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それぞれのルート

???(シークレット)ルート

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「ちょっとお姉ちゃん!? 無意識に私の太もも触らないでくれる!?」
「朱美さん、わたくしの体でしたらどこを触ってもらっても構いませんよ」
「あおちゃん、何言ってるの!? そんなこと言ったらナニされるか!」
「ふふ、騒がしくていいわね。こういうのも悪くはないわ。ねぇ、朱美?」
「紫音先輩、私が触ったように見せかけないでください……」

 とある休日、朱美たちはみんなでパジャマパーティーをしていた。
 朱美の提案で、みんなパジャマを着てお泊まり会をしよう、という話になったのだ。
 その真の目的は――朱美がみんなのパジャマを拝みたかったから。

「みーちゃんのパジャマ、可愛らしいですわね。どこのブランドなの?」
「ブランド? それはわかんないけどいいでしょー。このサメのパジャマ!」

 美桜はサメに丸呑みされたような、パジャマというより着ぐるみに近い格好をしている。
 それがなぜか蒼衣にも刺さったらしく、目を輝かせている。
 だが、朱美の目にはどうしてもお子様用のパジャマに見えてしまう。

「可愛いけどさ……ちょっと子どもっぽくない?」
「わかっていませんわね、朱美さん。今はこの着ぐるみパジャマが流行っているんですわよ?」
「さっすがあおちゃん! わかってるねぇ!」
「……あんたたちそんな仲良かったっけ?」

 少し前まで朱美を取り合ってピリピリしていたはずなのに。
 美桜の威嚇に飄々と返す蒼衣の図が朱美の脳裏をよぎる。
 今まではそうしていがみ合っていたのに、いつの間に仲良くなったのだろうか。
 仲良くしてくれていた方がいいのは確かだが、朱美は少しばかり心がモヤモヤしていた。

「というか紫音先輩のはいやらしすぎません!? なんでそんな格好なんですか!?」
「朱美の前ではいつでも可愛い自分でいたいのよ」
「いや、可愛いというより……セクシーというか……」

 紫音は黒のネグリジェを着ていた。
 それも明らかに透けている生地でできている、大人向けのやつである。
 まだ高校生なのに、この格好は色々と問題があるのではなかろうか。

「大人の魅力が溢れる私。どう? 惚れ直した?」
「いや、惚れ直すも何も……紫音先輩はずっと私の憧れの先輩ですよ」
「……そう。ならいいわ」

 紫音は少し照れたようにそっぽを向く。
 朱美もなんだか気恥ずかしくなって、視線を逸らすのだった。

「ていうかお姉ちゃんとあおちゃん、色違いのお揃いみたいでずるい! 私もそれ着たい!」

 美桜が羨ましそうに、朱美と蒼衣のパジャマを交互に見やる。

「そりゃあ幼なじみですもの。一心同体で着る服も似ますわ。ねぇ、朱美さん?」
「え? あ、うん? すごい偶然だよね」
「全く噛み合ってないの面白いわね」

 紫音がそう言って、くすりと笑う。
 確かに美桜の言う通り、朱美のパジャマと蒼衣のパジャマは色違いである。
 上はショート丈でピンク、下はロング丈で薄い赤色になっている。
 蒼衣は上が水色で、下が青色。
 まるで恋人同士のようなお揃い具合だった。

「二人がお揃いならみんなでお揃いにするのも楽しそうよね」
「えー! それいいですね、紫音さん! みんなでお揃いにしたーい!」

 美桜は紫音の案に、すでにノリノリで賛成していた。
 朱美としても、みんなが仲良くするのは大歓迎である。

「……楽しそうな話だね。ボクも混ざっていいかい?」
「沙橙! いいに決まってるじゃん! というかトイレ長かったね?」
「朱美さん……女の子にそれは禁句ですわ……」

 朱美のデリカシーのない言葉に、蒼衣が呆れ顔になる。
 今朱美たちの中に入ってきたのは沙橙。
 沙橙は猫耳フードのパジャマを着ている。
 おしりには可愛らしい尻尾までついている。
 普段ボーイッシュな沙橙がその格好をしているのは、なんだかギャップを感じる。

「沙橙のパジャマ、なんだかあざといよね……」
「……そう? いつもこんな感じだよ」
「いやいや、沙橙がそんな服着るの想像つかないって」
「……にゃーん……これならどう?」

 沙橙はどうだ、と言わんばかりにあざとく猫の鳴き真似をする。
 そんな沙橙に朱美は少しだけドキッとしてしまった。
 この姿を自分だけに見せたいと思っていてくれたのなら嬉しいな、なんて考えてしまったからだ。

「さ、沙橙さん……意外とそういうの似合うんですのね……」
「にゃーん」

 沙橙はふざけてにゃんにゃんと鳴き続けている。
 その仕草が本当に可愛らしくて、朱美は顔が熱くなってしまった。

「ちょ、ちょっと私ベランダ行って涼んでくる!」
「え!? お姉ちゃん!?」

 朱美はたまらず走り出した。
 鏡がないのでわからないが、きっと朱美の顔は誰もにわかるほど赤くなっているだろう。
 そんな姿をみんなに見られたくない!

「ふぅ……はぁ……あー、星が綺麗だなぁ」

 ベランダに逃げた朱美は夜空を見上げながら、火照った体を冷ましていた。
 外の空気は冷たくて気持ちいい。
 夏の暑さが少しだけ和らいでくるこの時期、風が吹くと心地良かった。

「朱美ちゃん? なんで逃げたんだい?」
「ひゃっ! って、なんだ沙橙か……」

 突如後ろから声をかけられ、朱美は驚いてしまった。
 沙橙は朱美の隣に並んで空を見上げる。

「……星が綺麗だねぇ」
「うん……」

 しばし無言の時間が続く。
 だがその静寂が、朱美には心地良かった。

「……まさか朱美ちゃんがこの世界の真相に気がつくなんてね」
「私だって驚いたよ。沙橙が全部のルートで記憶を持ってるなんて」

 そう……この世界は朱美が美桜、蒼衣、紫音、沙橙の誰かを選んだ時点でその誰かのルートに入り、物語が終わればまた選択させられる。
 パラレルワールドというか、ループというか……とにかくそんな感じの世界になっているらしい。
 沙橙は全員分のルートで記憶を持っている。
 きっと、それはとても想像ができないくらい苦しいことだっただろう。

「……朱美ちゃんがボクを選んでくれた時は嬉しかったな」
「……うん。でも、沙橙はなんで最初から記憶を持ってるの?」
「……わからない。気がついたらあったんだ」

 世界や記憶の原理はわからないが、きっと意味があるのだろう。

「でも、最初からこうすれば良かったんだね」
「……ボクはいつの日かボクを選んでほしいと強く思いすぎて、気づけなくなっていたよ」

 沙橙は朱美に向き直る。
 その目には強い意志が宿っていた。

「……もう苦しみたくないし、みんなにも苦しんでほしくない」
「沙橙……うん、わかってる。今までつらかったよね」
「……ありがとう」

 沙橙は朱美の胸に、顔を埋める。
 肩が少し震えていて、それに気づいたけれど朱美は触れなかった。
 朱美はそんな沙橙の頭を優しく撫でてあげるのだった。

「……ボクは朱美ちゃんのことで頭がいっぱいだったけど、これからは他のことにも目を向けてみるよ」
「うん、私も……誰かを傷つけることはしたくない」

 そう言うと、朱美と沙橙はお互いに顔を見合わせる。
 そして、笑顔で同じことを言い放った。

「だって私は!」
「だって君は!」

「百合ハーレムの主人公なんだから!」
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