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第一章 少女たちの願い(後編)

歪んでいる絆でも……

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「おーい、夏音ちゃ~ん!」
「あ、結衣おねーさん……!」

 結衣たちは翌日、またあの公園に来ていた。
 今日は休みの日だから学校もない。
 遠慮なくあの黒髪少女のことに専念できる。

「結衣おねーさん……夏音、信じてますにゃ……」

 夏音は、唐突にそう呟いた。
 あの黒髪少女と夏音との間にどんなことがあったのか、結衣はわからない。

 だけど、夏音はあの少女のことをすごく気にかけているということは、結衣にもわかる。
 だから――

「うん、大丈夫! 信じて!」
「さぁ! 結衣様、夏音様――準備はいいですかぁ?」

 結衣が笑顔で夏音に言うと、ガーネットが高らかに二人に問う。
 結衣と夏音は、その言葉に力強く頷く。
 そして、結衣は夏音を抱え、その場をあとにした。

 ☆ ☆ ☆

 木々がざわめく。
 何かを拒むようにして、激しく揺れる。

「だれ? ……まあ、どうでもいいけど……」
「だれって……会ったことあるでしょ……」
「この人は記憶が弱っちいんじゃないでしょうかぁ」

 無気力そうに呟く少女と、呆れ気味に零す少女。
 そして、相手を逆撫でするように笑う魔法のステッキと。

「こんな所にいたんですにゃ……? 自分の家に帰ればいいのに……」

 萎れた木々と湿った土を見回す、小さな少女。
 そんな小さな少女を、無気力そうな少女が目を剥いて見つめる。

「ど、どうしてここに……っていうか、生きてたのか――!?」

 無気力そうな少女――美波は驚きのあまり叫んだ。

 それもそのはずだ。
 なんせ美波は、小さな少女――夏音が自分のせいで死んでしまったと思っているのだから。

 そんな美波の態度に、不機嫌そうに夏音が零す。

「そんなに弱っちいって思われてたとかショックですにゃ……傷ついたですにゃ」

 嘘っぽい演技で傷心アピールをする夏音。
 それをどう思ったのか、美波が狼狽える。

「え、あ、いや……ごめん。別に僕はそんなつもりじゃ……」

 夏音を慰めるようにして、美波はわたわたと手を振る。
 そんな二人を遠くから眺めていた結衣は、こんなことを思った。

「なんだかんだで仲良いんじゃん……なんか二人の仲を心配して損したなー……」
「まあ……ちょっと歪んでいるかもしれませんが、これが二人の絆なんでしょうねぇ」

 結衣がポツリと零した言葉を、ガーネットが拾って言う。
 あの二人を見ていると、自然と結衣は自分とガーネットとの関係性を重ねて見る。

『少し歪んでいるかもしれない』。それは自分たちにも当てはまることだ。
 結衣は、自分の願いを叶えるため。
 ガーネットは、自分の身を守ってもらうため。

 どちらも己が利益を求めながら一緒にいる。
 だが――

「ん? 結衣様なぜ私を見つめているんです? あはー、さては結衣様……私に気があゴゲエ!!」

 少なくとも結衣は、友情を感じているはずだ。
 多分、きっと。
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