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第二章 似すぎている敵

魔王少女、襲来

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 そんなこんなで、結構ドタバタした自然体験を終えた結衣たち。

 当たり前と言えば当たり前だと思うが。
 結衣と明葉の顔はげっそりとしていて、疲れているのが目に見える。
 どんよりとした暗い空気も視認出来そうな光景だ。

「……ど、どうしよう。なんて声かければいいんだろう……」
「うーん……私もわかんない。そっとしておいた方がいいのかな……」

 その光景に、グループの子たちが少し離れたところで心配そうにヒソヒソ話す。
 その手には飯盒があって、いよいよカレー作りが始まることを告げていた。

 だが、結衣たちが立ち直ってくれないと、準備が一向に進まない。
 準備が滞ってしまうと、結衣のグループだけカレーを食べることが出来なくなってしまう。
 意を決して、グループの一人が二人に声をかけようとする。

「あ、あの――」

 その時、天から地面に向かって何かが降ってきた。
 ……いや、降ってきたというより落ちてきた。

 それは地面に大きなクレーターを作り、暴風を起こさせている。
 そして屈んでいた姿勢から、身体を起こす。

「……え?」

 今まで呆けていた結衣が目を見開く。
 赤い髪に琥珀の瞳、身体には少し汚れたローブを纏っている。
 その少女は、結衣に似ていた。

「――なぁ」

 地の底から響いたのではと錯覚させるような、圧のある声。
 結衣はその声にビクッと肩を震わせる。
 圧のある声の主の眼も、結衣に向かって殺意を渦巻かせていたからだ。

「な、なんでしょうか……」

 声と身体を震わせながら、結衣が訊く。
 訊かれた少女は眼光を鋭くさせ、風を置き去りに駆けた。
 突然目の前から消えた少女に、結衣はさらに目を剥く。

「なっ――!?」

 少女が自分を狙っていると感じた結衣は、身の危険を覚悟した。
 勢いよく振り返り、少女の姿を捉える。
 その少女は結衣に何かしらの危害を加えようとしている――かと思いきや、

「……はい?」

 ただ物欲しそうに、カレーに必要な食材を見つめていた。
 結衣は力が抜け、その場に座り込む。

「なぁ、お前ら――俺にカレー食わせろよ!」

 生き生きとした表情で結衣たちを見る。
 その少女はただ、カレーが食べたいだけらしい……
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