ、行こうか~」
「うん!」

 美久里はよほど楽しみなのか、紫乃の手を掴みブンブンと上下に振る。
 思わず顔がにやけてしまいそうになり、あわてて表情を引き締める。

 その後、紫乃と美久里は二人だけの幸せな時間を過ごしたのだとか。
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