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第一章 少女たちの願い(後編)
消し去りたい過去
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自分は本当に駄目な奴だ。
少し気分が悪かっただけで夏音を……
「はぁ……」
自分はそうやって、これからも。
誰かを傷つけることしか、出来ないのだろう。
☆ ☆ ☆
始まりは、ほんの些細なことだったと思う。
「ねー、美波ちゃんっていつも一人だよね~。寂しくないの?」
「……え?」
美波が小学二年生の時、ある一人の女の子から声をかけられた。
その女の子はクラスでも人気のある、元気で明るいキャラをしている。
そんな子が、どうして美波に話しかけて来たのだろう。
美波は疑問に思いながらも、拙く答える。
「さ、寂しくないって言うか……どうやって話しかければいいのかとか……よくわかんなくて……」
「ふーん?」
「「……」」
……沈黙がつらい。
この子は本当に、何をしにきたのだろう。
ただからかいにきた? ――それならそれで構わない。
自分はただ空気のように、教室に溶け込んでいる。
それはずっと変わらない。だから、美波はこの先もずっと。
空気のように、嘲笑を流すだけだ。
「じゃあ、私でれんしゅーしてみる?」
「……え?」
思わぬ申し出に、美波は声が裏返った。
――れんしゅー? なんの事だろう。
そんなことする必要も。意味も。目的も。何も無いというのに。
頭の中が様々な疑問でひしめくが、それにお構い無しに少女は美波の手を取る。
「ほら、おいでよ。美波ちゃんに私の友達しょーかいするから」
美波はこの時、なんと言っていいか分からず、ただ――腕をひかれた。
――…………
それから一年が経ち、美波は空気ではなく人間として教室に溶け込むことが出来た。
幸せな気持ちでいっぱいだったのを覚えている。
美波は本当にこの時が幸せだった。
だけど。
そんな幸せな時間は、長くは続かなかった。
「美波ちゃんってさ~、ちょっと調子乗ってるよね~」
「あー、わかるぅ~。うちらがウザイって思ってるの気付けよ、って思ってた~」
「ねー、そう思うでしょ?」
「えっ? あ、う、うん…………」
「だよね~~!」
ギャハハと馬鹿みたいに、口を大きく開けて嗤う――友達だった者達。
美波は偶然、その会話を聴いてしまった。
だが、美波のことを嗤う彼女たちの中に、美波に手を差し伸べてくれた人がいた。
その人は、少し戸惑っている様子だったと思う。
だから美波は、まだ望みがあると思っていた。
帰り道、美波は隙を見て彼女に話しかけた。
それが最悪の展開になるなんて、知らずに。
「ねぇ、君は僕のこと……友達だって思ってくれてるよね?」
「……え? ……どう……して?」
彼女は明らかに動揺して、目を伏せた。
……ここでやめておくべきだったのだろう。
だが、美波は真実が知りたかった。
というよりも――
――美波はただ、彼女に「もちろんだよ!」と言って貰いたかったのだ。
「ねぇ、お願いだよ……答えてくれ……!」
「そ、そんなこと言われても……!」
彼女はどうしようか狼狽えている様子だった。
あの子達がいないのに。誰もこの会話を聞いちゃいないのに。
答えないというのは、彼女なりの抵抗の仕方だったのだろう。
今になって思う。
なんであんなことを聞いたのか。どうしてそんなに必死だったのか。
多分それは――……
「もう、私に近づかないで! 美波ちゃんはもう――友達じゃない!」
それは、きっと――…………
少し気分が悪かっただけで夏音を……
「はぁ……」
自分はそうやって、これからも。
誰かを傷つけることしか、出来ないのだろう。
☆ ☆ ☆
始まりは、ほんの些細なことだったと思う。
「ねー、美波ちゃんっていつも一人だよね~。寂しくないの?」
「……え?」
美波が小学二年生の時、ある一人の女の子から声をかけられた。
その女の子はクラスでも人気のある、元気で明るいキャラをしている。
そんな子が、どうして美波に話しかけて来たのだろう。
美波は疑問に思いながらも、拙く答える。
「さ、寂しくないって言うか……どうやって話しかければいいのかとか……よくわかんなくて……」
「ふーん?」
「「……」」
……沈黙がつらい。
この子は本当に、何をしにきたのだろう。
ただからかいにきた? ――それならそれで構わない。
自分はただ空気のように、教室に溶け込んでいる。
それはずっと変わらない。だから、美波はこの先もずっと。
空気のように、嘲笑を流すだけだ。
「じゃあ、私でれんしゅーしてみる?」
「……え?」
思わぬ申し出に、美波は声が裏返った。
――れんしゅー? なんの事だろう。
そんなことする必要も。意味も。目的も。何も無いというのに。
頭の中が様々な疑問でひしめくが、それにお構い無しに少女は美波の手を取る。
「ほら、おいでよ。美波ちゃんに私の友達しょーかいするから」
美波はこの時、なんと言っていいか分からず、ただ――腕をひかれた。
――…………
それから一年が経ち、美波は空気ではなく人間として教室に溶け込むことが出来た。
幸せな気持ちでいっぱいだったのを覚えている。
美波は本当にこの時が幸せだった。
だけど。
そんな幸せな時間は、長くは続かなかった。
「美波ちゃんってさ~、ちょっと調子乗ってるよね~」
「あー、わかるぅ~。うちらがウザイって思ってるの気付けよ、って思ってた~」
「ねー、そう思うでしょ?」
「えっ? あ、う、うん…………」
「だよね~~!」
ギャハハと馬鹿みたいに、口を大きく開けて嗤う――友達だった者達。
美波は偶然、その会話を聴いてしまった。
だが、美波のことを嗤う彼女たちの中に、美波に手を差し伸べてくれた人がいた。
その人は、少し戸惑っている様子だったと思う。
だから美波は、まだ望みがあると思っていた。
帰り道、美波は隙を見て彼女に話しかけた。
それが最悪の展開になるなんて、知らずに。
「ねぇ、君は僕のこと……友達だって思ってくれてるよね?」
「……え? ……どう……して?」
彼女は明らかに動揺して、目を伏せた。
……ここでやめておくべきだったのだろう。
だが、美波は真実が知りたかった。
というよりも――
――美波はただ、彼女に「もちろんだよ!」と言って貰いたかったのだ。
「ねぇ、お願いだよ……答えてくれ……!」
「そ、そんなこと言われても……!」
彼女はどうしようか狼狽えている様子だった。
あの子達がいないのに。誰もこの会話を聞いちゃいないのに。
答えないというのは、彼女なりの抵抗の仕方だったのだろう。
今になって思う。
なんであんなことを聞いたのか。どうしてそんなに必死だったのか。
多分それは――……
「もう、私に近づかないで! 美波ちゃんはもう――友達じゃない!」
それは、きっと――…………
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